Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
先に投降した分で、いくらか気に入らない部分があって、そちらの修正を優先していたので時間が開きました。
今回は、士郎と凛が痴話喧嘩を繰り広げたり、あんな人やこんな人が出てきます。
それではどうぞ。
#015 放課後 Bullet
「で、葛木先生の用事って何だったんだ?」
「さあ?「葛木先生に頼まれてた用事を片付けておかねばならなかったのだ」って仰って、慌てて出ていかれましたけど」
けたたましい朝の食卓は、その発生源である藤ねえが居ないことで静かに過ぎていった。
俺も桜も、食事中にお喋りするなんて器用な真似は出来ないので、必然的に二人だけだと食卓は静かになる。
加えて、セイバーも食事中は静かなので、今朝の食卓は静かなものになった。
朝食が終わり、いつものように桜と二人で食器を片付ける。
そんないつもの朝。
聖杯戦争という「非日常」の中にある「日常」の一コマ。
どんなに状況が変わろうとも揺らぐ事のない、これからも続いてほしいとさえ思う、いつもの光景。
「それじゃあ、お先に失礼しますね先輩」
今日は一成から頼まれた生徒会の用事もないので、朝練に向かう桜を見送る事になっている。
今朝は桜の調子もよさそうだけど、あまり無理はしてほしくないので、朝練は適当に流しておくように伝えた。なに、美綴が何か言ってきたら、俺に貸しと言う事にしておけばいいことだ。
「あはは、それなら主将も喜びます」
そう笑って出ていこうと桜が振り返った途端、盛大な音を立てて玄関扉にぶつかった。
「桜!だだ大丈夫か!?鼻血とか出てないか!?」
「……はい…らいじょうぶ…です……。せんひゃいにはなぢなんて見られたらしんじゃいます………」
蹲って手で顔を覆っている桜に駆け寄ると、痛みと恥ずかしさで顔が真っ赤になっている。
「今の…いきなり倒れたように見えたけど、調子が悪いんなら休んだっていいんだぞ?」
「いえ、大丈夫です先輩。私は元気です。今のは不注意というか……その、恥ずかしいです…」
どうやら鼻血は出ていないようだけど、やはり桜は何かがおかしい。体が、というよりも心が疲れているのだろうか。
元々桜は土日は用事があって来られないと言っていた。その土日の内に何かがあったに違いない。となると、その原因は……。
「それじゃあ、改めてお先に失礼しますね先輩。藤村先生には、今朝も先輩のご飯は美味しかったってお伝えします」
そう微笑んで登校する桜を見送る。
桜が不調な原因。それはきっと慎二が関わっているに違いない。
慎二にしてみれば、言いがかりも甚だしい上に、部外者が家庭の事情に土足で踏み込むようなものだからいい気分になるわけがない。
だけど、桜は俺の大事な後輩だ。
それを兄貴だからと言って、好きにしていいはずがない。
家庭の事情があるからと言って、見過ごしていい理由になんてなりはしない。
言いがかりでも何でもいい、慎二とは喧嘩してでも、桜の不調の原因を問い詰めてやらなければ。
「シロウ、今日は学校に行くのですか?」
後ろから様子を見ていたセイバーが問いただしてきた。
「ああ、欠席なんかしたら藤ねえや桜が不審がるし、家に籠ってたら外の様子もわからない。学校なら大勢の人の目もあるし、それに昨日、学校は概ね安全だって言ってたじゃないか」
それならセイバーも一緒に行くと言い出したもんだから困ったものだ。
なによりセイバーは目立ちすぎる。セイバーを連れて歩いた日には、俺がマスターだというのがバレバレだ。
「シロウ、それは昨日の話です。今日も安全とは限りません」
「そんな事言いだしたら、何処へも行けないだろ?セイバーだって魔力を温存しなきゃいけないんだ、少しは休んでいてくれ」
そう、普段はマスターからサーヴァントへは魔力が供給されるわけだけど、イレギュラーな召喚によるものか、俺達の場合はそれが出来ていない。
つまり、俺からセイバーに魔力が供給できていないのだ。
