Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
「書いていると、一話が次第に長くなる」と言う話も聞きましたが…。
今回は長いです(汗)
<9/18 加筆修正しました>
確かなのは、命を拾ったという一点。
私としたことが、勝ちに逸って詰めを誤ったようだ。
やれやれ……「
その辺の魑魅魍魎であれば、アレにかかれば後は茶を飲みながらでもゆるりと
ランサーのサーヴァントであれば、その宝具は「刺突」か「投擲」によるもの故、手足を封じればその宝具も封じれると踏んでいたのだが…。
よもや手首の動きだけで、投擲の宝具を放ってくるとは…。
いや、手首の動きだけと言う不完全な状態であったからこそ、宝具の威力が大幅に減殺され、私は命をつないだのだろう。
万全な状態で宝具を開帳されては、今頃私だった肉片がそこかしこに散らばっていたに違いない。
あの宝具が強化した刀に当たってくれたお陰で、負傷の程度としては軽い。
骨にいくらかヒビが入っただけで済んだ、と言う点では
明日一日かけて賦活の陣に籠っておれば、表稼業で気取られるような跡は残るまい。
剣術や武術、或いは魔術で拮抗していたとしても、英霊が英霊たる所以の幻想を具現化した「宝具」を開帳されては、人に勝つ術はない。
究極の一を極めた英霊の前には、千を超える人の術理も焼け石に水にもなり得ない。
止む無くサーヴァントに対抗しなくてはいけないのであれば、その宝具を予測し、開帳される前に討つ。
言うは易し、辞書の例文にも載せられそうなほどに都合のいい話だ。
つまるところ、人の身でサーヴァントと戦おうなど、正気の沙汰ではないと言う事だ。
だからこそ目が覚めた時、従者には莫迦か阿呆かと散々になじられたものだ。
あんなに叱られたのはいつ以来だっただろうか…。
従者はあの時同様、目に涙を浮かべていた。
……後日、何らかの埋め合わせはしなくてはいけないな……。
あの時、一瞬ランサーの気が逸れた合間を縫って従者が私を回収したのだとか。
その後に現れたのは、少女の姿をした騎士、おそらくはセイバーのサーヴァントとの事。
そのままセイバーはランサーと切り結び、結果としてランサーは宝具を開帳するも勝利には至らず退却した。
そしてランサーの真名は、ケルト神話の英雄「クー・フーリン」であることが判明した。
ランサー退却後、セイバーは接近してきたアーチャーとそのマスターとの戦闘を開始。
ランサーの宝具により手傷を負ってはいるものの、流石はセイバーのサーヴァント。
アーチャーを一刀の下に切り伏せると、マスターの放つAランク相当の魔術を無効化して見せた。
セイバーにはかなり強い対魔力があると窺い知れる。
アーチャーの生死は不明。
令呪で強制的に霊体化して切り抜けたようだ。
そのマスターの名前は遠坂凛。
この冬木の管理者で、穂群原学園二年A組の女子高生。
セイバーの手によって切り伏せられる直前、セイバーのマスターとなったらしい衛宮士郎の介入により戦闘は中断。
どうやらこの時に、衛宮士郎は令呪を用いてセイバーの行動を制限したようだ。
その後、何故か衛宮邸にて聖杯戦争基礎講座が開講しており、遠坂講師による講義が始まっているとの事だ。
ここまで、私が気を失っている間に起きたことを従者が説明してくれた。
そして未確定情報ではあると前置きした上で、セイバーのサーヴァントは、前回の第四次聖杯戦争における、アインツベルン陣営のサーヴァントと同一の可能性有りとの事だ。
当時アインツベルン陣営の真のマスターは衛宮切嗣だった。
その息子である衛宮士郎が、今回同じサーヴァントのマスターとなる事は「全く無い」とは言い切れないが、「可能」と言い切るには可能性はかなり低い。
それには、触媒となる同じ聖遺物があってこそ同じサーヴァントを引き当てる事が叶うが、それも「可能性」の域を出ない。
そうこうしていると、どうやら衛宮士郎と遠坂凛、そして何やら雨合羽を着込んだ人物が外に出てきた。
学生が夜遅くに出歩くなどあまり感心せんのだが、どこかへ向かうようだ。
