Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
相変わらず忙しくてなかなか筆が進まない状態が続いていますが、短いながらも投稿にこぎつける事が出来ました。
それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。
遠くから竹刀を打ち鳴らす乾いた音が聞こえる。この家の家主ともう一人の居候が、庭に在る道場で稽古をしているからだ。
キッチンにトントンと包丁の音が響く。
隣接するリビングには誰もいなく、石油ストーブの上に置いた薬缶からゆっくりと蒸気が立ち上っている。
誰もいない。
夕食だって、いつも一人で自分の分だけを作っていた。
誰もいない。
今日はたまたま、私が夕食当番だったとしても。
誰もいない。
本当なら、誰とも手を組む事無くこの聖杯戦争を戦うつもりだった。
誰もいない。
何の因果か、たまたまマスターになった同級生と同盟を組む事になった。
誰もいない。
何の偶然か、教師であり名門の当主から支援を受ける事になった。
誰もいない。
今まで極力人付き合いを避けていたのに。
誰もいない。
こうして誰かの隣に立って、誰かと支え合って、自分を偽る事無く過ごす事がなんとなく心地よく感じていたけど。
誰もいない。
結局のところ、お互いの利害が一致しただけ。
誰もいない。
不都合になれば切り捨てるだけの関係。
誰もいない。
利用価値が無くなれば離れるだけ。
誰もいない。
なんだ、今までと変わりないじゃない。
誰もいない。
何かを成したいのなら、誰の手も借りないで一人でやればいい。
誰もいない。
必要と思ったら、誰かを利用したって良い。
誰もいない。
今までだってそうして生きて来たし。
誰もいない。
これからだってそうして生きていくだろう。
誰もいない。
誰もいない。
だれもいない。
ダレモイナイ。
思考と感情が、外の夕日のように暗闇に沈もうとした時、この家の電話が鳴り響いた。
冷え切った廊下の空気に身を縮めて電話に出ると、それはあの人からだった。
『もしもし?遠坂か?』
正直、今あの人と言葉を交わすのは心苦しかった。
“魔術師として”の私と“人間として”の私。この人に対する思いが、それぞれ全くの逆方向を指向して私の中で反発しあっているからだ。
「はい。先生はこれからいらっしゃるので?」
『そのつもりだったけど、前の予定が存外に長引いちまってな。この後の予定も押してるから、スマンが今日は行けそうにないんだ』
内心で安堵の溜め息をつく。
勿論それは、夕食の支度を始めたばかりだったので、食材を無駄にしなくて済んだと言う事ではない。
『それと、冬木に居るマスターに選ばれなかった魔術師が、他の魔術師に襲われてるって話は知ってるか?』
それは噂程度に耳にした事だ。
まあ、その情報源が似非神父だったので、アイツの性格を考えれば噂の真偽は“偽”の方に大きく傾いてはいたけど、どうやら本当の事だったようね。
『どうも“マスターから令呪を奪えば聖杯戦争に参加出来る”なんて噂を鵜呑みにした奴が何人かいるらしくてな。そのライバルを蹴落とす為の、言ってみれば“敗者復活戦”をやってるみたいなんだが、お前たち正規のマスターにその矛先が向けられるのも時間の問題だろうから警戒しておいてくれ』
危うくそう口に出しそうになったけど、寸でのところで飲み込んだ。
第一、どこからそんなバカげた噂が立ったのかは知らないけど、そんな事が出来るのなら、聖杯が最初から七人のマスターを選び出す事なんてする訳が無い。
聖杯戦争は人知れず行われるのが絶対条件であって、誰にでも令呪を得る機会が有るなら聖杯戦争は混乱の代名詞そのものとなり、神秘の隠匿も何もあったモノじゃない。冷静に考えれば答えは一目瞭然だ。
『そこで遠坂に相談なんだが、この件は俺たちに任せてはくれんか?』
「どういう事です?」
『その莫迦共がやらかした“場外乱闘”に、
聖杯戦争そのもので起きた事態なら、監督役である似非神父に全て丸投げするところだけど、そうでないのなら冬木の
だけど、その私自身が今は聖杯戦争の参加者である以上、どのぐらいの魔術師が暴れまわっているのか定かでない上、私もその標的になり得るのなら、それらも相手にする事を前提として戦略を練り直さなくてはいけなくなる。
どう安く見積もっても、それは完全に
ただでさえ臓硯のような厄介な敵がいると言うのに、他の魔術師なんて相手にしている余裕はあまりない。
アーチャーに片っ端から片付けさせると言う手も無くは無いけど、その命令を下すのは流石に躊躇われた。アイツなら厭味を言いながらも命令には従うだろうけど、私自身がそう言うやり方を好まない。
強大なサーヴァントを以て一方的に痛めつけるのではなく、向かってきた敵を私の手で、容赦なく完膚なきまでに叩きのめす方が、
そこへ来てこの人の申し出は、裏で何かを企んでいたとしても天啓に等しく、この人たちの情報力を以てすれば、こちらとしても余計な連中の為に余計な力を使わずに済む。表向きには盟約を結んだ関係なので、この人たちの持つ力を利用しない手はない。
それに、この人たちも敵に回る可能性が在る以上、敵は少ない方が良いに決まっている。
臓硯以上に勝ち目の無い敵である事は明らかであるなら、多少なりとも“魔術師狩り”で疲弊してくれれば、こちらにもいくらかの勝ち目が出てくるかもしれない。
と、そんな考えを
『そうか、有難うな。……………それと…………間桐の事は黙っててスマン』
そんなしおらしく言われると、この人からの善意を邪推しているようで恥ずかしくなってくるけど、ここで
きっと裏で何かを企んでいるのは間違いない。いや、
いくらこの人が
無償の善意なんて在る訳が無い。捻くれたモノの見方だと言うのは判っているけど、それが今まで見て来た魔術師たちの、
油断していたら、
そんなのは真っ平ごめんだ。黙って食われるがままになんてされてやるものか……………!
