Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
「朝ごはん、今日も美味しかったよ桜ちゃん!それじゃあ二人とも、二度寝なんかして遅刻しないようにね!」
騒々しく藤ねえ、
「ぁ…はい…お粗末様でした…藤村先生……」
あまりの勢いに、慣れたはずの桜でさえポカンとしている。
というか、今年で二十五にもなってソースと醤油のラベルを入れ替えるなんて悪戯を仕込み、ものの見事に引っかかった俺を見て喜んでいた。
まぁ、昨日、ついあだ名で呼んでしまい、泣かせた上に脱兎の如く走り去らせたおかげで、昨日の英語は自習になったんだが、その事を根に持っての事だから自業自得と言えばそうなんだが…。
その事について説明したら、「それじゃ、今朝のは先輩が悪いです」と桜に窘められたものだ。
それを差し引いても、アレでうちの学校の教師だっていうんだから、世の中ホント間違っている。
元々藤ねえは
親父が他界してからも頻繁に顔を出すようになって、今では朝飯と晩飯をうちで食べていく、という見事なまでの居候っぷりを示している。
一年前からは、桜が手伝いに来てくれるようになり、ますますぐうたらな姉貴ポジションを確固たるものとしたのだった。
いや、そんな藤ねえがいたからこそ、親父が死んでからも一人でやってこれたのかもしれない。
今では俺と藤ねえ、そして桜の三人がこの衛宮邸の住人だ。
朝食の後、桜と一緒に食器を片付け終えて登校の支度をする。
このところ、新都のビルで欠陥工事と思われるガス漏れ事故が多発していることを受けて、桜は入念にガスの元栓をチェックしていると胸を張る。
家の鍵をかけ、二人揃って寄り道をせず学校に向かう。
未遠川を境に、西側が古い町並みを残す「深山町」、東側が近代的に発展した「新都」で成り立つ冬木市。
深山町には昔からの住宅地が多く、新都は商業施設やオフィスビル、新興住宅地が立ち並んでいる。
俺たちが通う「穂群原学園」は深山町に位置するので、同じく深山町に住む俺たちは、特に用がない限り新都に行く事は無い。
また、深山町の中でも山の方には洋館が多く、新都の教会の近くには外国人墓地があるが、この町でそれほど多くの外国人を見た例がない。
道すがら、住宅街の一角に何台ものパトカーが止まっていた。
道路には規制線が敷かれ、その外には野次馬がたむろしている。
「何かあったのかな…?」
首を伸ばし、群がる野次馬の隙間から覗き見ると、近所の奥様方らしき一団が口々に噂する様が耳に入る。
一家四人が犠牲になり、下の子供一人だけが生き残ったとか、両親と姉は刺殺されたらしいとか、凶器は槍か日本刀らしい、とか。
「最近物騒ですよね…」
朝からこのような現場に出くわして陰鬱な気分になる。
新都では欠陥工事によるガス漏れ事故、そしてこちらでは殺人事件。
ここ数日、堰を切ったように事件や事故が頻発している。
それも今に始まったわけではなく、何十年かに一度、ここ冬木市では大規模な事件や事故が起きていて、10年前には新都の大火災や連続児童誘拐殺人事件に冬木ハイアット爆破テロ事件、はたまたガス漏れ事故による集団幻覚騒ぎなんかがあった。
何やら不穏な空気が淀んでいる。そう思わざるを得ない雰囲気を漠然と感じた。
高台に建つ学校の前の坂を登る。時刻はまだ七時になったばかり、ということで通学路には人気は無い。
自分たちの他には、朝の部活動をする生徒達がのんびりと歩いているぐらいだった。
学校の前の坂道を歩いていると、背後から独特の排気音が迫ってきたので、俺は立ち位置を車道側に変えた。
大型のリアスポイラーを備え付けた白いスポーツセダンが、俺たちをゆっくりと追い越そうとする。
振り向いた桜が立ち止まってお辞儀をすると、運転手の男は左手を軽く上げて答えた。
