Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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前回以降、新たなお気に入り登録ありがとうございます。

お待ちいただいた方々には、随分を間を開けてしまい申し訳ありませんでした。

年末年始に渡ってリアルでかなり忙しくなり、執筆に時間を割けなかったのですが、それも落ち着いてきましたのでようやく投稿できました。

さて、今回は短いですが、拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。


#044 interlude~悔恨~

———「常に余裕を持って優雅たれ」それが遠坂家の家訓である———

 

 子供の頃、第四次聖杯戦争が始まる直前、魔術の鍛錬に失敗して泣きそうになった時、お父様が手本を見せながら語った言葉だ。

 

 それからの私はお父様の教えを守り、努力を怠らず、その時出来る事を全力で、かつ優雅にやって来た。そのお陰もあってか、学園生活では常に一番だったし、遠坂の名に恥じない生き方をしてきたと自負していた。

 

 なのに…………

 

「……………なんで、あんな事言っちゃったんだろう……………」

 

 冬木旭奈会(きょくないかい)病院の一画、非常階段の片隅に腰を下ろし、膝を抱えている。

 

 偶然耳にしてしまった現実。

 それを覆す事の出来ない自分の非力さ。

 あまつさえ、ちっぽけな虚栄心を満足させる為に、感情に任せて八つ当たりする自分の稚拙さ。

 そんな自分がものすごく厭になって、私の気分は海溝の底に沈みきっていたのだ。

 

「こんなの、お父様には見せられないな………………」

 

 いない人(おとうさま)に縋ってしまいそうになっていた自分を自覚し、自己嫌悪の底の更に底に潜った私は、大きな溜息を一つついた。

 

 

 

 あの子の詳しい病状を美彌(みや)先生に訊こうと診察室に向かったところ、そこにはあの子の担任の朝比奈先生と、そのサーヴァントである栞さんの三人が、あの子の事について話をしていた。

 

 一体何を話しているのか?最初はほんの興味本位だったけど、耳を(そばだ)てて聞いている内に、あの子が昏倒する原因が“聖杯の器”として機能し始めて、過剰な魔力に肉体が耐えられない事が、それは現代の医学や魔術では処置不可能である事が、そして場合によっては、あの子が何物かに変じてしまうかもしれないと言う事が、私の膝から力を奪っていった。

 

 なんで?

 なんでなの?

 間桐の家は魔術回路が無くなって断絶寸前だったからって、あの子が間桐の養子に出されたのに…………。

 

 それなのになんで………………。

 

 頭の中がグチャグチャにかき回されて、何も考えられなくなって、私は()()()()()()()()()、気付いた時には屋上のフェンスを力任せに叩き続けていた。

 

 なんで………

 なんで…………

 なんで……………

 なんで………………

 

 なんでなのよぉっ!!

 

 なんであの子が聖杯の器なんかに!!

 

 なんであの子がそんな目に遭わなきゃいけないのよ!!!!

 

 臓硯を斃せば、あの子を縛るものは何一つ無くなる。

 あの子が間桐の養子になってからは、あの子との接触はお父様に禁じられていた。

 だけど、お父様の教えを破る事になろうとも、大切なものを取り戻せるなら、今は何の後悔もない。

 

 やっとあの子を取り戻せると思っていた。

 やっと失われた十一年の時間を取り返す事が出来ると思っていた。

 公園で一緒に遊んだあの日の様に、またあの子と一緒に過ごす事が出来ると思っていた。

 

 それなのに………………………

 

 喉が枯れるまで叫びたかった。

 体が枯れるまで泣きたかった。

 

 これはお父様の言いつけを破った罰なのか?

 そんな在りもしない抽象的なモノなんて、普段なら歯牙にもかけなかったけど、今の私はそんなモノにさえ心の大半を支配される程に打ちのめされていた。

 

 だけど……………

 

 長年に渡って染み付いて来た家訓が、育まれた矜持が、それを許さなかった。

 

 いや、()()()()()()()()()……………。

 

 自分の魔術師としての部分がアタマに来るくらい冷静に、噴き出した無念に、後悔に、まるでバケツに入った水を頭からかぶせるように鎮めてしまっていたからだ。

 

 そして()()()()()()()()が言うのだ。

 “()()()()()()()()()()”と………。

 

 私のなすべき事?

