Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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FGOは現在、光と闇のエンドレスバトゥ真っ最中ですが、高難易度を捨てて周回メインにやっていたお陰で、今回は最近に無く早く投降出来ました。

さて、今回はごく一部のみ原作キャラが出る以外、初出のオリキャラしか出てきませんが、今回もお付き合いいただければ幸いです。


#040 interlude~臨場~

 その公園は取り立てて特徴があるわけではなく、都市整備の一環として造成されたに過ぎない、何処にでもある平凡な公園だった。

 昼間は近所の主婦たちが井戸端会議をし、近年では少なくなったが、学校帰りの子供たちが夕暮れ時まで遊びまわる。そんな平凡な公園だった。

 

 昨日までは…………。

 

 今では全ての入り口に規制線のテープが張られ、数台の警察車両が周辺の道路を埋め尽くし、今尚数台の警察車両がけたたましいサイレンを朝の住宅街に鳴り響かせて集まりつつあった。

 そして、その僅かな隙間には近隣住民を主とした野次馬が群がり、口々に独自の推理を並べ立てている。

 

 第一発見者は近所に住む老人であった。

 三年前に長年連れ添った妻を看取り、終の棲家となる小さな一軒家で新聞を読み、テレビを観て過ごし、時折娘夫婦が孫を連れて遊びに来ること以外楽しみが無く、飼い犬の散歩を毎朝の日課としながらも、妻の元へと旅立つ日を指折り数える。そんな何処にでもいる老人だった。

 

 その老人が飼い犬と共に公園に差し掛かった時、飼い犬が唸り声をあげ、やがて何かを訴えかけるかのように吠えた。

 滅多に吠える事の無い大人しい飼い犬の豹変ぶりに、老人は困惑しながらも視線を飼い犬のそれと同じ方向へと向けると、茂みの陰で一人の男が仰向けで倒れているのを目にした。

 

 深酒が過ぎて公園でそのまま寝てしまったのか?

 そんな事を考えながら老人が近づくと、男は眩しい陽の光をものともせず、目を見開いていて、微動だにする様子はなかった。

 

 その男は()()()()()()()()()()死んでいた。

 

 それに気付いた老人は文字通り腰を抜かし、いつまでも吠える事を止めない飼い犬を置いて、這うように近所の住人に助けを求めた。

 

 

 

「ちっ!また外人さんの殺人(コロシ)か…………」

 

 ()()()()()()()の発生に、冬木署捜査一課の警部補、茂沢政信(しげさわ まさのぶ)は舌打ちをした。

 来年には定年を迎える彼は交番勤務からの叩き上げのベテラン刑事であり、やや頑迷なきらいはあるものの、義理堅く曲がった事を嫌い、下の者達に対しては面倒見が良く、人望もある。

 

「どうやら被害者(ホトケ)は、()()()()()心臓を抉り取られたようですね。漫画やアニメじゃあるまいし、貫手(ぬきて)で骨を貫いて心臓を抉り出すなんて真似、普通やった方の指が骨折するから出来っこないんですけど、凶器を使用した痕跡が無いんですよ。仮に出来たとしても、特殊な武術の使い手って事になるんですが………」

 

 遺体の周囲は野次馬の目に曝されないようブルーシートで覆われており、その傍で現場資料を採取していた中年の鑑識課員が、()()()()()()()の遺体を前に所見を述べる。

 

「てこたぁ、この前の外人さん殺しの事件(ヤマ)と同一犯か………」

 

 数日前にも、同様に()()()()()()()外国人が殺害される事件が起きており、その被害者もまた、凶器を使用された形跡は見受けられず、現在は大学病院での司法解剖の結果を待っている段階だ。

 

 ここ一か月近くの間、冬木市では()()()()()()()()()()が頻発し、行方不明者の捜索願が例年の数倍発生している。

 今回の事件もその一つに加わったのだが、これまで発生している事件や事故の件数は、地方都市の一警察署の人員だけでは対応しきれるような規模ではなく、県内の警察署や県警本部、果ては隣県の警察署からの応援を投入しているにも拘らず、どの事件も現時点では被疑者の検挙どころか特定には至っていない。