セイバー自身も魔力の保有はあるけど、実体化は魔力の消耗が多いので、サーヴァントは普段霊体化して魔力の消費を抑えているのだが、セイバーは霊体化が出来ない。
加えて、戦闘次第ではセイバーの魔力はすぐに尽きてしまうらしい。
という訳で、食事と睡眠で僅かばかりの魔力を補充して、消費を抑えるしかない。
「………分かりました。マスターがそう言うのなら………。ですが、緊急を要すると判断した時は令呪を使ってください。それと、日が沈みきる前には帰るようにしてください」
セイバーは俺の意見を不承不承受け入れてくれた。
令呪を使えば、セイバーは学校まで瞬時に移動できるという。
日が沈みきる前には帰宅する。緊急時にはセイバーを呼ぶ。そう約束して、俺は学校に登校した。
まるでそこにあってはいけない物を見た。そんな表情だった。
教室の前で遠坂と目が合ったので「よっ」と手を挙げて軽く挨拶したらこれだ。
人をお化けか何かのような目で見るなよ……。
そんな遠坂は、プイっと顔を背けて、スタスタと機嫌悪げに自分の教室に入って行ってしまった。
……なんだったんだろう、今のリアクションは……。
昼休み、俺はいつものように一成と生徒会室で弁当を広げて昼食を摂っていた。
慎二はというと、今日は無断欠席をして、桜について問いただすことが出来なかった。
「なあ一成、なんか今朝から元気ないけどどうしたんだ?」
一成は今朝からなんだか浮かない顔をしていて、俺としては友人の元気がないのに、それを無視してメシなんて食っていられない。
「……そうさな、いずれ分かる事だしな……」
そう言って一成は事情を語り出した。
一成と葛木先生は仲が良いというか、生徒会長と生徒会顧問という関係以上のものがあった。
葛木先生は一成の家、つまり柳洞寺に下宿し、生活を共にしていて、一成自身も実の兄のように慕っていた。
その葛木先生が、近々結婚する婚約者共々昨夜から行方不明になっているのだとか。
そう言われてみれば、昼前には他の先生たちも何やら落ち着かない様子だった。
最近は何かと事件が頻発していて、警察も中々動けない状態ではあるけど、一応警察には届け出は出してあるという。
元々フラッとやって来た人なのだから、去る時も案外こういうものなのだろうな。と、一成は寂しげに呟いた。
それでも、無事でいてくれればいいと願わずにはいられなかった。
一応、何事もなく一日が終了した。
放課後の教室には、数人の生徒しか残っていなかった。
これと言って用は無いから、セイバーとの約束通り日が沈む前に帰らなくてはいけないのだけど…。
「……時間はある、軽く校舎を回って、何もなければ帰ればいいか…」
というのも、今朝から妙な違和感があったからだ。
なんとなく甘ったるい匂いはしていたけど、今朝になってそれは一段と強くなっていた。
意識を集中して周囲の様子を探る。
マスターになって魔術回路が開きやすくなったのか、背骨に浮き上がりかけた回路が微小な悪寒を検知している。
セイバーが傍にいないのは不安だが、俺一人が何気なく巡回するのだから、そう危険はないはずだ。
日が暮れて、放課後の教室は茜色に染まっていた。
怪しまれないように校舎を見回ってみたけど、これと言った異状は見つけ出せなかった。
「俺一人じゃ無理か…。夜になったらセイバーと一緒に……」
鞄を手に教室を出て階段に差し掛かった俺は、カタン、という頭上からの物音で独り言を中断した。
そこには、夕日を背に、四階へと続く踊り場で仁王立ちしている遠坂の姿があった。
「あれ?遠坂、まだ残ってたのか?」
返事は無い。
今朝といい今といい、あいつの目つきはきつくなっているような……。
「……………はあ………」
何が言いたいのか、遠坂は呆れたふうに溜息をこぼした。
「呆れた。サーヴァントを連れずに学校に来るなんて、あなた正気?」
そう、感情のない声で呟く。
「仕方ないだろ。セイバーは霊体化できないんだから、学校に連れてくるわけにはいかないじゃないか」
「それなら学校なんて休みなさい。マスターがサーヴァントも連れずにのこのこ歩いてるなんて、「殺してください」って言ってるようなものよ」
