Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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前回以降、新たなお気に入り登録ありがとうございます。

FGOでは、次回の水着イベの情報が出てきましたね。
配布鯖が北斎ちゃんですが、宝具が単体か全体かが気になるところです。
手持ちで戦力になる剣クラスが、ベディ以外全体宝具でしてね………(;'∀')

現時点で三騎の情報が出ていますが、続報に期待したいところです。
そして………
当方、林檎の聖杯に十分な魔力を既に供給してあります!(フンス

とは言え、物欲センサーがビンビンに働いてて、狙った星5が出ないですり抜けてばっかりなのですが………(-_-;)

さて、気づけば拙作も初投稿から間もなく一年を迎えようとしています。
改めて、お付き合いいただいている皆様には感謝申し上げます。

それでは今回もお付き合いください。


#038 Noble Phantasm in the present world.

 道場の窓から差し込む陽光が、針葉樹を原料とした無垢の床材に反射し、閉じた瞼を貫いて僅かな光を網膜に届けている。

 まだ暖まりきらない道場の空気はしんとして冷たく、それでいて身も心も引き締めているかのようだった。

 

 衛宮家の道場を間借りして、道場の中心で正座する俺の傍らには、丹塗(にぬ)りの鞘に納めたままの刀が一振り。

 精神を統一し、呼吸を整え、頃合いを計って刀を掴み立ち上がり、道着の帯に刃を上向きにして差す。

 

 鞘に添えた左手の親指で鯉口を切ると、僅かに顔を覗かせた金着せ(はばき)が陽光を反射する。

 徐に抜刀すると、反りの浅い刀身が銀光を湛えてその姿を露わにした。

 

 両手で柄を握り、正中線に沿うよう正眼に構える。

 切先の向こうには誰もいない。ただ虚空があるのみだ。

 

 

 

 時は小一時間程遡る。

 

「うぃーっす!衛宮ぁ!道場使わせてくれー!」

 

 昨日に続いて今日も衛宮の家を訪問した。

 

「先生……どうしたのさ、その格好………」

 

 道場破りも斯くやと言わんばかりの大音声で家主を呼ばわったが為に、家主の衛宮が文字通り飛んできて、道着を着込み、刀袋を背負った俺の出で立ちを見てあんぐりと口を開けている。

 

「ようやく折れた刀の代わりが届いたんでな、実戦で使う事になる前に感触を確かめておきたいんだ」

 

 今日の訪問は、衛宮の魔術の技量を確かめる為でもあるのだが、昨夜実家から届いた刀の感触を確かめておく為でもあった。

 

 自宅マンションでも出来なくはないのだが、室内では狭すぎるし、かと言ってベランダやマンションの屋上なんかで日本刀を振り回していたら、通報されること間違いなしだ。

 その点、衛宮の家の道場は好都合だ。こればかりは、切嗣の道楽に感謝しなければな。

 

「折れた刀って……ひょっとして槍兵(ランサー)とやり合った時に折られたヤツ?」

 

 衛宮が槍兵(ランサー)のサーヴァントに襲われた時、俺は仮の姿である“白狐”で助けに入った。

 あと一歩のところで槍兵(ランサー)を斃し得たのだが、不完全ながらも開帳した槍兵(ランサー)の宝具を刀で受け止めたが為に、刀が折れてしまったのだ。

 その時の衝撃で気を失い、危うく槍兵(ランサー)に止めを刺されそうになったところでセイバーが召喚され、その隙を見て駆け付けた栞に救助された。

 

「そうそう、いつ何時あんな戦闘をするか判らんから、今のうちに手に馴染ませておこうと思ってな」

 

「そっか、先生にはあの時助けられたからな。それぐらいお安い御用さ。ささ、上がってくれよ」

 

 衛宮たちは丁度朝食を済ませた後のお茶の時間だったらしく、まずは一杯御馳走になる事にした。

 間桐はどうやら朝食を済ませて、早々に入院中の兄貴を見舞いに新都の旭奈会(きょくないかい)病院に行ったようだ。

 

「あら?おはようございます先生。今日は早いんですね」

 

「おはようございます先生」

 

