説教は、モモンガがナザリックの運営などを行う執務室にて行われた。
「エリザベート、正座」
「はい…」
「吾は言った筈だな?歌はお預けだと」
「で、でも、話し合いが終わったあとなら歌っていいってことだと思っちゃって…」
「それは汝の独りよがりではないか。お前が勝手に開いたライヴで守護者を三人も気絶させたのだぞ?」
「うぅ…仰る通りです…」
「全く、汝は毎度毎度問題ばかり引き起こしおってからに…」
「で、でもでも!シャルティアとか、観客席にいたアンデットたちには被害がなかったんだし、寧ろなんかパワーアップしてるみたいだから良いでしょ?」
「良いか悪いかの問題ではないわこのたわけがぁ!!」
「ピィッ!!(半泣き)」
「良いか?そもそも汝はなぁ…」
どうやら、目の前で繰り広げられるお説教が終わるまで、まだまだ時間がかかりそうだ。
説教モードのばらきーとエリザベートを尻目に、モモンガはベッドのある自室へと引っ込んでいった。
「ばらきーさんはホントに真面目な人だな~。ああいうところ、俺も見習わなくちゃなぁ」
まぁ今回の件に関しては、ばらきー本人が『歌ってもいい』とうっかり言ってしまったこともあり、そのこともあるので自分への反省と戒めの為に、エリザベートに説教をしているのだろう。
彼女は昔から他人や自分に厳しい人だった。
ギルド内でいざこざが起きたとしても、すぐにそれを治めるように務める反面、ギルドメンバーたちに心を配ることも忘れない、まさにギルドにおける風紀委員のような存在だった。
それだけに、自分が生み出したエリザベートが犯した今回のミスは、到底許すことができないと思っているのだろう。
エリザベートを叱責する彼女の姿から、そう容易に思わせられた。
それにしても、彼女の歌はあまり酷いだけだと思っていたが、まさかアンデットへの強化を施すバフ効果があるとは予想外だった。詳しいことはデミウルゴスが纏めた被害書にも書かれていたが、何故彼女の歌がそのような効果を持っているのかは、歌っていたエリザベート自身にも分からない様子とのことだ。
今回は、守護者のシャルティアを含む、ナザリックに存在するアンデットたちへの強化を施す機会だったと考えれば、まだいい方なのかもしれない。
…それでも守護者二人とアルベドが気絶させられるという状況になってしまったのだが…
「犠牲となった彼らには、また後で何らかのお詫びを与えてあげないとなぁ」
モモンガはそんなことを考えながらベッドに横たわっていた。
※※※※
それから暫くして、モモンガの部屋にばらきーが入室してきた。
どうやらお説教は終わったようだ。
ベッドから起き上がって立ち上がろうとするが、ばらきーから止められた。
一体どうしたのかと思い訪ねようとしたとき、ふいに彼女が土下座を始めた。
「えっ!?ちょっ、どうしたんですかばらきーさん!?」
「今回の件は本当にすまなかった。吾がエリザベートの気を引こうと、あのような言葉を口にしたのが全ての原因だったのだ。まさかこのような事態に発展してしまうとは…かつての仲間たちに合わせる顔がない…」
「やめてください!そんなに頭を擦り付けたら綺麗な顔に傷が付いちゃいますよ!?」
「いや、吾はそれだけのことをしたのだ…本来ならば、このナザリックから追放されても文句など言えぬ程でもあるというのに…」
「そんなことありませんよ!それに、今回はエリザベートの歌がアンデットたちに予想外の強化を施すという結果も得ることができましたし、悪い事だけではありませんよ!」
「し、しかし…」
「もし他の階層守護者たちが貴方を責め立てようとも、この俺が、我がギルド:アインズ・ウール・ゴウンの名に懸けて、貴方を守ってみせます!」
「………!!」
そんなモモンガの言葉を聞いたばらきーは、かつてユグドラシルで彼に助けてもらったことを思い出した。
※※※※
ユグドラシル時代、ばらきーは「茨木童子」のロールで遊んでいたが、自分以外に鬼種と呼ばれる種族がいなかったのだ。
