Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
前回から結構時間が開いてしまいましたが、リアルでちょっと忙しかった事と、例に漏れずFGOイベントに勤しんでました。
それでは、今回もお付き合いいただけましたら幸いです。
“
徒歩で渡っても着物の裾が濡れる事が無い浅い川や入り江のように、お互いの
衛宮とセイバーの
迂闊な事に携帯灰皿を車の中に置きっぱなしだったので、ちょいと土蔵の外で一服と言う訳にもいかず、かと言って他所様の家に煙草の灰やら吸殻を撒き散らす等と言う真似など出来よう筈がない。
そういう訳で、切嗣が遺した灰皿でも転がっていないかと土蔵の中を物色するが、こんなゴミともガラクタともつかない物が溢れかえる場所では見つかる筈も無く、一服はお預けのようだ。
「しっかし、衛宮の奴もちゃんと片付け…………」
同僚の奇妙な一面と、衛宮の諦めの悪さに呆れつつ、それでも
「どうしたんです?先生」
「…………おいおい…………どういう事だよ
俺の様子を訝しむ遠坂の問いは、
「遠坂、こんなの
遠坂の問いに問いで返した俺は、手にした薬缶とその傍に転がっていた薬缶の二つを彼女の目の前に突きつける。
魔術的に見てこの二つの薬缶は、
「こんなの、ただの薬缶じゃ………………何よ
突きつけられた二つの薬缶を不承不承の体で見比べる遠坂の表情は徐々に強張っていく。
「在り得ない………何者よ、アイツ………!」
怒りとも、畏れとも取れない遠坂の呟き。やはりこの薬缶は、洋の東西を問わず
「信じられない……。セイバー、貴女この事に
「………いいえリン、私は騎士であって魔術師ではありません。ここには違和感があっただけで、先生やリンほど状況を把握しているわけではありません」
まるで八つ当たりのように、苛立ちを纏った声で遠坂が問いを投げ、それを受け取ったセイバーは僅かに戸惑い気味に応える。
然もあろう、この薬缶は
否、
「一体何なのよアイツ……!」
苛立ちを通り越して怒り、怒りを通り越して憎しみさえ籠った声で、遠坂はここにいない衛宮に吐き捨てた。
これは一服なんぞしてる暇は無い。衛宮が戻ってきたら徹底的に絞り上げねばなるまいて……………。
「ど、どうしたんだよみんな……。そんな怖い顔してさ………」
湯呑を人数分乗せたお盆を手に土蔵に戻ってきた衛宮は、俺たちの纏う敵意或いは殺気に満ちた雰囲気に顔面が蒼白になっていた。
「衛宮、ちょっとここ座れ」
たった十数分の間に一体何が起きたのか理解しかねず、あまつさえ剣呑な空気の矛先が自分に向けられている事を肌で感じた衛宮は、反論する事無く素直に従った。
「衛宮、
「何って、薬缶だろ?」
「んなこたぁ分かってる。俺が訊きたいのは、なんで
両手に掲げ持った二つの薬缶。それらは本体の角に着いた凹みも傷も、ましてや使い込んで生じた「焼け」も寸分違わず同じなのだ。
このような物は物理的に在り得よう筈もなく、かと言って魔術によって為し得た物であると言うのであれば尚在り得よう筈もない。
「何でって………ああ、それは強化の練習の息抜きに、こう、イメージした物を粘土なんかを捏ねる様に作って………って遠坂、さっきから余計顔が怖くなってるんだけど………」
「当たり前よ!魔術ってのはね、結局は等価交換なの!どんな神秘だって、余所に在るモノをここに持ってきて使っているだけなの!でもこれは違うわ!アンタは何処にもないモノをここに持ってきてしまってる!ここには在ってはならないモノをカタチにしている!これがどういう事か解ってるわけ!?」
「どういう事って、これって投影魔術じゃ………」
「全然違うわよ!いい?投影魔術ってのは、あくまで手持ちに無いものを、その時だけ使う為のものよ!」
“投影魔術とは、その場限りの代用品を作る魔術”というのが
日用品然り、太古の遺物然り、本物を寸分違わず想像出来れば、魔力で一時的に組み上げられる。
俺が
しかし魔力というものは、例えればアルコールやドライアイスのように“容易に気化”するものであり、魔力によって組み上げられたモノは、魔力の気化に応じて消えていくのが必定だ。
であるが故に、衛宮の「
「
おいおい………今の一言は、完全に火に油を注いだぞ…………。
「…………衛宮君……それ、他の魔術師には絶対言っちゃダメよ。間違いなく殺されるわ」
「殺される」と忠告する遠坂の表情は、むしろ「自分が殺す」と言ってるようなものだ。衛宮を絞り上げてやるつもりだったが、助け舟を出してやらんと遠坂が行動に移しかねんな…………。
「あのな衛宮。投影魔術にしろ何にしろ、魔力で組み上げたモノってのは、魔力が気化すると同時に消えるものだ。どれだけ強い魔力であってもそれは変わらん。そこまでは分かるよな?」