 通された居間では、遠坂とセイバーが寛いでいて、口々に挨拶をして、同じく挨拶を返す。

 セイバーはと言うと、昨日の続きを待ち望んでいたようで「では早速道場へ参りましょう」と誘うのだが、まあ待ちなさい。

 と言うか、今セイバーは俺の事を「先生」と呼んだな?まあ、実際に教師なのだから深くは追及しないが。

 

「先生、肩に担いだソレは、ひょっとして刀、と言う東洋の剣なのでしょうか?」

 

「おう、昨日ようやく実家から新しい刀が届いたんだ」

 

「へえ、先生の家みたいに歴史のある家だったら、すっごいお宝とか引っ張り出してきそうね」

 

「んー……コレもお宝と言えばお宝かもな。影打ちだが長曽祢興里(ながそねおきさと)の本物だぜ?何代か前の宗主が興里本人に作らせて、真打ちも影打ちも丸ごと言い値で買い取ったって話だ」

 

「いきなりビッグネームが来たわね………さすが朝比奈家………」

 

「長曽祢興里ってどこかで聞いたような………」

 

「どちらかと言うと“虎徹”の呼び名の方が有名だな」

 

「虎徹って、近藤勇の「今宵の虎徹は血に飢えている」のアレか?」

 

 “虎徹”は新撰組局長近藤勇の愛刀としても有名だが、実際にはとても高価な上に人気もあったので、贋作が多く出回っており、彼が手にしていたのは贋作であるとも、別の刀工の作とも言われている。

 

「そうなると、前の刀ってのも相当なお宝だったんじゃ………」

 

「前のは俺も気に入っててな「ささのつゆ」って裏銘なんだが、元々はかの石田三成の佩刀だったらしい」

 

「マジですか………」

 

 関ヶ原の戦いの後、伊吹山山中に於いて田中吉政率いる部隊に捕えられた石田三成が所持していた刀で、三成捕縛後に徳川家に渡り、徳川家から褒美として田中家に渡り、そして家来である田中(なにがし)に与えられたという。

 しかし、後年田中某の家は没落し、三成の佩刀だったこの刀には、三成の怨念が籠っていると言われ、()()()と称して当時の朝比奈家の手に渡った、と由来書には書かれていた。

 

「先生だったら、九字兼定(くじかねさだ)だっけ?九字が切られてるってヤツ。アレを持ち出すのかと思ったわ」

 

 二代和泉守兼定(いずみのかみかねさだ)は、通称「之定(ノサダ)」と呼ばれる美濃国(みののくに)関(現在の岐阜県関市)の刀工で、俺の持つ長曽祢興里と同じく「最上大業物(さいじょうおおわざもの)」に分類される名工の一人だ。

 

 その二代兼定が打った刀剣の一つに「臨兵闘者皆陣烈在前」の九字を裏銘として刻んだ一振りがあるのだが、これは現在別の家が所蔵している。

 だが、その家の当主と言うのが魔眼持ちのおっかない女なので、刀一振りを得る為に被るリスクとしては割に合わなさすぎる。

 “君子危うきに近寄らず”と言うものだ。くわばらくわばら………。

 

「そんな博物館級の骨董品を、なんだって実戦で使おうだなんて考えるんだ?実戦用の刀ならオーダーメイドでも何でも造らせればいいじゃないか」

 

「それは違うわ、衛宮君。先生が()()()()()なら、確かに実戦用に先生に合わせた刀を作らせれば良いけど、先生は()()()()()()()()()()()()の。先生みたいに魔術を武器に付加(エンチャント)する戦い方をするなら、武器の方にもある程度の“幻想”が宿っている方が魔術の効果もより発揮されるってわけ。日本刀の中でも“打刀(うちかたな)”みたいな数百年程度の歴史しかない武器じゃ神話とか伝承のソレには劣るでしょうけど、それでも現代で造った刀より“虎徹”で知られるこの刀の方が、知名度やある種の信仰って言う“幻想”は宿ってるから、魔術礼装としてもかなりの上物になるわ」

 

