Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
不意に目が覚めた。
何とも気持ちの悪い夢だった。
自分が黒い塊となって、人々を飲み込む夢。
その中の一人は、見知った顔だった。
悪寒がする。
まるで自分が、あらゆるものを貪欲に飲み込む怪物にでもなったかのようだ。
夢の影響なのか、今でも自分の中に何かが
目眩がして、どうにも焦点が合わない。
目を閉じ、大きく息をつく。
いくらか深呼吸を繰り返すと、気分は多少落ち着いてきた。
そうだ、今日は先生に誘われて、彼の家に泊まっていたのだったと思い出す。
正直な話、今日は帰りたくなかった。
ここの家主である彼への恋慕の情ではなく、あの忌まわしい家に帰りたくなかったのだ。
静かな寝息が二つ聞こえる。
一つは今日の外泊を誘ってくれた先生。
もう一つは、彼の父親の知り合いの娘。
それは嘘だ。
彼女はセイバーのサーヴァント。
聖杯戦争における使い魔。
何故かは知らないけど、私たちと同じように食事をし、同じように床に就いて休んでいる。
ふと「もう一人の私」が囁く。
彼女を殺せ。
彼女さえいなければ、少なくても彼が殺し合いに身を投じなくても済む。
そうなれば、私が彼を守ればいい。
お爺様は言っていた。
「生かしておいて支障のない輩ならば見逃してやっても良い」と。
魔術師として未熟な彼は、サーヴァントさえ失えば全く支障のない人間になる。
暗い感情が沸々と湧き上がってくる。
殺せ。
殺せ。殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。
何か自分の周囲から黒いモノが溢れ出してくるような気がする。
それは彼女を死の檻に捕えようとする鎖。
あらゆるものを貪欲に飲み込む黒い塊。
清冽な魂を侵す、汚濁した魂の器。
ハッとして目を開ける。
息が荒い。
全身が汗だくだった。
自分の中からあんな感情が溢れ出てくる事に戦慄する。
こんな自分を彼には見せたくない。
だけど、彼女を殺してしまえば、私が彼を、そしてあの人が彼を傷つける心配は無くなる。
そう、
なぜあの人が来ていたのだろうか。
彼は怪我をした際に、通りかかったあの人に手当してもらったと言っていた。
洗い置きのタオルも減っていたし、ペーパータオルも空っぽだった。
それに食器の置き場所がいつもと違う事から、あの人が来ていたと言う事が分かった。
なんで?
なんであの人が来てるの?
なんであの人が私の居場所に…。
ここにいるのは私で…
あの人のいる場所じゃない。
彼とあの人は全然関係ないはずなのに…。
なんで?
なんで?
なんで?
それは彼を奪いに来たからだ。
また「もう一人の私」が囁いてくる。
彼の心を奪いに来たのだ。
彼の身体を奪いに来たのだ。
彼の命を奪いに来たのだ。
ならどうする?
奪い取れ。
私から奪う者全てを殺してしまえ。
セイバーも、あの人も、殺してしまえ。
なんて甘い誘惑。
「もう一人の私」の提案に、私も頷きそうになる。
だけど…
それは出来ない。
こんな自分を彼に見られたくない。
彼にとっての良き後輩でい続けたい。
そして、彼の傍らに立ち続ける自分でいたい。
だから、私はこんな自分を隠さなければいけない。
彼は「正義の味方」になる人。
私の中の「もう一人の私」は、正義の味方とは対極の存在。
いや、「もう一人の私」は、実は本当の私で、今の私はそれを隠すための
怖い。
もしそうだとしたら、彼は私を赦すだろうか?
それとも、私を裁くのだろうか?
「サクラ……」
囁くように呼ぶ声が聞こえた。
「サクラ、うなされていたようですが大丈夫ですか?」
そこにいたのは、半身を起こした彼女だった。
「……セイバーさん……ええ、大丈夫です。ちょっと、怖い夢を見てて……」
「そうですか……。サクラの体調があまり良くないらしいと、シロウから聞いていましたので心配しました」
彼女は安堵の表情を見せる。
薄っすらと差す外の明かりが、彼女の金色の髪に反射する。
「……ありがとう、セイバーさん」
「いえ、お気になさらず。それでは、おやすみなさいサクラ」
「はい……おやすみなさい」
少し心が落ち着いたのか、すぐに深く、そして柔らかな眠りの中に意識が落ちていった。
だけど、どす黒い意識が、
さて、いよいよ次回は、士郎と凛が学校でわちゃわちゃしたり、あんな事やこんな事が起きちゃったりするお話の予定です。