進行を早めようとするよりも、通常回を増やした方が書いていて楽しい。
「やっぱり狙撃手って格好良いですよね」
遠距離から正確に冷静に、一方的に相手を撃ち抜く。
その長い銃身から放たれる必殺の一撃、まさにロマンの塊だと思う。
『画面と現実みろ』『クロスボウは良いぞ』『ラグだから……(震え声)』『スナイパーなのにキルねぇじゃん』『狙って撃つって書くんだぞ』『お前が戦術人形になるんだよ!』『前の配信忘れたの?』『マンホールで戦え』『撃ち抜けましたか……?』『当てないとただの案山子ですな』『味方のケツ掘って終わりッ』
「……うっ、相手が急に動くから悪いんですー!スコープの中から敵が消えるんですよっ」
確かに狙撃銃は使いこなせてないけど、そこまで言わなくても良いじゃないか!
外したことに焦ってリロードすらできなかった最初と比較すると、かなり前進したと言っても良い。
いつか当たると信じゲームを続けること、かれこれ1時間、ノー民の煽りが心に刺さる。
──とっさの反射神経が足りないだけだもん。
「わかったっ、わかりましたから!練習するゲームやるから!枠も切り替えて真面目にやるからっ」
相手がAIなら動きも読めるし、勝手に移動せず倒されるまで待ってくれる。
ちょっと前にチャルさんからエイム指導も受けたんだ。
落ち着いて狙えば当てられる、というところを見せてあげよう。
「よしっ、枠変え大丈夫?──はい、今からやる『エリート狙撃手』、名前通り狙撃メインのゲームですね」
第二次世界大戦を舞台をとして、主人公が銃を片手に敵を暗殺していくこのゲーム。
特に凄いのは風や重力だけでなく、姿勢や心拍数まで再現されているという点だ。
FPSが下手くそな私を見かねたチャルさんがエイム練習に、とこっそり置いて帰っていった。
基礎から偏差撃ちまで学べるのがありがたい。
「なにより私、このゲームのキルカメラが好きなんですよね」
説明するより見せた方が早いと判断して、遠くの──物見櫓に居座る敵に狙いを絞る。
そして相手の動きが止まった瞬間に、向かい風を考慮して少し上目掛けて撃つ。
目標をセンターに入れてスイッチ!
パン──……パンッ!
乾いた音と共に弾が発射され、相手の頭蓋骨左に風穴を空ける。
相手のどこを撃ち抜いたか分かりやすいように、カメラの視点移動、敵の断面図まで表示してくれるのだ。
後ろで薬莢が跳ねる音までリアルに作り込まれている。
ってか当たった、ビューティフォー……!
「──っし!落ち着けばヘッドショットもいけるんですよ!これが令和のシモヘイヘですね」
『薬莢2つ落ちてますよ』『やるやん』『パンッ!パン!(迫真)』『超痛かったゾ』『ノームは初弾遊ぶからな』『当てれてえらい』『不正はなかった』『シモヘイヘはスコ付けないぞ』『こわいなぁ戸締まりしとこ』『ノームも覗き気を付けや』
「この部屋窓ないんで大丈夫ですよ。にしても一発当たっただけでも嬉しいですね~っ!」
1時間かけて得た手応え、これがやりたくで狙撃銃を練習してるんだよ!
軽口なんかも叩きつつ、順調に攻略していく。
序盤のステージだからか、風も穏やかで遮蔽も少ない。
まさに狙撃日和だ。
もしかしてこのゲームなら無双できるのでは?
ちょっと心に余裕が出てきた、気がする。
「んひゃっ……、──ふと思ったんですが、このゲームで鳥とか撃ち落とせるんですかね?」
建物や煙は勿論、死肉を狙う鳥まで鮮明に描写されている。
別に何の害があるわけでもないが、鳥達は急に出てくるので心臓に悪い。
油断した時に現れてはビビらせて帰っていく。
──あいつら許さん。
「お覚悟を」
『悲鳴助かる』『ふーん、えっちじゃん』『あれがアーマーガアちゃんですか』『はいヴィーガン』『いや動物愛護法やろ』『YOU LOSE! 鳥の勝ち!なんで負けたか、明日までに考えといてください』『ほな、いただきます(鶏肉)』『人の命にも興味をもて』『意外とドライよな』『狩人(農民)』『唐突に殺意の波動に目覚めるな』
鳥が地面に降りてくるところに向けて発砲。
飛べなくするために翼を狙ったが、直撃はしなかったらしい。
銃声に驚いてた鳥が、羽根を落としながらどこかへ飛び立っていく。
マズいっ、逃げられる!
「あうっ、ちょっと待って!行かないでよっ」
散々からかっといて逃げるとか卑怯だぞ!
