死の支配者と荒ぶる鬼神   作:ボンズリ

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序章 ~終わりと始まり~
プロローグ ~1~


DMMO-RPG 「ユグドラシル〈Yggdrasil〉」

 

かつて多くのDMMO-RPGが存在する中、突如登場したこのゲームはかなりの異彩を放っていた。

 

人間種だけでなく、エルフなどの亜人種や、スケルトンといった異形種など、700種を超える種族をはじめ、職業(クラス)は2000を超えていた。

また、アバターの外装(ビジュアル)もなども、別売りのクリエイトツールを使用することで変化させることができた。

そしてこのゲームの制作元が望んでいた〈未知を楽しむこと〉を体現したかのような広大なマップなど、過去のどのDMMO-RPGにはない要素を誇るゲームとしてその名を轟かせていた。

 

しかし、栄枯盛衰ということわざにもあるように、2126年から2138年まで続いたユグドラシルも12年という時間の流れには逆らうことができず、ついにその最後を迎えようとしていた。

 

 

 

 

 

 

※※※

 

 

 

 

 

ユグドラシルには、常に話題の中心になっていた一つのギルドがあった。

 

 

――〈アインズ・ウール・ゴウン〉

 

 

先述したようにこのゲームは様々な種族を選べるのだが、このギルドに加入するにはある条件があった。

それは、「異形種であることと、現実世界(リアル)で働いていること」である。

 

アインズ・ウール・ゴウンはPKやPKKなどを繰り返すなど、悪のロールプレイに徹したギルドである。

かつて、アインズ・ウール・ゴウンに対して怒りを覚えたプレイヤー1500人からなる討伐隊の襲撃を受けたにもかかわらず、すべて撃退してしまうほどの実力を併せ持っており、一時期はギルドランキング第9位を記録するほどのトップギルドの一つでもあった。

 

 

しかしながら、それも既に過去の出来事。

 

 

 時間が流れるにつれ、現実世界が忙しくなる者も増えていき、一人、また一人とギルドから離れていってしまい、かつての41人からなるメンバーも、サービス終了間際にはほんの一握りとなってしまった。

 

そんな中、彼らアインズ・ウール・ゴウンの拠点である〈ナザリック地下大墳墓〉において、サービス終了を迎えようとしていた者がいた。

 

 

 

 

※※※※

 

 

 

――ナザリック地下大墳墓・円卓の間

 

 

ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのメンバー41人が巨大な円卓を囲んで席に着き、ギルドの方針について語り合う場であるが、現在はほぼ全て空席となってしまっている。

そんな中、席についている豪勢な装備を身に纏っている、骸骨の姿をした異形種のプレイヤーがいた。

 

彼の名は「モモンガ」。

 

ギルド:アインズ・ウール・ゴウンのメンバーにしてギルド長である彼は、ギルド創設時からユグドラシルのサービス終了間際の今日に至るまで、かつての仲間たちと作り上げたナザリック地下大墳墓の維持を行ってきた。

 

そして今日、ギルドメンバー全員に会合のメールを送り、メールに応じた残りのメンバーと会うことができたのが、各人ともリアルが忙しいとのことで、端的に別れの言葉を交わしてログアウトした。

 

ただ一人残されたモモンガは少し間を開けた後、おもむろに右手を挙げた後、勢いよく机に振り下ろした。

 

 

「ふざけるなっ!!」

 

 

ドンッと机を強く叩きつける音が部屋に響く。

叩いた手から0というダメージ表示が出たが、それにも気にも留めずに憤りを露わにしていた。

 

「ここはみんなで作り上げたナザリック地下大墳墓だろ…!どうしてみんなそんな簡単に棄てる事ができるんだ…!」 

 

怒鳴ったところで答えは返ってこない。

嘆いたところで慰めの声は聞こえてこない。

ただただ、悲鳴にも似た怒号が部屋全体に響き渡るだけだった。

だがそれでも、叫ばずにはいられなかったのだ。

 

空想の世界(ゲーム)現実の世界(リアル)

どちらかを選ばなければならないとするなら、殆どの者が後者を選ぶだろう。

自分以外のギルドメンバーも、悩み、迷い、苦しんだ末に選び出したのも、現実世界であった。

それは仕方のないことだ。

そんなことは自分も頭では理解している。

だが、頭では理解しているはずなのに、心が叫ぶ。

なぜ、どうして、いとも簡単に過去を棄てることができるのか、と。

軋む心から漏れる感情はどうしても抑えることができなかった。

 

静寂が支配する部屋にいくら叫んでも、返ってくる声などない。

 

 

 

 

返ってくる筈などないと思っていた――

 

 

 

 

「どうした。何を叫んでいるのだ(なれ)は?」

 

 

 

 

誰もいない筈だった部屋に自分以外の声が響く。

俯いていた顔を上げると、そこには「鬼」が立っていた。

 

少し着崩した金色の和服に巨大な数珠を腰に巻き付かせ、同じく美しく輝く金色の髪には威厳を感じさせる髪飾りを付けている。

 

