Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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お待たせしました。
今回は、ワカメ追い打ちフルボッコです。
それではどうぞ。


#018 interlude~粛正~

 古い家系に生まれ育った少年は、邸宅の一角にある書庫で一冊の本と出遭った。

 

 それは「マキリ」という魔法使いの物語。

 

 「すべての悪の廃絶」を志し、あらゆる奇跡を成し遂げる秘宝を創造した、三人の魔法使いの一人。

 全ての始まりと終わり、そして全てがあるとされる外の世界への地図を追い求める冒険者。

 

 少年は、その魔法使いが織り成す世界に魅了された。

 そしてその世界も、少年の心を掴んで離さなかった。

 心躍らせるその世界に、いつしか少年は自らの身を投影させ、自身もまたその魔法使いと共に世界を巡る冒険者である事を夢想した。

 

 しかし、その本を読み進めていくうちに、少年はある事に気付いた。

 この魔法使いの物語は、人々を苦しめる悪者をやっつける正義の魔法使いの物語でもなく、未知の秘宝を追い求める冒険者の物語でもなく、それどころか、あらゆる空想を紡いだ物語ですらなかった。

 

 それは現実に存在した物語、()()()()()()()()()()()物語だった。

 

 幼かった少年は、嬉々として父に問うた。

 これは我が家の先祖が記したものなのか?

 即ち、それは我が家の事なのか?

 一生懸命勉強すれば、自分もこの魔法使いのように、魔法を使えるようになるのか?

 少年の父は、それが先祖の記したものであると肯定しながらも、()()()()()()()()()()()()()

 

「慎二、間桐の家(わたしたち)は古い力を失って、()()()()()()()()()。今の間桐には魔術は扱えない。お前は魔術師には()()()()()()()

 

 その少年、間桐慎二には父がなぜそんな事を言うのかが理解できず、ただ父の発した言葉に呆然とするだけだった。

 

「お前は運がいいんだ慎二。魔術など使う必要はない。そんな本の事は忘れて真っ当な人間として生きなさい」

 

 そう言い放ち、背を向ける父の言葉を反芻するも、慎二の心中には異なる思いが浮かび上がっていた。

 先祖が記した物語、それは整備された安全な道とは異なり、草木が生い茂り獣が闊歩する危険な道にも似ていた。

 だからこそ、父は()()()()()()()()()()()と断じたのだろう。だからこそ、自分がその道を歩くに足ると成長するまで触れさせないようにしたのだろう。

 親の心子知らず。同年代の子供たちに比べて聡い彼は、父の言いつけには従いつつも、それは()()()()()()()と理解して雌伏した。

 

 それから数年の時が流れた。

 遊学先から帰省すると、居間にいた父が出迎えてくれたが、その様子がおかしい。

 頬はこけ、眼窩はくぼみ、自分がいない間に何年も老け込んだような印象があった。まるで別人のように変わり果てた父の手は痙攣していて、周囲に転がる夥しい酒瓶の数から、アルコールの過剰摂取によるものと窺い知れた。

 そして、父の右手は()()()()()()()

 

「ああ、これか……。ちょっとな……まあ、お前には関係のない話だ。勲章みたいなもの………かもな」

 

「勲章……」

 

 自嘲するような薄笑いを浮かべながら語る父を見て、慎二は心中で確信した。自分がいない間に父と祖父が何をしていたのか、それを知っていた。

 

 それは、命を懸けた大魔術の儀式。

 この世界の外にある世界に至らんとする、数多の魔術師達の目標。

 あの日以来、父の言いつけを表向き唯諾(いだく)してはいたものの、父の目を盗んでは、書庫にある本を読み、その知識だけを得ていた。

 

 やっぱりお父さんは魔術師だったんだ。

 魔術の名門、間桐の血族が滅ぶなんて嘘だ。

 たとえ魔術回路が無くなったって、その血は僕にも受け継がれているんだ。

 そう、勉強だってスポーツだって、僕は人より上手く出来るんだ。

 間桐の家に子供は僕一人。だから僕はこの家を継ぐことになるんだ。

 お父さんは忘れろって言っていたけど、一生懸命やれば、僕も魔術師になれるんだ。

 間桐の魔術師になれるんだ。

 そう、()()()()()()()()()()()