「桜、あれって…」
「えぇ、担任の朝比奈先生です」
2学期から産休に入った担任に代わり、この学校に赴任してきた先生で、世界史の教鞭を執っている。
車の趣味は若いのだが、年齢は
その担任の車に一台の大型バイクが続く。
西洋の甲冑を彷彿とさせる銀色の流線形ボディ、カウルに大きく記された「隼」の漢字一文字が、年頃の男心をくすぐる意匠を湛えている。
こちらは桜の姿を確認すると、気軽そうに左手を振って挨拶し、桜も笑顔で手を振って答える。
「今のは…」
「今のは、購買の栞さんですよ。朝比奈先生の妹の」
普段弁当派の俺は、学食や購買のお世話になることが少ないので、直接話した記憶はあまりないのだが、栞さんは特に男子たちの間では有名なので人並みに知っている。
柔和な人となりの彼女が、藤ねえと同じ歳なんだから、この違いはいったい何なのかと思わなくもない。
「お二人とも、兄妹で仲いいですね。一緒に住んで、一緒に出勤なんて」
桜がそう僅かに陰りを含んで呟く。
無理もない。桜の家はお世辞にも兄妹の仲が良いとは言えない。
とは言え、互いにいがみ合っているわけではなく、兄の横暴に妹の桜がじっと耐えてるような関係だ。
そんな桜を心配して、何かあったら俺に言えと申し出るも、「兄さんの事は、私がよく知ってますから…」と言ってそれ以上の事は出来ないでいる。
どんなに桜の事を家族のように思っていても、桜の家族は間桐家の人間だ。兄妹の事情は部外者の俺に口出しできる事じゃないが、何もできない自分がもどかしくもある。
「先輩?」
桜が何やら不思議そうな顔でのぞき込む。
どうやら俺は難しい顔でもしていたのかもしれない。
「ん、あ、いやぁ、ほら、先生と栞さんって結構年の離れた兄妹なんだろ?だから、先生が親代わりになって面倒見てるのかなぁ…って」
「親代わり…。ずいぶんと若いお父さんですね」
慌てて話を逸らそうとする俺の推測に、桜はクスリと笑う。
「そうかな?死んだ親父と同じぐらいの歳だって話だから、そういうのもありかなぁ…って」
「そうなんですね。でも、朝比奈先生って、意外と女の子たちの人気あるんですよ?」
「え?マジ?」
話の内容にもそうだが、大人しくて引っ込み思案だった桜が、こういった色恋の話を同級生としているというのも意外だった。
「えぇ、落ち着いた大人の雰囲気もさることながら、さっぱりとした気さくな人柄ですし、お洒落でかっこいいとかで。なんでも、ご実家が歴史のある名家で、その跡取りらしいですよ」
そういえば、朝比奈先生と言えばこんな話を聞いたことがある。
去年、学園祭に併せてハロウィンパーティーが催されたんだが、羽目を外した生徒の取り締まりをするために、教師と生徒会、風紀委員は神父や神主等の格好をするということになった。「ハロウィンはお化けの仮装をするのだから、取り締まる側は聖職者の格好を」という事らしい。
朝比奈先生はというと、陰陽師の衣装で取り締まりにあたっていたのだが、これがまた近年の陰陽師ブームも相まって大変評判で、以前公開された陰陽師の映画の主人公にも勝るとも劣らぬ不思議な色気を醸し出していたという。
余談ではあるが、生徒会長は家が寺ということもあって、袈裟を着ていた。
「それじゃぁまたな。部活、頑張れよ」
桜は弓道部に所属しているので、朝は校門でいつも通り別れる事になる。
というのに…。
今日に限って、桜は弓道場に向かおうとはしなかった。
「桜?体の調子、悪いのか?」
「…いえ、そういう事じゃなくて…」
桜は何やら言い淀んでいる。
「…その、先輩。たまには道場の方に寄って行きませんか?」
桜の言いたいことは分かる。
かつて俺も弓道部に所属していたのだが、怪我を理由に一年前弓道部を辞めた。
顧問である藤ねえも、事ある毎に俺に弓道部への復帰を望んでいた。