 さすが学園一の優等生、百点満点の回答だ。

 敢えて付け加えるなら、魔術礼装には必ずしも“幻想”が宿っていなくてもいい。各々の魔術系統や起源に沿っていれば、俺のように骨董品を引っ張り出す必要もない。

 実際に近代武器の代表である銃器を自身の魔術礼装としている魔術師もいる。トンプソン・コンテンダーと言う一九六〇年代に開発された銃と、()()()()()を用いていた衛宮切嗣が良い例だ。

 

「成程、先生の刀はある種の()()とも言えるわけですね」

 

 宝具………か…………セイバーの評は言い得て妙だな。

 

 宝具、貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)とも呼ばれるそれは、英雄が生前に愛用した武器や逸話が、人々の幻想を骨子として成り立った武装の事だ。

 

 例えば、フィクション、ノンフィクションを問わず、近藤勇と言う“英雄”が愛用した“虎徹”と言う“武器”であったという幻想が結実したそれは宝具たり得るが、朝比奈瑛賢(あさひな えいけん)と言う“ただの魔術師”が扱う“虎徹”は“宝具”たり得ない。

 

 しかし“虎徹”と呼ばれる刀剣そのものが積み重ねた歴史の中で、一八〇〇年代に最上大業物と言う等級に定められたり、近年に於いて種々のエンターテインメントで“伝説の武器”等の特別枠に分類(カテゴライズ)されたりした事により、ある種の“幻想”を纏うようになったので、些か“広義”と呼ぶには憚られる程強引ではあるが“宝具”と解釈できなくもないだろう。

 

「じゃあ、先生がその刀を持ったら、サーヴァントの宝具にも対抗出来たり……」

 

「しませんね」

 

「出来るわけないじゃない」

 

「無理だな」

 

 三者三様に、衛宮の疑問を言い終わらないうちにバッサリと切り捨てる。

 滅多切りにされた当の衛宮は不満げな目をしているが「英雄が使っていたという武器を持った人間が、同じ武器(宝具)を持ったサーヴァントには対抗できない」のは揺ぎ無い事実だ。

 

「サーヴァントの宝具ってのは“幻想”によって成り立っているんだが、一括りに“幻想”と言う単語で言い表していても、細分すると“知名度”や“逸話”は元より、その英雄に向けられる衆生の“そう在れ”と言う願望も含まれているんだ」

 

 一例を挙げると「忠臣蔵」に於いて、吉良上野介(きら こうずけのすけ)の家臣である清水一学(しみず いちがく)と言う二刀流の剣士が、吉良邸に討ち入った赤穂浪士たちをバッタバッタと切り伏せて大活躍したと言う逸話があるが、それは近代の芝居などで付与されたイメージであって、実際には清水一学は二刀流では無く、あまつさえたいして活躍する事も無く討ち取られたという。

 これもまた、芝居を作り、場面を盛り上げる上で“そう在れ”と言う作り手の願望、即ち“幻想”を付加されたと言う事だ。

 

「そしてサーヴァントの宝具とは“幻想”が具現した武器。サーヴァントの元になった英雄が実際に使っていた武器を人間が持っていたとしても、刀剣類なら結局は「斬る」か「突く」ぐらいの物理法則に則った事しか出来ないが、サーヴァントの宝具は時として物理法則をも無視する。俺が槍兵(ランサー)とやり合った時の事を思い出してみろ。手首の捻りだけで、槍がミサイルのようにカッ飛んで、当たった瞬間に爆発して刀身を粉みじんにするなんて、槍兵(ランサー)、ケルトの大英雄クー・フーリンが実際に使っていた(ゲイ・ボルグ)を持っていたとしても、同じことが出来るか?」

 

「……出来ない………」

 

「そう、逆立ちしたって生身の人間はサーヴァントの宝具に対抗出来っこない。だからこそ、俺は槍兵(ランサー)の宝具が投擲か刺突であろう事を予測した上で、手足の動きを封じてあの首を斬り落としてやろうとしたわけだが………」

 

 だがサーヴァントもまた“幻想”によって具現した者。その辺りを読み違えてしまい、結果として術の効きが浅かったが為に、宝具の開帳を許してしまった事については黙っておこう。

 