一行とは距離を保ちつつ、後をつけるに
冬木大橋を経て新都に向かう一行の話を聞くに、雨合羽を着込んだ人物はセイバーのサーヴァントらしい。
本来であれば、サーヴァントは霊体化してマスターと行動を共にするのだが、
不完全な召喚によるイレギュラーか、はたまた「霊体化できない」サーヴァントなのか、詳細は結局のところ分からなかったが、前回のセイバーも霊体化できなかった。
ともすれば、先ほどの「未確定情報」が僅かばかり信ぴょう性が増すというものだ。
一行がたどり着いた先は、新都にある冬木教会。
この教会の神父は、今次聖杯戦争の監督役として聖堂教会から派遣されてきた男で、先の聖杯戦争の数少ない生き残りだとか。
そして、恐らくは…。
衛宮士郎と遠坂凛が教会の中に入って数十分の時が経った。
セイバーのサーヴァントは、衛兵宜しく、門の前に立っている。雨合羽のおかげで、遠見をしても表情は読み取れない。
いやはや、何とも珍妙なものよ。歴史に名だたる英雄、豪傑であろう者が、英霊となって
さて、教会の中ではどのような話がなされているのかと言うと……。
………あの小僧、正式にマスターとして聖杯戦争に参戦しおった………。
聖杯戦争と言う嵐が過ぎ去るのを、只人として過ごしておるなら、いくらでも手助けしてやれたものを……。
流石に舞台に観客が上がりこむのは憚られる……。
さて、どうしたものか……。
懊悩たる思いに沈んでいると、彼らが教会から出てきた。ようやく散会と言う事だろう。
しかし、遠坂もお人好しよな。衛宮士郎がマスターとして何も知らずにただ殺されるよりはと、何くれと世話を焼いたのだろう。
先ほど令呪を使ってセイバーの動きを止めた借りを返した。と言ったところか。
どうもあの娘は、借りっぱなしと言うのが嫌なのだろう。そのくせ借りた以上を返そうとする。
あれもまた、魔術師としては心根が人に近いのであろうな……。
魔術師としてはまだまだだが、人としては良い女になるであろうよ。
それで良い………。
魔術師など、人の姿をした化生よ…。
悪鬼羅刹、魑魅魍魎の類と何ら変わりはせん。
多くの魔術師は、魔術の徒であることを尊び、平凡な人となることを卑下する。
しかし……。
化生たるこの身には、平凡であることが斯くも尊く思えるものだ。
無いものねだりの詮無い思料は承知の上だが、手の届かぬものに羨望するのは、人の欲望としてはまあまあだろう。
帰途に就こうとする一行から適度に距離を取り様子を窺っていたのだが、早々に異変が生じた。
「ねえ、お話は終わった?」
そこには幼い少女が、坂の上から彼らを睥睨するように立っていた。
その傍らには、巨岩の如き異形が並び立つ。
アレは桁違いだ…。
離れて見ているだけの私でさえ、アレが放つ絶対的な死の気配に、まるで喉元に刃を突き付けられているような感覚にさえ陥る。
「こんばんは、お兄ちゃん。こうして会うのは二度目だね」
無邪気に微笑みながら言うマスターと思しき少女。だが、その無邪気さが、逆に恐ろしい。
あの場にいる二人は、さながら蛇に睨まれた蛙と言ったところか。
「分かっておる。今の状態で間に割って入ろうなど、それこそ自殺志願者のそれよ」
呼ばわる従者の声に応える。
また無茶をしないかと心配しているのだろうが、ランサーとの戦闘で負傷した私に、アレに抗おうなど自殺行為だ。
否……万全の状態であっても、正気を失ってもアレとやり合ってはいけない。
感情や理性ではなく、本能がそう警鐘を鳴らしている。
仮に、それらをねじ伏せて割り込んだとしても、この命を対価に一人逃がせられ得るか否かだ。賭けとしては割に合わなさすぎる。
「私はイリヤ。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンって言えばわかるでしょ?」
場違いに礼儀正しい名乗りを上げる少女の名に、また別の衝撃に襲われる。
ああ……なんという事だ…………。
本当に私は頭を抱え込んだ。
あの少女がイリヤスフィールだと………?
