Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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前回以降、新たなお気に入り登録ありがとうございます。

今回は元々書きかけの最新話が長くなりそうだったので分割した後半部分でしたので早めに投稿する事が出来ました。

今回のFGOのイベントはボリューム的に少々物足りない?と言う声も耳にしますが、私個人の見解では、あれぐらいのボリュームの方が丁度良かったと思います。
周回に時間を食われる事も少なく、その空いた時間で久々にツーリングに行ってきました。
道中でお弁当を買って、よい景色を眺めながらそのお弁当を食べると言うピクニックツーリングはなかなかに乙なモノです。本格的な梅雨に入る前にまた行こうかなぁ………。


それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。


#061 Winner prepared it all.

 霧が立ちこむテラスに一個の影が立つ。

 それは紛れも無く、あの時「自分の事は“暗殺者(アサシン)”ではなく“シオリ”と呼んで欲しい」と言っていた、朝比奈のおじ様を護衛していたサーヴァントだ。

 そのシオリがリズの傷ついた身体を支えている。

 

「…………キミ………は………………」

 

「遅くなりました。後は私にお任せください」

 

「……ウン…………ヨ…ロシ……ク……………」

 

 だけどおかしい。

 おじ様が従えていたサーヴァントはシオリ一騎のみ。槍兵(ランサー)たちと戦っているのは一体誰なのか?おじ様が槍兵(ランサー)たちと?それとも、リンやシロウたちも来たというの?

 

「朝比奈の方!私たちの事はどうか構わず、せめてお嬢様だけでも!」

 

()(マスター)より、イリヤスフィール様救命の下知を承っておりますればご懸念無用にて。…………しかしながら、()()()()()()()()()()()を追い払うぐらい、行き掛けの駄賃としては順当でございましょう?」

 

 肩越しに私たちを見るシオリの目線は、それでもゾウケンと暗殺者(アサシン)に向けられていた。

 今までおじ様とシオリは、一度だけゾウケンと(まみ)えていたという話だったけど、それは両者が敵対する前の話。

 お互いに敵視するようになってからの遭遇は今回が初めてであるなら、これは朝比奈家(おじさまたち)からマキリに対しての明確な宣戦布告だ。

 

「おのれ………()()()()()()が相も変わらず忌々しい。()く帰っておぬしの主に伝えるがよい。この間桐臓硯の悲願を邪魔立てする貴様は、必ず血祭りにあげてくれる。精々首を洗って待っておれ。とな」

 

「……………首を洗って待て………だと?……………ふふふふふふ………これはまた……………」

 

 あからさまな敵意と怒気を示したゾウケンに対し、肩を揺すって笑うシオリの態度は、恨み言を垂れ流すゾウケンを明らかに馬鹿にしていて、それに触発されたゾウケンの顔は、憤怒によって増々その顔に刻まれた皺を深くしていた。

 

「何が可笑しい………?」

 

「噴飯ものとは正にこの事。吾が主が()()()()()()()()()()以上、お前は吾等(われら)朝比奈の敵。この先お前に在る未来は悲願の成就ではない…………!首を洗って待つのはお前自身と知れ。間桐臓硯っ!!」

 

「………使い魔風情が小癪な物言いを…………」

 

「それで、貴方はどうしますか?暗殺者(アサシン)。今度ばかりは、私も本気でお相手しますが?」

 

 ゾウケンの怒りを柳に風と受け流すように、シオリは(おもむろ)暗殺者(アサシン)にその視線を向けるも、暗殺者(アサシン)自身は微動だにしない。

 

 暗殺者(アサシン)は、シオリに気圧されている事ぐらい見れば判る。

 同じ暗殺者(アサシン)クラスのサーヴァントでも、シオリと暗殺者(アサシン)の実力差は、サーヴァント自身か、マスターの能力か、それともその双方に於いて隔絶しているのだろう。迂闊に攻めれば、自分の首と胴は一刀の下に切り離されると確信しているに違いない。

