Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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前回以降、新たなお気に入り登録ありがとうございます。

さて今回も短くはありますが、久々に筆がノリノリだったので一週間と間を開けずに投稿する事が出来ました。

拙作はHFをベースとしていますので、ようやくあの展開に至る前段階が今回で全て出そろいます。

それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。

2021.3.14一部修正しました。


#059 空行く雲の如く、流れる水の如く

 夜半前から降り出した雨は、末期(まつご)を迎えようとする仮初めの肉体を強く打つ。

 

 依り代となる魔術師は既に亡く、その骸は燃え盛る仏殿の中。

 篠突く雨を以てしても衰える事の無い火勢は、この場で行われた戦いの痕跡をいずれ灰燼に帰すだろう。

 

 達観か、それとも諦観か。敗者となった彼女は、ただ静かに目を閉じた。

 雨音と母屋(もや)の柱組が燃え爆ぜる音を、宛ら子守唄のように聞いていたのか、覆面の下の口を僅かに歪ませ、最後の時が訪れるのを待っていた。

 

「物見遊山に参ってみれば…………お主は“さあばんと”とか申す南蛮の式神かな?」

 

 何者かが気配を消す事無く近づいてきている事は既に知っていた。

 しかし、間もなく消滅する身である彼女は、警戒する事無く、ただ鬱陶しそうに目を再び開いた。

 

「…………御手前(おてまえ)がどなたか存じませぬが、()く去られませ…………。(われ)らを討ち果たしたサーヴァントはまだこの辺りにいる筈…………。彼らに見つかれば、御命を縮めらるるは必定にございますれば…………」

 

 火明かりに照らし出され、朱に染まった狩衣姿。

 その朱を以てして、なお一層際立つ丹塗りの和傘。

 傍らに佇む男は彼女の忠告に耳を傾ける事も無く、興味深そうに彼女を見下ろしていた。

 

「…………この身体が御所望でしたら諦めなされませ…………。依り代たる主を喪いし()が身は間もなく霧散いたしましょう………。そうでなくても、私を犯そうとする殿方一人の御命を縮めるぐらい造作無き事…………」

 

「ははははっ!“さあばんと”とやらは夜伽(よとぎ)も出来ると申すか!南蛮の(まじな)い師どもめ、人の子では飽き足らず、式神とさえまぐわおうとは、何とも酔狂な事よな!」

 

 何を勘違いして呵々大笑しているのか、彼女は驚きに目を丸くして男を見た。

 

「…………時に、主たる呪い師が死んだと申したな?」

 

 降りしきる雨を全て吞み込まんとする程に大きく口を開いて笑っていた男は、何かに気付いたのか、ピタリとその笑いを止めて彼女の顔を覗き込んで問い質した。

 

「………左様、現世(うつしよ)に留まるに必要な要石(かなめいし)、依り代たるマスターを喪ったサーヴァントは————」

 

「露の如く消えるのみ。であろう?」

 

 彼女の言葉を最後まで聞く事無く、男は彼女の言わんとしている言葉を繋いだ。そして彼女もまた、男の言を肯定した。

 

「ふむ……………試みに問うが…………お主、我が式神とならぬか?」

 

 男の提案に、彼女は唯々言葉を失った。

 この戦いに参加した魔術師は、男の言い方を用いれば、全員が“南蛮の呪い師”だ。目の前の男はどう見てもこの国に存在する法師か行者の類。彼らにしてみれば招かれざる客。

 そのような男が、なぜサーヴァントであるこの身を求めるのか?この男もまた、万能の願望器を求めるのか?彼女には男の意図が読めなかった。

 

「お主ら“さあばんと”は、聖杯とやらの呼びかけで呪い師どもの召喚に応じたのであろう?呪い師無くして現世に留まること能わぬのと同じく、聖杯無くして現世に留まること能わず。と思うのだが如何かな?」

 

「…………なぜ、御手前がそのような事をご存じなので………?」

 

「おぉ!合っておったか!なに、唯の勘働きよ。であればだ、我が家に伝わる使役の秘儀を以て聖杯の代わりとならんや。古今東西の故事に記されし英霊なる者たちを喚ぶ事は、未だ術の研鑽を要せども、“さあばんと”を現界させ続ける手立ては秘儀の応用で為せるや否や。お主でそれを試みようと思った次第。成就した暁の見返りは………………まぁ、そこは後々話を詰めるとしよう」