アインツベルンであれば、今次聖杯戦争のマスターとして参戦することは分かっていた。
それがまさか彼女だったとは……。
いや、時を経ずして聖杯戦争が始まった今、可能性が無かったわけではない。
むしろその可能性は高かった。
人間とホムンクルスとの間に生まれた子。
常冬の城で育った彼女を、あのアハト翁が放っておくわけがない。
その可能性から、私は愚かにも目を背けていたのだ。
かつてない自己嫌悪に苛まれる。
聖杯戦争が始まる前に、是が非でも衛宮士郎をこの冬木から立ち去らせば良かったのだ。そうでなくても、あいつをどこぞに監禁でもしておけば良かったのだ。
これは私の失態だ。
よくもまあ、遠坂に魔術師の覚悟云々なんぞと説教できたものだ。
聞いて呆れる我が身の愚かしさよ…。
まさかお前は、こうなる事も予見していたというのか?
だからこそ、あいつを守ってくれと託したのか?
だとしたら…
「だとしたら、業が深いにも程があるぞ、切嗣!」
もう五、六発は殴っておくべきだったと、亡き友に八つ当たりの怨嗟の声を上げた。
「じゃあいくね。やっちゃえ、バーサーカー」
歌うように背後の異形「バーサーカー」に命を下す。
刹那、バーサーカーは数十メートルの距離と一飛びに詰める。
その着地点に向け、雨合羽を脱いだセイバーもまた距離を詰める。
岩塊を切り出したようなバーサーカーの大剣を、セイバーは
だが、純粋な力勝負ではセイバーには分が悪い。
体格差ではなく、純粋にパラメーターにおいてバーサーカーはセイバーよりも上だ。
本来「バーサーカー」と言うクラスは、能力の劣る英霊の理性を奪い「狂化」することにより、その基本性能を底上げしている。
しかし、それは諸刃の剣。バーサーカーと言うクラスは、その狂化の影響により、他のクラスのサーヴァント以上にマスターの魔力消費が激しいのだ。
しかし、マスターは
しかも、バーサーカーのパラメーターは「幸運」以外軒並みAランク。優れたマスターに依る部分も多いが、恐らくは、狂化無しでも元々は優れた英霊であるのかもしれない。
対するセイバーは、基本的なパラメーターはB、Cランクとバーサーカーのそれには劣る。他のクラスのサーヴァントと対峙するのであれば、それでも障りはないのだが、今の相手はバーサーカーだ。
「セイバーを従えることが出来れば、聖杯戦争は勝ったも同然」と言われるほど、セイバーは「最優」と評されるクラスなのだが、悲しいかなマスターが魔術師としては聊か以上に劣っている為、本来はAランクもあったであろうパラメーターは、その悪影響を受けて下がっていると思われる。
それでも、今のセイバーは善戦していると言えるだろう。
だがそれは「消極的な」善戦だ。
バーサーカーの一撃一撃は「死の嵐」とも形容できる。
その暴風に絡めとられれば、待ち受けるのは死あるのみ。
バーサーカーの大剣を自身の見えない剣で受け止め、時にはいなし、反撃の機会を窺っている。
守りを固め、剣戟の合間に活路を見出す事でしかセイバーに勝機はないというこの状況、裏を返せば相手の失策に因るしかなく、無策に等しいと言う事だ。
バーサーカーが山崩れにも似た打ち下ろしの一撃を放つ。
セイバーはそこに勝機を見出したのか、半歩後ろに下がってバーサーカーの大剣を躱す。
地面に杭を打ったかのように沈んだバーサーカーの大剣。
それを足場にして、セイバーが一気にその首に迫るも、バーサーカーはあっさりと大剣を手放し、後方宙返りでその剣を躱す。
続けざまに見事な体術でセイバーを蹴り飛ばした。
アレは本当にバーサーカーか!
