Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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#014 interlude~沈殿~

 不意に目が覚めた。

 何とも気持ちの悪い夢だった。

 自分が黒い塊となって、人々を飲み込む夢。

 その中の一人は、見知った顔だった。

 

 悪寒がする。

 まるで自分が、あらゆるものを貪欲に飲み込む怪物にでもなったかのようだ。

 夢の影響なのか、今でも自分の中に何かが()()()入り込んでいるような気がする。

 

 目眩がして、どうにも焦点が合わない。

 目を閉じ、大きく息をつく。

 いくらか深呼吸を繰り返すと、気分は多少落ち着いてきた。

 

 そうだ、今日は先生に誘われて、彼の家に泊まっていたのだったと思い出す。

 正直な話、今日は帰りたくなかった。

 ここの家主である彼への恋慕の情ではなく、あの忌まわしい家に帰りたくなかったのだ。

 

 静かな寝息が二つ聞こえる。

 一つは今日の外泊を誘ってくれた先生。

 もう一つは、彼の父親の知り合いの娘。

 

 それは嘘だ。

 

 彼女はセイバーのサーヴァント。

 聖杯戦争における使い魔。

 何故かは知らないけど、私たちと同じように食事をし、同じように床に就いて休んでいる。

 

 ふと「もう一人の私」が囁く。

 

 彼女を殺せ。

 

 彼女さえいなければ、少なくても彼が殺し合いに身を投じなくても済む。

 

 そうなれば、私が彼を守ればいい。

 

 お爺様は言っていた。

「生かしておいて支障のない輩ならば見逃してやっても良い」と。

 魔術師として未熟な彼は、サーヴァントさえ失えば全く支障のない人間になる。

 

 暗い感情が沸々と湧き上がってくる。

 

殺せ。

殺せ。殺せ。

殺せ。殺せ。殺せ。

殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。

 

 何か自分の周囲から黒いモノが溢れ出してくるような気がする。

 それは彼女を死の檻に捕えようとする鎖。

 あらゆるものを貪欲に飲み込む黒い塊。

 清冽な魂を侵す、汚濁した魂の器。

 

 ハッとして目を開ける。

 息が荒い。

 全身が汗だくだった。

 自分の中からあんな感情が溢れ出てくる事に戦慄する。

 こんな自分を彼には見せたくない。

 だけど、彼女を殺してしまえば、私が彼を、そしてあの人が彼を傷つける心配は無くなる。

 

 そう、()()()

 なぜあの人が来ていたのだろうか。

 彼は怪我をした際に、通りかかったあの人に手当してもらったと言っていた。

 洗い置きのタオルも減っていたし、ペーパータオルも空っぽだった。

 それに食器の置き場所がいつもと違う事から、あの人が来ていたと言う事が分かった。

 

 なんで?

 なんであの人が来てるの?

 なんであの人が私の居場所に…。

 ここにいるのは私で…

 あの人のいる場所じゃない。

 彼とあの人は全然関係ないはずなのに…。

 

 なんで?

 

 なんで?

 

 なんで?

 

 それは彼を奪いに来たからだ。

 

 また「もう一人の私」が囁いてくる。

 

 彼の心を奪いに来たのだ。

 

 彼の身体を奪いに来たのだ。

 

 彼の命を奪いに来たのだ。

 

 ならどうする?

 

 奪い取れ。

 

 私から奪う者全てを殺してしまえ。

 

 セイバーも、あの人も、殺してしまえ。

 

 なんて甘い誘惑。

 

 「もう一人の私」の提案に、私も頷きそうになる。

 

 だけど…

 それは出来ない。

 こんな自分を彼に見られたくない。

 彼にとっての良き後輩でい続けたい。

 そして、彼の傍らに立ち続ける自分でいたい。

 だから、私はこんな自分を隠さなければいけない。

 彼は「正義の味方」になる人。

 私の中の「もう一人の私」は、正義の味方とは対極の存在。

 いや、「もう一人の私」は、実は本当の私で、今の私はそれを隠すための仮面(ペルソナ)かもしれない。

 

 怖い。

 

 もしそうだとしたら、彼は私を赦すだろうか?

 それとも、私を裁くのだろうか?

 譫言(うわごと)のような思いがグルグルと頭の中を巡る。

 

 

「サクラ……」

 

 囁くように呼ぶ声が聞こえた。

 

「サクラ、うなされていたようですが大丈夫ですか?」

 

 そこにいたのは、半身を起こした彼女だった。

 

「……セイバーさん……ええ、大丈夫です。ちょっと、怖い夢を見てて……」

 

「そうですか……。サクラの体調があまり良くないらしいと、シロウから聞いていましたので心配しました」

 

 彼女は安堵の表情を見せる。

 薄っすらと差す外の明かりが、彼女の金色の髪に反射する。

 

「……ありがとう、セイバーさん」

 

「いえ、お気になさらず。それでは、おやすみなさいサクラ」

 

「はい……おやすみなさい」

 

 少し心が落ち着いたのか、すぐに深く、そして柔らかな眠りの中に意識が落ちていった。

 

 だけど、どす黒い意識が、(おり)にように自分の奥底に揺蕩(たゆた)っている事は自覚できた。




さて、いよいよ次回は、士郎と凛が学校でわちゃわちゃしたり、あんな事やこんな事が起きちゃったりするお話の予定です。
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