 私?

 私って誰?

 

 遠坂凛として?

 魔術師として?

 

 そんなの、私が誰であっても、あの子を助けたいに決まってるじゃない!!!

 

 臓硯を斃すだけじゃダメだ。臓硯(アイツ)をボコボコにして、何としてもあの子を元に戻す方法を聞き出して………

 

 ダメだ…………

 

 不測の事態に備えて、あの子に謂わば“安全装置”の様なモノを組み込んでいたとしても、それはあの子の命そのものを考慮しての事ではない。

 臓硯にしてみれば、自分以外は使い捨ての道具にしか過ぎず、なにもそれは臓硯に限った事ではなく、魔術師と言う人種は大抵がそういう考え方だ。

 

 第一、五百年もしぶとく生き永らえてきた臓硯(アイツ)は、脅されてホイホイ白状するようなタマじゃない。仮に臓硯(アイツ)を追い詰めたとしても、手練手管の限りを尽くして逆転の一手を打ってくるに違いない。

 権謀術数に於いて臓硯(アイツ)を上回れるなどと自惚れてはいない。業腹だけど、今の私では勝ち味が薄い。

 

 なら他の方法は?

 

 臓硯は倒すと言う方針に変更はない。むしろそれは前提だ。

 だけど、そこから先の手が思いつかない。

 それこそ聖杯の奇跡にでも…………

 

 そうか………

 あの子が“聖杯の器”になっているからと言っても、()()()()()()()だって存在している。

 残り五騎の魂が()()()()()()()に……………

 

 ダメだ……………

 

 普通にサーヴァントを倒したからと言って、その魂があの子の器に行かないなんて保証は無い。上手くいけばそれで良いけど、そうでなければ……………

 

 あぁ、もう!

 どうしてこうも取り留めの無い事ばかり考えるのよ!

 

 まだ何か方法はある筈よ………!

 考えなさい………!考えるのよ…………!

 

 私は遠坂の魔術師よ!

 何時だって、華麗に、優雅に、余裕を持ってやって来たじゃない!

 

 そう心の中で叫んでいたその時、背後から声をかけられた。あの人のサーヴァントだ。

 やっぱり、私が立ち聞きしていた事に気付いちゃうわよね……………。

 

 それにしても、なんでこの人たちはあの子の事を調べているのか?私でさえ「もしかしたら」と言う「推測」レベルだった事を、既にこの人たちは「確定」レベルまで調べ上げている様子だ。

 以前から疑問に思っていたけど、全くの無関係だったこの人たちが、いくら宗主があの子の担任だからと言っても、ここまでこの人たちが行動すると言うのは明らかに異常だ。

 

 確かにあの子の使い魔と目される“黒い影”は、虚数空間を展開して何でも飲み込んでしまうと言うあの能力もさることながら、神秘の隠匿という面に於いても危険な存在である事は間違いない。

 魔術師としての道理に従ってと言う名目も立ちはするだろうけど、それは管理者(セカンドオーナー)の役目であって、何もこの人たちがすべき事ではない。

 道理の分からない新興の魔術師ならともかく、そこいらの魔術師じゃ足元にも及ばない程に歴史を重ねてきた名門の魔術師たちがそれを知らない訳じゃない。

 

 いくら数年後に執り行う実験の為に、遠坂(ウチ)と盟約を結んだからと言っても、この人たちの行動は不自然過ぎる。情報支援を名目にしていたとしても、事前に一言言っておくなり、あの場に私も同席させるなりして然るべしだ。

 

 この人たちは同盟者(わたし)にさえ秘密にしておかなければいけないような事を企んでいるのか?

 この人たちに対し、そんな疑念が浮かび上がって来た。

 

 しかし、我ながら甘い考えだと分かってはいるけど、この人たちの今までの言葉や行動は、()()()()()()()()()()全幅の信頼を寄せて良いとさえ思っている。

 

 

 いや、そう()()()()()()()()なのかもしれない。

 

 

 遠坂の魔術師としての私は、この人たちの行動に疑念を抱きつつある。

 しかし遠坂凛個人としては、この人たちを信頼したいと思っている。

 二つの相反する思いが私の中で(せめ)ぎ合っている。

 

 だけど、いつまでもそんな事をウジウジ考えていたって仕方がない。

 最初に湧き起った疑問をぶつけてみればいいのだ。それでこの人がどう出るかで決めれば良い。

 

 そして………………

 

 

 

 

 …………………この人たちは何かを隠している。

 この人たちが何故臓硯を自分たちの敵と認めたのかは知らないけど、それはあくまでも建前でしかない。

 

 なんか……………だんだんムカついて来た……………。

 

 私では臓硯(アイツ)に勝てっこないから、代わりに斃してやるとでも言いたいわけ?