 

 主に似て憶病なサーヴァントね…………。

 そんなに死ぬのが怖いなら、戦場(こんなところ)に来なければいいのに。

 暗殺者(アサシン)には暗殺者(アサシン)の思惑が在るのだろうけど、全く無関係な私は、暗殺者(アサシン)のマスターに向けたモノと同種の憐れみと侮蔑の目を向けた。

 

「じゃあ、本気で相手になってもらおうじゃねえか……!」

 

 そんな暗殺者(アサシン)に代わってシオリに攻めかかって来たのは、霧の中から飛び出してきた槍兵(ランサー)だった。

 槍兵(ランサー)クラスのサーヴァントも、敏捷性に於いては暗殺者(アサシン)に引けを取らないと言われているけど、槍兵(ランサー)のそれは更に(はや)く、気付いた時には、シオリとリズの二人は槍兵(ランサー)の槍の間合いに入っていた。

 

「なっ………⁉」

 

 躱す事も逃げる事も出来ない必殺の間合い。凶暴な戦士の牙に二人が噛み砕かれたと認識した瞬間、驚愕の声を上げたのは誰あろう槍兵(ランサー)自身だった。

 槍兵(ランサー)の赤黒い槍は確かに二人を貫いた。しかし、槍の穂先に刺さっているのは人の形をした物ですらない、テラスの隅に置いてあった白い円卓だ。

 

「ちっ!テメェッ!一体何を!…………クソッ!!」

 

 苛立ちを隠す事無く穂先に刺さった円卓を振り払ったその瞬間、槍兵(ランサー)の背後に現れたシオリが、逆手に持った剣で槍兵(ランサー)の首を切り落とそうとするも、間一髪のところで上体を逸らして避けた槍兵(ランサー)の首を僅かに切っただけに終わる。

 しかし、シオリが隠し持っていた片手剣(レイピア)のように細い短剣が、槍兵(ランサー)の膝上に深々と突き立てられ、それは骨を貫き通されたに等しい箇所で、これで槍兵(ランサー)の敏捷性はかなり損なわれるだろう。

 

「私を足蹴にしてくれた借りは返させてもらうわっ!!」

 

 同じく霧の中から飛び出してきた魔術師(キャスター)が、シオリの周囲を取り囲むように奇怪な骨の使い魔を数体召喚する。

 それらが手にするのは、剣であり、槍であり、斧であり、弓を持つ者さえいたけど、鎖の先に錘が付いた武器に持ち替えたシオリが、それを振り回す事によって、その悉くを打ち砕いた。

 

「逃がさないわよ………!」

 

 嗜虐的に嗤う魔術師(キャスター)が、シオリの周囲を覆い尽くす程多数の魔法陣を描き出した次の瞬間、数多の光弾がシオリに向けて撃ち出される。

 重なり合う破砕音と立ち上る土煙は、ほんの少しの間だけ辺りの視界を奪ったけど、魔術師(キャスター)の起こした風によって、何事も無かったかのように周囲の視界はクリアなものとなった。

 

「ふふふ………跡形もなくなったようね」

 

 空中に浮揚してテラスを見下ろす魔術師(キャスター)の視線の先には大きな穴が穿たれていて、そこには肉片の一片すら残されていなかった。

 しかし、魔術師(キャスター)が勝利を確信し哄笑しようとしたその瞬間、背後から後頭部を掴まれ、そのまま顔面からテラスの床に叩きつけられた。

 

 魔術師(キャスター)を床に叩きつけたのは他でも無い。魔術師(キャスター)の攻撃に傷一つ負う事の無かったシオリがそこに居た。

 魔術師(キャスター)の髪を掴み、無理矢理頭を上げさせたシオリは、手にした剣で魔術師(キャスター)の首を掻き斬ろうとしていたけど、槍兵(ランサー)の文字通りの横槍で中断を余儀なくされて魔術師(キャスター)から飛び退いた。

