Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
よろしくお願いします。
<20.6.6 加筆修正しました>
#001 私の唯一の願い
————奇跡を成せ————
男は自ら生み出した血泥に身を沈めそう言った。
————何かに縋って起こす奇跡など、真の意味での奇跡に
————見聞し、研鑽し、偶然と必然の因果と、人の手で為しえる奇跡こそが貴く、尊いのだ————
自らの命が尽きかけんとする
少年の手には、血を垂らした刀が一振り。
男は少年により命を奪われようとしていた。
何故少年が男を手にかけたのか、事情を知る者であれば、然もあらんと嘆息するであろう。
————私の命は間も無く尽きる。後事はお前に託す————
————奇跡を成せ————
————お前の体の
————私からの
男の最後の一言に、少年はカッと
「その“贈り物”が全ての元凶じゃないか!その“贈り物“が、見知らぬ母を、大切な人を、周りの皆を不幸にしたんじゃないか!」
少年は獣の咆哮にも似た叫びをあげ、執拗に男に刃を突き立てた。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……………
溜まりに溜まった激情を、在らん限り叩きつけるように突き立てた。
膝を、肝臓を、鳩尾を、肺を、心臓を、喉を、目を、頭蓋を……………。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も……………
「お前が!お前が!お前が!お前が!お前が!お前が!お前がぁっっっっっっ!!!!」
………………………
目を見開き、肩で息をする少年の体は、返り血でしとどに濡れていた。
少年の足元には、人の形であった肉塊があるのみ。
「お前は、お前の業に因って死んだんだ!お前の成果に因って死んだんだ!お前の研究は、唯無残な肉塊になる為だけだったんだ!……………お前の研究は…………………」
少年は自らの首に刀を宛がう。
「ここで俺が死ねば、お前の研究は全くの無意味になる!お前の何十年間は霧散する!お前は!今!ここで!俺に殺されるためだけに何十年も生きて来たんだ!!」
喉笛を、血管を、頚椎を、自ら切断しろ!
頭蓋の内より湧き上がる衝動に、少年は力を籠める。
途端、少年は
ここで俺が死ねば、母の死も無かった事になるのではないか?
ここで俺が死ねば、大切な人の死も無かった事になるのではないか?
ここで俺が死ねば、あいつに関わった人々の
先ほどの激情とは源泉を同じくするとは思えない疑念が湧き出てきた。
ここで俺が死んで、あらゆる事を無かった事に、無意味にしてしまっては………
(
研究の為になら、親族すらも生贄の祭壇に捧げたあの男。
自身で構築した理論とその実証こそが第一義だったあの男。
“凡そ有象無象の凡夫は、
その在り様は、己の心の赴くままに奪い、辱め、殺す暴君のそれに等しかった。
たとえ自分自身の存在を、生まれて来ることすら無かった事にしたとしても、この現実は覆らない。
起きてしまった事を……………
過ぎてしまった事を………………
あらゆる過去の喜怒哀楽を、無かった事にしてしまったら………………
数多の想念の赴く先を、激情のまま奪っていいはずがない………………。
「……………俺は……………アイツとは、違うんだ…………………」
それは天啓か、それとも自らの内より出たものか、少年自身にすら分からなかった。
刀は少年の手から滑り落ち、そして力なく膝をつく。
そして、柔らかく、しかし力強く、胸に抱きしめられる感触を得た。
少年は嗚咽を漏らす。
心中に鬱積したあらゆる憤懣が、涙となって零れ出る。
その人は、少年をまるで我が子をあやすかのように胸に抱く。
そして、ぽつりぽつりと呟くように言った。
————痛くても、辛くても、生きていてください————
————貴方が苦しい時は、私が支えます————
————貴方の罪業は、私も背負います————
————貴方が迷った時は、私が
————貴方の命ある限り、私も共に歩みます————
————だから、生きてください————
————それが私の、唯一の願いなのですから————