 しかし、幻想を具現した者、サーヴァントとその宝具に生身の人間が勝つ方法が()()()()()()()()()()()

 

 宝具を開帳する前であれば、神秘、即ち魔術を帯びさせた武器で叩っ斬ったり、首の骨をへし折ったりするなど、人間と同じレベルの致命傷を与えれば、サーヴァントもまた生身の人間の手で斃す方法があると言う事は、俺が槍兵(ランサー)とやり合った先の通りだ。

 

 翻って宝具を開帳された場合、敵サーヴァントの宝具の性質にもよるが、何よりも人間の側が、端的に言えば()()()()()()()()()()を持っていれば、勝ちを拾う事も出来なくはない。

 

 だが…………。

 

「なんにせよ、宝具を持ったサーヴァントに、生身の人間が対抗するなんて、余程の巡り合わせが無い限り、万が一にも勝ち筋なんて有りはしないって事だ。だから衛宮、この前のバーサーカーみたいに、無闇矢鱈に突っ込んでいくんじゃねえぞ」

 

 衛宮は黙って俯き、セイバーと遠坂はうんうんと頷いている。当然と言えば当然だな……。

 あの時ばかりは本当に肝が冷えた。いくら衛宮が()()()()()()を持っているにしても、次も同様に発動するとは限らない。だからここは、念を押して衛宮に釘を刺しておくに如くはない。

 

 いくら栞に()()()()を窘められた自分を棚に上げてでもな!

 

 

 

 衛宮邸の居間で茶を啜りつつ小一時間程雑談に興じていたが、そろそろ今日の用向きを果たさねばならない。

 ここぞとばかりにセイバーが昨日の続きをと催促してきたのだが、まあ待ちなさい。

 差し当っては刀の感触を確かめる事を優先させてもらう事にして、現在に至ったわけだ。

 

 正眼の構えから上段に構えて、何度か素振りをする。

 ふむ、前の刀に比べて若干軽い。

 然もありなん。前の刀、裏銘“ささのつゆ”は一五〇〇年初頭に打たれた刀で、室町幕府がまだ健在だったころだ。

 翻って長曽祢興里は一六〇〇年代後半の作と、凡そ百年以上の開きがある。

 この制作年代の違いが、何故重量の違いとなって表れているかと言うと、一説には一六〇〇年の関ヶ原の合戦が影響を及ぼしたという。

 

 関ヶ原の様な長時間の戦闘では体力の消耗が著しい事と、関ヶ原以降、甲冑を纏って斬り合う合戦そのものが減った事により、太刀や大太刀のような長く大きい刀の需要が減っていった。

 要するに、戦場以外で軽装の相手を斬る時代になったからこそ、軽くて取り回し易い刀が主流になり、刀と言う物が「人斬り包丁」と揶揄されるようになったわけだ。

 

 さて、長さはと言うと、これは逆に一寸(約三センチ)にも満たないぐらい長い。およそ五分(ごぶ)(約一.五センチ)、いや四分(よんぶ)(約一.二センチ)程か。

 本気で相手を斬る時には問題ないが、()()()()()()()()()()()()()踏み込みや腕の振りを調整しなくてはいけなくなる辺り難易度が上がるな………。

 出来るならば、本気になれる奴だけを相手にしたいものだ…………。

 

 一つの素振りの型を三十回前後、基本四種の型を全てこなして計百二十回前後。大凡(おおよそ)刃筋が正せた感触を得たので、納刀して片膝をつく。

 左手で鯉口を切り、ゆっくりと切先よりも手前側の物打(ものうち)辺りまで抜いたら鞘を水平に倒し、切先まで抜いたら左手で鞘を後ろに引いて一気に抜く。これが所謂“抜刀”だ。

 この抜刀を何度か、少しずつ速く抜くように繰り返し、次第に立ち上がっての袈裟に斬り、また立ち上がって一歩踏み込んでの逆袈裟に斬る等、抜刀からいくつかの太刀筋に繋げてゆく。

 

 こと抜刀術に関しては、俺よりも義妹の巴恵(ともえ)の方が長じていて、彼女の長い手足から繰り出される大太刀での抜刀術は、それはもう見応え十分だ。

 確か、巴恵との稽古での戦績は五分五分、いや、少し俺が負け越していたな………。

 