 それを追走する槍兵(ランサー)に、穂先が十字の形をした槍に持ち替えたシオリが迎え撃つべく構える。

 

「ハンッ!暗殺者(アサシン)風情が槍兵(そうへい)に槍で挑むたぁ、いい度胸だなっ!!」

 

 腰の高さに槍を構え、フッと息を強く吐いたその時————

 

「▆█▆▄▄▅▃▃▃▅▇▇▇———————ッ!!!」

 

 霧の中で機を窺っていたであろうバーサーカーが二人の間に割って入り、槍兵(ランサー)は大きく飛び退いて距離を取る。

 そしてシオリはと言うと…………

 

「ぐぅっ!!」

 

 至近で暗殺者(アサシン)の呻き声があがる。

 戦闘の中で生じた一瞬の空隙を好機とし、私の命を奪おうと近寄った暗殺者(アサシン)は、しかしシオリの槍によってテラスの壁に左肩を縫い付けられていたのだ。

 

「絶妙の潮時。流石は暗殺者(アサシン)と言いたいところですが、私がいる限り、この()に傷一つつけられるとは思わないでください」

 

「………………ククククク……………」

 

 私の命を奪う目論見は頓挫し、動きを封じられてうなだれているかに思えた暗殺者(アサシン)が、喉の奥で不気味に嗤う。

 何かただならない予感がして身構える私に、シオリは手だけで後ろに下がるよう合図したその直後————

 

「魂なぞ飴細工よ………。苦悶を(こぼ)せ…………妄想心音(ザバーニーヤ)ッ………!!」

 

 翻った黒い外套から現れたのは、暗殺者(アサシン)自身の体長よりも長い異形の右腕。

 その異形を隠す為に、普段は折り畳まれていたであろうその右腕は、瞬く間にシオリの胸元に迫り——————

 

「さしずめ、その手で触れた相手の心臓の鏡面存在(コピー)を作り出し、心臓(ソレ)を握り潰す事によって成立させる呪殺のようなものが貴方の宝具。と言う訳ですか」

 

 暗殺者(アサシン)の右腕はシオリの体ではなく、テラスに在った円卓と共に置かれていた白い木製の椅子を砕いていた。

 不思議な事に椅子は元あった場所ではなく、まるでチェスの“王の入城(キャスリング)”のように、ついさっきまでシオリの立っていた位置に移動していたのだ。

 そしてそのシオリはと言うと、テラスの隅の手すりの上に瞬間移動したかのように立っている。

 更に、私はいつの間にかそのシオリに抱きかかえられていた。

 

「またぞろクソッたれな術を使いやがる。それがテメェの宝具って訳か………!」

 

 バーサーカーと対峙する槍兵(ランサー)が、忌々し気に吐き捨てる。

 “相手を仕留めた”と言う手応えがありながらも、その実空振りに終わっていたと知れば、そのシオリの術の煩わしさは、相手にとって憤懣遣る方無い事間違いないだろう。

 

「…………成程、先日河原で覗き見ていたのは、やはり貴様だったか。しかも自らと手近なモノとの位置を変えるその術、貴様のソレは()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「あ?どういう事だ⁉答えろ、黒虫野郎!」

 

「愚か者め、まだ気付かんか?我等暗殺者(アサシン)のサーヴァントは“マスターの殺害”を生業とするクラス。(しか)るに、その宝具もまた()()()()()()()()()()()()。だが、先程から見せているヤツの奇妙な術の性質は“自身が受ける致命傷を回避する”その一点のみ。ならば、宝具(きりふだ)を別に隠し持っていると見るべきだろうよ」

 

 暗殺者(アサシン)の推論には一理ある。だけど、それに敢えて付け加えるなら、サーヴァントが宝具を開帳する時には独特の気配、魔力の流れがあるのに、シオリの術にはソレが無い。それこそ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「察するに、貴様の目的はアインツベルンの娘の救出と並行した威力偵察。と言ったところか?」