 

(どうなってんだこの街は………これじゃあ、十年前と同じじゃねぇか…………)

 

 忌まわしい記憶が脳裏に蘇り、心中で独り言ちる。

 十年前、今と同様にここ冬木の街では様々な事件や事故が発生し、未だに原因不明であったり、被疑者も検挙されたりしていない事件がいくつもある。

 児童連続誘拐殺人事件や、冬木ハイアット爆破崩壊事件、そして冬木新都の大火災がその最たるものだ。

 

 彼もまた、当時は寝食を惜しみ、家にも帰らずに捜査の最前線に立っていたのだが、得られたものは皆無と言ってよく、仕事一筋で家庭を顧みない夫に堪忍袋の緒が切れた妻が実家に帰ってしまい、妻との関係修復に奔走する羽目に陥る事を強いられたぐらいだった。

 

 またしても捜査が難航しそうな予感と、妻の機嫌の行く先を想像すると暗鬱とした気分になるが、十年前と同様に、県警本部長の腰巾着と揶揄され、呑気に太平楽を並べる今の署長が「事件を解決出来なかった責任を取る」と言う名目で更迭される事を期待する以外、今の彼には気分が晴れる要素は無かった。

 

「シゲさん、またあの女警視来てますよ………」

 

 ブルーシートで仕切られた小部屋に、年若い刑事が入ってきて耳打ちをし、彼にとってのもう一つの頭痛の種の来訪を告げる。

 深いため息をつき、厄介者が小部屋に立ち入る前に押し留めようとブルーシートをめくろうとした直前、向こう側からブルーシートがめくられ、一人の女性が顔を出した。

 

「おはようございます茂沢警部補。被害者(マルガイ)の面割りをさせていただきたいのですが」

 

 細身でしなやかな肢体にパンツスーツ、解けば肩程の長さであろう髪を後頭部でまとめ髪にした、典型的なキャリアウーマンと言わんばかりの装いのこの女性、名は三門皐月(みかど さつき)。警察庁警備局に所属しており、階級は警視。

 

 警察庁警備局とは、警視庁警備部を始め、都道府県警察警備部、警視庁公安部を統括し、日本の公安警察の頂点に立つ警察庁の内部部局の一つであり、即ちこの三門警視は“公安”に属しており、見た目には二十代後半から三十代半ばで階級が“警視”である事から、所謂「キャリア組のエリート」と言う、いずれはこの現場に居る刑事たちにとって“雲の上の存在”となる人物である。

 

「おはようございます警視殿。それで、何だって警察庁(サッチョウ)の警視殿が、地方の刑事事件なんかに?」

 

 “刑事”と“公安”は警察組織内に於いて犬猿の仲、水と油、不俱戴天の仇と言っても足りない程仲が悪いことで知られている。

 無論、生粋の“刑事”である彼も周囲の刑事たちも、“公安”の彼女を快く思っていない。しかも、エリート中のエリートである警察庁警備局のキャリア組となれば尚更で、階級では上である彼女に対してさえ、ぞんざいな口調になるのも無理からぬ話である。

 

 数日前に単身この街に乗り込んできて、署長に警察庁官房長と警備局長連名の命令書を突き付けて捜査に介入してきたが、エリートにありがちの、所謂“独善的なゴリ押し”で現場を引っ掻き回すような言動を慎んでいるのか、一歩引いて下手に出ている辺りが、ほんの僅かではあるが現場の刑事たちにとっては好感が持てるものだった。

 そして、にやけ面で尻を触ってきた署長を引っ叩いた上、胸ぐらを掴んで「次に()()()()()()()()()()()()()首が飛ぶと思いなさい」と凄んだ辺りが、女性の警官や職員には大変好感が持てるものだったと言う。