ちゃんとジグザグに回避するところにAIの作り込みを感じる。
ここまで作り込まれているということは、他にも鳥を狙う人が多いんだろうか。
4発撃ったが全部外れ、完璧に逃げられた。
「今日はここまでにしてやるって奴ですねっ……!もう近づいても来ないでしょうし、実質狙い通りですから」
威嚇が目的だから、別に本気で狙ってたわけじゃないから。
自分の心に言い訳していると、自キャラの右を鋭い風が通り抜けた。
──あ、いや、これ銃弾だ。
『こ無ゾ』『戦場でもアピールを忘れない配信者の鑑』『暗殺を知らない女』『あっ……(察死)』『サライ歌うか』『そら(戦場で音出すと)そうよ』『ハードモードを地で行くな』『オープンワールドだから逃げるの超大変やぞ』『一人で十体倒せばいけるか?』『おかわりもあるぞ!』『助けてスネェェク』
近くの岩裏、草影、木の後ろ。
遠くなら建物の屋上から。
全ての敵の銃がこちらに向いている。
戦場のど真ん中で銃を乱発して気付かないほど、このゲームのAIは馬鹿じゃない。
「キッツい、退避退避!敵の警戒モード切れるまで逃げますよ!」
鳥と戯れた結果囲まれて死ぬとか、狙撃ゲーとして一番あってはならないだろう!
その鳥すら撃ち落とせてないし。
取り敢えず隠れて射線を切った後に、一人ずつ倒していくのが正解のはず。
まずは建物の中に入り遠距離からの狙撃を無くす。
そしたら音をたてないようにしながらダッシュ、三十六計逃げるに如かずっ!
全員倒せる自信はないので、できれば振り切りたい。
『おっおっ、逃げるんか?』『モザンビークヒア』『右手の銃は飾りか?』『左で打てや』『鳥すら落とせぬ敗北者!実に空虚じゃありゃせんか?』『小物、小作農未満』『トップが水のみ百姓ってマ?』『弾の出る棒』『頑張れ♡頑張れ♡』
「……ああ、やりますよっ、ヤケです!別に全部倒してしまっても構わないんでしょう?」
これ以上恥晒すわけにも行かない。
近距離で室内なんだから外す確率も低いし、跳弾だって狙えるはず。
気分は早打ち、今の私はガンマン。
リロードを忘れないことを意識して……。
曲がり角でガン待ちして、敵影に向かって発砲っ。
複数人いるようなので、とりあえず敵に向かって乱射してみる。
すると、スローカメラで弾の当たった位置を見せてくれる。
心臓、太もも、右肩──、睾丸。
断面図によって潰れるところまで表示されている。
「あっ……痛そう、ですね……。──その、ごめんね」
せめてネタにして供養してあげたかった。
でも無理だ、拾うタイミングを完全に逃した。
『エイム力足りてたわ』『命を刈り取った』『ヒェ』『やったねノムちゃん!女の子が増えるよ』『痛め付けてから優しく、ヤンデレかな?』『おふぃんふぃんランド閉園!』『1つならノームに捧げられるぞ』『俺は2ついけるね』『弾で玉を弾くな』『確かに逝ったわ……』『事故だよ事故』
「──そ、そうですねっ、たまた……いや、偶然!なので、切り替えていこうと思います」
そういうゲームだから。
当たり場所が悪かったと思ってスルーするのが正解だろう。
さっきの銃声を聞き付けた敵の足音も聞こえてくるし、棒立ちのままではいられない。
コメント欄が下ネタに汚染されていっているので、早く物語を進めて話題を変えたい。
そのためにもしっかり狙って、敵を倒さないと。
──よしきたっ、ここ!
扉が開かれると同時に、引き金を引く。
相手がこちらを視認するよりも先に銃弾が放たれ……、敵の股間に吸い込まれていく。
先程の再放送を見るかのように、周囲に血が飛び散る。
「……っぅ、終わりますか、配信」
『ダイソン』『待て、早まるな』『ダボォルキィル』『【速報】ノーム2本抜き』『そうわよ』『話せばわかる』『やりおるマンだ!』『衛生兵ィー!』『2打席連続やね』『あなたを傷害罪で訴えます!理由は勿論おわかりですね?』『傷害どころか殺人なんだよなぁ…』
「もうここで切りますっ、痛そうでキュっとなりますし!──っていうかこれ配信で本当に大丈夫なんですか!?」
BANとか収益化剥奪されたりしない?
農民が作った『ノームの悲鳴集』に年齢制限かかったこと、知ってるんだぞ!
なのになんでこれがセーフなんだっ。
久しぶりすぎて感覚掴めないので感想ください……。
反省しております。