 

「………もう少し貴方たちの情報を集めたかったところではありますけど…………そろそろ佳い頃合いですね」

 

「呵々々。空でも飛ばない限り、お主たちに逃げる術は無い。お主を()()()()()しまえば、忌まわしい朝比奈の力を削ぐ事も出来ようて」

 

 シオリは確かに強い。暗殺者(アサシン)を始め、槍兵(ランサー)魔術師(キャスター)の三騎を相手取ってさえ優勢を維持している上、サーヴァントの切り札である宝具を未だ開帳していない。

 だけど、そんなシオリでさえ()()()に太刀打ち出来ないだろう。それだけ()()()はサーヴァントにとって絶対の天敵なのだ。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()………。ふふっ、お前の()()()()()と主には申し伝えておきましょう」

 

 ゾウケンの言う通り、()()()に囲まれたこの城から逃げる事は出来ない。そう思っていた。

 だけど不敵に嗤うシオリの横顔は、そんなゾウケンの奸計に穴を穿つ一計が在ると確信させるものだった。

 

「バーサーカー!一時退くわ!戻りなさいっ!」

 

 しかし、槍兵(ランサー)と対峙するバーサーカーは微動だにしない。

 たとえ槍兵(ランサー)がその(いとま)さえ与えないとしても、バーサーカーならそれさえも食い破って霊体化するだけの時間は作れる筈だと言うのに————

 

「バーサーカーは、時間を稼ぐ為に残るようです」

 

「………!」

 

 シオリの述懐はとても容認できるようなモノじゃない。

 だってバーサーカーは私のサーヴァント。

 現界してから、今日までずっと私と共に居てくれた存在。私の傍に居てくれた存在。

 そんなバーサーカーが、私一人だけを逃がす為に残るだなんて。私一人だけを置いて遠いところに行ってしまうだなんて、それじゃあ十年前と全く同じじゃない…………!

 

「…………ええ、吾等朝比奈の名に懸けて必ず………!」

 

 静かに黒い巨体を揺らしてこちらを見るバーサーカーに対し、“私を護る”という唯一つの意思を共有し合う二人に、それ以上交わす言葉は不要である。と、シオリもまた静かに応える。

 その応えに満足したのか、バーサーカーはまた静かに槍兵(ランサー)に向き直った。

 

「バーサーカー………いえ、ヘラクレス殿。御武運を…………!」

 

 その大きな背中に投げられる激励に、バーサーカーは大木のような腕を横に伸ばし、親指を立てて応える。

 その背中の後ろに在る守るべき者の存在は、たとえ理性を奪われていようとも、その魂の根底に刻み込まれた戦士としての矜持を奮い立たせるには十分だったのだろう。

 

「それでは今宵はこれにて…………五遁三十法(ごとんさんじゅっぽう)の神髄、(とく)御覧(ごろう)じあれ………!」

 

 シオリが宣言した直後、四方八方から何か丸いモノが幾つも投げ込まれ、それが炸裂するや辺りには煙が立ち込める。

 

「ちっ!煙幕か!背を向けて逃げるとは、テメェには戦士の誇りはねぇのか⁉」

 

「生憎、忍びの誉れは武士(もののふ)のソレと異に致しますれば」

 

 槍兵(ランサー)が浴びせる罵声を意に介する事無く、私を抱きかかえたシオリが夜の森へと飛び込む。

 

 大きなバーサーカーの身体が遠ざかり、私を護ってくれたあの背中も、私を担いでくれたあの肩も、みるみる小さくなってゆき、その輪郭さえも滲んでゆく。

 涙が止まらない。止まる筈も無い。たった数か月、初めの頃はバーサーカーが動く度に痛い思いをしたし、とても怖い思いもしたけど、それでも私の大切な、かけがえのないサーヴァント。漠然と、しかし明確にそのサーヴァントを失うのだと、もう二度と会う事は出来ないのだと思うと嗚咽が止まらなかった。

