Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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前回以降、お気に入り登録ありがとうございます!

今回は短いながらも、あまりお待たせする事無く投稿出来ました。

さて、今回のお話は拙作オリジナル展開への布石と言いましょうか、現在の本筋にはほとんど絡んできていない愉悦コンビ中心でお届けします。

それでは、今回もお付き合いください。


#036 interlude~昇格~

 中天に達した小望月(こもちづき)は、昼の陽光を反射し、星の影に覆われた暗闇に仄かな明かりを落としている。

 その明かりを背にして建つゴシック建築様式の教会は、宛ら降臨した御使いの如き威容を示しているかのようであった。

 

 礼拝堂の扉の前に立つ聖母像の脇を通り抜ける影が一つ。

 影は静かに礼拝堂の扉を開き、扉もまた影を迎え入れた。

 

 

 

 教会の最奥に在る薄暗い一室で、男が一人、思考に耽っていた。

 この教会にて祭祀を司る神父にして、聖杯戦争の監督役でもある言峰綺礼(ことみね きれい)その人である。

 

 彼は以前から、今回の聖杯戦争に奇妙な違和感を感じ取っていた。

 それは明確なものではなく、漠然とした何か。

 だがそれも、マスターの一人であり、冬木の管理者(セカンドオーナー)である遠坂凛(とおさか りん)から、昼過ぎにもたらされた情報により、事態はある程度得心が行くものとなっていた。

 

 それは間桐臓硯(まとう ぞうけん)の暗躍。

 とうに老衰したと思っていた臓硯が未だ現役だったと言う事は、彼にとっては意外の念を禁じえなかった。

 

 六代前の魔術師であり、際立った蟲使いであった臓硯は、本来間桐家の相談役のようなもので、それが表舞台に上がったとなれば、何らかの勝算あっての事。

 間桐のマスターは早々に脱落したが、それは“様子見の捨て石”程度だったのだろう。

 そうでなければ、魔術師の第一義である「神秘の隠匿」に配慮を怠る、いや、それすらも知らない()()()を主軸には据えまい。

 

 本命は臓硯、或いは………。

 

「やれやれ………あのご老人にも困ったものだ…………」

 

 嘆息しながら、現状を取りまとめた感想を口にする。

 実に簡素ではあるが、これ以上は情報が無い為、これ以上の感想が出よう筈もない。

 今の彼には、可能な限り現存するマスターたちと情報交換を行い、監督役として被害の拡大に備えるしか出来ない。

 

 目の前のチェスボードに視線を落とす。

 常のチェスピースとは異なり、七つの歩兵(ポーン)に、七種類のモニュメントのような(ピース)で構成されているそれは、七人のマスターと七騎のサーヴァントを模している。

 

 ()()横列(ランク)に整然と並べられている駒の中から、魔術師(キャスター)槍兵(ランサー)の駒を盤外に外す。

 次いで、騎兵(ライダー)の前に在る歩兵(ポーン)と、魔術師(キャスター)の前に在った歩兵(ポーン)暗殺者(アサシン)の前に在る歩兵(ポーン)の駒を同じく外す。

 

 テーブルの脇に置いてある小箱から、本来のチェスピースである僧正(ビショップ)の駒を敵陣側中央に置き、その数マス横に自陣側の騎兵(ライダー)暗殺者(アサシン)の駒を置いて、先程外した歩兵(ポーン)の駒一つをその前に置く。

 

 先程まで槍兵(ランサー)の駒の前に在った歩兵(ポーン)の駒を、自陣と敵陣の中ほどの隅に置き直し、新たに(キング)の駒をその隣に置く。

 

 最後に、剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)の駒を、右端に並べて置き直し、その前に在った歩兵(ポーン)の駒もそれぞれ置き直す。

 

 狂戦士(バーサーカー)とその前の歩兵(ポーン)は、盤の左側に置いたまま。

 

 最早チェスのルールからはかけ離れた状態の、今回の聖杯戦争の縮図が如き盤面を凝視し思考する。

 宛ら盤面の戦況を俯瞰するかのように置かれた歩兵(ポーン)(キング)の他に、三つの群れが出来上がる。

 