「ああ………」
「成程、イメージや幻想そのものは等価交換も何もないから、それらを基に組み上げた投影魔術も、一見等価交換とは無関係に見えるが、気化する魔力と言う“同等の対価”を払って成立させている以上、等価交換もまた成立しているというわけさ」
「っと、つまり”本来の投影魔術“は、魔力が気化したと同時に消えるから、俺の投影魔術は“本来の投影魔術”とは違うって事か?」
「魔術の
“常識”という単語は“個別の価値観を、総体の価値観と錯誤して”用いられる場合が多分にある。
人間社会というものが個の集合体で成り立っている以上、大小様々なコミュニティの中に於いて、一定水準の価値観は共有して然るべしと言う認識は間違っていないが、それも度を超すと“多様性の排除”という忌むべき結果になりかねない。
衛宮の「自称」投影魔術は、言わば
しかし……………
そう言った“
その“規格外”を磨き上げて“規格品”を上回る価値を生み出す事が叶えば、それは何と痛快な事だろうか。
その往く先を見てみたいと言う欲求が、俺の中でムクムクと
最初の内こそは、迷いながらも自分の進むべき道を模索し成長してゆく為に、何よりこの聖杯戦争を戦い抜けるだけのレベルに育てようと考えていたが、こんな
「常識ついでに言えば、投影によって編み上げられたモノ、幻想は一日だって世界には留まれない。そんな幻想は、世界そのものが許さないのよ」
「?世界そのものが許さないって、どういう事だ?」
「幻想は幻想だから何でもありなの。それがもし形を得てしまったら、それはもう現実でしょ?けど現実にはそんな物は存在しない。その矛盾を解消する為に、現実が幻想を潰しにかかるのよ」
魔術とは端的に言えば、元からあるものに手を加えて違うものに切り替える現象、世界の何処かに在る実物を目の前に持ってきて使う事だ。
幻想そのものに等価交換も何も無いと言うのも先の話の通りであるが、イメージで形作られた物が世界の何処にも無い場合、それは絶対の矛盾になる。
生物が己の命を守る為に自己防衛を最優先させる様に、世界とて秩序と言う命を守る為に自己防衛を最優先する。
秩序と言う命を脅かす矛盾と言う外敵。現実を侵食する想念であるそれに対し、世界そのものが破壊しにかかると言う訳だ。
「それを“修正力”って言ってな、コレが“本来の投影魔術”で生成したモノなら、ものの数分と経たないうちに“修正力”によって消え去って然るべしなんだが、この薬缶はその“修正力”が働かずにいつまでもここに在る。こんなの“魔術”よりも“魔法”に近い代物だ。
“等価交換”という絶対的な法則の埒外にある衛宮の投影魔術は、“魔術師”としての立場からすれば
だが、この
そして、生徒の“個性”を尊重して伸ばすのは、“教師”として取るべき道であろう。
「とは言え、投影出来るのが薬缶だけってのもアレだな。衛宮、これ以外のモノ、出来れば武器になる様な物は投影できるか?」
遠坂のようにガンドや宝石魔術と言った戦闘向きの魔術はおろか、サーヴァントを支援する魔術を会得していないであろう衛宮であれば、その戦闘スタイルは白兵戦を主体とした物理攻撃になる事は明白だ。
であれば、衛宮のこの“異能”とも言うべき“個性”を以て武器を投影出来れば、衛宮自身が聖杯戦争を戦い抜き、更にその先に進む為の“武器”にもなり得るかもしれない。
「ああ、それなら俺も試してたんだ。でも、昔から外見だけは出来るんだけど、中身は空っぽでさ、
強化だけしか使えない。そう発言する衛宮に対し、遠坂が一言物申すべく口を開きかけたが、今はそれを指摘すべき時ではないので軽く手で制し、彼女もそれに従って言葉を飲み込んだ。
「薬缶みたいに目の前に在るものなら、こう、材質とか構成を読み取ってそれなりに生成出来るんだけど、イメージだけだとてんでダメ。ちょっとぶつけただけで消えちまうんだ」
まぁ、物体の構成要素なんかを読み取るのは初歩の初歩だな。それなりの魔術師でも、目の前に在るものなら一目見ただけで本物と寸分違わない物が投影出来るし、イメージだけならそれなりの物が出来上がる。
衛宮の言から推測するに、突出しているのは“修正力”に干渉されないモノを投影する“結果”だけのようで、その“結果”へ至る“過程”は全くと言って良いかもしれん。
「まぁ、百聞は一見に如かずだ。先ずは俺の
であれば、その“過程”の問題点を見つけ、改善する事により、衛宮の投影魔術の完成度は飛躍的に向上する筈だ。そして実物の武器を投影するに、手近に在る武器と言えば俺の刀しかないので、それを衛宮に手渡す。
「あ、ああ…………
魔術回路に魔力を流し………って、え?