理性を失い、力の暴風と化していたバーサーカーが、あのような技巧を見せるとは。
「……いかんな………」
懐から取り出した扇子で首筋を軽く叩きながら思案する。
力は言うまでもなく、速度もあの巨体に似つかわしくなくセイバーを上回っている。
その上、バーサーカーとは思えない技巧まで凝らしてくるとは……。
アレではセイバーの勝機は皆無に等しい。
ならば、私がすべきことは一つ。
「セイバーが討たれたら衛宮を連れて遁走する。遠坂は…………………見捨てる」
手で扇子を打ち鳴らし、意を決して従者に命じる。
異を唱える様子はない。
如何なバーサーカーであろうとも、セイバーを討った瞬間には、刹那にも満たないであろう隙が生じる。そこを利用する。
それでも足りないであろうから、遠坂を生贄の祭壇に捧げれば確実だ。
遁走の
それだけあれば衛宮を連れて逃げることは可能だ。
衛宮が何と言おうとも、サーヴァントを失ったマスターはそれで舞台から退場だ。
令呪が残っているなら、マスターを失ったサーヴァントと再契約も果たせようが、どこぞへ連れ去るなり、監禁するなりしてしまえば、あとは嵐が過ぎるのを待てばよい。
それには、ギリギリまであの場に接近し、時期を見計らう。
セイバーが討たれた瞬間、従者が煙幕を展開。
私の
遠坂が肉塊に変えられる間に、別々の方向に全力で逃げる。
時期の見定めが、この作戦の要となる。
互いの連携については、付き合いが長いので問題ない。
絶え間なく吹き荒ぶ死の嵐。
遠坂が魔術で援護するも、バーサーカーの体には傷一つ付かない。セイバーのように無効化しているのではなく、ただ
それでも遠坂は手を緩めず援護するも、バーサーカーは意に介することなくセイバーに突進しているのがその証左であろう。
「逃げろセイバー!」
衛宮が叫ぶもセイバーは剣を構え続け、マスターの意とは逆に敵に立ち向かった。
まだ気付かんのか戯け。
サーヴァントは、いわばマスターの剣であり盾。逃げろと言われて逃げる剣が、逃げる盾がどこにあろうか。
生前のセイバーは名のある騎士だったのだろう。如何に一時の主従とは言え、騎士の誓いは己が血よりも重い。であればこそ、セイバーは敵うべくもない相手と知りながらも戦うのだ。
「いいわよバーサーカー。そいつ、再生するから首を刎ねて殺しなさい」
先程まで繰り広げられていた剣戟はついに終わった。
最早セイバーは満身創痍。
後はバーサーカーが止めの一撃を放てばそれで全てが終わる。
こちらは既に配置に着いている。
セイバーの数メートル後ろに衛宮、その二、三歩後ろに遠坂。
衛宮と遠坂の立ち位置が逆なら言う事無しだったが、この状況では贅沢な望みだ。
バーサーカーが大剣を振りかぶる。
セイバーは立っているのもやっとな状態なのか、剣を構えようとするも、その動きは遅々としている。
「
二小節の呪文で身体強化と固有時制御を同時発動させるべく、魔力を静かに練り上げる。
目標までの距離を計算するに、バーサーカーの大剣が振り下ろされた瞬間に発動させれば、セイバーの身が大剣に凌辱されたその時に目標の回収が出来る。
死の前の僅かな静寂。
その静寂を破る咆哮が全てをひっくり返した。
あまりの突然の事態に思考が停止した。
否、この事態に己を保ち得る者などいようものか。
遠坂が、セイバーが、そしてイリヤスフィールでさえ呆然としている。
何が起きたのかと言うと、バーサーカーの大剣が振り下ろされる瞬間、衛宮が雄叫びを挙げて突進。そしてセイバーの前に出て、その身に大剣を受けたのだ。
斬られた勢いそのままに、
「なんで…………?」
ぼんやりとイリヤスフィールが呟く。
「……………もういい。こんなのつまんない」
少女はしばらく呆然とした後、衛宮の不可解な行動に気分を害したのか、イリヤスフィールはセイバーに止めを刺さずにバーサーカーを呼び戻した。
「リン、次に会ったら殺すから」
そう宣言して、少女はバーサーカーと共に立ち去って行った。
しばしの静寂。
「あ…あんた、何考えてるのよ!」
自我を取り戻した遠坂が衛宮に駆け寄る。
こうはしていられない。如何に事前に賦活の札を貼っていたとはいえ、先の学校での出来事で大半の効果を失っているはずだ。
あの時よりも時間は無い。従者の制止を振り切って、我知らず衛宮の下に駆けた。
「
「問答は後だ!今は……!」
次の句が出なかった。
「貴様何者だ!シロウから離れろ!」
「待ってセイバー!こいつは……多分敵じゃない」
「しかしリン!」
セイバーが剣を構え誰何するも、遠坂が制止する。
「ね、ねえ白狐…。あんたなら衛宮君を…」
一縷の望みをかけたその問いは、しかし現実を覆すには細すぎた。
私には肩を落とし、首を横に振って答えるより術が無かったのである。
衛宮の状態は即死でもおかしくない。札のおかげか、僅かばかり生き永らえていたようだが、肉体の損傷が激しすぎて詠唱の間に力尽きることは必定だ。この状態から復活させるなど、魔術ではなく魔法の領域だ。
後悔ばかりが浮かんでくる。それと同時に、衛宮に対する怒りが込み上がってくる。
サーヴァントの身代わりになるなど、何を考えているのだ…。
サーヴァントを「道具」としてではなく、「人」として扱ったか…。死の
分からんでもないが、無力なお主が、思慮も分別もなく、ただ己の命を無駄に消費しただけではないか!
