Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
リアルは相変わらず忙しいのですが、今回はそれに加えて筆が一向に進まないいわばスランプ状態、モチベーションが上がらないという三重苦に捕らわれていまして、とうとう前回から一年以上も間が空いてしまうという体たらく。
あまりにも間が空きすぎて、もう誰も覚えてくれていないのではないかと不安で仕方がないのですが、一時的に仕事食い潰される時間が減っているこの機会に、細々と書いていこうと思います。
それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。
聖杯戦争が始まって以来、今まで当たり前だと思っていた事が全て覆り、まるで世界そのものがひっくり返ったかのような感覚をいつも味わっていた。
だけどそれは、気が遠くなるほどの昔から“日常”と言う蓋をかけられ、人の目に触れる事無く流れ続けてきた
「キリツグは私の
イリヤの告白に、今までで最大級の衝撃を受けた事は言うまでもない。
以前からイリヤは俺の事を知っている様子だったのは、俺たちが義理の兄妹だったからという訳だけど、そんな事情を全く知らなかった俺は、いくら記憶を掘り起こしてもイリヤのような女の子に遭った記憶は無く、たとえそれが一度でもあるのなら、それは鮮烈に記憶に焼き付いていただろう。
「……………だったら………何故イリヤは、
あの大火災で両親と住んでいた家を喪い、
「…………それはね、キリツグは私と
だけど、
「だけど、そのキリツグももうこの世にいない。私を置いて勝手に死んじゃったわ。でも、それじゃ私の気持ちが治まらないでしょう?だから、シロウに償ってもらう事にしたの」
怒りや憎しみが含まれても可笑しくない筈の言葉なのに、まるで
「…………その………イリヤのお母さんは何て…………?」
殺してさえ飽き足らない程の恨み。この小さな身体には大きすぎるソレを、イリヤが独りで抱え込んだとは考えにくかった。だからこそ、
「お母様は聖杯戦争の時に亡くなったわ。それからずっと私は独りだったから、
それは他の誰のモノでもなく、紛れもないイリヤ自身の意志。
誤解だったとはいえ、
失われた家族の、親子の
海外に出かけることが多かったとはいえ、親一人子一人の父子家庭の生活は、大変な事もあったけど総じて悪いモノじゃなく、しょっちゅう家に入り浸る藤ねえの存在も相まって“新しい家族のカタチ”を享受していた。
だけど、それはイリヤとその母親と言う“本来の家族のカタチ”を犠牲とした上で成り立ったモノだったのだ。
母親を亡くし、父親に捨てられ、ずっと独りで過ごしてきたイリヤの心中を計り知る事も、ましてや軽々しく理解したフリをする事なんて出来ない。
俺も両親を亡くしはしたが、それでも俺は独りじゃなかったのだから…………。
「でもね、朝比奈のおじ様が教えてくださったの。キリツグは私を捨ててなんていない。キリツグは何度でも私を迎えに来てくれていた、って」
俺が養子になってから数年後、
だけどそれは、言葉通りに旅行をしていた訳じゃなく、独り残されたイリヤを連れ戻す為に、アインツベルンの本拠地に赴いていたのだ。しかし
最後の一年は精々で近所を散歩するぐらいしか出かけていなかったけど、それはイリヤの事を諦めたのではなく、余命幾許も無い
だったら、
「だから、シロウもおじ様に感謝なさい。おじ様がいらっしゃってなければ、今頃シロウは酷い目に遭ってたんだから」
悪戯っぽく微笑むイリヤの言う“酷い目”とは一体何なのか、想像しただけで冷や汗が滝のように流れそうになる。
「セイバー。ひょっとして、イリヤが
セイバーは前回の聖杯戦争で、
「…………ええ、切嗣とアイリスフィールとの間に御息女がいる事は承知していました。ですが、容姿が当時と全く変わっていませんでしたので、なんらかの関係がある同系統のホムンクルスだとばかり…………」
前回の聖杯戦争が始まる前に召喚されていたというセイバーは、やはりイリヤと面識はあったようだけど、どうやら今ここにいるのが当人とは思っていなかったようだ。
「じゃあ、栞さんがイリヤを助けたのって…………」
「
何故先生は、イリヤを助けるよう栞さんに命令したのか、その疑問をずっと抱いていた。
心配のあまり、先生は何らかの悪だくみの為に、イリヤを助けると言う名目で
そして、イリヤが“
友人の娘だから助けた。
損得勘定なんて言葉を空の彼方に投げ捨てた、実に単純な行動理由だけど、単純であるが故に強く、折れる事の無い強固な信念。それを持った人こそ、
さっき飲み込んだ疑問だって、いくら先生に
「セイバー…………お母様の事、覚えて……いるの………?」
「はい。貴女の母君、アイリスフィールとは、共に聖杯戦争を戦った“戦友”と言っても過言ではありません。ですが、彼女自身が望んだ結末とは言え、彼女を護りきれなかった事は、今でも悔やまれます」
「………そう…………どうやら、セイバーなりに
自分だけではなく、その母親の事も覚えていたと言うセイバーに、イリヤは目を丸くするも、母親と駆け抜けた聖杯戦争を語るセイバーの言葉に、その表情は急速に曇っていく。
「シロウには敢えて言いませんでしたが、通常、サーヴァントというのは以前の記憶を持ちませんし、本来であれば同じ英霊がサーヴァントとして召喚される事はありません」