 

 子供心に慎二はそう確信して、そして一片の疑念も抱かなかった。

 

 だと言うのに……………。

 

 当所(あてど)なく走る自分がいる。

 

 敗走。

 

 潰走。

 

 凡そ敗残者の惨めさを現す、選ばれた人間である自分には、最も縁遠いと思われた姿が今の自分だった。

 

 それでも慎二は走り続けた。

 突きつけられた現実を振り払うかのように。

 理不尽に降りかかった屈辱を振り払うかのように。

 

 行き交う人々にぶつかりながら、その背に浴びせられる酔漢の罵声が、惨めな敗残者である自分に浴びせられる嘲笑にも聞こえた。

 

 居酒屋の看板に躓き転んだ。

 立ち上がり、その看板に苛立ちと憤懣を籠めて蹴りつけるも、気持ちは一向に晴れる事は無い。

 それどころか、その行為を奇異の目で見る周囲の目が、自分を憐れんでいるかのようにも見えた。

 

 そんな目で僕を見るな!

 

 苛立ちの目を周囲に向けると、関わり合いになりたくないと言った体で、人々が目を背ける。

 ただのその日を安穏と生きるだけしか能のないお前らが、僕を憐れむな!

 心の底からそう叫ぼうとしたが、僅かばかりの理性がそれを押しとどめたが、その理性すらも癪に障った。

 

「なんで……なんでこんな事になったんだ………!」

 

 妹が聖杯戦争で闘う事を拒絶した時は、内心快哉を叫んだ。

 妹に代わり、自身が聖杯戦争に参加して聖杯を手に入れれば、我こそは名門たる間桐の正統後継者であると声高に叫ぶことが出来るのだ。

 間桐の後継者は自分であって、決して()()()()()()妹なんかじゃない。

 そう、あの妹が自分の前に現れてから、全ては狂い始めたのだ。

 

 十一年前、彼は一人の少女に引き合わされた。

 その少女は桜という名で、今日から自分の妹だと父に知らされた。

 なぜ()()()がこの家に来たのか、父や祖父の思惑は杳として知れなかった。

 ただ、古くからの盟友である魔術師から貰い受けた養子であることから、この少女はその家にとって()()()()()だったのだと、哀れにさえ思った。

 だからこそ、多少の意地悪はしたものの、本当の妹のように面倒を見てやろうとも思ったし、可愛がりもした。

 そして、自分なりに愛そうとさえも思った。

 

 それから数年の時が経ち、この家に今まで自分が知らない地下室があると言う事を偶然知った。

 訝しみつつ進んだ先、僅かばかり開いた扉の向こうを覗き見ると………

 

 その地下室には無数の何かが蠢き、その中心には全裸の妹が壊れた人形のように、空虚な目で何かに嬲られ続けられている酸鼻な光景があった。

 

「慎二、なぜおまえがここにいる」

 

 背後に父が冷たい目をして立っていた。

 

「父さん……これは………」

 

「ああ……ここは間桐の魔術を習得するための蟲蔵だ。譲り受けたあの娘を、間桐の()()()()に相応しい器として仕立て上げるためのな」

 

 今まで積み上げてきた何かが、足元から崩れ落ちる様な感覚に襲われた。

 桜が…間桐の……次期当主………?

 なんで…?

 僕は、間桐の後継者じゃなかったのか?

 なんで……?

 僕じゃなく、桜なんだ?