 

「…………詳しくは言えませんが、()()()()()とだけ」

 

「………………まぁ、面割りぐらいなら。どうぞ」

 

「どうも」

 

 本音を言えばこの警視を遺体に近づけたくはなかったのだが、彼女は既にこの小部屋に入る前に、自分たちと同じ靴袋を履き、ネットキャップを被り、手袋とマスクを装着していて、現場を必要以上に荒らさないよう配慮する姿勢を示している以上、彼女が公安であるからと言って感情を以て拒絶する訳にはいかず、場を譲る他無かった。

 

「…………被害者(マルガイ)は、身元の割れる物は何か所持していましたか?」

 

 彼女は遺体の傍にしゃがみ込むと合掌をして、なるべく触らないよう、その顔と大きく穴の開いた胸を覗き込んだ後、近くに居る鑑識課員に問う。

 

「いえ、身元が割れるものは何も。ただ、ポケットの中に大粒の宝石がいくつか」

 

「見せていただいても?」

 

 鑑識課員は目線を警部補に向け、警部補は黙って頷くと、採取した現場資料の中から、チャック袋に入れられた大粒の宝石をいくつか手渡した。

 ルビー、サファイア、ペリドットなどの宝石はそれぞれ見事なカッティングが施されていて純度も高い。見ただけで高価な物である事が窺える。彼女が今手にしている物だけで、総額にして数百万円はくだらないだろう。

 

「宝石商にしては()()の扱いが雑ですし、強盗(タタキ)にしては宝石どころか現金だって残っていますし、何者なんですかね?この被害者(ホトケ)さんは」

 

 鑑識課員が被害者の奇妙な点についての疑問を素直に口にするが、彼女には()()()()()()()()()()()()確信があった。

 しかし、公安の警視ではなく、()()()()()がそれを口にすることを許さなかった。

 

「警部補、被害者(マルガイ)の遺体は冬木旭奈会(きょくないかい)病院に運んでください。署長には既に話は着けてあります」

 

「ちょっと待ってくださいよ、警視。確かに署長から嘱託されりゃ、民間の病院でも司法解剖は出来なくはありませんけどね、いくら何でもそりゃ唐突に過ぎませんかね?」

 

 司法解剖を行う者の資格には詳細な規定は無く、法的には、学識を有し、かつ捜査当局の嘱託を請けた者であれば誰にでも行えると解釈出来るので、彼女の要請は関連法規から逸脱したものではない。

 しかし原則として、最寄りの大学医学部に於いて、高度な専門知識を有する法医学者の手で執行するのが通例であるからこそ、警部補が難色を示すのもまた当然である。

 

「…………警部補、ちょっとよろしいですか?」

 

 僅かな逡巡の後、彼女は警部補を小部屋の外、人気の無い場所へと連れだした。

 

上層部(うえ)から口外は禁じられていますが、私の判断でお話します。でも、もしバレたら二人共…………」

 

 周囲に人目が無い事を確認し、尚且つひそひそ声で話す彼女は、指で首を切る仕草をする。

 公安が刑事に捜査情報を開示した例など皆無と認識している警部補は、彼女の意外な行動に僅かに鼻白んだ。

 

「………あの被害者(マルガイ)、国際テロ組織のメンバーである可能性があります」

 

「なんだって!?」

 

 意外な情報に思わず叫んでしまった彼は、瞬時に己の迂闊さに気付き口を塞ぐ。

 

公安(ウチ)のデータベースで見覚えのある顔でした。もし本人なら「アイルランド独立戦線」の分派と言うか、直系組織の幹部です。所持していた宝石類は、恐らく何らかの()()()()()()()かと思われます。尤も、裏を洗ってみないと確証はないですが」

 

