Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
6.5章のフリクエも全て片付き、来るべき箱イベに向けた青りんご貯金を再開しました。
それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。
朝方に暖かな陽光を地上に降り注いだ太陽は、しかし何処からともなく現れた多くの雲にその働きを阻まれ、昼前の空は宛ら“
生まれた意味も、生きる意味も失った一人の少女は、だが残された僅かな時間を以て、己の欲する事を成さんと立ち上がり、暗く歪められてしまった過去を清算する為に、その一歩を踏み出した。
翻って、今の彼女ぐらいの頃の俺はどうだったか。
喪失感と自責の念と罪悪感に圧し潰され、自暴自棄になって立ち上がる事を考える事さえ出来なかった。
残された時間が少ないとは言え、昨日の今日で立ち上がって歩き始める。彼女の強靭な精神には唯々感嘆するばかりだ。掛け値なしに尊敬に値すると言って良く、賛辞を以て彼女を送り出すに如くはない。
「そんなところも、きっとアイリさんに似たんだろうな………」
アイリさんと言葉を交わした事はほぼ皆無だったが、
そんな彼女を送り出す折に、餞別代りにと
しかし、結末を指す“
これは取りも直さず、彼女の行動はやがて
そもそも占いは“予測”の類義語と言って良く、他者の行動を制限して、時間軸の行き着く先を固定するような事は出来ない。“未来視の魔眼”や、更に上位の“千里眼”でさえ、確度の違いこそあれ、根本は占いとそう大差は無い。
それに六壬は“占うと決めた瞬間”から物事の吉凶を占うものであり、星々の運行が人の営みに関わらず進み続けるのと同じように、今この瞬間に同じ事を占っても、結果が異なる事だって十分にあり得る。
具体的に言えば、先の占いの結果で示された
そして、その凶兆の芽と言うのは、
出来得れば、年長者が傍に在って後ろ盾になる事が、吉兆へ転じるのを確実なモノとするようなのだが、亡き両親は言わずもがな、かのアハト翁も含め、今の彼女を護ってやれる大人が俺以外にいない。
魔術師にとって、我が子とは代々の魔術と魔術刻印を継承する為、或いは自らが根源に到る為の儀式を成立させる為の
実の親に殺される事など珍しくなく、よしんばそうならなくとも、飼い殺し同然に押し込められ、劣等感と、喪失感と、屈辱感に精神を蝕まれ、やがては外道へと堕ちた者を何人も見て、その
同系統の魔術を扱うのであれば、血縁関係では無かろうとも、養子や内弟子として迎え入れられ、才覚次第では嫡子よりも優遇されるケースも無くはないのだが、彼女の特殊な事情を鑑みれば、それも難しいだろう。
俺自身も亡父の友人として懐かれてはいるが、多くの同じ年頃の若者たちを擁する一門の長である以上、亡友の娘と言うだけで、彼らよりも優遇する訳にはいかない立場である。
今は栞を彼女の護衛に付けてはいるが、栞が俺のサーヴァントである以上、同じタイミングで同種の危機に見舞われたなら、たとえ俺がそう命じたとしても、彼女よりも俺の安全を優先したとて、それを批難出来る道理もない。
然るべき後見を見つけてやりたいのは山々なのだが、如何せん俺以上に彼女の後見を務められる大人がいない現状、俺の養女として庇護下に置く事も考えたが、どうあれ存命中に俺が死んでしまえば、元の木阿弥になる可能性だって否定出来ない。
………はてさて…………どうしたものか……………。
…………
…………………
………………………
そいつ自身も後見が必要なのだが、そいつと彼女の関係、そして俺とそいつの関係を考慮すれば、そいつを介して、彼女を一門の庇護下に置く事が可能だ。些か問題はあるが、それは現実的に解決可能な問題ばかりだろう。
先の年長者云々は、“そうであれば尚良し”と言った程度で、凶兆の芽そのものは“独りで行動する”事だ。
凶兆そのものを避けるだけなら、その役目は、たとえ
「姉弟まとめて、面倒見てやるしか無いようだな………」
あの二人、特に義弟の方は、亡父との付き合いもあって、世話を焼いてくれる大人はいくらかいて、彼女の出自を明かせば同様の庇護も期待出来るだろうが、それも
魔術絡みで二人に累が及べば、事実上の孤立無援である事は変わらない以上、その脅威から護る盾として、そして脅威そのものへの抑止力として考えるなら、やはり亡父との付き合いのあった俺以外になく、それは