 即ち………

 剣士(セイバー)弓兵(アーチャー)、それぞれのマスターである衛宮士郎と遠坂凛。

 狂戦士(バーサーカー)とマスターのイリヤスフィール・フォン・アインツベルン。

 そして、暗殺者(アサシン)と間桐臓硯、騎兵(ライダー)と恐らくもう一人。

 

 現状二騎が脱落し、三つの陣営が出来上がっているこの状況、アインツベルン陣営の動きは定かではないが、彼らの性格上、衛宮、遠坂陣営と間桐陣営が、早々に衝突する事は必至。

 どちらが倒れるにしても、残って疲弊した一方を、アインツベルン陣営が漁夫の利を得る形で強襲すれば、これで聖杯戦争は決着を見るだろう。

 

 しかし…………

 

 小箱から取り出した白い城兵(ルーク)の駒を、盤の中央に置く。

 

 城兵(ルーク)の駒は、序盤ではあまり活躍の無い駒ではあるが、中盤及び終盤にその存在感を増してゆく駒であり、敵陣に一気呵成に攻め込み、孔を穿つ戦車の如く、また、敵歩兵(ポーン)昇格(プロモーション)を防ぐ最後の砦の如く用いられる場合が多い。

 

 現状においては僧正(ビショップ)、即ち間桐陣営に孔を穿ち蹂躙すると考えられるが、今はまだ、この駒が動く時でも動くべき時でもない。

 そして、王妃(クイーン)と共に単独で詰み(メイト)出来るとされるこの駒は、この盤面に在っては、基本的な縦横のみの動きをするとは思えない。

 

 むしろ、この城兵(ルーク)の駒に相当する人物の在り様を類推するに、戦況を俯瞰する歩兵(ポーン)(キング)の駒に、その矛先を向ける可能性は少なからずある。

 

 であれば…………

 

「別の駒で動きを封じるのだろう?」

 

 突如、横合いから投げかけられる言葉と共に、双方の間、城兵(ルーク)の動きを遮るように、歩兵(ポーン)の駒が一個置かれる。

 視線を上げたその先には、豪奢な黄金色の髪を湛えた赤い瞳の美丈夫(びじょうふ)が、薄笑みを浮かべている。

 

「この(オレ)に気付かぬとは、度し難い不敬ではあるが……まあいい、赦す。ところで綺礼、お前に客が来たようだ」

 

「客……だと?」

 

 このような時間に訪れる客など、脱落したマスターの一人が、監督役である自分に保護を求めに来たか、聖杯戦争に巻き込まれた一般人の救護を求めて、その場にいたマスターがやって来たぐらいしか考えられなかったが、美丈夫はその客が何者であるかは口にしなかった。

 そんな彼の態度を訝しみつつ、言峰綺礼は思考を中断して礼拝堂へと足を向けた。

 

 

 

 礼拝堂へ足を踏み入れると、祭壇の前には一つの影があり、その視線は上方に向け、祭壇の最奥に掲げられた十字架を見つめている。

 祭壇の上に在る明かり窓から差し込む仄かな月明かりが、彼の到着を待ちわびていたかのように、その影の輪郭を露わにした。

 

「こんな夜分に教会を訪れるとは、何か急用でもあるのかね?少年」

 

 祭壇の前に佇む影、いや少年に問う。

 

 ゆっくりと、祭壇の前の少年に向けて歩みを進める彼ではあるが、百九十センチを超す長躯から降ろされる視線は、見る者によっては得も言われぬ威圧感を感じ、同時に嫌悪感を伴わせるものではあるのだが、少年は恐れる訳でもなく、泰然自若として十字架から神父へと視線を移す。

 

「その制服……君は穂群原学園の生徒か……迷える者に救いの道を示すのが教会の役割だが…………このような時世だ。悪い事は言わん、学校からも夜間外出は禁じられているのだろう?今日のところは帰って、また明日出直してくると良い」

 

 かの学園で、魔術に関わりのある者は彼の知る限り三人。関りがあると思われる者は二人。合計で五人だが、目の前の少年はその中に含まれていない。

 であれば、聖杯戦争の監督役としてではなく、教会の神父として接するより他なく、彼としては可能な限り優しく、少年に帰宅を促した。

 