「ちょっと待って衛宮君!」
「え?なんだよ遠坂、急に」
俺が口を開きかけるよりも一瞬早く、遠坂が衛宮を制止した。
然もあろう、衛宮は魔術回路に魔力を流し込む工程の前に、
「貴方、わざわざ魔術回路を一から作るなんて真似をしてたの?」
「え?そういうもんじゃないのか?」
「………はぁ……呆れた………貴方のお父さん、そんな基礎も教えてなかったのね………それとも、貴方のお父さんも同じ勘違いをしてたのかしら………?」
あの
俺の知る限り、切嗣は
「もしかして、これって違う方法なのか………?」
「当たり前じゃない!まったく、よくそんな間違った方法で魔力を生成できるもんだって感心するわよ!こんな基本的な問題を抱えたまま鍛錬してきたアンタにも呆れてるし、間違いを正さなかったアンタの師には殺意さえ覚えるわ!」
遠坂がお冠になるのも無理もない。徒弟制度を以て重代の魔術を継承する以上、教え子の間違いを正すのは師匠の責任であるが故に、間違いを正さずにいた切嗣に対して、遠坂が怒りの矛先を向けるのも尤もな話だ。
切嗣がどういった意図でこんな出鱈目な方法を教えたのか、当の本人が鬼籍に入っている以上、何某かの意図の存在に気付いた生者が類推するより他ないのだが、今は
「うーん………遠坂、すまんがその辺り、衛宮に一から教えてやってくれ。さすがにこのレベルじゃ、俺に教えられる事は無いわ………」
「そうね……まさか衛宮君がここまでへっぽこだとは思わなかったわ………」
「へっぽこって………」
「何故でしょうか?先生は魔術師としても一流とお見受けしました。であれば、シロウに魔術を基礎から教えられるのではないのですか?」
セイバーの疑問は尤もな事だ。だが同時に、
「それは違うわセイバー。確かに先生は“超一流”と言っていい魔術師だけど、先生は“陰陽師”と言う東洋魔術を行使する魔術師って事がこの際は問題になるの。で、衛宮君の魔術はどう見たって西洋魔術の流れを汲んでいるのよね」
「東洋魔術の基盤は基本的に宗教でな、“魔力を使って魔術を行使する”って言う大枠では一緒なんだが、魔術回路の立ち上げ方一つ取ってしても、西洋魔術のそれとは全く、それこそ両の足で“走る”為の技術と、馬に乗って“走る”為の技術ぐらいに違うんだ」
魔術を行使するにあたり、西洋魔術は“自己を変革し神秘の力を行使するもの”であり、東洋魔術は“信仰の対象への祈りを以て神秘の力を借り受ける”とされている。
従って“信仰心”こそ東洋魔術の根幹と言って良く、衛宮が突如信仰に目覚めたのであれば兎も角として、一朝一夕に会得出来る代物ではない。
魔術回路の有無はさて置くとして、衛宮よりも生徒会長であり寺の息子である柳洞の方が、東洋魔術を習得するに足る基礎が出来上がっているとさえ言えよう。
俺も一応時計塔で西洋魔術の基礎は学んできたが、それも基礎止まり。であれば、西洋魔術に限って言えば、俺よりも遠坂の方が一日の長があると言うものだ。
「そうだったのですか………」
「兎に角、衛宮君の魔術回路が
「ああ遠坂、この様子じゃ自分の属性も知らんと思うから、ついでに“聖別”もやっちまいたいんだが、道具あるか?」
「んー………
こらこら、古今類を見ない企みを含んだ笑顔でチラチラ見るんじゃない。
だが一介の女子高生に、高価な物を無償で提供しろだなんて言える筈もない。何しろ「魔術は金食い虫」で、宝石魔術はその最たるものだしな。
「わーったわーった、精々吹っ掛けてきやがれ」
「よっし!毎度、ありがとうございまーっす!」