 時折海外ニュースで耳にするテロ組織の名前が出て、またしても叫びそうになった警部補は必至でそれを抑えた。

 何だってそんな組織の幹部が極東の、しかもこんな地方都市なんかで。そういう思いはあったが、一方でこの事件の被疑者が()()()によるものであれば、最後の最後で公安に全て掠め取られるのではないかと言う懸念が頭をもたげてきた。

 

「それと、コレは極秘なのですが、旭奈会は厚労省経由で官邸と繋がっています。正確には内調(内閣情報調査室)とですが。いつもなら司法解剖の結果は丸ごと公安(ウチ)経由で内調に持っていかれますが、旭奈会には()()()()()()()()()()()()()所轄(そちら)にも結果を回す事をお約束します」

 

「おいおい…………そんな事やっていいのかよ………」

 

 一地方都市で起きた単純な殺人事件だと思われていたその裏で、一警察官には巨大過ぎる影が横たわっていた事に慄然とし、上司であるはずの彼女に対し思わず()()()になってしまった。

 

「私も警察組織の一員ですからね。警察官(われわれ)の第一義は市民の安全を守る事であって、刑事だの公安だの、そんな事に(かま)けてる場合じゃありません。…………それに、この街には()()()()()()()()()()()()()()()しね」

 

 フッと微笑む彼女のその表情に、初対面では言動のキツイ、冷徹なエリートと言う印象があったが、その内面には自分と同じ、いやそれ以上とも言える警察官としての貴い矜持と、肉親の身を案じる人間味を垣間見た警部補は、これ以上抗弁する事は出来ず、そしてこの警視と共同歩調を取れば、公安に全て持っていかれると言う事態にはならないだろうと思われた。

 彼もまた一人の警察官であり、人に誇れる程では無いとは言え、一人の家庭人であるが故に。

 

「それに、公安の事件(ヤマ)を所轄が挙げようものなら…………あのスケベ署長のクビを飛ばせるってもんでしょ?」

 

 縄張り意識の強い警察組織内に於いて、不用意に他所の案件に手を出してしまっては、事件は解決出来たとしても、()()()()()()()()()()結果になる事は往々にして在り、それが今後の人事に影響する事も在る。そのしこりを利用して、部下たちからも評判の悪い署長を冬木から追い出そうと目の前の警視は言うのだ。

 悪戯っぽく微笑む彼女の提案に警部補は腹の底から笑い、この()()()()()に応じる事に決めた。

 

「分かりましたよ。司法解剖も順番待ちで詰まってるようですし、一日の遅れが十日の遅れって言いますしね。その辺で下の連中には上手い事説明しておきますよ」

 

「よろしくお願いします」

 

 二人の警察官は固く握手をし、敬礼を交して別れた。

 

 

 

 事件現場である公園を後にした三門警視は、公園の近くに停めておいた自身のアルファロメオに乗り込み、現場の公園を眺めつつ、口にしたメンソールの煙草に火を着けた。

 

「どうどしたか?皐月はん」

 

 窓を僅かに開けてフッと紫煙を吐きだすと、助手席に座っていた、黒いカソックに身を包み、ラウンドタイプのサングラスをかけた外国人男性が、視線を交える事無く流暢な日本語で彼女に話しかけてきた。

 

「大当たり。(やっこ)さん、魔術師だったよ。それも宝石魔術を使う系統だね。エーデルフェルトの一族か何かかねぇ?」

 

 彼女は公園の変死体を検分した際に、殺されたのが宝石魔術を使う魔術師である事を見抜いていた。それは取りも直さず、彼女自身が“魔術師”である事を示している。

 

「さあ?ボクは()()()()()()()()()()し、魔術師(そちら)はんの事情はとんと疎いんで分かれへんわ。ほんでも、エーデルフェルトの魔術は宝石魔術言うより、特殊なルーン魔術て聞いてます。時計塔で鉱石科にいた魔術師なら、エーデルフェルトやのうても宝石魔術を使えるんちゃいますか?」

 