 巴恵は珠ねえの墓参りをしてからロンドンに発つ予定だが、栞と会う事が出来ただろうか……。

 本音を言えば、珠ねえの命日と聖杯戦争の時期が重なって、巴恵が出国の延期を請願してきた時には、内心で快哉を叫んだものだ。

 

 いくら巴恵が対魔術師戦に於いて無類の強さを発揮するとは言えど、権謀術数渦巻く時計塔に送り込むのは正直気が引けた。

 だからこそ別の者を送り込もうとしたわけだが、巴恵は自身の立場と能力を理路整然と並べたてて周囲を納得させて、賛同まで得てしまった。

 

 一門の当主たちの手前、個人的な感情を基にして反対する訳にもいかず、結局、巴恵に押し切られる形で宗主代理の座を委ねることになったのだが、長女の珠ねえに続いて、次女の巴恵まで死なせてしまうようであれば、久世(くぜ)の親父さんや旦那の龍徳(りゅうとく)が許しても、俺は俺を一生許さないだろう…………。

 

 拭いきれない罪業を背負うであろう予感、或いは恐怖に刃筋が僅かにブレた。

 っと、いかんいかん。俺個人の感情はどうあれ、宗主として巴恵に任せた以上は、俺も腹を括らなければ…………集中集中。

 そう心中で独り言ち、柄尻で軽く額を小突きつつ深呼吸した。

 

 道場の隅では、衛宮、遠坂、そしてセイバーが正座をして俺の一挙手一投足を見ているのだが、さっきからセイバーが腰を浮かせて、俺の動きに合わせて構えてみたり防いでみたりと、忙しなく動く様がチラチラと視界の隅に映り込んでいる。

 セイバーも俺と早く手合わせをしたくてじっとしていられないんだろうな。

 

 逆風(さかかぜ)に斬り上げて自分の目線の高さでピタリと、寸分の狂いなく何度繰り返しても同じよう出来るようになった頃には、丁度いい具合に体も暖まり、道着の内側で熱い汗が一筋背中を流れる。

 さて、準備運動はこのくらいにしてこれからが本番だ。

 

 脇差も抜いて、大小二つを下段に構える。

 本来「構え」と言うのは、平時に於いて何時如何なる時も咄嗟の襲撃に応じられる身構え、心構えを言うのであって、いざ戦闘状態に入った時には、そこに定まった構え等あろう筈もなく、ただ「相手を斬る」と言う目的の為に、最も振り良い位置に太刀を置く事こそが「構え」そのものであると言えよう。

 

 さて、目の前に相手がいないこの状況、言ってみれば仮想敵を前にしたイメージトレーニングのようなものを始めるわけだが、今回そのお相手を務めてもらうのは、技量に優れ、記憶にも新しい剣の英霊(セイバー)にお出まし願おうか。

 当の本人を目の前にして、空想上のセイバーを先に相手にするのも申し訳ない気分になるが、十分に体が温まった十全のコンディションで相手をすることでチャラにしてもらう事にしよう。

 

 

 

 空想上のセイバーを相手に道場を所狭しと駆け回ったイメージトレーニングは終わり、いよいよセイバー本人お待ちかねの手合わせの時間と相成った。

 

 開始から十分程経っただろうか。道場の中央で正対する俺とセイバーは微動だにしない。

 竹刀を正眼に構えるセイバーに対し、俺はと言うと両の竹刀を体に沿ってだらりと下げて立ち尽くしている。

 一見無防備に見えるが、これこそ相手の如何なる攻撃に対しても千変万化、自由自在に対応できる構え、柳生新陰流で言うところの“無形(むぎょう)(くらい)”というヤツだ。

 セイバーが“柳生新陰流”を知っているとは思えないが、理解或いは感じているのだろう。傍から見れば千日手の様相を呈しているのだが、その実、互いに手の読み合いになっている。

 

 しかし時間とは、それ自体は無限に近い存在ではあるが、一個体にとっては有限の存在。セイバーには悪いと思うし、俺自身もセイバーとの手合わせはなかなかに楽しいものではあるが、悲しいかな、やりたい事とやらねばならない事は両立が難しい。

