Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

13 / 76
ここ数話、毎日投稿してますけど、連休だったのと、アイデアがジャブジャブ湧いて来てたので、家に引き籠って書いてました。

それではよろしくお願いします。

<9/18 若干修正しました>


#013 interlude~蠢動~

 冴える月明かりが、石段を仄かに照らしていた。

 市街から離れたこの場所は喧騒とは程遠く、また草木がさざめく音一つない。

 

 山門へと続く石段の頂より街を見下ろせば、麓の明かりは疎らながらも、その先にある街の明かりは天空の星々の如く瞬いている。

 しかしここ数日は、その星々も心なしか寂寥を禁じ得ない。

 

「斯様な仕儀も、あの女狐の仕業故、か…」

 

 そう暗殺者(アサシン)のサーヴァント、佐々木小次郎(ささき こじろう)は独り言ちる。

 

 連日発生している新都のガス漏れ事故。裏面に在る真実は、魔術師(キャスター)のサーヴァントが一般人の生命力を吸い上げて己の魔力へと変えていたからだ。

 

 サーヴァントは基本「魂喰い(ソウルイーター)」である。

 魂とは即ち生命力の源。そして生命力は、魔力の源となる。

 サーヴァントは、本来魔術師であるマスターからの魔力供給により現界を保っているのだが、魔力を得る方法はそれが唯一の方法ではない。

 自らの内で僅かばかりの魔力を生成するか、他者から魔力或いはそれに類するもの奪い取るか、だ。

 

 魔術師(キャスター)のサーヴァントであれば、その保有する魔力量は他のサーヴァントのそれとは比較にならない程多いのだが、魔力は多いに越した事は無い。故に魔術師(キャスター)は奪い続ける。

 己の望みを成就せんが為に。その他多くの望みを蹂躙し、裏切ってでも。

 

「今宵は月を肴に一献傾けたいところだったのだが……」

 

 石段の頂で胡坐をかいていた暗殺者(アサシン)は、優美な所作で立ち上がった。

 

()くないものが来ているな………」

 

 その視線の先には影があった。

 

「あの女狐の命令は「門を通ろうとする者は倒せ」であったが………これはどうしたものか………」

 

 影は次第に陽炎のように揺らめき、僅かばかりの明かりを侵食している。

 

「刀が通用するような怪異とも思えぬ。さりとて見逃すわけにもいかぬ……」

 

 背中に差した五尺余りの長刀を静かに抜き、八相から霞に構える。

 三日月の如き長刀は、しかし空に流れ込んだ雲によって月光を遮られ、返す光を失っていた。

 一面に満ちる影は、不自然な瘤のように盛り上がり始める。

 

「これはこれは………衆生(しゅじょう)を極楽浄土に導く仏閣に、黒闇天(こくあんてん)まで仏詣(ぶっけい)いたそうとはな。この寺の御本尊は閻魔様か、はたまた吉祥天(きっしょうてん)であったかな?」

 

 閻魔王の妃とされ、福徳を授ける仏教守護の女神「吉祥天」の妹。容貌醜悪で、厄災をもたらす黒夜の女神。

 徐々に形作られたその影は、その在り様もすらも彼が思い描く黒闇天そのものだった。

 

 影が揺らめく。その触手の如き揺らめきは、一反の帯のように彼に襲い掛かった。

 袈裟懸け一閃。影の帯を掃う一刀は、しかし空を切り、群がる影の帯が彼の両腕を切断した。

 

「……やれやれ……悪鬼の類ならともかく、仏まで私に祓わせようとはな………。あの女狐も中々に業が深い……」

 

 膝をつき、万事を窮したアサシンは、己の死を確信した。

 否、サーヴァントである以上、これは「死」ではなく「現世からの消滅」だ。

 だが、影は驟雨(しゅうう)のように退いてゆき、彼に「消滅」を与えなかった。

 その影の先から老僧の念仏の如き声が聞こえ、同時に足元には己と中心に据えた陣が浮かび上がる。

 

「……ふ……私は生贄、と言う事か………」

 

 諦観した彼は口元を緩めて笑う。

 

「………………成る者。我は常世全ての悪を敷く者。汝三大の言霊を纏う七天……」

 