 魔術師と“元”とは言え聖堂教会の関係者。奇妙と言えば奇妙と言っていい組み合わせの二人だったが、()()()()()を視野に含めれば、その違和感は解消される。

 

 その共通点こそが“朝比奈一門”だ。

 この二人は、今回の聖杯戦争が執り行われるに先立ち、第四十八代宗主朝比奈瑛賢(あさひな えいけん)の命により、冬木に参集した朝比奈一門の者たちなのである。

 

 先ずこの三門皐月という女性は、大叔母が先々代宗主の妻であり、つまるところ、先々代宗主の孫である現宗主の再従妹(はとこ)にあたり、現宗主とは年齢が近い事もあり、一族のしきたりとは言え、幼少期は共に過ごした事があった。

 

 次いでこの外国人男性、名はニコラ・クラウディオ・パオリーニ。朝比奈宗家とは血の繋がりが一切無い生粋のイタリア人であり、全くの外部から一門に加わった人物である。

 元々は聖堂教会に属し、代行者でもあった彼だが、女性関係が奔放(本人は神の愛を説いているつもり)である事が災いして、聖堂教会を除名された後、紆余曲折を経て一門に加わった経緯を持つ。

 また、京都を中心とした関西圏の教会に赴任した際に日本語を学んでいた為、合っているか否か微妙な京ことばを用いているのが特徴だ。

 

「それよか、遺体の方は?」

 

「あぁ、外事の案件ってブラフをちらつかせて、所轄からもぎ取って来てやったさ。おっつけ美彌(みや)の所に運ばれるだろうさ」

 

 発見された遺体が魔術師であった以上、魔術を行使した痕跡を探る為に、魔術的にも、そして法医学的にも、検死は朝比奈一門の治癒魔術師であり、冬木旭奈会病院の医師、藤堂美彌(とうどう みや)並びに同病院の非常勤医師であり、現宗主の異母弟である朝比奈龍徳(あさひな りゅうとく)に委ねられるべき案件である。

 多少強引ではあるものの、今回の被害者の遺体を冬木旭奈会病院に送って司法解剖をさせようとしたのは、そう言った側面があったからだ。

 

「あらあら、嘘なんてついたらあかん。そないな事したら………」

 

「地獄に堕とされるって?三門(ウチ)の魔術系統は神道が起源でね、生憎“地獄”なんて概念は無いのさ」

 

 そう子供のように破顔して彼女は苦言を受け流し、ニコラは苦笑いを浮かべた。

 

「………ほして、セヴィニェの旦那はんの方は?」

 

 声のトーンを一段下げ、亡き恩人の行方を問うた。

 

 聖堂教会の代行者であった経緯から、ニコラが一門に加わる事に対し、周囲からは当然のように反対の声が多く上がった。

 しかし彼と同じく、外部から一門に加わった家系の当主であるセヴィニェ氏が、その後見となる事を申し出る事によって衆議は一致し、彼は一門に加わる事となった。

 後日聞いた話では、宗主が内々にセヴィニェ氏に働きかけて、彼の受け入れ準備を進めていたという。

 

 もしも反対意見が押し通されて一門に加われずにいたなら、直後に命を落としていただろうと、彼は常々考えていた。そのような逼迫した局面に於いて彼を擁護し、一門の庇護の下に加えてくれた宗主とセヴィニェ氏は、彼にとって命の恩人である。

 

 その恩人であるセヴィニェ氏が何者かの手によって殺されたと言う報に接した際、彼はまるで本当の父親が亡くなった時のように泣き崩れた。

 そして「一門の家系に手を出した者は徹底的に叩き潰す」という一門の()()に倣い、所謂「朝比奈の応報」の先鋒たるを買って出た。

 それがたとえ父なる神の愛に背くことになろうとも、主たるイエスの教えに背くことになろうとも……………。

 

「そっちも大学の方に手は回してある。あとは美彌たちとサーシャに任せるさ」

 