一見すると一昔前の少女のような出で立ちではある。

しかし、普通の少女にもあるようなものなど何もなかった。

その両手両足は異常なほどに赤く染まり、立ちふさがる者は全て切り裂かんと言わんばかりの凶悪な爪が覗かせている。

顔には独特な入れ墨が彫られており、相対する者を畏怖させる禍々しさを感じさせ、目は衣服や目と同じ金色ではあるものの、どこか人間とはかけ離れているように思わせる。

左手にはユグドラシルに伝わる「ワールドアイテム」の一つに数えられる骨刀を握りしめられており、これまで数多くのプレイヤーの命を奪い尽くした。

そして、全ての中で最も目を惹かれるであろう頭頂部には、螺旋のような意匠が施された赤黒き角が天を突くかのように生えていた。

 

彼女の名は「ばらきー」

モモンガとともにアインズ・ウール・ゴウンに最後まで残り続けた最後のメンバーである。

 

「ば、ばらきーさん!?今日は仕事で来れなくなったんじゃなかったんですか!?」

 

「いや、(われ)もそのつもりだったのだがなぁ、汝とともにナザリックで終焉を迎えることが、このギルドに最後まで残った吾の義務だと思ったのでな。超特急で仕事を終わらせて来たら時間ギリギリ だったということなのだ。

遅れてしまってすまなかったな、モモンガよ」

 

「あ、頭を上げてくださいばらきーさん!でも…来てくださってありがとうございます!」

 

彼女があのような姿をしているのは、かつて過去に人気を博したソーシャルゲーム「Fate/GrandOrder」というゲームに登場した、「茨木童子」と呼ばれるキャラクターを非常に愛しており、その結果、ユグドラシルのアバターを別売りのクリエイトツールを用いて全く同じ姿に仕立て上げ、茨木童子のロールプレイを行うほどの愛の深さには、ギルドメンバーも感嘆の声を上げていた。

 

そんな彼女は、ギルドの中で「姉御」とも呼ばれていた。

というのも、彼女がロールプレイしていた茨木童子は、

「高圧的で傲慢な言動と、鬼としての強大な力をこれ見よがしに振るっているが、これは母親の教えを真面目に守るために鬼として振る舞おうと意識してるからであり、素の彼女は慎重でしたたかで素直な性格」

という設定であり、高圧な態度を取りつつも他のメンバーを気にかけており、そんな彼女に相談をする者もいたという。

また、ギルド内でメンバー同士の喧嘩が勃発すると颯爽と現れ、喧嘩の原因となった者たちを全員戦闘不能(HPは1だけ残してあげている)にするなど、ギルド内の治安維持にも一役買っていた。

そんな彼女を、いつしか「姉御」と呼ぶ者が出始め、次第にその名と立ち位置が定着していいたのであった。

 

「さて、何とか間に合ったこともある。行くぞ、モモンガ」

 

「えっ?行くってどこにです?」

 

「吾らが最後を迎えるに相応しい場など、このナザリック地下大墳墓の中では一つしかないであろう?」

 

「…玉座の間ですね!」

 

「然り。時間も惜しい故、急ぎ向かうとしよう」

 

自分と最後まで残ってくれた彼女の提案に反対の意などなく、急ぎ玉座の間に向かおうと席を立ったとき、自分の背後にある一つの「杖」が気になった。

 

 ――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウン

 

かつて最盛期を迎えていた時代に作られた、アインズ・ウール・ゴウンを象徴するギルド武器である。

この武器を作り上げるために、ギルドメンバー全員が一丸となって取り組んだのは、今でも輝かしい思い出だ。

そのギルド武器をこの場に残して行くことに気が引けてしまい、その場に立ち尽くしてしまった。

 

「ぬ?どうした、まだ何か心残りでもあるのか?」

 

「いえ、みんなで作り上げたこの武器をこのままここに置いたまま終わってしまってもいいものかと思ってしまいまして…

でも、いままでギルド長のようなこともしていない俺にこの武器を持つ資格もないですし…すみません」

 

「何を謝る。そんなに欲しければ手に取ればよいではないか」

 

「えっ…でもいいんですか?」

 

「最後まで汝と共に残ったギルドメンバーである吾が言うのだ。今日という日までこのナザリックを維持し続けた汝にこそ、その武器を持つに相応しいと思うがな」

 

「ばらきーさん…」

 

「要らぬのであれば吾が奪うぞ?欲しい物を奪い尽くすことこそ、鬼である故な」

 

「い、いえ!この武器はギルド長たる俺が持たせていただきますので、お気になさらず!」

 

早くしないとばらきーに奪われそうだったので、急いでスタッフを手に取った。

手に取ると同時に、ギルド武器によるステータスの向上に感嘆しつつ、こんなすばらしい武器を共に作り上げた当時の仲間たちを思い出していた。

 

「ふむ、思っていたとおりよ。やはりその武器は汝によく似合う」

 

「似合うだなんてそんな…」

 

「本当の事を言ったまでのことよ。では今度こそ行こうか、我らがギルド長・モモンガ」

 

そう言ってばらきーはそそくさと部屋を出て行った。

残されたモモンガは、彼女が言った「ギルド長」という言葉の響きに少し酔いしれながら部屋を後にした。

 

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