 

 消滅まで時間が無いとは言え、明確な見返りも示さず、唯我が意に従えと言うのも虫のいい話だ。まともなサーヴァントなら取り合おうともしないだろう。むしろそのような提言をした瞬間、残された幾許かの力を振り絞って、そのような戯言を吐く口ごと全身を切り裂いたとしても咎める者などいない。

 

「…………御手前の好きになさるが宜しかろう…………」

 

 しかし彼女はその提案を受諾した。

 なぜあの時、彼女はそのような提案を呑んだのか?訊いてもとぼけたり、話をはぐらかしたりするだけで、なかなか答えようとはしなかった。

 

 消えるだけの身であれば、後はどうとでもなれと諦観していたのではないか?

 或いは、自分でも何故だか判らなかったのではないか?

 どちらにせよ、その答えは長年彼女の内にのみ在る。

 

「ならば決まりだ。儂は朝比奈悠厳(あさひな ゆうげん)と申す、代を重ねるだけが取り柄の歯牙無い陰陽師よ。で、お主の名は何と申す?“さあばんと”であれば、人の頃の名も在るのであろう?」

 

「………私は…………暗殺者(アサシン)のサーヴァント………真名は、百地三太夫丹波(ももち さんだゆう たんば)…………伊賀忍びにございますれば…………」

 

 時は千八百年代後半。

 システムとしては未成熟だった第二次聖杯戦争の片隅で、一人の英霊が第二の生を歩み始めたその日は、胸中に燻ぶる怨嗟の炎さえ鎮めるが如き篠突く雨が明け方まで続いていたという。

 

 

 

 優しくも、しかし力強く体を揺り動かされ、俺の意識は夢裡(むり)から現実へと浮かび上がる。

 目の前には俺を揺り起こした栞の顔がある。遅めの夕飯の後に人心地ついたからなのか、どうやら知らずの内にソファで転寝(うたたね)をしてしまっていたらしい。

 

「………すまん。寝ちまってたか」

 

 壁掛け時計に目をやると、転寝していた時間はほんの僅かではあるが、やや無理な姿勢だったためか、伸びをすると存外に心地良い。

 

「遠坂さん達が()()()()()()。目的地はアインツベルンの森かと」

 

 栞の報告に、僅かに張り付いていた眠気が滑り落ちてゆく。

 栞は今“出かけた”ではなく、“出陣”と明確に言い表した。

 そして遠坂達の向かう先はアインツベルンの森。

 この二つの意味するところは……………

 

「“敵の敵は味方”か。まあ、妥当な選択だな」

 

 聖杯戦争は現時点で三勢力による三つ巴の状態。

 二つの勢力が手を組み、残る一方を潰しにかかるのは定石と言って良いだろう。

 遠坂達が臓硯と明確に敵対している以上、交渉相手に選ぶのはイリヤちゃん以外に居ない。

 

 ()()()()()()()()()()()、イリヤちゃんにしてみれば、遠坂達も臓硯も聖杯戦争で倒すべき敵。双方で潰し合って疲弊したところで漁夫の利を攫えば良いだけの彼女にしてみれば、遠坂達の求めに応じて、共に火中の栗を拾うメリットは一切無い。

 

 聡い遠坂なら、()()()()()()()()()である事は承知しているだろう。その上で、その手段を選んだからには、何らかの交渉材料は用意しているのかもしれない。

 

「…………栞、先行してくれ」

 

 兎も角、才媛二人の知能戦と相成る訳だが、交渉が決裂して本格的な戦闘の火ぶたを切って落とす事態にも発展しかねない。

 部外者としては僭越に過ぎるが、双方が傷つく事態は俺の望むところではない以上、万が一の()()()()()()()()をするに()くはないという結論に至る。

 

 栞を先行させるのは俺の礼装の準備などの身支度もあるのは当然なのだが、栞が各所に配置している監視の目は、ただ“観るだけ”の機能のみを付加していて、その他の戦闘力などと言った機能を全く付加していない。そこで()()()()()()を先行させて、交渉決裂時に双方を攪乱し、頭を冷やさせるか、仲裁役(オレ)の到着まで時間を稼ぐ目的がある。

 

「それでは先行します」

 

 俺と同じ結論に至っている栞は、特に具申する事も無く、すぐさま魔力で編んだ忍び装束に着替えてベランダから飛び出して行った。

 

