Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
昨今の状況を鑑みるに、多くの方が”うまぴょい異聞帯”の攻略に勤しんでいるようですが、私はそちらにはレイシフトしていませんし、やってる暇もないと言うのが現状です。
さて、今回は物語が大きく動き出す話で鋭意執筆中だったのですが、またしても二万文字に迫る大ボリュームになりつつあったので、丁度いいところで区切ってお届けします。
それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。
森全体に張り巡らせた結界に異状を感じたのは、朧げな月が中天に上る前、夜も未だ序盤から中盤へと差し掛かろうとしていた早い時間だった。
————何かが来る————
身を守るには絶好の場所でもある筈の城に居てさえ、その“何か”は危険なモノだと感じ取った。
何者であるかを考える必要は無い。その“何か”は、私に害を与える為に近づいて来る“敵”である事は明白だ。
ヒシヒシと伝わってくるこの感覚。結界が破られているのではなく、
理性を奪われ、命令に従うだけの破壊の化身。
対峙する者を、この世ならざる場へと吹き飛ばす暴風の具現。
その護衛と城の守りがあれば、どのような敵が来ようとも恐れる事は無い。
しかし…………
内から湧き上がる言い知れない不安に蓋をして、セラとリズの二人を伴ってテラスに出た。
まだ春には早いと言うのに、僅かに吹く風は生温かく、大きなナメクジのような舌で、うなじを舐め上げられているみたいな生理的嫌悪感が全身を駆け巡る。
テラスから前庭を俯瞰すると、枯れ木のように老いた魔術師がそこに立っている。それが二百年前にアインツベルンと盟約を交わした同朋の
「先ずは初めまして、と言ったところかしら?マキリ………いえ、マトウゾウケン。聖杯に選ばれていない者が、マスターの真似事をしていると言うのは本当だったようね」
眼下に佇む老いた敵に恐れは感じない。しかし、あの湧き上がって来た不安は錯覚ではないのは確かだ。
姿は見えないけど、ゾウケンのサーヴァントなんかじゃない。朝比奈のおじ様が仰っていた黒い影。話に聞いた以上の難物のようね………。
「呵々、聖杯に選ばれる、などとつまらぬ事を言う。聖杯はマスターなど選ばぬ。聖杯とは受け皿に過ぎぬもの。そこに意思があり聖別するなどと、お主まで教会の触れ込みに毒されたか?」
確かにゾウケンの言う通り、
“マスターは聖杯に選ばれ、サーヴァントは聖杯の力で形を与えられる”
その前提は
聖杯はただ注がれるだけのもの。
マスターは選ばれるのではなく、唯儀式の一端として用意されるだけのもの。
そして、サーヴァントは
「器になる聖杯に意思は無いけど、マスターを選び出す
それは“始まりの御三家”と称されるアインツベルン、マキリ、そして遠坂にのみ口伝される秘中の秘。
前回アインツベルンに雇われたキリツグでさえ知らない真実。そのキリツグから情報を得た朝比奈のおじ様も知らない真実。
それを、誰あろうゾウケン自身が
「なに、間桐の衰退もここまでよ。今回は駒に恵まれて、事は成りつつある。儂の悲願はあと一歩で成就せんとしておるのだが、こうも上手くいきすぎると逆に不安が大きくなってな。万が一の為に、お主の
「……………哀れね、ゾウケン…………」
「なに?」
昔日の悲願、奇跡に至ろうとする切望は何処から来たのか。
不老不死。それが悲願だと臆面も無く言ってのける目の前の老魔術師が唯々哀れでしかなく、それを忘れたマキリは、衰退したのではなく最早廃滅したのだと確信した。
「哀れだと言ったのよ。人の体は百年の時間に耐えられない。それを超えようと試みて、貴方はその代償として生きながら腐る苦しみを抱える事になった。それに耐えられないのなら消えればいい。それが苦しいのなら死んで楽になればいい。命在る者はいずれ寿命を迎える。だからこそ
「………戯けめ、心して聞くがよい冬の娘よ。死が恐ろしくない人間などおらぬ。如何な真理、如何な境地に辿り着こうとも、自己の消滅を前にして、目の前に生き延びる手段が在るのなら、手を伸ばせば届くと言うのなら、何者をも、たとえ世界そのものを犠牲にしてでも手に入れようとするのが人間なのだ!死ねば楽になるだと?所詮は