終ぞお目にかかった事の無いと言い表しても過言ではないガッツポーズを決め、鼻歌交じりにスキップしながら遠坂は道具を取りに行った。
一体いくらの値を付けて来るものやら、と内心で不安になる反面、
後日、栞に遠坂から指定された口座への振り込みを頼んだが、請求額より
俺が渡したメモ自体、
遠坂がドロップ缶のような物と古びた包み紙に包れた何かを手に戻ってきたのは、それからほんの十分程だった。
「衛宮君、手、出して」
言われるがままに衛宮が手を出すと、遠坂は缶を振って赤っぽいドロップを出した。いや、アレはドロップじゃないぞ……………。
「はい、それ呑んで」
呑ませるのかよ…………。
衛宮も訳が分からないと言った表情だが、言われた通り口に運ぶ。
「………甘くない…………ん……………がっ!痛っ!食道がヒリヒリするんだけど、今のは何だよ遠坂!」
「何って、宝石に決まってるじゃない。見て判らなかった?」
宝石と魔術の関係は人類史とほぼ同じぐらい古い。古いが故に幻想を纏い、古来より王の象徴であったり、錬金術や錬丹術等で不老長寿の薬として用いられたりした。
確かに今の衛宮にはこの方法が最適解なのかもしれないが、しれっと同級生に宝石を呑ませるなんて、なかなかにエグイことするな
「なんでさ!?」
「仕方ないでしょ。薬も用意してきたけど、衛宮君を矯正するにはそんな物じゃ効かないの。だから一番強いので
魔術回路を作るのは
だと言うのに、衛宮は毎回一から魔術回路を作って自分の中に組み込むと言う、一歩間違えば死の危険性を孕んだ方法を取って来た。
それは例えるなら、振ればすっぽ抜ける様な竹刀の握り方で、足捌きも何もない棒立ちのまま、ただ上下にブンブン振るだけの素振りと一緒だ。どんなに繰り返したって上達なんて見込めよう筈も……………………………。
あの
衛宮は「切嗣のような正義の味方になりたい」と言っていた。
あの厄災の中、自分を救い出した男に深い憧憬を寄せ、斯く在りたいと願い、目指してきた。
そして「自分がなりたい自分」を目指す道程の最中、道無き道を切り拓く為の“強さ”を
それは危険な考えだ。
魔術というものは“力”だ。容易に人の命を奪う事が出来る厄介な部類の。
魔術に“力”を求めてはならない。
”力”には善悪美醜は介在しない。
“力”とは
魔術に力を求めるなど、玩具みたいなナイフを見せびらかして、薄っぺらい己の“強さ”を誇張して粋がる莫迦ガキと何ら変わりはせん。
魔術というものは、連綿と続けられる命の成果に他ならない。魔術師の家に子を授かったその瞬間から、その子供は後継者でもあり伝承者ともなる。
そして、長い年月と厳しい修練によって別のモノに変えると言うのが魔術師と言う家系の義務だ。
だが切嗣は、
魔術師なんぞ「石を投げれば当たる」とまでは言わんがいくらでも居るし、その中には
だが、
だから
しかしな切嗣…………。
お前も莫迦だが、お前の息子も相当な莫迦だぞ。
意味もない、役にも立たない出鱈目な方法を、ひたむきに、愚直に、命懸けで続けてきやがったんだからな……………。
だがまあ、そんな出鱈目を最後までやり通したんだ。
やり方は出鱈目でも、積み重ねたその努力、培われた不屈の根性は紛れも無く“
そこまで意思を貫き通した
今の
………ったく、ホント
「魔術絡みで累が及ぶような事があったら守ってやって欲しい」だなんてよ、こういう事だったのかよ。
……………わかったよ。
お前の息子は、俺が立派な魔術師に育ててみせるさ。
だからよ…………。
後でぶん殴ってやるから、