 さて、礼装の狩衣は慣れていても着付けに時間がかかるので、俺ものんびりはしていられない。

 いつでも着替えられるように、リビングに置いてあった礼装に手を伸ばして手早く着込み始める。

 

 リビングテーブルの上には、飲みかけのコーヒーカップが二つと、栞が読んでいた大沢在昌(おおさわ ありまさ)の著書が一冊に、数枚のCDとステレオに繋ぎっ放しのヘッドホンが置いてある。

 

 栞は生前から読書好きだったらしく、よく知人の館の書庫に入り浸って蔵書を読み漁っていたそうだ。

 それは単に趣味と言うだけではなく、朝廷や公家の女房として、武家の下女として、時には遊女としてなど、様々な場所に様々な身分で潜入するために必要な知識、教養として嗜んでいたという。

 その甲斐あってか、俺の小さい頃には万葉集や古今和歌集、伊勢物語などを、寝かしつけの絵本替わりによく読んでくれたものだ。

 

 そして、プレーヤーを停止させるよりも俺を起こして報告する事を優先したためなのか、ヘッドホンからは栞の一番お気に入りであるデヴィッド・ボウイの曲が今も漏れ聞こえてくる。

 こっちは読書と違って完全な趣味で、丁度来月の三月に武道館と大阪城ホールでデヴィッド・ボウイの来日公演があって、武道館の方は惜しくも二日分共抽選に漏れてしまったが、大阪城ホールの方は見事に最前列に近い中央の席が取れたと大喜びしていた。

 

 テーブルに積んであるCDはデヴィッド・ボウイの他に、エリック・クラプトンとエルトン・ジョンは栞の私物で、シカゴとセリーヌ・ディオンは俺のだし、メガデスとアンスラックスは巴恵(ともえ)から借りたままのCDだな。

 

 このご時世では望むべくもないが、何も起こらなければ、こうしてお気に入りの音楽を聴きながら読書をして夜を過ごすつもりだったのだろう。

 サーヴァントに睡眠は必要ないから、平時は睡眠時間を趣味にも充てられるのがサーヴァントの良いところだ。と語っていた事もある。

 

 いやはや、魔術世界における最上級の存在であり、境界記録帯(ゴーストライナー)と正式には呼称される、魔術よりも上位存在のサーヴァントが随分と俗に染まったものだと、感心と苦笑を混ぜ合わせた事は数えきれないほどあった。

 

「忍者と言う存在(モノ)は、その場その時に合わせて空気のように溶け込まなくてはいけないので、世俗のアレコレを知っておく事はとても大切なのですよ」

 

 と、それっぽい事を上手く言っただけなのだろうが、空行く雲の如く、流れる水の如く変わってゆくその様は、サーヴァントもまた常人(つねびと)と同じなのだと、この話題になる度に俺は思い知らされるのだった。

 

 

 

 礼装に着替え終わり、大小二刀を佩いていざ出立という時点で栞から念話が入った。

 どうやら、臓硯がアインツベルン城に現れたらしい。

 

 イリヤちゃんは“聖杯の器”でもある訳だし、敵対勢力としても厄介な存在である事は間違いない。遅かれ早かれこういう状況になる事は判っていたが、図ったかのようなタイミングは、遠坂達から見れば不運以外の何者でもないだろう。

 

『あの影はいるか?』

 

『目視できる範囲に臓硯以外の姿はありません。ですが、城を中心に不穏な気配が漂っています』

 

 暗殺者(アサシン)単騎で狂戦士(バーサーカー)に勝てると言う見込みは万に一つも無い。

 錯乱した呆け老人が徘徊してきた訳で無いのなら、そこに必勝の策があってこその襲撃。その策の最たるものこそあの影だ。

 

『間桐の方はどうだ?』

 

 悲しいかな、あの影は間桐桜の使い魔である事は間違いないだろう。

 ()()()()()()()()()()()()()()()、万が一にもアレが間桐の使い魔で無かったとしたら……………。

 いや、単に自分の生徒を手にかけたくないと言うエゴにしか過ぎん。だが、そう割り切るには今はまだ性急である事も間違いない。

 

『間桐さんは病室で就寝中です。霊体化していますが、騎兵(ライダー)も傍に居ます』

 

 となると、アレは自律型の使い魔か、他の誰かの使い魔と言う二者択一になるのだが………。

 