 

 だけどバーサーカーは動かない。

 

 …………そうだ…………あの時と同じだ……………。

 

 冬の森で狼の群れから守ってくれた時、バーサーカーは狼たちにされるがまま、微動だにしなかった。

 バーサーカーは私のサーヴァント。

 私が“戦え”と命じない限り動かないのだ。

 

「うっ…………ぐっ…………………!やっちゃえ………やっちゃえ………やっちゃえ…………!やっちゃえぇぇぇぇっっっっ!!!!! バーサーカァァァァァッッッッッ!!!!!!」

 

 今は泣いている場合じゃない…………!

 私は力の限り、今までに出した事の無いぐらいの大きな声で、バーサーカーに()()()()()を下した。

 

「█▇▆▇▆▅▅▇█▅▄▆▆▇▇▆▅▆▄▅▆█▆▄▅———————ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!」

 

 私の叫びに応えるように、バーサーカーの雄叫びが森にこだまし、眠りに就いていた野鳥たちが一斉に飛び立った。

 

 相手はサーヴァント三騎に加えて、()()()までいる。

 きっと絶望的な戦いになるだろうけど、バーサーカーが簡単に負けるだなんて思う訳がない。

 だって、バーサーカーは強いんだから…………!

 

 

 

 鬱蒼とした森の中を影が走る。

 私を抱えたままのシオリは條々(えだえだ)を飛び移り、時には鎖を巻き付けた樹を支点に飛びながらもその速さは僅かさえ鈍る事無く、まるで平坦で整備された道を全力疾走しているかの様だった。

 

「……………流石に(はや)い…………!」

 

 僅かな苦々しさを含んだ呟きを漏らすシオリに訊き返そうとした瞬間、彼女は急に身を捩り、驚きの声を上げるよりも早く、私たちがさっきまでいた空間を何かが切り裂いた。

 

「獲物に立て続けに逃げられては、私も立つ瀬がないのでな」

 

 どこからともなく、しかし明瞭に暗殺者(アサシン)の声が森の闇に響く。シオリの速さを上回って暗殺者(アサシン)が追い付いたのだ。

 

「それはご苦労な事です。ですが、貴方に同情してお役目を放棄する謂れはありませんが?」

 

「なに、それには及ばん。私は私のやり方で仕事を全うするのみよ」

 

 泰然とした態度で応じるシオリに対し、暗殺者(アサシン)もまた静かに応える。

 その間もシオリの足は止まる事無く、暗殺者(アサシン)の攻撃もまた止む事は無い。

 城のテラスのように開けた場所ではなく、鬱蒼とした森の暗闇こそが暗殺者(アサシン)のサーヴァントの主戦場である。と、二人の戦いはそう物語っていた。

 

「結構。同じ間諜の英霊、同じ暗殺者(アサシン)クラスのサーヴァントと言えど、西方の間者ごときに後れを取ったとあれば忍びの名折れ。今少し、忍びの技を披露いたしましょう」

 

 そう言うとシオリは、私を更にぎゅっと強く目と耳を塞ぐように抱きしめた次の瞬間、それでも分かるいくつもの爆音が森の空気を震わせた。

 

「な、なんなの今の⁉」

 

「コンポジションC-4。俗に言う“プラスチック爆弾”をこの辺りに仕掛けておいたのです」

 

 サーヴァントに傷を与えるには、魔術を始めとした神秘を纏っている必要があり、神秘の欠片も無い科学と化学の産物である現代兵器ではサーヴァントに傷一つ付ける事なんて出来る筈も無い。それこそ神秘を纏わせた棒切れの方がよっぽど効果的だ。