「…………あの子は…………助からないんですか?」
『状況が最悪な方向に推移すれば“神秘の隠匿”に関わる事態に発展しかねない。と言う事だけは言える。だが————』
「そちらは私の方で対処します。それでは」
あの人が何かを言いかけたけど、構わず電話を切った。
あの子は私が助ける。いや、私が助けなくてはいけない。
たとえそれが叶わなかった時は、やはり私が
遠坂凛として、遠坂家の後継として、それを為すべきは他の誰でもない。私自身が為すべき事だ。
「アーチャー。朝比奈と手切れになる場合もあるから、覚悟しておいて」
「私に、と言うよりも、自分自身に言い聞かせているように聞こえるが?」
今この母屋には私以外に誰もいない事を確認し、霊体化していたアーチャーに告げた。
アーチャーが指摘する通り、これは私自身にも向けた言葉だ。
私の意思は決まっている。誰が障害となって立ちはだかろうとも、それがたとえあの人であろうとも排除するのみ。
しかし、いくら
「マスターの気遣いには感謝しよう。だが、彼らと手を切るにしても、些か性急に過ぎるのではないかね?」
その指摘も否定しない。しかし、あの人たちから情報を得るにしても、それが常に正しい情報であると言う保証は何もない。自分たちが旨く立ち回る為に、偽の情報を吹き込んでくる事だって考えられる。
それなら、こちらで独自に情報を集めた方が賢明である事には間違いない。
「………まあ、それで良いだろう。だが、本格的に彼らを敵に回すとなると、
問題はそこなのよね…………。
宝具を使わせないという前提条件はあるにしても、マスター自身がサーヴァントと互角以上に渡り合えるようなバケモノなんだし、今のアーチャー独りに、実質二騎の相手を同時にさせるのは悪手以外の何物でもない。
出来れば、どちらか片方だけでも
「貴方が真名を思い出すまではなるべく引っ張るけど、あまり期待はしないで。だから、引き続きアーチャーは真名を思い出す事を最優先して」
どうあれ、こちら側の前提として、アーチャーが宝具を開帳出来るようになる事が最重要だ。
しかし、事態が都合良く展開するなんて甘っちょろい願望なんて抱いていない。悲観的に過ぎるかもしれないけど、最悪の、更に底の事態に陥る事を想定しておくべきだろう。希望的観測に縋って動いていたら、最悪の事態に陥っていた。なんてよくある話だ。
「承知した。それで、
「真名は判っている訳だし、そこから宝具なり弱点になる逸話が無いか、明日図書館にでも行って調べてみるわ」
「作戦と呼ぶには値しない程稚拙だが…………まあ、今は出来る事をするより他に在るまい」
アーチャーの厭味な物言いにムッと来るけど、同時に、隠しようもない事実である事に違いない。
“忍者”と言う存在自体が、史実と創作をごちゃ混ぜにしたような存在だけど、唯一“忍者”が
「そう言う事。じゃあ頼んだわね」
やる事は多い。
優先順位をつけるならコレはそう高くないけど、“今すぐ出来る事”と言う条件が加われば、これより優先順位の高い事は軒並み省かれてしまうのが現状なのだから仕方がない。
だからと言って、敵を見て矢を
それでも、勝ちを拾う事は難しい相手だと言うのが癪だけど。
「ああ…………。どうあれ奴も、
アーチャーの物騒な呟きは、珍しく気分が高揚しているからだろうと思い聞き咎める事はしなかった。
しかし、その言葉に込められた真意がもたらす結末を知るのは、それほど遠くない未来であり、しかしずっと先の未来の事でもあった。
今年のバレンタインPUは、無事に穿いてないさんを弊カルデアに迎えました('-'*
が!スト限の槍トリアも狙って回してみた結果、履いてないさんの宝具が重なった結果に終わりました(;'∀')
さて、次回は……
・これが若さか
・徘徊爺さん
・楽しいロンドン♪
・ふわっふわやぞ!
以上の予定です。