遠坂はますます目つきを鋭くして……
「衛宮君、自分がどれくらいお馬鹿か分かってる?」
「お馬鹿って……。マスターは人目のある所じゃ戦わないんだろ。なら学校なんて問題外じゃないか」
「………ふぅん、じゃあ聞くけど、ここは人目のあるところかしら?」
何言ってるんだ、人目があるかなんて、そんなの確かめるまでも……
なぜだろう。
さっきまで部活動をしていた生徒が何人もいたのに、周りには誰もいなかった。
夕暮れの校舎はシンと静まり返っている。
こうなっては、この三階どころか、二階も四階も人がいないのではないだろうか。
「ようやく分かったみたいね。ホント、朝は呆れたのを通り越して頭にきたわ。あれだけ教えてあげたのに、どうして自分からやられに来るのかって」
遠坂は左裾をまくり上げながら言う。
その白く細い腕には、燐光を帯びた刺青のようなものが浮かび上がっていた。
「………魔術刻印………」
魔術師の証とされ、俺は持っていないモノ。
「そう。これが私の家に伝わる魔術の結晶よ。ここに刻まれた魔術なら、私は魔力を通すだけで発動させる事が出来る。」
それは、魔術師が代々積み重ねてきた成果の産物。
魔術師本人の魔術回路とは別の、もう一つの発動機。
複雑な手順も詠唱も必要なく、ただ回すだけで魔術を発動させる。
「アーチャーは帰らせたわ。あなたぐらい、ここに刻まれた“ガンド撃ち”だけで十分だもの」
抑揚のない声で言い捨てる。
「ガンド……。北欧の地味な呪いだろ?」
「そうね、地味ーな呪いよ」
獲物はお前だ。と宣言するかのように、俺に向けて指を差す。
「待て遠坂、お前正気か!?ここ学校だぞ!下手に騒げば誰がやってくるかわかったもんじゃ!」
「その時はその時よ。私ね、目の前のチャンスは逃さない主義なの。衛宮君には悪いけど、ここで片付けさせてもらうわ。…それに、今日みたいにフラフラされてたら、私の神経が持ちそうにないし……」
「だから待てって!大体俺は遠坂と戦うつもりなんて!」
「あなたにはなくても、私にはあるの!いいから覚悟なさい!士郎!」
八つ当たりのような宣戦布告をして、遠坂の指先から弾丸のように黒い塊が放たれる。
アレは当たったらマズイ!そう判断し、咄嗟に教室が並ぶ側に飛んで避けた。
振り返ると、俺がいた場所の床は、下地のコンクリートが見えるほどに抉れている。
「!…これがガンド…。俺が知ってるのとは違う……。殺す気か遠坂!」
「だから!そうだって言ったでしょ!」
死角に逃げた俺を追うべく、遠坂が階段を飛び降りる。ここは三十六計逃げるに如かずだ。
本当なら教室側にではなく、階段をそのまま駆け下りれば良かったんだろうけど、そこへ行ってはいけない、逃げるなら校舎の反対側の階段からだと直感した。そこなら遠坂が何かの罠を張っているという見込みも薄いだろうと。
「そこ!動くな!」
警告しながら、俺の背後からガンドを連射し、何発かが俺の腕や足をかすめる。
動くなと言われて素直に止まる奴なんて、古今東西聞いたことが無い。というか、こんなの当たったらただで済むわけがない。
「痛いのが嫌なら止まりなさい!そしたらすぐ楽にしてあげるから!当たり所が悪いと死ぬわよ!」
さらに連射、いや乱射した黒い弾丸が襲い掛かるも、辿り着いた反対側の階段から飛び降りることで回避に成功したが、獲物を見失った弾丸は、壁を大きく抉った。
「殺意以外感じない音だぞ!」
「うるさい!ならちょこまか逃げるな!標的が逃げ回るから、つい熱が入るんじゃない!」
頭に血を上らせた遠坂が、階段を
一発、制服の上着をかすめた。避けた勢いでバランスを崩し倒れる。
外れた弾丸が巻き起こした土煙の中、遠坂が二階の廊下に着地したのが見えた。
「やっば…」
咄嗟に教室に逃げ込み、扉を閉めて開けられないようにした。反対側の扉も、同じく開けられないようにする。
ガタガタと扉を開けようとする音が聞こえる。その様子を見ながら俺は息を整えつつ思案する。このままでは袋の鼠だ。
ふと、扉を開けようとする音が止んだ。あいつは何か仕掛けてくるつもりだ…!