それで………またあの時のように一献酌み交わそうや。
さて、遠坂に宝石を呑まされて魔術回路の
「大丈夫ですかシロウ?ゆっくりと、呼吸を整えてください」
流石のセイバーも心配になったのだろう、衛宮の背中を擦り始める。
「はぁ…………はぁ……………ありがとうセイバー、だいぶ……楽になったよ………」
「ちょっと待ってよ………普通なら半日は喋れない筈なのに…………ふぅん、これなら思ったよりも早く元に戻れるかもね」
遠坂が驚くのも無理もない。無理矢理魔術回路をこじ開けたなら、常に全力疾走を余儀なくされているようなもので、衛宮のようにスイッチのオンオフもままならない者であれば、会話どころか痛みと熱でのたうち回ったって不思議ではない。
衛宮は自身のコントロールが存外に上手なのか、それともセイバーとの
「………いや、スイッチだなんて言われても、全然実感わかないぞ、俺」
「今はそうだけど、その内明確にイメージ出来るようになるわ。頭の中にポンってボタンが浮かぶようになるから。あとはそれを切り替えるだけで、とりあえず魔術回路は簡単に開けるようになるわよ」
「………だと良いけどな………」
「いい?魔術師を名乗るなら、それぐらいは必須条件なんだから。マスターとして戦うって言うんなら、スイッチのオンオフは、きっと衛宮君の助けになるわ」
「判ってる。不意打ちだったけど、遠坂には感謝してる。確かに、スイッチなんて物が実感出来るようになるなら、それはプラスだからな」
「………判ってるじゃない。けど感謝なんてされる謂れなんてないわよ。協力者であるアンタが弱いままだと困るから手助けしてるだけなんだから」
やれやれ、素直じゃねえなぁ。
まあ、何だかんだ言ってはいるが、遠坂も魔術師にしては根が善良なんだよな。ただ、悪い言い方をすれば体面を気にしていると言うか、他人に対して素直になれないと言うのが玉に瑕ってヤツだな。
幼い頃に両親を亡くし、兄弟子を後見としながらも、一人でその双肩に
「んじゃ、衛宮も落ち着いてきた事だし、衛宮の魔術回路を見てみるとするか」
衛宮の背中を擦っていたセイバーに場を譲ってもらい、衛宮の背後で結跏趺坐してその背中に手を当てる。
目を閉じ、意識を掌に集中して、衛宮の中に溶け込むイメージを広げる。
………魔術回路の数は………二十六、いや二十七か………。初代の魔術師としては多いな。ひょっとすると、生みの親どちらかの家系が魔術師だった可能性も無くはない。
だが、魔術回路の数は多いに越した事は無いが、多ければ良いと言うものではない。
大事なのは、研鑽し積み上げてきた知識や技量をバックボーンとした“魔力を制御する能力”であると言って良い。
事実、時計塔の最高位である「
それにしても…………
興味本位でこれ以上潜るのは危険だと本能が警報を鳴らしている。それは“生命の危機”と言う類のものではなく、“人の身でこれ以上踏み込むこと能わず”と、何某かの高位の存在から警告されているかのような感覚だ。
兎に角、必要な情報は得た事だし「好奇心は猫をも殺す」と言うし、これ以上は踏み込まずに戻った方が得策だ。
「先生、どうでした?」
「ん?ああ、まあ、初代の魔術師にしては多い方だが、重代の当主には及ばないってところだな」
「ふぅん、じゃあ次は衛宮君の属性を調べましょ」
そう言って遠坂は古びた包み紙を広げ、その中に仕舞われた香を焚き始める。
「うわっ!なんだこれ………ひどい匂いだ…………」
「当たり前でしょ。アロマとかじゃないんだから」