「…………精々
我ながらお人好しが過ぎると言えなくも無い。
だがこれも因縁。
何の見返りを求めるでもなく、ただ
そう腹を括った俺は、冷めたモカブレンドと共に、一切の憂いを胃の腑に流し込んだ。
集まった情報と書類の整理に没頭していたら、時計の針はいつの間にか午後を指していた。道理で少々小腹が空いた訳だ。
リーゼリットの手術は、未だ終わってはいない。
切断外傷の再接着手術には、専門の執刀医でも、腕なら六時間前後の手術時間を要すると聞いた事はあるが、それは執刀医を中心に、サポートの医師、麻酔科医、看護師などのチームによる執刀体制が整った場合だ。
対してこちらは、魔術と関係ない一般採用の医師を関与させる訳にはいかない以上、執刀医の
本来なら一門の医師兼治癒魔術師をもっと動員し、美彌と龍徳をそれぞれの長とした、二チーム体制での医療チームを編成したかったのだが、今回は隠密裏に活動する必要がある以上、大々的に一門の人間を大勢集める訳にはいかない事と、メンバー候補に挙がった者は、
唯一の救いは、美彌の治癒魔術を用いれば、切断部の壊死を大幅に遅らせられるので、一般的な再接着手術よりも時間が切迫していない事ぐらいだろう。
「手術は、無事終わったみたいですわよ」
ドアをノックして部屋に入ってきたサーシャが、手術の終了を報告しに来た。
部屋にイリヤちゃんがいなく、栞と共に外出した旨を知ると、一瞬怪訝な表情を浮かべたが、術後の経過を観察する為に、三人は交替で仮眠を取ると事務的に告げた。であれば、
だがその前に————
「サーシャ、コイツなんだがな………」
彼女の前に差し出した一枚の書類。
それは昨夜、彼女自身が俺に渡してきた、冬木に潜伏しているマスター以外の魔術師たちのリストから抜き出したモノだ。
「……………はぁ…………
観念したかのようにため息をつき、俺がする筈だった問いを先んじて肯定した。
事の始まりは、朝食を共にする為にイリヤちゃんを連れてきた栞に、散乱した資料の山を見咎められた事に端を発する。
皐月のあられもない格好を窘めつつ、資料の片づけを促していた栞が、たまたま手に取った一枚のリストを見て表情を強張らせた。
俺自身、子供の頃に片手で足りる程度しか会った事が無かったので、朧気にしかその顔を覚えていなかったのだが、手にした資料に写る人物が、見知った少年の面影を色濃く残している事を栞が指摘したのだ。
「それはつまり………」
「ええ。“フェオ”だなんて妙な名前を名乗っていますけど、ミハイル・ロマーノヴィッチ・クラコフスキー。三十年ほど前に、我が家を出奔した不肖の弟ですわ」
元共和国大統領親衛隊副隊長だった魔術師。
「…………クラコフスキーの源流刻印は、私が受け継ぎ、そして息子に受け継がれましたわ。つまり、
サーシャの言う事は、
その家の魔術は、代々一子相伝で継承されるモノであり、その一端でも垣間見た者が逃亡したのであれば、それがたとえ嫡子であっても、機密保持の為に追手が差し向けられ、口封じをされるのが常だ。
ましてや、そのような不心得者を一族から出してしまったとあれば、それが血の繋がった実の弟であっても、 “姉”としてではなく“当主”として討つ事を躊躇ってはいけないのだ。
しかし…………!
「……………
「そうやって、独りで何でも背負い込もうとするのは、貴方の悪い癖でしてよ………。それに、これは我が家の問題であって、宗家には関わり無き事。クラコフスキー家の当主として、宗家に於かれましては、この件、一切の手出しは無用に願いますわ」
否定しきれない指摘に「
今はどちらが始末するかを議論する場合ではない。
それにサーシャとて、
憂慮していた骨肉
しかし何の因果か、悲惨な結末しか想像できない別の悲劇の幕が切って落とされてしまった。こうなる脚本を書いた者が存在するのであれば、きっとロクな死に方はしないだろう。
「…………だが、俺の前に立ったなら斬る。それで構わんな?」
「宗主の
しかし翳りのある笑顔で、彼女はそう応じた。
いよいよ次回は、物語上重要な話になりますが、筆がノリにノリ過ぎて大ボリュームになって、またしても前後半の二話構成になるかも………
さて、次回は……
・バイバイ
・ふわっふわやぞ!
・なべてこの世はいとヤバし
・中かき回しちゃらめぇっ!
・やるっきゃないと
・先生おこ
・栞さん本気出す
・来なかったらどうしようかと不安になっていたところだ
以上の予定です。