「
廊下から詠唱が聞こえ、教室の壁には赤い燐光を湛えた魔法陣が浮かび上がり、その光は壁伝いに教室に広がってゆく。
何か良くない予感がし、窓をぶち破って外に逃げようとしたが、直前に赤い光は壁となって逃亡を阻止してくる。
「!あいつ…結界を…」
判断が遅れた。
魔術師として遠坂は格上。それをどうにかできないかと考えていた時点で、俺は自ら窮地に立ってしまっていたのだ。
くそっ!あの夜もそうだった。一目散に逃げればよかったものを、どうにかできるなんて僅かでも思うだなんて!
でも、今は嘆いていても仕方がない。相手は本気で俺を殺しに来ている。ただ閉じ込めるだけで終わるはずがない。次の攻撃に備え、まずは守りを固め機会を窺うしかない。
「
詠唱が聞こえる。
「
今俺に出来ることは、教室の机を強化して盾とし、これで遠坂の攻撃をしのぐ。
成功の感触があった。だが、快哉を叫ぶ間も無く、壁の魔法陣から横殴りの雨のように弾丸が押し寄せる。
一発一発が重く、しかし窓ガラスが割れる音がしない。恐らく結界の中だけ破壊する弾丸なのだろう。滅多打ちにされた机はヒビが入り始め、唯一の守りが失われようとしていた。
しかし、弾丸の雨はそこで止んだ。
辺りには机や椅子の残骸のみ。俺の盾となっていた机は、天板が
「……魔力切れ……か…?」
あれだけガンドを乱射しまくって、教室一個分の結界を張っての攻撃。遠坂の魔力が尽きていてもおかしくは無い。
だが、これで終わりだとは思わない。
遠坂なら、次の手を打ってくるはずだ。
ならば、手ぶらでは覚束無い。何か武器になるものがあればと、残骸だらけの教室を見回すと、手頃な長さの机の脚があった。これを強化して武器にする。
結果として強化は成功した。
どうも、先日といい今日といい、危険な局面であれば成功する可能性が高いようだ。
そして、次の攻撃に身構えた途端、窓ガラスを打ち破って、一個の宝石が投げ込まれる。
あれだけの弾丸を撃ち散らした後に放り込まれる物体。以前映画か何かで見たことがある光景に酷似している。それと全く同じとするなら、アレは爆発して結界内の物体を破壊しつくすものだ!
爆発の寸前、俺は扉を打ち破って廊下に出る。
「ふん、ようやく出てきたわね衛宮君」
狙い通り、とほくそ笑む遠坂が待ち受けていた。
危機一髪の状況から脱し、心臓がバクバク言っているが、息を整えつつも即席の剣を構える。
「そのへんてこな武器を捨てなさいよ。衛宮君に勝ちなんてないでしょ?」
「そんなの、やってみなくちゃ分からないだろ」
「ふぅん……。これが最後の忠告よ。大人しく武器を捨てて令呪を出しなさい。最悪腕の神経を剥がすことになるけど、命を取られるよりはいいでしょ」
「ダメだ!令呪は渡せない!それは、俺にセイバーを裏切れって言ってるのと変わりない」
「そう…なら、三秒あげるわ。自分の命だもの、自分で選びなさい」
遠坂も左手で指差し、狙いをつける。指先に魔力が集中するしているのが見える。
だが、こちらとしても令呪を渡すわけにはいかない。
「三秒…衛宮君、返事は?」
「コラお前ら!こんなとこで何やってんだ!」
遠坂の後ろから叱責の声が聞こえる。その人物は……
「あーあ、教室をこんなにぶっ壊して、学校で魔術戦なんて何考えてんだよ。後始末大変なんだぞ」
滅茶苦茶になった教室を覗き込んで、溜息をつきながらそう言うのは、桜の担任の朝比奈先生だ。
って、なんで先生がここに?というか、なんでこの状況を魔術によるものと分かったのか。いや、それよりも……その手に持っているものは何だ?女性物の下着?それも上下。
あまりにイレギュラーな人物の登場に、遠坂はポカンと口を開けているが、ハッと何かを思い出したように自分の胸元とスカートの上から何かを探すような仕草をし、その顔はみるみる真っ青になっていき………
「きゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!!!!!!!!」