「…………貴方の在り方が、
「な、に…………?」
私は知っている。
死の
胸元のロケットにその体の一部を収められたその人なら、たとえ目の前に生き延びる術があったとしても、それを振り払ってでも、遠くにいる私の手を取ろうとしたに違いない。
その人間、キリツグとゾウケンの人間としての在り方が同種などと思わないし思いたくも無い。
ゾウケンは自分一人の在り方と、全ての人間の在り方は同じだと錯誤しているだけなのかもしれない。
そんな在り方はキリツグ一人だけで、残りの人間全ての在り方が、ゾウケンの言う通りなのかもしれない。
だけど私にとって、その唯一つは全てに勝る在り方だ。
私は私のまま、お母様とキリツグが愛してくれた
ありがとう、おじ様…………。
貴方が来てくれていなければ、私はこんな事、きっと考えもしなかったでしょうね………。
「私を人形と
「…………人形風情がようも吠えたものよ。だがもうよい。問答は終いじゃ。お主の身体は要るが、心になど用は無い。アインツベルンの聖杯、この間桐臓硯が貰い受ける………!」
老人に鬼気が灯り、足元に伸びた影が湧き水の源泉のように隆起し始めた。
その影はやがて形を成し、石筍のように反り立つ姿は、まるで漆黒のドレスを纏っているかのようでもあった。
アレが例の黒い影だと言う事は直ぐに判った。
だけど、おじ様はアレを“使い魔のようなモノ”と仰っていたけど、実物を一目見て
だって、アレは…………………。
「▆▅▇▄▅▅▄▄▄█▇██————!!!!」
巨人の咆哮が静寂を打ち破り、黒い巨体を眼下の庭園に自ら躍り出す。
「ダメ………!戻ってバーサーカー………!」
バーサーカーに私の声は届かない。
バーサーカーだって気付いている筈だ。どんなサーヴァントを以てしても、
アレは
お母様…………。
キリツグ…………。
これから訪れるかもしれない絶望的な状況に不安を掻き立てられた私は、胸元の
バーサーカーの巨体が宙を踊り、岩の塊とでも形容すべき斧剣が黒い影を断ち切ろうと振り下ろされた刹那、まるでプレゼントの袋を開けたかのように解けた影の中から、新たな二つの人影が現れた。
その二つの人影は、バーサーカーの一振りを難なく躱し距離を取る。
一人は棘だらけの黒い鎧を身に纏い、赤黒い槍を手にした禍々しい獣のような男。
一人は妖艶なドレスを纏い、おとぎ話の妖精のような尖った耳をした女。
「
「………ちっ!気に食わんが、俺とてアルスターの戦士の端くれだ。サーヴァントとして召喚された以上、やるべきことはやるさ」
ゾウケンの命令に、舌打ちをしながら不満を口にする
一度だけ対峙した事があり、その時とは姿が変わっているけど、アルスターの戦士、そして手にした槍。その二つが指し示す
「あら?どこの醜い筋肉ダルマかと思ったら、
だけど、いくらゾウケンが聖杯戦争の仕組みを熟知しているからと言って、脱落したサーヴァントを再召喚するなんて事が果たして可能なのか?
それに、
百歩譲ってサーヴァントの再召喚なり、一度倒したサーヴァントを座に還る前に留めておく事を可能にする
第一、元々従えている
そんな事が出来るのは………………。
おじ様…………。
だけど、今はこの状況を切り抜ける事が先決だ。
バーサーカーなら、たとえ
そうなると、必然的に
それに
今はゾウケンの言いなりで動いているようだけど、私を殺す好機と見れば
バーサーカーは
表情には勿論出さないけど、この状況を————
「お嬢様っ!!!」
セラの叫びに、我に返った私は自らの愚かさを呪った。
時間にして数秒でしかないけど、長考にも等しいソレは、
暗闇の中から湧き出てきた
————
突然訪れた自らの死は、しかし目の前に振り下ろされた鉄塊の壁と、視界を遮った白い壁によって、その瞬間だけは私から遠ざかっていった。
「おまえ、イリヤの、敵」
「ご無事ですか⁉お嬢様!!」
「下がりなさいセラ!」
「いいえ。お嬢様が危険に晒されているのに、どうして私だけが安全な所に居られましょうか」
戦闘用として調律されたリズは兎も角、基本的に戦闘には不向きのセラが出来る事は、こうして自分の身を盾にするしかないのだ。
事実、セラの右腕には血が滲んでいて、しかし彼女は「かすり傷です」と強がっているものの、手から血が滴るような傷がかすり傷な訳ないじゃない!