 アサシンの腹の内から何かが出てこようとする感覚に苦悶する。

 

「…抑止の輪より来たれ。天秤の守り手よ!」

 

 内側から臓腑を、肋骨を弾けさせ、黒く長い手が伸びる。

 

呵々々(かかか)、不正なサーヴァントは処理されるのが道理。正当なる山の主(真アサシン)の触媒となるがよい……」

 

「……………良かろう……好きにするがいい……」

 

 アサシンの内より現れた()()は、孵ったばかりの蟲の如く彼の死に逝く体を貪っていた。

 

「所詮は我が腹より這い出たもの……。碌な性根では無かろうよ………」

 

 暗闇に、肉と骨を咀嚼する音だけが響き渡った。

 

 

 

暗殺者(アサシン)?どうしたのですか?」

 

 山門に顔を出し、暗殺者(アサシン)を呼ばわる見目麗しい女性が一人。

 世俗から離れた寺には似つかわしくない容貌の女性は、この寺の尼僧ではなく、()()()()()()()()()()()()()である。

 

「どうした魔術師(キャスター)。何か問題でも起きたか」

 

 背後に立つ痩身長躯の男が訪ねる。

 

「いえ、宗一郎様(マスター)。特に何も……」

 

 問われた女性、魔術師(キャスター)は、表向き「婚約者」としている彼に嘘を述べた。

 異状はあった。

 彼女が召喚し、使役する暗殺者(アサシン)のサーヴァントとの因果線(パス)が途絶え、左手に宿った令呪が消失したのだ。

 それは暗殺者(アサシン)が侵入者に敗北したという事実に他ならない。

 

「ですが宗一郎様(マスター)。念のために奥にお下がりくださいませ」

 

 唯ならぬ事態と察した魔術師(キャスター)は、前言を排してマスターに警戒を促す。

 そのマスターである葛木宗一郎(くずき そういちろう)は、魔術師(キャスター)の虚言を咎め立てはしなかった。

 

 

 いや、()()()()()()

 

 

 その眉間に黒い短剣が深々と突き刺さっていたからだ。

 

「宗一郎!」

 

 その名を叫ぶも、既にマスターは絶命していた。

 短剣が飛んできた方向をキッとにらんだ瞬間……

 

妄想心音(ザバーニーヤ)!」

 

 赤く長い手が伸び、その身に触れた。

 何かが奪われる感覚。

 不吉な予感を、マスターを殺された激情でねじ伏せて見据えた先には黒い人影。

 その面貌には白い髑髏の仮面があった。

 

暗殺者(アサシン)の……サーヴァント……」

 

 呻くように口にする魔術師(キャスター)

 その手には、脈動する心臓が握られていた。

 その心臓が誰のものであるかと思い至る前に、暗殺者(アサシン)はその心臓を握りつぶした。

 直後、魔術師(キャスター)は喀血し倒れた。

 

「……アハ……アハハ……アハハハハ…………また…こうなるのね………」

 

 なんて茶番と嘲笑う。

 

 女神の呪いにより国から逃げざるを得なくなり、逃げるために肉親を八つ裂きにし、帰るべき故郷(ばしょ)を失い、魔女と蔑まれ、愛した男にさえ裏切られた。

 英霊として召喚されてみれば、裏切りと理不尽な死が、変わらず彼女に待ち受けていた。

 

 世界に拒絶され続けてきた者。

 彼女は、唯々故郷に帰りたかっただけなのに。

 故郷と呼べる場所に帰りたかっただけなのに。

 帰るべき場所が欲しかったのに。

 その細やかな望みすら、世界に拒絶された。

 

 私の想いは何処へ往くのか。

 私は何処へ往けば安息することが出来るのだろうか。

 

 故郷の黒い海のさざ波が聞こえる。

 

 魔術師(キャスター)の目から涙が零れる。

 マスター共々黒い影に覆われてゆく最中、彼女は最後の祈りを口にした。

 

 

 宗一郎……せめて貴方だけでも、安らかでありますように………。




キャスター&宗一郎、小次郎ファンの皆さんごめんなさい。
お三方早々にリタイアです…(汗)

でもなんか、メディアの理不尽エピソードって、桜のそれに通じるような気がしないでもないというのは自分だけでしょうかね?
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。