いきなり悲鳴を上げて、スカートと胸元を押さえて座り込んだ。
ま、まさか、それって遠坂の……。
「んで、これはどっちの……って聞くまでもないか。衛宮じゃここまで出来るわけないだろうから、お前の仕業だな?遠坂」
そう言って遠坂に下着を返す先生。
「ななななななな、なんでアンタがこんなとこにいるのよ!この変態教師!」
気が動転して、完全に地が出ている学園一の優等生は、涙目になり耳まで真っ赤にして、引っ手繰るように下着を取り返す。
「なんでって、音やらなんやら、物理的なものは結界で遮断してたようだけど、結界そのものを構築する魔力を行使してりゃ気付かないわけないだろ?人除けの結界を再構築してたから出遅れちまったけどな」
しれっとした顔で言うが、それはつまり……
「そう……もう一人のマスターは、朝比奈先生……貴方だったのね……」
魔力の行使なんて、
それが出来るのは、先生が魔術師であると言う事に他ならない。
「残念ながら、それはハズレだ遠坂。俺は魔術師ではあるが、お前が言いたい妙な結界を敷設している「もう一人のマスター」ではないし、そもそも俺は今回の聖杯戦争に参加している魔術師でもない」
仮にマスターだとしたら、痴話喧嘩に乗じて二人共始末する。
下着じゃなくて、心臓を
マスター同士の闘いを、痴情の
「…まさか朝比奈って、
にやりと口角を上げ、無言で遠坂の推測を肯定した先生だが、次の句を繋げる前に事態は急転した。
茜色に染まった廊下は、瞬時にして血のように真っ赤に染まり、あの甘ったるい匂いが不快感と共に嗅覚に纏わりついてきた。
それに加え、体から力が一気に抜けていく。
「なんだ…これ……」
「衛宮君しっかり!魔力を体に巡らせなさい。魔術師の力なら、結界の支配に抵抗できるわ」
目を瞑って深呼吸をすると、いくらか体に力が戻ってきた。
「ちっ、どいつもこいつも…。神秘の隠匿を何だと思ってやがんだ…」
舌打ちしながら忌々し気に睨みつけた先生の視線の先には、空に浮かんだ大きな目玉がある。
「遠坂、衛宮、サーヴァントを呼べ!これはサーヴァントの仕業だ!」
「………ダメ、
「ま、待ってくれ!これは一体何なんだ!?」
状況が分かっている二人は話を進めているが、俺には全くこの状況が何を引き起こしているのかが分からなかった。
「この学校にいる「もう一人のマスター」がサーヴァントに結界を張らせたのよ。中にいる人間をドロドロに溶かして吸収しようなんてえげつない代物のね」
「それって!」
「狙いはうちの学校の生徒たち。その霊魂をサーヴァントに喰わせようって算段だろうよ」
「しかも手の込んだことに、マスターとサーヴァントを分断するぐらい、内と外を遮断する結界ようね。令呪を使わないと繋がらないわ」
それは一大事だ!なんて呑気なことを言っている場合じゃない。早くそのマスターを見つけて、結界を止めるように言わなくては…!
「結界の基点は……こっちだ!」
甘い匂いの出どころを感覚として理解し、俺は一気に駆けた。
「ちょっと!衛宮君!?ああ、もう!」
もどかし気に下着を穿き直す遠坂を置いて、
「待て衛宮!生身でサーヴァントとやり合うつもりか!?」
制止する朝比奈先生の声を背にして。
確信はあった。
走る度に甘い匂いがどんどん強くなってくる。
その場所は、一見何もないが結界の中心がある。
それは、学校裏の雑木林の中だ!
「驚いた…貴方には、この基点が分かるのですか?」
雑木林の陰から女性の声が聞こえて振り返る。
「ここは念入りに隠しておいたというのに、こうも容易く見つけ出してしまうとは……」
妖艶な雰囲気を纏ったその女性は、背が高く、目をゴーグルのような物で覆い、踝まで伸びた長い紫色の髪をたなびかせていた。
「ふふ…それではご褒美として……」
その姿は、まるで闇を練りこめたかのように黒い。
「貴方は優しく殺してあげましょう」
という訳で、ようやくライダーさん登場です。
次回は、ワカメフルボッコです。