というのも、ユグドラシルにおける鬼種は、物理攻撃力は全種族中最強と呼ばれるに相応しい力を有していたが、その反面、こと魔法による攻撃は得意としていないというピーキーな性能をしていたのだ。また、鬼種は高額な値段の課金によって獲得できる種族であったことで、より一層誰も手を付けない事態に拍車がかかり、ばらきーが登場するまでの間、鬼種はユグドラシルに存在していなかったのだ。
そんな中、鬼種としてユグドラシルを遊ぶ彼女を、「性能が全くの未知数の鬼種を加入させる訳にはいかない」といった理由により、入れてもらえるギルドやクランなどどこにもなく、たった一人でプレイすることを余儀なくされた。
ある時、不意に人間種プレイヤーから襲われることがあった。襲った理由は「自分が異形種だから」などという、あまりにも理不尽な理由だった。
この事件の後、彼女は極度の人間不信へと陥ってしまい、「ならば自分が強く在るしかない」という考えへと傾向していくことになり、彼女がユグドラシルを始めてから数ヶ月後、ヘルヘイムに存在する山型の拠点を一人で制圧し、支配するほどにまでに強くなった。
それからというもの、自分が支配する領域に足を踏み入れたプレイヤーたちに問答無用で襲い掛かるようになり、ユグドラシルの中で最も危険なプレイヤーとして君臨していた。
ある日、彼女に襲われたプレイヤーが、ネットの掲示板にばらきーの討伐隊の募集を求める書き込みを行い、100人を超えるプレイヤーたちで編成された討伐隊が、ばらきーの支配する領域に攻め込んだ。
100対1。
傍から見ればリンチとも言えるような数の暴力で攻め込んだが、なんと彼女はこれを容易く殲滅させた。
彼女には「仕切り直し」と呼ばれる固有スキルを保有しており、危険だと判断した際は即座に撤退&HPの回復を行うことが出来るスキルである。
毎回追い込んだと思っても、すぐに仕切り直しで撤退され、またHPが満タンの状態の彼女を相手にしなくてはならず、どうやっても真に追い詰めることができなかったのだ。
また、地形的にも異形種に有利なヘルヘイムであり、それに加えてばらきーは一人だけだったため、存分に広範囲の物理攻撃を行えたこともあり、100人もいた討伐隊はあっさりと壊滅されてしまったのだった。
彼女の異常なまでの強さを恐れたプレイヤーたちは、更に巨大な討伐隊を組織するため、多くのプレイヤーたちに募集を呼び掛けた。
その数、なんと500人。
かつて彼女に襲われたことを根に持つプレイヤーや、鬼種と呼ばれる種族の力を見極めたいプレイヤー、また、異形種を毛嫌いするプレイヤーなどが集まったことにより、想定以上の人数が集まったのだった。
もはやリンチともいえない、一方的な虐殺。
ばらきーも先の戦いと同じ戦法で挑み、ある程度は善戦することが出来たものの、如何せんその圧倒的なまでの数の相手を捌き切ることはできず、遂に追い込まれてしまった。
『ぐぅ…おのれ…!群れる事しかできぬ人間種風情が…!』
『その人間様たちに、お前は負けたんだよ』
『全く手こずらせやがって!』
『いくら力が強かろうと、所詮お前たち異形種どもは人間に滅ぼされる存在なのさ』
『それじゃ、これでトドメとさせてもおうか!』
そういった人間種の戦士が剣を振りかぶる。
既に力を使い切ったばらきーに逃げる手立てなどなく、そのまま振り下ろされた剣をその身に受ける――
――筈だった。
『【心臓掌握/グラスプ・ハート】!!』
剣を振り上げた戦士はその剣を振り下ろす直前、何者かに心臓を握りつぶされ、姿を消した。
一体何が起こったのか、手柄を取られたくないことからくる仲間割れだろうか。
一瞬そのような考えがよぎるが、彼らの慌てぶりからそういったことではなかった。
瞬間、自分の目の前に何者かが【転移門/ゲート】によって現れた。
それは、豪勢な意匠が施され、闇のような漆黒のローブを身に纏った異形種であった。
『な、なんだってテメーがこんなところに!?』
『我々と同じ異形種が襲われている時点で、我等が介入することは予見できたはずではないのか?』
『畜生!相手は一人だけだ!やっちまえー!!』
そういうと人間種プレイヤーたちは、突如出現した異形種プレイヤーに攻撃をしかける、が――
『――弱者を痛めつける者には容赦はせん!!』
彼らの後ろから純白の鎧に赤いマントをはためかせた戦士が、次々と人間種プレイヤーたちを屠っていった。