「いや、別に道場に用はないぞ。それに今日は一成に頼まれてるから、生徒会室に行かないとまずい」
「そ、そうですよね。ごめんなさい、余計な事を言っちゃって…」
ぺこりと、頭を下げる桜。
「それじゃぁ失礼します。晩御飯、楽しみにしていてくださいね」
桜は申し訳なさそうに道場へ走り去っていった。
「率直に言うとな、うちの学校は予算のバランスが極端なんだよ」
そう言うのは、この学校の生徒会長で、俺の一年からの友人、
古臭い名前とは裏腹に、優雅な顔立ちをしていて、実際女生徒たちに人気がある。
そして冬木随一の名刹「円蔵山柳洞寺」の跡取り息子だ。
「知ってる。運動系がひいきされて、他に予算がいかないんだろ?」
俺は一成に頼まれた暖房器具の修理をしながら答える。
「うむ。結果、文科系は常に不遇でな。文化系に予算がいくよう尽力しているのだが、特に冬のストーブ不足に関しては打開策がまるでない」
ため息をつく一成。
「ここ以外にも故障してんのがあんのか?」
「ある。第二視聴覚室と美術部の暖房器具が、ついに天寿を全うされたようだ」
と一成は合掌するが、天寿を全うしてたら直せないぞ?
「そうなんだが、俺から見れば臨終だが、お前から見たら仮病かもしれん」
「そうか、ならあとで試そう。…っと、もう少しで済むから、ちょっと外に出ててくれ」
「うむ、衛宮の邪魔はせん」
静かに教室から出てく一成。
どうもここから先はデリケートな作業だと勘違いしているらしい。
デリケートと言えばデリケートなんだが、俺のやっていることは普通ではないってことだ。
視覚を閉じて、触覚でストーブの中身を見る。
途端、頭の中に湧き上がってくるイメージ。
「……電熱線が断線しかかってるな…。電熱管はまだ保つな………電源コードの方は絶縁テープで何とかなる…」
手持ちの工具だけで修理できる破損内容だ。電熱管がイカレていたら素人には荷が勝ちすぎる。その時は、素人ではない方法で”強化”しなくてはいけなかったが、これなら内部を見るだけで十分だ。
それが
物体の構造を把握して設計図を連想すること。それがバカみたいに巧いと
親父曰く、物の構造を視覚で捉えている時点で無駄が多いそうな。
本来の魔術師なら、物事の中心を即座に読み取り、誰よりも速く変化させるのが魔術師たちの戦いだという。
だから設計図なんてものが読み取れたとしても、出来ることは魔力の通り易い箇所が判る程度である。
そんなわけで、自分の得意な分野は、こういった故障品の修理だったりするわけだ。
「よし終わり。次に行くか」
ドライバーとスパナを手にして廊下に出る。
「一成、修理終わったぞ」
と、廊下には、一成の他にもう一人女生徒の姿があった。A組の遠坂凛だ。
美人で成績優秀、運動神経も抜群で「ミスパーフェクト」の異名を奉られている。
性格は礼儀正しく、美人だということを鼻にかけない、まさに男の理想みたいなヤツなんだとか。
そんなヤツだから、言うまでもなく男子生徒にとってはアイドル扱いではあるが、同時に高嶺の花でもある。
「……………」
遠坂は不機嫌そうに俺たちを見ている。
一成と遠坂は中学時代からの因縁で、仲が悪いという噂があるが、どうやらそれは本当らしい。
「っと、悪い。頼んだのはこっちなのに、衛宮に任せっきりにしてしまった。許せ」
おぉ、あの遠坂をまるっきり無視するあたり、一成は大物だ。
「そんなこと気にするなって、で、次はどこだ?あんまり時間ないぞ」
「あぁ、次は
「本当に臨終だったら、買い直すことも考えておいてくれ」
「うむ、兎に角まずは見てくれ」
朝のホームルームまで、あと30分ほどしかない。直すのなら急がないと間に合わないだろう。
一成に促されて視聴覚室に向かう。
ただ、立ったまま様子を眺めている遠坂と顔を合わせたのに、まるっきり無視するのも失礼だ。