「……戯け……何を考えているのだ……。これでは、あいつに合わせる顔がな…………なんだこれは……!」
我が目を疑った。
短い間とは言え、己の主であった少年の死を悼むセイバーが衛宮に触れた途端、その身に空いた大穴が塞がり始めたのだ。
「再生……しているのか……?」
言葉通り、損傷した衛宮の肉体は、まるで映像を逆再生させているかのように元の形に戻っていく。
「これは貴様の魔術によるものか、東洋の
「否、これは私の魔術ではない。私の魔術では、詠唱の間にこの者は事切れておる」
動揺を隠しつつ、尚も警戒の目を向けるセイバーの問いに答える。
金の糸を束ねたような髪。
白磁の如く、白く可憐な面差し。
ああ…これは御仏のお導きか、それとも気まぐれか、はたまた悪戯か。この少女は、間違いなく前回の聖杯戦争において、切嗣のサーヴァントであったセイバーに相違ない。
十年の時を経て、お主は衛宮士郎を護る為に
「こやつは治癒魔術の心得が…いや、違うな……」
衛宮の身体は、十分も経った頃には外見は元通りになっていた。
意識はまだ戻らないが、いずれ取り戻すだろう。先の出来事同様、これは再起の為の眠りだ。
「ええ、衛宮君がもしそうなら、彼を魔術師として認識できてたはずだわ」
然もあらん。
魔術師とは、一定以上の魔力を帯びているからこそ魔術師たり得るのだ。
治癒魔術はそこそこの魔術師でも応急処置程度は可能だが、ここまで肉体が損壊するレベルからの再生、治癒ともなれば、名門の当主でさえそうは居ない。
顧みて、衛宮はその「一定以上」に届かない赤点落第生だ。
赤点とは言え、追試や補習でどうこうなるようなものでもないのだが……。
「では、サーヴァントの影響か……」
ちらとセイバーを見る。
「セイバーのサーヴァントよ。お主に改めて問う」
「何か?」
立ち上がった私に、視線だけを向けるセイバー。
「お主のマスターは、衛宮士郎に相違ないか?」
「ええ、私はシロウのサーヴァント、セイバーに違いありません」
衛宮の右手には残り二画の令呪。こやつがマスターであることの証拠だ。
本来なら、マスターとなる魔術師からサーヴァントへ魔力を供給し、サーヴァントは現世に留まり続けることが叶う。
恐らくはセイバーの英雄としての逸話から来る自然治癒能力が、マスターである衛宮に影響を与えたのだろう。
マスターとサーヴァントは
「で、白狐、なんであんたがここにいるのよ」
遠坂がじろりと睨む。しかし、その目の警戒の色は薄い。
「先に述べた通り観戦よ。さりとて、この戯けとは少々奇縁があってな、矢も楯もたまらず飛び出した次第よ」
嘘は言っていない。
しかし、先程セイバーと遠坂を生贄にして衛宮を連れて逃げるつもりであったことは、おくびにも出すつもりはない。
「そう……。で、その観客から見て、あのバーサーカーはどう見えた?」
今次聖杯戦争のマスターではない「中立」の私に、遠坂が意見を求めてきた。
参加者ではないこの身が、参加者に肩入れするのはあまり好ましくはないが、観客としては贔屓の演者がいても良いであろう。
「化け物の一言に尽きるな。正面切ってアレと矛を交えては勝ち目はあるまい。例えセイバーとアーチャーが万全でもな」
「!…なんでアーチャーの事を…」
瞬く間に警戒する遠坂。
「ああ、先程ランサーが申しておった。「さっき弓使いとやり合ってた」とな。」
「へ?ランサーが…?」