 そう…………要するに、私は()()()()()()ってわけね。

 

 コレは聖杯戦争よ。臓硯(アイツ)がどんな手段で参加したとしても、歴とした聖杯戦争のマスターである以上、臓硯(アイツ)を斃すのはこの人たちじゃない。

 代々受け継いだ冬木の管理者(セカンドオーナー)として、遠坂の魔術師として、そこに戦いがあるから戦う。戦うからには負けてやるつもりなんて微塵もない。

 

 確かに今の私には、臓硯(アイツ)に対して必勝と言える手段はない。

 だけど、それがどうしたと言うの?

 

 勝ち目も無いのに勝負を挑むなんて無謀な真似はしないけど、それでも戦いに背を向けるなんて真似はしないし、するつもりもない。

 

 この人たちにとって臓硯が斃すべき敵であったとしても、私にとっても臓硯は斃すべき敵なのよ!

 

 感情に流されるがまま一気にまくし立てた。

 しかしこの人は、驚きもしなければ、怒る事も笑う事も無く、只々心の奥底まで射抜くような目で、私を見つめているだけだ。

 

 キッとその目を見返す。私にだって譲れないモノは在る。

 臓硯(アイツ)を斃して、私があの子を助ける!

 どんな手を使ってでも、力の限りを尽くして!

 

 

 

 

 だけど……………

 

 そんな目で、私を見ないでよ………!

 

 そんな目で見られたら……………

 

 無理矢理ねじ伏せた不安と恐怖が、また起き上がって来るじゃない………!

 

 しっかりしなさい!私は遠坂の魔術師よ!

 

 それでも、もしもあの子が暴走するようだったら、その時は管理者(セカンドオーナー)としての責務を果たさなくてはいけない。

 たとえそれがあの子の命であろうとも、魔術師なら誰かの命を奪う事を躊躇ってはいけない!

 

 魔術師の家に生まれた者として、誇りと責務と、そして罪を背負って行かなくてはいけないのよ!

 

 たとえあの人との盟約を反故にする事になろうとも、私は…………

 

 

 進み続けるしかない!!

 

 

「どれだけ力が在ろうとも、人は一人では成し得ぬ事がある。と言う事だけは忘れないでください」

 

 そんなの言われなくたって判ってるわよ!

 だけど、これは私がやらなくてはいけないの!

 一人の魔術師として、いえ、遠坂の魔術師として、貴方達と対等である事を認めさせなければいけない!

 

 私は、()()()()()()()()()()()()()()()()()!!

 

 

 

 なーんて、冷めた頭で振り返って見ると、自分でも「バカじゃないの?」って言いたくなるぐらいの事を口走ってしまったなと、さっきから悔恨の念に駆られっぱなしなのだ。

 

 なんでそんな事をしたのかも判ってる。

 魔術師としてとか、管理者(セカンドオーナー)としてとか、そんなのただの口実にしか過ぎない。

 私は、()()()()()()()()()()()()()()」と思ってしまっていたのだ。

 話には聞いていたけど、まさかコレが、こんなにも厄介なモノだったなんてね…………。

 

 だけど、その前には強固な壁が立ちはだかっている。

 ううん。それさえも、私がそう思い込んでいるだけだ。

 その壁は、悪意のある概念から護る為の防壁にしか過ぎない。好意に対してはその門は大きく開け放たれているのだろう。

 それなのに、私ときたら…………………。

 

「随分と浮かない顔をしているな」

 

「ア、アーチャー!?いつの間に!?」

 

「よもや、覚悟に迷いが生じたとかではないだろうな?凛」

 

 突然背後から投げかけられた声に驚いて、危うく階段から転げ落ちそうになった。

 階段を下りてくる足音は聞こえなかったから、恐らく霊体化して近づいて来たのだろう。

 