『ゲェ!?テメーまでいんのかよ!?』
『逃げろー!とてもじゃないが今の疲弊した状況じゃ、まともにあいつらと戦えない!!』
『クッソがぁ!覚えてやがれよぉぉぉぉ!!!』
そんな漫画によく出てきそうな捨て台詞を吐き捨て、討伐隊は撤退していった。
ばらきーはなぜ自分のような者を助けたのか、二人に問うことにした。
『なぜ吾を助けたのだ…!あの程度の者どもなど、吾一人で充分だったぞ…!』
『はいはい、そんなに意地張らないで。同じ異形種なんだしさ』
『同じ…?』
『はい。あそこの純白の鎧を着た彼も異形種なんです』
『ま、まことか!?どう見ても普通の戦士にしか見えぬぞ!?』
『よく言われるわー』
『ほんとですよねー』
『な、なるほど…汝らが異形種だというのはよく分かった。だが、それでもなぜ吾を助けたのだ?吾が殆ど数を減らしたというのもあるが、まだ100人近くはいたはずだぞ?なぜこのような無理をしたのだ?』
『決まっている!【困っている人を助けるのは当たり前】だからだ!!』
純白の鎧を着たプレイヤーの背後から「正義降臨」と書かれた文字エフェクトが飛び出した。
正直に言おう、ダサい。
しかし助けてもらった身であるので、多少のダサさは我慢することにした。
『彼の言う通りです。困った人を、それも俺たちと同じ異形種プレイヤーであるあなたを、見捨てることはできなかったんです、ばらきーさん』
『な、なぜ吾の名を知っているのだ?』
『ユグドラシルの中だと、あなたはかなり有名なんですよ?尊大な態度と強大な力を持つ鬼種プレイヤーがいるってね』
『そんな君に対して、500人の討伐隊が攻めるってことをネットの掲示板で知ってね。クランの皆に相談して、こうして君を助けに来たのさ。ついでに、君をクランの仲間の一人として迎え入れる為にね』
『吾をクランに入れる…だと?』
信じられない。今までどのギルドやクランも、未知数の力を持つ自分を加入させようとすることはなかったのに、なぜ彼らはそんな自分を加入させようとするのか。
『だ、だが吾はこの世界で唯一の鬼種なのだぞ?性能も未知数な者を迎え入れるなど、汝らが良くても他の者が許す筈がない!』
信じられない。信じられるはずがない。
『大丈夫です。俺たちのクランに、貴方を責め立てるような人は誰もいません。これから先は、俺たち「ナインズ・オウン・ゴール」が、貴方を守ってみせます!』
だが…彼らなら信じてみることが出来るかもしれない。
袋叩きされるかもしれない危険性を顧みつつも、こんな自分を助けに来てくれた彼らなら…
こうして、ばらきーはモモンガたちの仲間になった。
※※※※
懐かしいことを思い出した。
モモンガはあの時も、こうして優しい言葉をかけてくれたのだ。
人間不信だった自分も、彼らなら信じられると、自然にそう思ったのだ。
「だから、そんなに気に病まないでください。それについ例に出してしまいましたけど、守護者たちや他のNPCたちも含めて、貴方を悪くいう人なんて、このナザリックの中では誰一人としていませんよ」
「…全く。鬼である筈の吾が、汝に慰められるとはな」
「俺だって一応ギルド長を名乗っているんですから、あまり舐めてもらっちゃ困りますよ?」
「そうさな…その通りであったな…」
あれから年月は経ったが、自分はやはりモモンガには敵わないようだ。
そんな彼に、ばらきーは心からの信頼を寄せていた。
危険を顧みず自分を助けてくれた、骸骨の姿をした大切な仲間に――
「それはそうと、やはり何かしらの罰は受けねばならぬ」
「な、何もそこまでしなくても…」
「何を言う!そうでなくては、吾は自分を許すことなどできぬ!」
「そうですか…あっ!いいことを思いつきましたよ!」
「なんだ?何かいい罰の案でもあるのか?」
「ええ!まぁ罰といっても、俺の息抜きに付き合ってくれるだけでいいんです!」
「なんだ?息抜きに付き合うとな?そんなことが罰になるとは思えんが…』
「まぁまぁ、付いてきてくれれば分かりますよ。ただ俺の話に合わせてくれるだけでいいんです」
「…まぁ、汝がそういうのであればそれに従うが…」
「決まりですね!それじゃ早速行きましょうか!」