 当然、同じサーヴァントであるシオリもそれは理解していて、暗殺者(アサシン)を倒す事よりも、閃光と爆風そして轟音で目くらましと足止めをする為に、予め想定しておいた幾つかの脱出ルートの基点の一つに仕掛けておいたのだと言う。

 

 しかし————

 

「さすがに驚かされた」

 

「…………!」

 

 横合いから急速に迫る暗殺者(アサシン)が突き出す短剣をシオリは辛うじて躱す。

 しかしその代償として、今までどんな攻撃を受けても止まらなかったシオリの足がついに止まり、樹上に立つ暗殺者(アサシン)を見上げる事を余儀なくされた。

 

「長く現界しているが故に、現代の武具の扱いにも通じていると言うのも思えば道理だが、実際に見るとこうも違うものなのだな」

 

「………貴方の至近で起爆させた筈ですが?」

 

「“風除けの加護”。砂漠を征く者には必須でな。生憎、あの程度の爆風で私の足は止まらんよ」

 

「では、貴方をここで斃す以外、貴方の足は止まらないと?」

 

「その娘を抱えていたとて、貴様にはそれも容易かろう?だが言った筈だ。私は私のやり方で仕事を全うする。とな」

 

 背後から異様な気配が迫って来る。

 これは間違いなく()()()だ。

 

「ククク………私では到底貴様に敵わん。しかし、やりようはあると言うものだ」

 

 暗殺者(アサシン)ではシオリには勝てない。それは暗殺者(アサシン)自身もよく理解している。

 だからこそ、暗殺者(アサシン)は自分の能力の及ぶ限りでシオリの足を鈍らせ、そして足を止めさせて()()()がここに到着するまでの時間を稼いでいたのだ。

 

「現状を鑑みれば、臓硯の採った策はコレが妥当でしょう。ですが…………臓硯にも貴方にも()()()()()()()()()()()()()()()

 

「なに………?」

 

 状況が悪化しても尚、不敵に笑うシオリに暗殺者(アサシン)が動揺の色を見せた次の瞬間、先程の爆発に比べれば細やかな、しかし複数の音が重なる事によって生じる轟音が辺りを包み込んだかと思うと、暗殺者(アサシン)と周囲の木が所々弾け、全身から血を吹きだした暗殺者(アサシン)は、糸の切れた操り人形のように地面へと落下した。

 

「………一体…………何………が……………」

 

 ()()()が間近まで迫っている事で勝利を確信していた暗殺者(アサシン)からすれば、自分が敗者のように地に伏せている状況を飲み込む事は容易くないだろう。

 そして敗者となるべきシオリが、(あたか)も勝者であるかのように悠然と立つ姿を見れば、その混乱は一層顕著なものとなる。

 

「孫子に曰く“善く戦う者は不敗の地に立ちて敵の敗を失わざる也。故に、勝兵は先ず勝ちて(しか)る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む”とあります」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 事前に十全の準備をして負けない態勢を整えてから戦いに臨み、勝機を見出したなら遅滞なく、拙速を以て攻める。

 故に、勝敗とは戦う前に決しているようなモノなのだ。とシオリは言葉を繋ぐ。

 

「そして貴方自身の敗因は、()()()()()()()()()()()()()()。その一言に尽きます」

 

 暗殺者(アサシン)の最大の武器の一つはその“敏捷性”だ。その敏捷性を最大限に生かされれば、どのような攻撃も当たる事は無い。

 しかし勝利を確信した暗殺者(アサシン)は足を止める事によって、()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 シオリがどうやって暗殺者(アサシン)を取り囲んで全方位からの攻撃を与えたかは分からない。だけど暗殺者(アサシン)の失策が、シオリの攻撃による成果を最大限に発揮させた事には変わりない。

 

「………私を殺すか………」

 

「致命傷にならないよう手加減しましたが、臓硯程度の魔力では戦線復帰が叶う程の回復は見込めないでしょう。願わくば()()()()()()()()疾く座に還られませ」