 従って、この一本勝負は早々に決着をつけなければ、今日の来訪目的がまた果たせなくなるので、こちらから動いて状況を変化させよう。

 

 大小二刀の竹刀を中段に構え、徐々にすり足で間合いを詰めてゆく。その動きにセイバーが僅かに力むのが見て取れる。

 昨日の今日で、染み付いたものはどうしようもないのだが、やはりセイバーは力が入り過ぎる傾向があるな………。

 などと思っていると、セイバーは何かに気付いたのだろう、肩の力が抜けてそこそこ良い感じの自然体になった。

 

「お前さんの太刀筋ってのは、言わば五や三や十の力を適宜使い分けているんじゃなくて、常に十の力で緩急が乏しいんだ」

 

 昨日の立ち合いでセイバーに指摘した事だったが、どうやらそれを思い出して力を抜いたようだ。

 だが…………

 

 ()()を気取られるようではまだまだだ!

 

 構えはそのまま、フッと息を吐き間合いを詰める。

 前に出した左足を踏み込み、腕の振りではなく足運び体運びだけで、体を開いて右の長刀による刺突を繰り出す。

 それに対しセイバーは、左右いずれかに避ける事も、ましてや後ろに退く事も無く、最小限の動きで刺突を受け流し懐に飛び込んできた。

 昨日も何度か体当たりをしてきたが、流石は剣の英霊(セイバー)のサーヴァント。この小さい体で、なかなかどうして力強い体当たりだった。

 

 そんなセイバーを迎え撃つべく、十分に引いた左の小刀の刺突を、肩の動きだけでセイバーが到達するであろう位置に置きに行ったが、宛ら俺の視界から掻き消えるように更に姿勢を低くして躱してきた。

 

「でやあぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!!」

 

 気合一閃。百五十センチをいくらか超えた程度であろうその小柄な体躯ごと、まるで天に昇る龍のように、昨日の立ち合いでは見せる事の無かった突き上げに、流石の俺も体を全力でのけ反らして避ける他なかった。

 その上、タイツを穿いたままだったセイバーが足を滑らせてバランスを崩してしまい、セイバーを受け止める形で俺は後ろに倒れた。

 

「痛たたたた………」

 

 セイバーを受け止めるのに必死になったせいで、俺は受け身を取り損ねて腰を強めに打ってしまった。

 まったく………四十路(よそじ)近いおっさんの腰は爆弾そのものなんだぞ………。

 

「………はっ!も、申し訳ありません先生!」

 

 俺に抱き着くような形で倒れたセイバーが、我に返って身を起こし、己が不明を詫びる。

 

「今まで用いた事の無い戦法でしたので、不覚にも足元が疎かになってしまいました…………」

 

 ピンと立った髪も萎びる程にしょんぼりするセイバーだったが、うん、わかったから、先ずは降りてくれないかな?()()()()()が男の腹の上で馬乗りになってる姿って、倫理的に何かと問題があると思うんだ、先生は。

 

 と言うか、衛宮は顔を赤くしてるし、遠坂に至っては顔が青くなったり赤くなったりと忙しないのだが…………よし、先日の学園での乱痴気騒ぎの分も含めて、お前ら後で原稿用紙二枚ほどの反省文を書かせるからな。

 

 それはさておき、セイバーの身に直接触れたことで奇妙な違和感を覚えた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()なんだが………

 

「セイバー……お前さん、昨日よりも魔力減ってないか?」

 

「!」

 

 一瞬驚愕の表情を浮かべるセイバーではあるが、すぐに厳しい顔つきになる。

 しかしセイバーは元々()()()()()であるが故に、狡猾な腹芸には慣れていないらしく、俺の抱いた違和感は正解であると暗に告げているようなものだ。

 

 昨日の立ち合いの最中、セイバーの体当たりで触れた時と今で、言ってみればセイバーが纏っている魔力量に不自然な差異がある事を感じ取ったわけだ。

 こちとら生まれてこの方現在進行形でサーヴァントを養ってるんだ。因果線(パス)を通して己がサーヴァントの状態も把握できれば、直接触れることでも確認できるわけで、この疑問は確信に近い。