 ここでようやく少年は口を開き、夜分の来訪の目的を告げた。

 その声色は見た目通りの少年のそれであったが、声音は見た目とは異なる年嵩の落ち着きを纏っていた。

 

「…………馬鹿な…………」

 

 少年の語る言葉は、世迷い言と一蹴するには現状と符合し過ぎていた。

 故に彼は“監督役の職分”に於いて、目の前の少年を()()()()送ろうと、後ろ手に隠した得物に力を込めたが、少年の言が事実であるならば、それは()()()()()()現象である。

 目の前に起きた奇跡を前に、己の内なる本性が昂り、しかし粛清の実行を押し留めた。

 

 紛れもなく少年は少年の姿であり、そうと言われなければ、目の前に奇跡が顕現されている等と信じられる筈もない。

 しかしそれは、厳然とした揺ぎ無き事実。

 戸惑いと感情の昂りを鉄面皮の奥に仕舞いこみ、彼は少年の話に耳を傾ける。

 

「………()()が意思を持ったというのか………」

 

 我知らず呟く彼に、少年もまた口角を僅かに上げることで肯定した。

 

 

 

 教会の一室に在るソファに身を沈める男が一人。

 先程、神父に来客を告げた黄金色の髪の美丈夫である。

 

「………中々に興じさせるではないか………」

 

 彼は少年の本質を一目で看破していた。

 その上での感想を端的に口にする。

 

「案ずるな綺礼。この(オレ)ですら、よもや()()()()()が盤上に駒を置こうなどと、予想だにしなかったわ…………」

 

 この場に居ない、しかし今頃はその鉄面皮の奥で愕然としているであろう神父に、慰めの言葉を悦楽と共に与えつつ、その手に持つ王妃(クイーン)の駒を盤の中央、城兵(ルーク)の斜め横に置く。

 

 盤に置かれた王妃(クイーン)の駒は、その場からどの陣営も直撃できる位置に在る。

 無論、(キング)への道を、新たな歩兵(ポーン)で遮られた城兵(ルーク)も取る事の出来る位置である。

 

 そして彼は、一つの歩兵(ポーン)の駒を凝視する。

 

 この駒の存在を知らない者は「そこに何かが在るかもしれない」と考える。

 この駒の存在を知る者は「それが何のために在るのか」と考える。

 その駒の存在を識る者は「それが成ったら何が在るのか」と考える。

 

 その駒の存在価値を見抜いていた彼は、その歩兵(ポーン)の駒が、いつ、どのように昇格(プロモーション)するか注視してきた。

 否、むしろ盤上から自主的に降りるよう促すほど、()()()()()()()していた。

 

 城兵(ルーク)の駒に相当する人物も、遅かれ早かれ同じところに行き着くだろう、と彼は予想している。

 その時この駒は、昇格(プロモーション)の前に歩兵(ポーン)を取るか、或いは()()()()()()()()歩兵(ポーン)と刺し違えるか…………。

 

 詰まる所、誰も彼もが、この歩兵(ポーン)の駒の動向に注意を払う結果になるところが、宛ら()()()に置かれた歩兵(ポーン)が、誰にも認識されない内に昇格(プロモーション)して王妃(クイーン)の駒となったのだ。

 彼としては若干の不快はあるものの、それを上回る愉悦が、この盤上にその駒が在る事を許容した。

 

「然しもの(オレ)も、この先どうなるか予想もつかん…………だからこそ興が乗ると言うもの……………精々(オレ)を愉しませろよ?雑種………」

 

 酷薄な笑みを浮かべながら、彼は盤上の城兵(ルーク)の駒を指で弾き倒した。




FGOは四章の配信が開始されましたね。
やっぱりペペ姐さんは良いキャラですね。

拙作をお読みいただいている皆様は、四本目の空想樹は伐採済みでしょうか?
私は1.5部と並行しながら、ちまちま進めております。
ちなみに、先日「屍山血河舞台 下総国」をクリアしました。
残すは「セイレム」だけです。

さて、次回は……

・栞さんのお墓参り

・士郎がアレしてエライ事になる

以上の予定です。
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