属性とは魔術師個人が持つ要素で、これを知ることにより、どのような特性の魔術と相性が良いか、どのような特性を持ちやすいかを定めている。それを“聖別”という、キリスト教に於ける儀礼を
「衛宮、属性ってのは何か知ってるか?」
「馬鹿にするなよ、それぐらいは知ってる。火、水、風、土の四大元素に、空と架空元素とかってヤツを加えたヤツだろ?」
「正解。通常は一人につき一つの属性なんだがな、中には二つ以上の属性を持った魔術師もいる。歴史の長い家門の当主なら、結構な割合でいるな」
「じゃあ、先生も二つ以上あるのか?」
「東洋魔術の場合はちょっと違ってな、
「そうか、先生は“火”の属性があるから、この前の黒い影との戦闘では“火”の魔術を使っていたし、“金”の属性もあるから
「まあそういう事だ。その五大元素の属性を基本として、そこに“強化”や“投影”と言った「特性」を加える事で用途を広げる。“火”を“強化”すれば火の勢いが強まる。“金”を“投影”して刀を出すって具合にな」
「という事は、俺は“強化”と“投影”って“特性”を持ってるから、“属性”が判ればそれに則った魔術で戦えるってわけか」
「調子に乗るなよ
「そう……だよな………悪い、ちょっと気が急いてたようだ」
魔術回路が開きっぱなしで熱を持ってるからか、思考も熱っぽくなっていたようだが、意外に冷静に自分を見つめる事が出来るようだ。ふむ、やはり
それにしても、儀式の準備をしていた遠坂の手が止まって何やらモジモジしているな………。
「遠坂?………もしかして、トイレ行きたいのか?」
「!そんなわけないでしょ!」
衛宮よ………花も恥じらう年頃の女子に、それはデリカシー無さすぎだろ…………。
俺もそうとは思ったけど、さすがに口に出せる筈も……………あ………マズイ………。
「あ………遠坂、すまん…………俺、余計な事口走っちまった…………」
魔術師というものは自分の魔術は隠し通すべきものなのだ。
それは無論“敵に手の内を明かさない”と言う事もあるが、魔術はある意味「学術」に近しいため、“自分の家が重ねてきた研究を横取りされない為”に、自分の魔術は言うに及ばず、属性や特性も隠し通すのが魔術師の不文律だ。
「遠坂、今のは聞かなかった事にしてくれ………俺が口を滑らせただけだから…………だから、お前も言わなくていいから………」
そして魔術とは“等価交換”が原則である以上、手に入れたモノには同等の対価を払うのが鉄則だ。
「……………私の属性は、五大元素全部………特性は、簡単な力の蓄積。流動変化、色々な物に魔力を転換して保存しておけるの………」
天性の素養があるわけだし、長ずれば、遠坂は時計塔でも屈指の魔術師になるかもしれんな。あとは
「ほら!どうせ衛宮君の属性だって判っちゃうわけでしょ!?だから………私だけ秘密にしておくってのはフェアじゃないと言うか………」
遠坂は借りっぱなしが嫌いな
「んじゃ、俺も遠坂に倣ってフェアに行くとしようか。属性はさっき言った通り、火、風、土の三重属性。特性は………陰陽師だから大方想像はついてるだろうが、奇を
「ふふ、あんなド派手な魔術使うから、どんな特性なんだろ?って思ってたら、案外普通ね」
「だろ?俺は元々の魔力量が頭抜けてるから、力でゴリ押しでってヤツさ。さあ、暴露大会はこれにてお終い。遠坂、儀式の準備続けてくれ」
「りょーかいです」
“借り”が無くなってすっきりしたのか、遠坂の笑顔は明るい。
しかしその反面、衛宮の表情はなんとなく曇っている。また俺、なんか口滑らせたか?