 

 倒れ伏す暗殺者(アサシン)に止めを刺す事無く、シオリは静かな面持ちで言い放ち脱出を再開した。

 

 おじ様の話では、槍兵(ランサー)魔術師(キャスター)()()()()()()()()()。そのせいであの二騎は変質した状態で私たちの前に現れたのだけど、器の擬装として設計されたホムンクルス(わたしたち)とは異なり、元々純粋な人間であるあの子では器の許容量が少なすぎる。あの子の生命活動が既に異常をきたしているのがその証拠だ。

 シオリが止めを刺さなかったのは、(ひとえ)暗殺者(アサシン)が私ではなく、あの子の器に流れる事を懸念したからなのだろう。

 

 だけど、あの子はもう()()()()()()()()()

 ああなってしまっては、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。

 そんな私の憂いを他所に()()()の気配は徐々に迫って来る。

 

 バーサーカーの相手をするよりも先に、私たちを捕まえようと追ってきたのは僥倖でもあり、奇禍でもあった。

 ()()()が私たちを標的としている間は、バーサーカーの相手はあの二騎だけになる。そうなれば、バーサーカーが二騎を屠るなり退却するなり出来るかもしれない。

 しかし、()()()が伸ばす帯のような触手はシオリよりも速く、あと十メートルにも満たない距離を追いつかれるのは時間の問題だ。

 

「掛巻くも(たっと)八咫烏大神(やたがらすのおおかみ)御前(みまえ)に、百地三太夫丹波(ももち さんだゆう たんば)(かしこ)(かしこ)(もう)す………」

 

 振り返る事無く、シオリが何かの呪文を唱え始める。

 あと五メートル。

 

 いよいよ宝具を開帳するのか?と思ったけど、彼女が纏う雰囲気が、魔力が、宝具を開帳する時のソレとは異なって見える。

 あと三メートル。

 

「結び固めし縁手繰りて、契り交しし絆伝いて、疾く疾くと天翔けて、吾が主朝比奈瑛賢(あさひな えいけん)の元に導き給えと、(かしこ)(かしこ)乞奉(こいねぎ)らうと(もう)す………!」

 

 ()()()の触手は一メートルにも満たない、手を伸ばせば触れそうなほど近くまで迫って来た。

 

「マスターッ!!()()()()()()()()()()()()!!!」

 

 ここにはいない筈のおじ様に向けて叫んだ次の瞬間、触れるか触れないかにまで迫っていた()()()の触手が一気に離れていった。

 

 ()()()が追跡を諦めて止まった訳じゃない。私たちがあの瞬間から、()()()()()()()()()()()()()のだと気付いたのは、シオリにぎゅっと抱きしめられ、その腕の隙間から僅かに見える景色が、体感した事の無い速さで流れているのを見た時だった。

 

 音速か、それとも音速に近い速度が出ているのか、街の灯りが流星群のように流れてゆく。

 しかしそれもやがてゆっくりと流れるようになり、やおら体勢を変えたシオリが、どこかの大きな建物の屋上へと着地した。

 

「ケガはなかったかい?イリヤちゃん」

 

「おじ様⁉」

 

 そこに居たのは、白く古めかしい魔術礼装を身に纏った朝比奈のおじ様だった。

 

 あぁ…………おじ様は本当に何度も私を救ってくれた…………。

 キリツグを助けられなかった分の償いだ。と、おじ様は仰るかもしれないけど、それでもおじ様は約束を守ってくれた事に変わりない。

 それが嬉しくて、私は思わずおじ様に飛びついてしまったのだけど、結果としておじ様を押し倒してしまった。これじゃあ香蘭(シャンラン)の事をどうこう言えないわね………。

 

「ご、ごめんなさいおじ様………!」

 

「いやいや…………流石に()()()()()()()()()()魔力を結構使っちまってね。踏ん張りが利かなかっただけさ」

 