「マスターの後を追いかけてきてみれば、非常階段(こんなところ)で大きな溜息ばかりついているマスターに、どう声をかけたものかと思案していてな」

 

「それで、女の子のそんな顔をずっと眺めていた訳?人が悪いわね」

 

「安心したまえ。誓ってそのような無礼はしていない」

 

「そう、ならいいわ。…………………………ねえアーチャー、もしも、もしもよ、朝比奈と敵対するような事になったら、貴方、あの人に勝てそう?」

 

 こんな不確定要素だらけの問いに、いつもなら厭味の一つでも吐き出してくるアーチャーが、事ここに至っては顎に手を当てて回答を逡巡している。

 

「当ての無い大言壮語を吐くつもりはないが、微力を尽くそう」

 

 ようやく紡ぎ出された答えは「勝つ」でもなく「負ける」でもなかった。

 我ながらつまらない事を訊いてしまったと反省する。

 

 純粋な戦闘力では劣る暗殺者(アサシン)のクラスであると言う有利(アドヴァンテージ)は、超一流の魔術師であるマスターとの力量差で簡単にひっくり返されるのは目に見えている。

 その上、百年以上も現界し続けて、長所を研鑽し、短所を克服し、新たな技術すら身に着けているし、本人が真名を明かしたとしても、その弱点や宝具が何であるかと言う予測がつかない事が、こちらにとっては不利(ディスアドヴァンテージ)だ。

 

「ならいいわ。それで、貴方、自分の真名は思い出せたの?」

 

「いや、まだ記憶に(もや)がかかっているようで、はっきりとは思い出せん。真名を解放出来れば、いくらか勝機はあったろうが………」

 

 アーチャーにしては珍しく弱気な発言だ。

 しかし、私たちの結論は一致している。

 場に配られたカードは最悪。それでも、勝負に出なければいけない時が来たら、それについても考えなくてはいけない。

 

 上手くいくなんて保証は無い。むしろ最悪のシナリオに転ぶ可能性の方が圧倒的に高い。

 それでも、恐怖を先取りして無闇に二の足を踏むより、有るがままに受け入れて、その上で対策を講じればいい。

 それに、今は臓硯を倒す事の方が先決だ。

 

「一度家に戻って準備をするわ。アーチャー、手伝ってちょうだい」

 

 決意を改めて固め、立ち上がる。

 

「了解した。今夜か、遅くても明日が山場と言う事だな?」

 

「ええ、そこで臓硯を斃すわ」

 

「なんとも勇ましい限りだ。だが、それでこそ仕え甲斐があるというものだ」

 

 一歩を踏み出す。

 

 迷ってなんていられない。

 

 自分の中に芽生えた感情に(ほだ)されてなんていられない。

 

 今自分がなすべき事をする。

 

 魔術師として。

 

 管理者(セカンドオーナー)として。

 

 そして、遠坂凛として。

 

 余裕を持って、かつ優雅に。

 

 

 

 だけど、今の自分に圧倒的に足りていないモノを、自身の未熟さと共に思い知らされるのは、それほど遠い未来の出来事ではなかった。




拙作を執筆するにあたり事前に色々調べて大まかなプロットを組み立てていたのですが、栞さんがバイクに乗っていると言う設定は、Fate/Zeroでセイバーがバイクに乗っている姿がカッコ良かったと言うのもあるのですが、私自身も昔からバイクに乗ってみたいと言う憧れがあったのです。

で、タイミング的にもちょうど良い機会と言う事もあって、バイクの免許を取りに教習所に通う日々を過ごしております。
今は普通二輪(昔で言うところの「中型」)の卒業検定を間近に控えている段階なのですが、普通二輪の免許を取ったら、引き続き大型二輪の免許取得の為に教習所に通います。

なので、教習所に通って、バイクも買ってとなると、FGOは当分ガチャ禁ですね(;'∀')

ちなみに正月福袋は、バーサーカーで引いたのですが、武蔵ちゃんの宝具を重ねただけでした( ;∀;)


さて、次回は……

・ある意味フラグクラッシャー

・明日はホームランだ

・営利誘拐未遂事案発生

・士郎が立つ

・ハラヘッター

以上の予定です。

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