「退け。人形遊びの趣味など無い」
黒い外套で全身を覆い、白い髑髏の仮面で顔を覆う
「退かない」
表情を変える事無く、しかし確固たる意志を以て、リズが
リズには痛覚そのものが備わっていないので、苦痛に顔を歪める事は無い。だからこそ、致命傷となりそうな部位への攻撃は防ぐなり躱すなりするけど、それ以外の部位は捨て置いている。
だけどそれは“倒れない事”とは無関係だ。リズの体には十本を遥かに超える短剣が突き刺さっていて、白いドレスの大部分が彼女の血で赤く染まっている。彼女は長くはもたない。冷静に、冷徹にならなくても解ってしまう。
「………まさか主のみならず、お前の仲間に向けて放った
「リーゼリット!私の事は構わないでください!」
「………ダメ。セラ、イリヤ連れて逃げる。こいつ、食い止める…………早く」
リズの判断は正しい。
いくらリズがサーヴァントに準じる戦闘力を持つよう調律されていたとしても、サーヴァントそのものには敵わない。
サーヴァントにはサーヴァントを以て当たると言う定石から言えば、
だけど…………。
『呵々、今更逃げ果せるとでも思ったか?冬の娘よ』
不意に辺りに立ちこみ始めた霧の中から飛び出してきた蟲の群れからゾウケンの声が響き、それはやがて塊となって人の形を成してゆく。
「ゾウケン…………!」
「逃げるのなら好きにするがいい。アレが城の周りを囲っておる限り、お主は籠の中の鳥も同然だがな」
籠の中の鳥だなんてとんでもない。
「お前も、イリヤの、敵………!」
敵の首魁に狙いを変えたリズが
リズが初めて
「………愚か者め」
老木を両断するかのように
リズの首を断ち切ろうとしていたのか、主人から与えられた命令は、リズが咄嗟に身を捩って躱した事によって果たされる事は無かったが、彼女の右二の腕を中ほどから断ち切った。
「リーゼリットッ!!!」
セラの叫びにも、自らの腕から大量の血を吹き溢していても、尚リズは怯む事は無い。しかし、内在する精神は継戦を望んでいたとしても、それを覆う肉体は既に満身創痍としか言い表しようのない状態で、
「荒事に不向きだったアインツベルンにしては、なかなかどうして良く出来ておるではないか。だが、もう良い
「承知し……………………退かれよ、魔術師殿」
何らかの異常を察知した
前庭では、バーサーカーが
「鬱陶しい霧ね。こんなモノ吹き飛ばしてあげる。
霧の海と化した前庭から、
大規模な範囲攻撃術式である事だけは予測出来るけど、それ以上は私の、ううん、現代の魔術師の理解出来る範疇を凌駕している事は間違いない。
「
それはまるで、
やがてその足は、宛ら神話に在る雷神の大槌のように振り下ろされ、振り返った
轟音と悲鳴が皮切りとなり、金属が激しくぶつかり合う音だけが霧の中から響く。
「クッ………!卑怯者めっ!姿を現さないとは何事かっ!!」
「………………やはり来たか…………朝比奈のサーヴァント…………!」
今まで無機質で無感情だった
その髑髏の仮面が見据える先は、いつの間にかリズの傍らに立ち、彼女の身を支える一個の影。
音も無く、気配も無く、今までそこに在ったかのように立つ影は————
「
バーサーカーのセリフ(雄叫び?)はテキスト化するのが難しい(と言うか出来ない?)ので、ブロック文字を組み合わせて作りました。
一文字ずつ「ブロック」と打つのが面倒なので、Excelの簡単な関数を組み合わせて作っています。
さて、ワルツコラボが絶賛開催中ではありますが、弊カルデアのアイドルに聖杯を入れて
さて、次回は……
・栞さん、割と本気出す
・いてまえバーサーカー
・密着!救急救命センター24時
・楽しいロンドン♪
・図書館では、うわっ何をする!くぁwせdrftgyふじこlp
・バイバイ
・ふわっふわやぞ!
以上の予定です。