「朝早いんだな、遠坂」
素直な感想を口にして、一成の後についていった。
「ギリギリ間に合ったか。すまんな衛宮、また苦労を掛けた。頼みごとをした上に、遅刻させては友人失格だ」
時刻は八時ジャスト。
結局のところ、第二視聴覚室の暖房器具は、俺が診たところでは「仮病」というには大げさだが、幸い手持ちの工具で直せる部類だったが、少し時間がかかりそうなので、続きは昼休みにする事とした。
「別に気にするな。俺が遅刻する分には大した事じゃないだろ。まぁ、一成が遅刻するのは問題だけど」
「尤もだ。いや、間に合ってよかった」
一成はほう、と胸をなでおろして自分の席に向かう。
ホームルーム開始前の予鈴が鳴ったから、あと五分もすれば藤ねえがやってくる。
「ふぅ…」
視聴覚室から走ってきたんで、少し息が上がっている。
軽く深呼吸をしてから自分たちの席に向かう。
「朝から騒がしいね衛宮。部活を辞めてから何をしているかと思えば、生徒会長の太鼓持ちかい?」
と、中学時代からの友人である
間桐、という姓で判る通り、桜の一つ上の兄貴である。
慎二の横柄な言い様に一成が一歩前に踏み出したが、俺はそれを無言で制した。
「慎二も何かあったら言ってくれ、手伝えることがあったら手伝う。弦張りとか弓の直し、慎二は苦手だったろ」
「そう、サンキュ。何か雑用があったら声をかけるよ。ま、そんな事は無いだろうからさ」
「あぁ、それが良い。それと、あんまり藤村先生を困らせるなよ。あの人、怒ると本気で怖いぞ」
「…!ふん、余計なお世話だ。ともかく、お前はもう部外者なんだから、道場に近づくなよ!」
慎二はいつもの調子で自分の席に戻っていく。
今日は特にカリカリしてたな、あいつ。
「ふざけた奴だ。自分から衛宮を追い出しておいて、よくもあんな口が利ける」
一成が溜息を漏らしながら言う。
慎二は顔立ちもよく、話題が豊富とあって女子の人気は高いが、反面、あの調子なものだから、男子からはあまり評判がよろしくない。
「いいんだよ、あれは慎二の味だからな。付き合いが長いと慣れてくる」
「ふむ、そんなものか」
「そんなものです。」
ホームルーム開始のチャイムが鳴る。
「っと、そろそろ藤村先生がすっ飛んでくるぞ」
「はははは!さもありなん。あの方はまさに飛ぶが如くよ」
通常、クラス担任は五分前に来るものだが、このクラスの担任はそういう人ではない。
2年C組にとって、ホームルームの開始は今のチャイムから一分ほど経過した後。つまり…。
「遅刻、遅刻、遅刻、遅刻っ~~~~~~!」
なんて叫びながら、突進してくる藤ねえを迎え入れるところから始まるのだ。
いつも通り一日の授業が終了した。
今朝のホームルームでは、学校の門限は六時までと通達された。ここ数日、新都でのガス漏れ事故が頻発し、今朝に至っては殺人事件だ。早晩、部活動も全面禁止、あるいは休校という事態もあり得るだろう。
とは言え、今はそこまで事態がひっ迫しているわけではなく、部活動にいそしむ生徒、速足で帰宅する生徒、用もなく教室に残る生徒、その在り方は様々だ。
自分はというと、この後アルバイトに行く予定である。
そもそも弓道部を辞めた一番の理由は、アルバイトを優先したからだ。親父が他界した後、生活費ぐらいは自分で出すとアルバイトを始めてもう五年。それだけいろんな仕事をしていると、誘いを断らざるを得ない場合もある。
一成から今朝の続きについて話があったようだが、それを断りアルバイトを優先することにした。
「あぁ、例のアルバイトか。そうか、それは困らせたな。こちらは今日明日で進退が決まるものでもない。気にせず労働に励んでくれ」
そう一成が言ってくれる。理解ある友人とはかくも有難いものだ。
「じゃぁ、バイトの休みが取れたら続きをするってことでいいかな?」
「仔細ない。その時はまた頼りにするぞ、衛宮」