 

「以前お前には言ったな。もう間桐の血筋からは魔術回路が失われたと。ただの人間になった今の間桐には、魔術は扱えないと。そして、お前は魔術師には決してなれないと」

 

 幼い日に告げられた父の言葉。

 それは自分が長じるまで、一時的に遠ざける為の言葉ではなく、唯一の通牒だったのだ。

 

 それ以降、父と祖父からの扱われ方はあからさまだった。

 魔術の家系にとって、持たざる者に一切の意義は無い。彼らにとって間桐慎二という存在は、空気と同義或いはそれ以下である事が明らかになったのだ。

 更に、哀れな存在と認識していたはずの桜が、その実、自分が持っていない物を全て持っていて、自分に哀れな目を向けていた。

 

 そう感じた。

 多感な時期の根拠のない被害妄想と一笑に付すこともできたであろう。

 だが、それを教え正してくれる大人は、彼の周りにはいなかった。

 

 今まで抱いてきた自身の理想の姿と、現実の自分の姿が大きく乖離し、その差分は彼の性格を大きく歪め、それは怒りとなり、怨嗟となり、嫉妬となり、暴力となって桜に向けられた。

 しかし、どれだけ甚振(いたぶ)ろうとも、(なじ)ろうとも、凌辱しようとも、桜はただ耐え続けた。ただ謝り続けた。

 だがそれすらも、慎二には自分に向けられた哀れみに思えた。

 

 何も持たずに生まれ、叶わぬ理想に舞い上がり、我こそは間桐の後継と息巻いていた哀れな道化。

 いっその事、そんな哀れな道化など無視してくれれば、どれほど救われたことか……。

 

 劣等感によって育まれ、歪みに歪みきったその性格は度し難いものだった。

 だが、聖杯さえ手に入れてしまえば、等しく栄光も手に入れられると信じていた。

 本来自分が持つべきものが、全て掌中に収まると信じて疑わなかった。

 その時は、()()()()を以前のように可愛がってやろうとさえ考えてさえいた。

 望むなら、衛宮にくれてやったっていいとさえ思っていた。

 それぐらいの慈悲は、持ち合わせるだけの度量はあるとさえ思っていた。

 だからこそ、サーヴァントを従え、その力を目の当たりにした時は、これが本来の自分のあるべき姿と有頂天になっていた。

 かつて夢想した、マキリの物語の中に自身を投影した時のように、自分も物語に紡がれるべき魔術師になれるとさえ思っていた。

 

 しかし突き付けられた現実は、やはり彼の思惑とは大いに乖離していた。

 サーヴァントは成す術なく倒され、偽臣の書は失われ、祖父である間桐臓硯には、魔術師として無能惰弱の烙印を押された今、もはや慎二には間桐の家に戻るべき場所は無かった。

 

 だから当所なく彷徨った。

 自分たちが暮らすこの街の裏側で、何が行われているのかも知らずに馬鹿面を下げてヘラヘラ笑っている連中。

 そんな連中を見下していると、過剰なまでの自尊心が幾許か保たれる気がしていた。

 そう、どいつもこいつも………

 

 ここへきて違和感を覚えた。

 ここは新都の繁華街。

 いかに最近ガス漏れ事故を始めとする、事件や事故が頻発しているからと言って、人ひとりいないと言うのはおかしい。

 周囲の店は何処もシャッターが上がっていて、看板の電飾が煌々と輝いているのがその証拠だ。

 だと言うのに、その店を利用した客も、呼び込みの店員も、まるで神隠しにでもあったかのように姿を見せない。

 

 不意にどこかからクスクスと笑う女の声が聞こえる。

 それは、周りのビルに響くように、しかし耳元で囁くような笑いで、それは安堵をもたらすものではなく、慎二の恐怖心を掻き立てるものだった。

 人の姿を求め、不気味な笑い声から逃げるように一心不乱に走るが、どこへ行こうとも人の姿は無く、女の笑い声は、尚もビルの合間に、慎二の聴覚に響いている。

 やがて慎二は袋小路に追いつめられる格好となった。

 

「な、なんだよこれ…」

 

 周囲を見渡すも、慎二の疑問に応える者はいなかったが、やがてコツンと硬い音が背後で鳴ったかと思うと、足元には影が伸びていた。

 怯えながら振り向くと、そこには一人の人物が立っていた。

 

「お主が間桐慎二だな?」

 

 そう問いかけるその人物は、紫紺の小袴に白い狩衣を纏い、その下は朱色の(ひとえ)を着込み、頭には立烏帽子という、まるで絵巻物からそのまま出てきたような姿をしていた。