「…………魔術って、そんなに隠し通すものだったのか?」
「……………衛宮君、それ、本気で言ってるの?」
正に「青天の霹靂」と言うか、青空の様な遠坂の笑顔が一瞬にして雷雲に覆われ、今やとんでもない雷を落とそうかと言わんばかりの表情に変わる。むしろ嵐が起きる前兆のようだ………。
「魔術は必死になって隠すようなものじゃないって
「!…………本気でそんな事言ってたの………?」
「ああ、あんまり規則に囚われるなって言いたかったんじゃないかな。止めたければいつでも止めろって口癖だった」
「ふざけないで!あなたの父親は魔術師じゃないわ!そんなヤツに鍛えられた貴方も、魔術師なんて認めないから!」
「何怒ってるんだよ?確かに俺は魔術師なんて名乗れないけど、
「私が言いたい事はそういう事じゃない。私が言いたいのは………………その…………………そうね、衛宮君の未熟っぷりには文句あるわよ」
「仕方ないだろ。
「ええ、それが独り身の魔術師の限界ね。魔術師なんていつ死ぬか判らないんだから、魔術刻印を残すんだし………私が頭に来たのはね、その辺りの努力を全くしなかったあなたの父親によ………」
同じく独り身の俺には耳の痛い話だが、一応は亡き友人の名誉の為に一言申し上げるとしますかねえ………。
「確かに、跡継ぎに関して言えば、
少年期に父親が急死し、魔術刻印をいくらも受け継げなかったと言っていたが、それを取り戻すと言う素振りは一切見せなかった。むしろ
しかし、目的の為に
「…………まあ、一言で言えば
「………そっか………魔術師としての衛宮君のお父さんとの付き合いは、先生の方が長いんでしたね………。でも、一人の父親としての付き合いは衛宮君の方が長い………衛宮君のお父さんは、魔術師である前に、親である事を取ったのね…………」
遠坂も“父親”という存在に何某か思うところがあるのだろう。先程とは打って変わって、その表情は物憂げだ。
「………すまん遠坂、変な事聞いちまって」
「え?ああ、良いわよ。それぐらい。衛宮君のへっぽこ振りなら、それぐらい無知なのも仕方ないかなぁって」
「お前なあ………」
やいのやいのと軽口を叩き合い(九割方遠坂が軽口を叩いているが)つつ、衛宮と遠坂は“聖別”の儀式を進める。
俺と切嗣も、あんな感じだったな………。
天井を仰ぎ見、過ぎ去った遠い日に思いを馳せる。
珠ねえの喪が明けた後、俺は逃げ出すように日本を離れ、世界各地を転々としていた。
喪失感からなのか、それとも罪悪感からなのか、俺の精神の奥底にはある種の“自殺願望”がしつこく横たわっている事だけは自覚していて、その身を中米の紛争地帯の只中に置いていた時、俺は衛宮切嗣という男と出遭った。
最初の内こそは
優しすぎるが故に、世界の残酷さを看過できず、それに抗おうとして、誰よりも冷酷になろうとしていただけだった。
戦場を離れた
「
ぼそりと口を衝いて出た呟きは、年若い魔術師達の耳には届かなかったようで、二人は聖別の儀式を進め続けていた。
突如、土蔵の中に甲高い電子音が響き渡る。俺の携帯電話が鳴っているのだ。
誰からの電話かとディスプレイを見ると、
『お
明らかに緊迫した声が、俺が出る事によって安堵の声に変わった。何か良からぬ事でも起きたのか、背筋が僅かばかり凍り付く様な感覚に襲われる。
「どうした?何か起きたのか?」
『お兄今どこにいるの?衛宮君の家?』
「ああそうだけど」
『良かった、何度電話鳴らしても誰も出ないから、お兄の携帯にかけたんだけど………』
美彌から告げられた事態は、確かに良からぬ事だった。
「衛宮、遠坂、今日はここまでだ。すぐ出かける支度をしろ」
だがその事態は、俺にとって重要事ではあるが、目の前の二人にとってはより重要事だった。
「?」
「なんでさ?」
儀式を中断してでも出かけるべき用件の発生に、二人ともその理由に思い至る事が出来ず不思議な顔を浮かべている。
いかんいかん、我知らず気が急いて説明を省いてしまってた。一息吸って落ち着けて二人に何が起きたのかを告げる為に口を開いた。
「間桐が病院で倒れたそうだ」
前回の投稿以後、近畿方面へ旅行に行ってました。
ええ、リアル遠坂邸の「風見鶏の館」に行ってきましたよ('-'*
物販コーナーでは、バビロニアアニメ放送開始と言う事もあって、マーリンやアナ、エルキドゥの折り紙人形が飾ってあったり、ZEROのED曲のオルゴールアレンジがBGMで流れていたりと、なかなかに遊び心が取り込まれていました。
取っ掛かりはFateですが、風見鶏の館という建物そのもののデザインは、すごく自分の心に刺さるものがありましたね。
ちなみに車で行ったので、リアル冬木大橋の「神戸大橋」も走ってきました。
背景グラフィックと全く同じだったので、妙にテンションが上がりましたよ。
さて、次回は……
・ある意味フラグクラッシャー
・やっぱりアンタか
・営利誘拐未遂事案発生
以上の予定です。