ではな、と堅苦しい挨拶をして教室を後にする一成。
こちらもぐずぐずしていられない。時間指定こそないものの、バイトに行くと決めたのなら急いで隣町に行かないと。
今日のバイト先のコペンハーゲンは、飲み屋兼お酒のスーパーみたいなところで、今日は棚卸で何人もの人手が必要になる。
そこでほんの少し手伝う程度のつもりだったのだが、結局手伝いに来たバイトは俺一人だった。
仕方ないからできる範囲で倉庫を整理することになり、気づけば二時間後には棚卸は予定通り終了した。
店長から、「気持ち」と称して渡されたのが万札三枚。二~三時間程度の労働には見合わない報酬をもらってしまった。
隣町の新都からぼんやりと歩いていたら、深山町に着いてしまった。
「衛宮ではないか。今日はもうアルバイトは終わったのか?」
学校に至る交差点に差し掛かった時、下校途中の一成とばったり出くわした。
「そういう一成こそ、今朝のホームルームで六時までって言われてなかったか」
「うむ、試験前に些事を片付けておこうと思ったのだが、存外手を焼いてな、このような時間になってしまった」
曰く、一人残っていた朝比奈先生に注意は受けたものの、それ以上のお咎めは無かったとか。
「朝比奈先生がお山まで送ると申し出てくださったのだが、先生はまだ何やら用事があったご様子。手を煩わせるのは申し訳ないと断ってきた」
そう一成と二人並んで話しながら帰路に就いた。
「全く、人が良いのも考え物だな」
今日のアルバイトの話をしていたら、一成がそう評した。
「確かに衛宮がいてくれると助かるが、他の連中に良いように使われているのは我慢ならん。人助けは良いことだが、もう少し相手を選ぶべきではないか?衛宮の場合、来る人拒まず過ぎる」
「何言ってんだ、人助けは善行だろ?寺の息子が咎めるような事じゃないだろ」
「だがな、それでは心無い莫迦どもが良いように利用しようというものだ。衛宮も忙しい身なのだから、たまには他人の頼みなど断ってもよかろう」
一成は俺の事を心配してくれているらしい。
もっとも、こっちは好きでやっていることだし、自分じゃ無理だと判断したらきっぱりと断っているから問題はない。
「衛宮の場合、度が過ぎるというか、このままいくと潰れるというか」
そういうものなのだろうか。自分が好きでやっていることだから問題ないのだが…。
「忠告は受けとっとく。それじゃ、また明日、学校でな」
一成の家である柳洞寺に続く交差点に差し掛かる。
「…うむ。それではまた明日」
納得いかない顔つきのまま一成はお山に向かって去っていった。
夜の街並みを歩く。時刻は七時半頃だろう。
この時間ならば、ぽつぽつと人通りがあってもいいのに、外には人気というものが無かった。
今朝、この深山町で殺人事件が起きたからだろう。これでは夜に出歩こう、なんて人が減るのも当然だ。
当の殺人事件が起きた現場の前に差し掛かる。すでに警察の姿はなく、門扉には立ち入り禁止の規制線が張られたままである。
「…物騒なことになってきたな…」
桜を一人で帰らせるのも危なくなってきた。
近所に住む藤ねえはともかく、桜の家はそれなりに離れている。
今日からでも夜は送っていかなくては…。
そう思案していると、坂道に人影がある。
坂の途中、登っているこっちを見下ろすように、その人影は立ち止まっていた。
銀色の髪をした少女はにこりと笑うと、足音も立てず坂道を下りてくる。
そしてすれ違いざま…
「早く呼び出さないと、死んじゃうよ。お兄ちゃん」
そう口にした言葉は、単語の意味以上に自分の中の何かに不気味に働きかけた。
<どーでもいい情報>
朝比奈先生の車は、スバルインプレッサWRXをイメージしていて、栞さんのバイクはスズキGSX1300Rハヤブサ(2000年仕様)をイメージしてます。