私の回答に毒気を抜かれて呆けた顔をする。
おいおい、学園のマドンナがそんな顔をしていたら、さぞかし男子生徒達は度肝を抜かれるだろうよ。
「よもやシロギツネ、先程までランサーと戦っていたのは貴方だったのですか…?」
「ど、どう言う事よ!?」
セイバーが驚嘆の目を向け、遠坂は目を丸くして驚き、双方を見比べている。
「私が召喚された時、庭には激しく争った痕跡がありました。ひょっとするとシロウがランサーに対抗していたのかと思ったのですが…」
「いやいや、コレは土蔵に逃げ込んで縮こまっておったわ。とは言え、結果としては尻尾を巻いて逃げ
「ええっ!?」
今度はセイバーも目を丸くして驚く。
「なんと、生身の魔術師である貴方が、ランサーに宝具を出させるまで追い詰めていたのですか…」
「応よ。縛りの術であの頸落としてやるつもりだったのだがな、返り討ちに遭って、骨をいくらかと重代の業物一振り持っていかれたわ」
「あんた…なんてハチャメチャな奴なのよ……」
遠坂が呆然と評するのも無理はない。
魔術師ではサーヴァントに勝利することはまず在り得ないと言われる。
サーヴァントにはサーヴァントを以て挑むのが定石とされるからだ。
「まさかあんた、死徒二十七祖の一人ってわけじゃないわよね…」
「ははは!この身は化生のようなものだが、死徒から見れば十把一絡げの
俗に吸血鬼と呼ばれる「真祖」に血を吸われ、吸血鬼としての適性が高い人間が「死徒」となるという。
その中でも、真祖の支配を逃れた最古の二十七人が「死徒二十七祖」と呼ばれているそうなのだが、幸いそのような物騒な輩とは会ったことが無い。
「さて、セイバーも召喚されたのであれば、ランサーが再び凶行に及ぶこともあるまい。今宵はこれでお暇するとしよう」
「そうですね、今は休息が必要でしょう。シロギツネ、シロウを守っていただき、彼に成り代わりお礼申し上げます」
「ホワイトフォックスで良い。お主にはその方が発音し易かろう」
「はい、ではホワイトフォックスと」
先程とは打って変わって、その目に警戒の色は無い。ランサーと互角に矛を交えたという一点で、それなりの
そう言えば、あの時は警戒されっぱなしだったな。と思い返す。
「セイバー、衛宮士郎をよろしく頼む。これは我が友の忘れ形見よ」
私はセイバーに最敬礼し懇願した。
「私はシロウの剣になると誓いました。この誓いは我が血となり、我が魂となるでしょう」
そう宣言するセイバーの答えに満足し、その場を辞した。
人気のない夜道、礼装を脱いで一人夜道を歩く。
如何に最近物騒で夜道を歩く者はいないとはいえ、狩衣姿で夜道をふらつくなど、自ら不審者であると喧伝しているようなものである。
脱いだ礼装は、一式一纏めにして従者に持ち帰らせている。
………今日は色々疲れた。
こうも目まぐるしく事態が動くとは思わなかった。
衛宮が殺されかけ、その衛宮がセイバーのマスターとなって聖杯戦争に参戦した。
そしてイリヤスフィールの事………。
空を見上げると、星が瞬いている。
星の巡りは吉兆とも凶兆とも取れていまいちはっきりしない。
胸ポケットから煙草を取り出し火を着ける。
……あとで
煙草の煙を肺の奥まで入れた途端、ヒビの入った肋骨が痛んでたまらず
と言う訳で、狐さんは切嗣の古い友人と言う設定にしてみました。
いずれ狐さんと切嗣の回想シーンを書いてみたいと思います。