 その面貌は狐の面を被っているために窺い知る事は出来ない。

 魔術書での知識しかない慎二には知る由もないが、その人物こそ白狐(しろぎつね)その人である。

 

「な、なんだよお前……僕になんか用でもあるのかよ……」

 

 歯の根が合わず、膝が震える。

 慎二は見るも無様に恐怖していた。

 

「私は白狐と言う魔術師よ。穂群原学園に妙な結界を張ったのはお主だな?」

 

「そ、それが何だっていうんだ!アレはライダーが、サーヴァントが勝手に!」

 

「それでもお主がそのマスターであろ?従者の責は、主君に帰すものとは思わんのかね?それでもと言うのなら、ささ、早うお主のサーヴァントを此処に引き出すがよい」

 

「知るかそんなもの!あんな役立たず、とっくにやられちまったよ!」

 

「やれやれ、何という物言いよ。お主のような主君に仕えるサーヴァントが哀れでならぬわ」

 

 慎二の耳にも聞こえるような大きなため息をつきながら、白狐は静かに歩み寄る。

 

「魔術師の第一義は神秘の秘匿。その一言に尽きる。名門マキリの後継であれば、知らぬ筈は無かろう?穂群原学園における、お主とお主のサーヴァントの所業は、その掟に抵触しておる。故に「魔術師」間桐慎二、お主に誅を下す為に推参した」

 

 一言一言を言い含めるように言いながら、ゆっくりと短刀を抜き放つ。

 

「ま、待てよ!僕は、その、そう、あれだ、魔術師なんかじゃない!僕は魔術回路も魔術刻印もない、ただの一般人だ!」

 

「ほう…マキリは零落したと聞き及ぶが、お主には最早魔術回路は無いと言う事か?」

 

 慎二は手を前に差し出して白狐を制しながら、彼の問いに大きく何度も首を縦に振って肯定する。

 

「成程、魔術師でなく一般人であれば、神秘の漏洩の罪を鳴らすことも出来まい。だが……一般人が魔術を知った以上、その口を封じねばなるまいな」

 

「ひぃっ!やめ、やめろよ!」

 

 慎二は力なく尻餅をつき、怯えながら後退るも、それはやがてビルの壁に阻まれる結果となる。

 

「そうそう、私は「心臓喰いの白狐」との異名を奉られておってな、その名の由来は、多くの魔術師を殺し、その心臓を食らっておるが故につけられたのだよ。さて、枯れたとはいえマキリの末裔の心臓の味はいかがなものであろうな?」

 

 クククと喉の奥で笑うその姿に、慎二の精神の糸は千切れる寸前の限界に達しようとしていた。

 そして白狐は慎二の髪を鷲掴みにして、無理矢理立たせ、その顔を近づける。

 

「そういえば、死霊魔術(ネクロマンシー)の使い手が知己におってな、アレが良い素材が無いかと尋ねてきておったわ。マキリの末裔ならば、魔術回路の痕跡ぐらいはあろうから、なかなかに良い素材になり得るやも知れぬな」

 

「やめ…助けて……」

 

「残念だが、早晩お主は魔術協会の手によって粛清されるであろうよ。魔術師であれば神秘の漏洩の罪、一般人であれば口封じとしてな。ならば、無為に殺されるぐらいなら、有効に活用してやろうというのが情けというものよ」

 

「ふ、ふざけんな!誰が、誰がお前なんかに!」

 

「これが、お主が羨望して踏み込もうとした魔術師の世界よ。まったく、令呪の破棄と不戦の誓いだけで見逃すとは、遠坂の小娘も甘い。アレでは始まりの御三家の一角として、鼎の軽重が問われるという物だ」

 

 白狐が短刀を慎二の頬にあてがい軽く引くと、一筋の血が慎二の頬から流れた。

 

「ひぃぃぃぃぃっ!!こ、殺される!誰か!誰か助けてくれぇっ!!!」

 

「人除けの結界を張ってあるからな、誰もお主を助けになど来ぬ。生きたまま腑分けされようとも、誰も気付かぬよ」

 