 

「ええ!?そんな筈無いじゃない!いくら衛宮君が()()()()でも、サーヴァントを召喚した時点で、マスターとは因果線(パス)を通して魔力は供給されて……………はっ!」

 

 衛宮を軽く貶めつつ捲し立てる遠坂ではあったが、それでも俺と同じ結論に至ったようで、息を呑んで「まさか………」と呟いた。

 

 昨日に比べてセイバーの魔力が減っていると言う事は、即ちセイバーの魔力消費量に対して、魔力供給量が追い付いていない、或いは魔力が供給されていないと言う事だ。

 

 俺と栞の場合はともかくとして、実体化で消費する魔力は霊体化の時のそれに比べて多いが、聖杯戦争中は聖杯そのものからのバックアップもあるので、平凡な魔術師がマスターであろうとも、戦闘時はともかく平時において魔力供給が追い付かなくなる事は無い。

 事実、先の第四次聖杯戦争に参戦し、今は時計塔で新進気鋭の君主(ロード)として名を馳せる魔術師がいるが、魔術師としては今でも平凡レベルである彼がマスターであったという一語で推して知ることが出来よう。

 

 ではセイバーが日常生活ですら消耗する程に()()が悪いのか?と言うと、それは否だろう。

 前回の聖杯戦争で召喚されたセイバーそのものが今ここに居ると言う事であれば、如何にマスターの違いによってステータスの弱体化はあったとしても、魔力消費の燃費まで悪くなると言う事は考えにくい。

 

「…………実は、俺からセイバーに魔力が供給出来ていないんだ………」

 

「シロウ!」

 

「いや、いいんだセイバー。これからも戦って行く上で、セイバー自身もこの問題は放置できないだろ?俺たちで解決できない問題でも、先生や遠坂に相談すれば解決できなくもないかもしれないし」

 

「……それは………そうですが…………」

 

 いくら遠坂とは共闘関係を結んでいるとはいえ、聖杯戦争において衛宮と遠坂は潜在的には敵同士。そしてその遠坂と密約を結んでいる俺も、同じく潜在的な敵であるわけであって、衛宮たちにとって重大な問題ではあるが、セイバーが秘匿してきたのも尤もな事だ。

 

 だが、イリヤスフィールとバーサーカーへの対抗及び間桐臓硯(まとう ぞうけん)の打倒を目的として衛宮と遠坂が共闘関係を結んだ以上、ただでさえセイバーのステータスが未熟なマスターに因って低下し、延いては全体の戦力低下と言うリスクが存在する現状に於いて、遠坂にとっても、またその遠坂と密約を結んだ俺としても、これは放置できない問題だ。

 

「衛宮、セイバーを召喚した時には、ちゃんとした魔法陣を………いや、そもそも召喚の儀式自体、()()()()()()()()()()()?」

 

「………いや、先生が槍兵(ランサー)に止めを刺されそうになった時に、なんかすごく頭にきて………そしたら、セイバーが俺の目の前に現れたんだ」

 

 然もあろう。あの状況で自分に対抗できるサーヴァントの登場を座して待つほど槍兵(ランサー)は慈悲深く無いだろうし、クー・フーリンの逸話にもそのような話を聞いた例はない。

 

「となると、イレギュラーな召喚による()()って事か………」

 

 そもそも、親子二代で同じ英霊を引き当てる事自体かなりの低確率だと言うのに、それを成し得たと言う事は、触媒を用意して召喚した切嗣とは違い、衛宮とセイバーとの間に有形無形を問わず、何某かの“(えにし)”があった事が窺える。

 

 それは一体何なのか………。

 セイバーの真名は()()()()()であると切嗣から聞いたが…………。

 うーん……………この辺りの情報分析も、栞が帰ってきたら頼んでみるか………。

 

 とにかく、今は衛宮が抱える問題の解決が焦眉の急だな。

 うまくすれば、案外すんなりと解決するかもしれん。

 

「…………なにそれ…………衛宮君、貴方そんなので最高のカードを引き当てたって言うの…………?」

 