 しかし何だ?さっきから感じる、この妙な胸騒ぎは……………。

 俺は何かを見落としているのか?しかも致命的な。

 そう後ろ向きな思考をし得ない程に、俺の奥底に眠る何かが、かつてない警報を鳴らし続けている。

 

『マスター。ご命令を』

 

 だが、そうこうしている間に、霊体化して気配遮断スキルを用いた暗殺者(アサシン)が、イリヤちゃんの首を掻き斬るなり攫うなりする可能性だってある。

 その事を見越した栞が、俺に命令を要求してきているのだ。決断に時間をかけてはいられない………………。

 

『現場と病院、それと教会以外の目は全て撤収。戦闘での宝具開帳も許可する。俺の魔力は八割まで好きに使え。汝が全能力を以て、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンを救命せよ!』

 

『御下命のままに、吾が(マスター)………!』

 

 栞に命令を下し、脚力を魔術で強化してベランダを飛び出る。

 向かう先はアインツベルン城————ではなく、冬木旭奈会(きょくないかい)病院の屋上だ。

 

()()()使()()!準備が出来るまで持ち堪えてくれ!カウントアップ六百(セコンド)!』

 

 病院の屋上には、非常用にと備えておいた術式の為の陣がある。

 自宅から病院の屋上までおよそ一、二分。遠坂達の後を追っていた栞が、元々の対象を追い越して現着するより五、六分早く到着できる。

 それから陣の再起動、術式の構築、展開となるとおよそ十分弱の時間を要する。

 

 “非常用”と言う言葉で哲学が出来そうな遅さと運用効率の悪さではあるが、現状でコレが確実な手段である事実は揺ぎ無い。

 第一、サーヴァントなら兎も角、身体能力を強化した魔術師程度のスピードでは、アインツベルン城での戦闘に到底間に合わない。

 

『了解!五百八十からカウントスタート!ゼロカウント任せます!』

 

『任された!』

 

 予め定めておいた手順とタイミングを互いに確認し、各々の持ち場へと急行した。

 

 

 

 白い影が疾風となって冬木の夜空を吹き抜ける。

 

 まだか……………。

 

 まだ着かないのか……………。

 

 身体能力は限界まで強化しているのに、一歩一歩が鈍く、周囲の景色が粘度の高い液体のようにしか流れていかない。

 実際には人間離れした速さで駆け抜けているのだが、もどかしさと言う足枷が受け止める精神の認識を歪めているのだ。

 

『例の影が現れました!…………そんな、バカな!』

 

 そこへ栞からの緊急事態連絡(エマージェンシーコール)が更に追い打ちをかけた。

 あの影の出現は予測の範疇であるにもかかわらず、予想外の展開に驚愕の色を隠せない栞の表情が容易に想像できる。

 

「落ち着け栞!落ち着いて状況を報告しろ!!」

 

 我知らず口を開いて叫んだ俺は、次いでもたらされた報告に足を止めて茫然自失した。

 

 そんな……………莫迦な………………!

 

 そんな事が在り得るのか………………?

 

 先程からの妙な胸騒ぎは、まさにこの事だったのか?

 

 間桐臓硯……………こいつは、俺たちの予想を遥かに上回るバケモノだったと言うのか…………?

 

 空行く雲は雷雲の如く、流れる水は濁流の如く、事態は俺たちの予想を大幅に上回る方向へと流れようとしていた。

 

 臓硯の傍らに湧き出すように現れた黒い影。

 その影の中から現れたのは、()()()()()()()()()()()()

 

 一人は正体不明の女のサーヴァント。

 

 そしてもう一人は————

 

 

 

 姿形こそ禍々しく変われども、その顔、その手にした得物は、間違いなく槍兵(ランサー)クー・フーリンのものだった。




いつもなら新作の投稿は夜にセットしているのですが、今回は珍しく昼の投稿です。
ウインターキャラバンオンラインの配信前にでも読んでいただければと言う思惑あっての事ですがねwwwww

今は2300万DLキャンペーンの真っ最中で、特にこれと言ったクエストも無く、種火集めに勤しんでいますが、CBCは確実として、どのような新イベントが発表されるか?
今から楽しみですね('-'*


さて、次回は……

・もうね、すんごぃの

・いてまえバーサーカー

・密着!救急救命センター24時

・楽しいロンドン♪

・図書館では、うわっ何をする!くぁwせdrftgyふじこlp

・バイバイ

・ふわっふわやぞ!

以上の予定です。
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