「まぁ、サーシャはんやったら旦那はんに()()()()()()()()。そやけども、魔術師同士の争いやったら、死体は残さないのが普通や言うのに、なんで今回も旦那はんの時も、死体をそのまんまにしとるのか不思議どすな………」

 

 魔術師の第一義は“神秘の秘匿”である以上、一般人に魔術を知られたり見られたりしたら、その者を“消す”のが通例とされている。

 そうである以上、魔術師同士の争いというものは密かに行われるべきものであり、一方が命を落としたなら、事が露見しないよう()()()()()()()のが魔術師達にとっての常識である。

 

 聖堂教会でも“神秘の隠匿”という点で、ベクトルは異なれども基本的には一致しており、今回の事件とセヴィニェ氏の事件に於いて、犯人の()()()に首を傾げるばかりであった。

 

「うーん………どれもこれも結果待ちってことろだねぇ………で、そっちは?」

 

 現状ではセヴィニェ氏を殺害した犯人の糸口が掴めない以上、彼女も推論すら立てる事が出来ず、灰皿で煙草を揉み消しつつ話題を変えた。

 

「こっちはむちゃ忙しいですわ。監督役の手伝いなんてやるもんやおまへん。しんどくてかなわんわ………ほんま恨むでぇ、瑛賢はん………」

 

 先日穂群原学園で発生した()()()()()()に先立ち、聖杯戦争に参加していたマスターたちが、あろうことか学園内で魔術戦に及んだ。

 その魔術戦自体は、宗主の介入によって水入りとなったが、その痕跡は誤魔化し様が無く、宗主が対応に頭を悩ませていたところに()()()()()()が発生し、監督役とそのスタッフによる隠蔽工作に便乗する形で丸投げしてしまった。

 

 その交渉と見返りとして、元代行者であり、聖堂教会の神父でもあった彼が監督役の手伝いをする事になったのだが、連日新都で発生する()()()()()()の隠蔽工作に奔走し多忙を極めており、ダッシュボードに突っ伏して、愚痴と宗主への恨み言を吐き出して精神の均衡を保とうとしていた。

 

「まあいいじゃないの。監督役とは満更知らない仲じゃないんでしょ?」

 

「あぁ、言峰君とは神学校の寄宿舎で相部屋やったし、昔のよしみでよろしうやってますよ」

 

 フッとニコラは微笑みながら遠い眼をし、マンレーサの聖イグナチオ神学校で過ごした若き日の自分と、一人の同級生との日々を思い返す。

 近寄り難い雰囲気を纏ったその同級生は、日々神の御言葉を深く学び、肉体の鍛錬に励み、その苦行僧の如き禁欲的(ストイック)な姿は、奔放で教師に叱られてばかりだった彼とは正反対だったが故に興味を引くモノがあり、いつしか気脈を通じ、共に切磋琢磨する仲となった。

 その甲斐あってかその同級生、今の監督役は神学校を主席で卒業し、そして彼は次席で卒業してそれぞれの道へと進んでいったのだが、数年後に二人が再会したのは、お互いに代行者として、とある異端審問に赴く時だった。

 

 それから数年が経ち、()()()()()()()()()()かつての同級生とまたしても再会を果たし、これはきっと神の導きあっての事、と彼は信じて疑わなかった。

 

聖杯戦争(コレ)が片付いたら、また一緒に飲むのもええかもしれへんな………)

 

「……あぁ、そう言えば、旦那はんの代わりに、ベルツはんが冬木(こっち)に向かっとるそうどす」

 

 今はまだ酒杯を酌み交わせる状況ではないが、それもそう遠い先の事ではなく、今のうちに良い酒を置いている店を物色しておこうと考えを巡らせたところ、ふと、近年になって外部から一門に加わった者同士、顔を合わせれば連れ立って飲みに行く偉丈夫の魔術師が近日中に来日する事を思い出した。

 