「シオリが詠唱していたアレの事?」

 

「そう。魔術による飛行術式“アンカーアトラクションアセンション”。通称“トーコトラベル”の応用………と言うか、そのものなんだけどね」

 

 おじ様曰く、緊急離脱する為の手段として着目したけど、その“トーコトラベル”と呼ばれる術式の成功率は、考案者自身でさえ専用の礼装を用いても三割にも満たないらしく、その欠点を補うべく、おじ様がシオリを引っ張る、双方で同時に詠唱する等、用途を限定したり、マスターとサーヴァントの魔術的関係を利用したりして、ようやく成功率を五割程度にまで上げる事が出来たけど、実行速度や運用効率、そして成功率そのものにもまだまだ課題が残るらしく、セラやリズも同じように引っ張ろうとしたけど、こちらは成功しなかったらしい。

 

「お(にい)!栞ちゃん!無事かい⁉」

 

 やがて白衣を身に着けた二人の男女が駆け寄って来た。この二人は()()()()()なのだろう。

 

「龍くん!一人は腕に切傷(せっしょう)を負いましたが応急処置済みです!もう一人は刺傷(ししょう)多数、右腕切断の重傷、意識ありません!右腕回収済みです!」

 

美彌(みや)ねえ!緊急手術の準備!栞さんはストレッチャーの準備手伝って!」

 

 おじ様によく似た男性の医師が矢継ぎ早に指示を出し、シオリと女性の方がそれぞれに動き出す。

 

「おじ様、私たちは人間の医者にかかったって…………」

 

 ホムンクルス(おかあさま)人間(キリツグ)の間に生まれた私なら多少の応用は利くかもしれないけど、軽症のセラは兎も角、瀕死の重傷を負ったリズを人間の医者が診たところで、姿形は同じでもその構造が人間のそれとは全く違うから、その知識は全く役に立たない。

 

「君たちがアインツベルンのホムンクルスであるなら、朝比奈一門(おれたち)には彼女たちを救える可能性が有る」

 

 しかし、そう断言するおじ様の目に嘘偽りは無いように見えた。

 ホムンクルス(わたしたち)を治すには、医学的にも魔術的にも、人間と同様にその構造を熟知していなくてはならない。

 アインツベルンの錬金術が易々と他所に流出したとは考えられない。

 考えられないのだけど……………。

 

「それって……………()()()()()()と関係が在るの…………?」

 

 だけど例外は在り得る。

 アハトのお爺様が一度だけ語り聞かせてくれた、過去の聖杯戦争の記録。

 おじ様と初めて会って以来、ずっと抱き続けてきた()()()()()()()()()

 それが例外の産物であれば、おじ様たちがホムンクルス(わたしたち)を治療出来ると明言する根拠になり得る。

 

「…………俺の魔術回路は、君たちアインツベルンのホムンクルスが持つ魔術回路と、元々の魔術回路を人為的に融合させたモノなんだよ」

 

 僅かな逡巡の後、静かな口調で真実を打ち明けるおじ様の後ろで、シオリが泣き出しそうなほど悲痛な顔をしていた事に、私は興味本位で踏み込んではいけない領域に土足で踏み入ってしまったのだ。と、後ろめたい気持ちになった。




今まで小出しにしてきましたが、栞さんが大分本気を見せ始めました。先生と併せてガチでバトるのももうすぐの予定です。
さて、そんな栞さんが今回は兵法を用いた軍師っぽい顔を見せましたが、天正年間の百地丹波(百地三太夫)には忍者の頭領としての逸話は勿論、軍師としての逸話も在るのです。
その辺の詳しくは、今後の話に加えていこうと思います。

さて、次回は……

・いてまえバーサーカー

・密着!救急救命センター24時

・楽しいロンドン♪

・図書館では、うわっ何をする!くぁwせdrftgyふじこlp

・バイバイ

・ふわっふわやぞ!

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