 狐面の奥底に光る眼が、同じ高さに据えられた慎二に目を通して、心の内底を射抜く。

 

「よく聞け間桐慎二よ。魔術師とは、人知を超えた力を持つ化生の事よ。その力を使えば、諸人を殺める事など造作ない。だが、力を以て蹂躙しようとすれば、このように、己もまた更に強大な力によって蹂躙されるもの。殺す覚悟と共に、殺される覚悟も持つのが魔術師というもの。児戯の如く、羽虫を甚振るように人を傷つけるなど、魔術師の所業に非ず」

 

 滔々と魔術師の在り方を述べる白狐ではあるものの、それを聞く慎二の耳には半分も入ってはいない。

 唯々、目の前にいる魔術師に対する恐怖ばかりが先行し、精神の器は飽和寸前となり、緊張の糸は限界まで張りつめ、失禁さえしていた。

 

 何度も恐怖で気を失っていた慎二ではあるが、事ある毎に白狐の魔術によるショックで叩き起こされ、気を失い、また叩き起こされの繰り返しを強要され、それは最早拷問にも似ていたが、或いは、誰も魔術師の在り方を教えなかったが故に、偶然に手にした大きな力の使い方を誤り、結果として外道に成り果てようとしていた慎二を、()()()()()()しているのかもしれない。

 

 語るべきことは語りつくした白狐は、突き放つように慎二を開放した。

 

 地獄の責め苦から解放された慎二ではあるが、同時に緊張の糸が弛緩し、意識を失いかけていた。

 これが魔術師……。

 幼少の頃より羨望し、自らもそうなろうとしていた理想の姿は、今や恐怖を具現するだけの存在でしかなかった。

 

 なんで僕は、魔術師になんてなろうと思ったのだろう……。

 

 ふと、そんな思いが込み上げてきた。

 古い魔術師の家系だから?

 その子孫である、自分は選ばれた人間だから?

 

 何とも滑稽な話だ。

 父は言っていたじゃないか、力を失って、ただの人間になってしまったのだと。

 ただの人間が、どうやれば超常の力を持った魔術師になんてなれるっていうんだ……。

 

 僕は魔術師になんてなれないんだ……。

 

 幼い頃の夢は敗れはしたものの、なぜだかその心は落ち着いていて、何かから解放されたような気分でさえあることを実感していた。

 

「間桐慎二よ、お主は己を「選ばれた人間」と言っていたな。そう、お主は選ばれたのだ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()としてな。生まれつき化生であるこの身には、お主の在り様は羨望そのものよ」

 

 魔術師から見れば、ただの人間になった僕が羨ましいだなんて、なんとも皮肉な話だと、心中で独り言ちる。

 

「人として生き、人として死ぬがよい。お主の才覚は、常人(つねびと)の世でこそ大輪の花を咲かせよう」

 

 先程まで慎二を殺さんばかりの殺気を叩きつけていた白狐は、一転して暗中にある彼に、道を指し示す一筋の明かりのように言う。

 

魔術師(こちらがわ)に来るには、お主は人として純粋すぎる……」

 

 そう言って、振り返り立ち去ろうとする白狐の背中を見る。

 

 ああ、魔術師(あんなもの)もうまっぴらだ……。

 魔術師(あんなもの)になろうなんて思ったから……

 

 僕はこんなにも苦しかったんじゃないか。

 

 慎二の意識が薄れてゆく。

 だが、それはまるで安らかな眠りに就く感覚にも似ていた。

 こんな感覚、一体いつ以来だろうか?

 そんな事さえとうに忘れてしまっていた。

 

 意識が途切れる寸前、ふと慎二の心に一人の少女の事が浮かび上がった。

 

 魔術師の家に生まれたが故に、利用され、運命に翻弄されているあの少女が、とても不憫に思えてきた。

 だけど、自分にはあの少女を救う力も方法もない。

 僅かばかり思いを巡らせると、一人の少年の顔が思い浮かんだ。




タイトルは敢えて「粛正」としました。
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