「ベルツが?じゃあ、巴恵(ともえ)のボディーガードは誰がするのさ?一門(ウチ)にはアイツ以上に適任はいないし、そんじょそこらの魔術師じゃ、居るだけ邪魔になるってもんでしょ?」

 

 ベルツなる人物は“魔術師”よりも“傭兵”に近く、一門の中では最も()()に長けているのみならず、魔術協会内部に独自の人脈を持っており、宗主代理として時計塔に赴く宗主の義妹、朝比奈巴恵(あさひな ともえ)の護衛兼仲介役を任されていた。

 

「なんでも、飛び切りの腕利きを雇ったって言うてましたわ。少なくても、瑛賢はんのお眼鏡に叶うような人なら、万が一にも巴恵はんの足手まといにはならん思います」

 

 ニコラの論評に、皐月は思いつく限りの人物の名を思い浮かべるが、実の妹のように可愛がっていた巴恵に比肩し得る人物は、結局のところ片手で数える程しかいなかった。

 それらの人物を以てしても、対魔術師戦に於いて無類の強さを発揮する巴恵には遠く及ばないのだが「まぁ、瑛兄(えいにい)が直接雇ったんなら大丈夫か………」と、ニコラの論評に同意することにした。

 

「そいなら、ボクはこれで戻りますわ」

 

「なんだい、もう行くのかい?ちょっと遅いけど、一緒に朝食でも、と思ったんだけど」

 

 車を降りようとドアを開けたニコラを、少々残念そうな口調で呼び止めた。

 しかし彼は向き直り、苦笑いをしつつ腹を擦っていた。

 

「そらおおきに。そやけど、昨日言峰君に誘われて中華料理を食べに行ったんやけど、それからちゅうもの、おなかの調子悪なってもうて、あんまり食べられへんのどす」

 

「あらら、そいつはお大事に。それってどこの店さ?」

 

「深山町の「泰山」って店どすえ。唐辛子をうんとこさ(ふんだんに)使(つこ)てるからて、あの麻婆豆腐の辛さはえげつないわ………」

 

「そんなに辛いのかい…………行ってみるか………!」

 

「ボクは行きまへんよ………」

 

 今日の昼食は決まった!と言わんばかりに目を輝かせた皐月に、ニコラは文字通りげんなりとした顔を浮かべ、無理矢理連れて行かれる事態に陥る前に、可及的速やかに彼女の抗議の声を背にして車から離れた。

 

(皐月はんは”Myデスソース”なんて鞄に忍ばせてるような人やさかいな………)

 

 狂気的なまでの辛いもの好きと言うべきか、それとも口内の味覚細胞が死滅していると言うべきか、初対面の頃に食事に誘った時、あらゆる料理を“Myデスソース”で辛くし、嬉々として頬張る彼女を見て、()()()()()()で試しに口にしたところ卒倒してしまい、それ以来、その日の出来事は彼の心的外傷(トラウマ)として記憶に焼き付き、彼女からの食事の誘いは極力断るようにしていた。

 そして、かつての同級生からの食事の誘いも、これからは極力断ろうと、彼は心に決めていた。

 

 後日、マウント深山商店街にある中華料理店「紅州宴歳館・泰山」の店主は語る。

 

「皐月サン、定休日以外毎日お昼と夜に来てくれるアルよ!いつも美味しそうに食べてくれるから、ワタシも料理人として鼻高々アル!この前皐月サン、私に「お嫁に来て!」言ったアルよ。えへへへへ、ちょっと照れ臭いアル。」




ニコラ君の京言葉は変換サイトで変えたモノをコピペしたので、正しい京言葉とは言えませんので「合ってるか否か微妙」と言う文言を加えました。
「流暢だけどインチキ日本語を話す胡散臭い外国人」と言う感じで受け取ってもらえれば幸いです。

さて、次回は……

・おまwwwちょwwww士郎wwwwwww

・ある意味フラグクラッシャー

・やっぱりアンタか

・営利誘拐未遂事案発生

以上の予定です。
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