 がっくりと肩を落として、遠坂がプルプルと震えている。

 剣の英霊(セイバー)は間違いなく聖杯戦争に於いて最高のカードだ。遠坂自身、剣の英霊(セイバー)を引き当てるべく不断の努力をしたに違いない。

 弓の英霊(アーチャー)も「三大騎士クラス」の一角である以上、決して悪くはないのだが、やはり剣の英霊(セイバー)には一歩譲るところがある。

 

 遠坂、その悔しさ、先生よく分かるぞ。努力しても結果が伴わなかったら、結構心に来るもんな。

 でも、その悔しさをバネに立ち上がれ!立って歩け!遠坂!!

 

「衛宮君………断言しても良いけど、それ絶対何か使ってるから!寿命とか、勝負運とか、預金残高とか!……とにかく、何かが減りまくってるに違いないんだから!」

 

「遠坂………預金残高は関係ないのでは………」

 

「関係あるわよ!魔術ってのは金食い虫なんだから。使ってればどんどんお金が減っていくものなの!そうでないと許さないんだから!特に、わ・た・し・が!!」

 

 床をドンドン叩きながら、宛らレオ・ザ・ライオンのように吠える遠坂だが、床に罪はないんだからその辺にしておいてやりなよ。

 

「ああ!もうっ!私がセイバーのマスターだったら、こんな闘い勝ったも同然だったのにぃっ!」

 

 頭を抱えて身もだえる遠坂だが、如何に彼女が剣の英霊(セイバー)を狙っていたかがよくわかる。

 だけど、その辺に霊体化した相方(アーチャー)がいるんだろうから、その話はその辺にしておいてやりな………。

 そんな遠坂(マスター)の暴言にしかめっ面をしているか、はたまた「やれやれまたか」とあきれ顔をしているか。とにかく、弓兵(アーチャー)の心境は面白からざるものだろうよ………。

 

「それ、俺が相応しくないって事か?」

 

「当然でしょ、へっぽこ」

 

「はぁ?」

 

「……………はぁ………とにかく、今のセイバーの状態は、私としても放っておく事は出来ないわ」

 

 遠坂からすれば“偶然”で最高のカードを手にした衛宮に、思う存分無念の丈を吐き出したらすっきりしたのか、徐に立ち上がって今すべき事をこの場の全員に告げる。

 

「そうだな。先ずはセイバーが召喚された場所に出向いて調べてみるべきだな」

 

「となると、セイバーが召喚されたのがそこの土蔵だから、そこを調べればひょっとすると………」

 

「そうね。衛宮君の家って純和風建築だから、魔術師の工房としては魔力が散逸し過ぎるけど、あの土蔵なら工房としても理想的だし、英霊が召喚されたってぐらいだから、多分そこに何か魔術的なモノが在るかもしれないわ……………………それでね、セイバー……………いつまで、先生の上に乗ってるつもりなのかしら?」

 

 ナイスだ遠坂!

 さっきからずっとセイバーが俺の腹の上で馬乗りになっていたので、いい加減()()()()()()になりそうなのを必死に堪えていたんだ。

 何故か遠坂が()()()()()()()()()になっているのかはさておくとして、(くだん)の反省文は、原稿用紙一枚分にしよう。

 

 あと衛宮、お前は自分のサーヴァントに(みだ)りがわしい格好をさせて放置していたので、反省文一枚追加な。




先日四周年の福袋で、欲しい鯖が四騎士+アルターエゴに集中していた事もあってそちらを回したのですが、4/25の確率で手持ちのカーマが大当たりしました( ;∀;)

水着礼装が次回のイベントで実装されるなら、マーリンPUを切に希望!
でも、えっちゃんやパールさんがいるので、スカディでも可!
(高レアのサポーター鯖がキャス狐しかいないので、基本フレさん頼りか、絆ヘラを含めた構成で力押しなのです)

さて、次回は……

・士郎がアレしてエライ事になる

・密着!冬木警察24時

・ある意味フラグクラッシャー

・やっぱりアンタか

・営利誘拐未遂事案発生

以上の予定です。
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