「でも、セイバーは…………」
「ええ。ですが、私はサーヴァントとして異例である。というだけです」
今までセイバーが以前の記憶を持っているという状態は
だけど、“当たり前”だと思っていた事が、実は“当たり前”ではなかったなんてよくある事だとしても、セイバーがサーヴァントとしては異例だという事実に息をのんだ。
「シロウったら、ホントに何も知らなかったのね?まあ、シロウだと簡単に思考を読まれるから、
イリヤの言う通り、今の俺では簡単に思考を読まれてしまうので、セイバーの真名や、聖杯にかける願いを、俺は敢えて聞いていない。
イリヤの言う“事情”には全く心当たりは無かったが、強いてあると言えば、セイバーとの
「貴女の言う通りですイリヤスフィール。ですのでシロウ、いずれ話す事にはなるかもしれませんが、これからも、その時機の一切を私に委ねていただきたい」
二人の言う事は尤もだ。それを覆せるような代案を示せない以上、俺にはセイバーの申し出を受け入れるより他にないので、二つ返事で引き受けた。
「ありがとうございます。では、私は周囲を見て回りますので、何かあれば迷わず令呪で呼んでください」
「待ってくれセイバー!………その………折角だし、セイバーも手を合わせていってくれないか?」
「ですが私は部外者です。この場は、家族だけの時間を大切にする方がよろし———」
「部外者なものか!セイバーだって
以前から、セイバーと
「…………そうですね………。ではシロウ、私はここでの作法にあまり詳しくありませんので、教えていただけますか?」
だけど、それはただ単に俺が考え過ぎていただけで、セイバーが気を遣ってくれただけだったようだ。
俺の勢いに目を丸くしていた表情から、僅かに口角を上げたセイバーに、俺は墓参りでの作法を教える事になった。とは言え、こういった事には意外としっかりしている藤ねえからの受け売りでしかないのだが。
昨日墓参りに来ていた先生たちが供えた線香やロウソクの燃えカスを手早く片付け、新たに参道近くのコンビニで買ってきた仏花と線香、ろうそくを供えて手を合わせると、イリヤとセイバーもそれに倣った。
遠くで鳥の鳴く声が聞こえるだけの静かな時間、今までまともに墓参りに来なかった事を
子供じみた誓約で自分自身を縛り続けてきたのだから、
……………あれ?そう言えば、今まで
記憶を掘り返してみても、
第一印象こそ“とにかくうだつのあがらない、頼りなさそうなヤツ”だったけど、それでも“あの日の悪夢”に苦しむ俺に寄り添ってくれていた“唯一の大人”だった。いい歳して味覚がジャンクな子供舌だったのはアレだけど。
だけど、聖杯戦争のように“魔術”が関わってくるとそうはいかない。
“日常”と言う太陽に照らされ、浮かび上がった“非日常“と言う影。
その影は、ただそこに在るだけじゃなく、果てしなく深い底なし沼のような闇だまり。
藤ねえたちのような、魔術とは無縁だった“一般人”は関わらせてはいけない、踏み込ませてはいけない。今までとは逆に、俺が守らなければならないのだ。
でも、俺はまだまだ未熟だ。
聖杯戦争に関わるようになってから、ここ数日で思い知らされた。
今のままじゃ誰かを護る事なんて、それこそ“正義の味方”になんてなれっこない。
しかし、俺は出会ったのだ。
助けるだけじゃなく、人として、魔術師として、その力を正しく使う
ありがとう
「…………!」
暦の上では春だと言うのに、それほど強くないまでも、まだ温かくなるのは早いと主張するかのように吹き付けた寒風に思わず身震いしてしまった俺を見て、イリヤはクスクスと笑いだした。
「イリヤは寒くないのか?」
「平気よ。これくらい、お城の外に比べたら大した事無いわ」
温かそうなコートを羽織っているイリヤが、文字通り胸を張り、得意げな顔をして言う。確かイリヤの実家があるドイツは、地方によってだけど、冬には氷点下の日が続く事もあるって、どこかで聞いた事あったな………。
「でも暑いのはダメね。キリツグは“いつかみんなで南の島に行こう”なんて言ってて、お母様は随分はしゃいでたけど、私は正直気が乗らなかったわ」
そう不満を零すイリヤの口元は、しかし口角が僅かに上がっていて、両親との思い出を懐かしむように、慈しむように語り聞かせてくれた。
冬木に住み着く前の
なので、こうして昔の
苦笑いを浮かべるのか、それとも赤面するのか。俺の知る
養子である俺と、実子であるイリヤ。
血の繋がりこそ無いけれど、この世にただ二人
「なあ………イリヤ……………」
「?」
そこで俺は、一つの
「城も壊れちゃったし、特に当ても無いなら、ウチに来ないか?」
聖杯戦争でサーヴァントを喪ったマスターは、監督役のいる教会に保護を求める事が出来る。それも監督役の役目の一つでもあり、聖杯戦争のルールの一つでもある。
だけどあの監督役の神父には、遠坂の言う通りの胡散臭さというよりも、もっとこう、根本的に相容れない嫌悪感を抱いていた。そんなヤツの所に、たった一人の家族を置いておく事なんて出来ない。
最初は俺自身の命。
その後は衛宮の名字。
最後は家。
それ以外にも沢山あるけど、それらは義理の兄妹であるイリヤと共有したって良いとさえ思っている。流石に俺自身の命はあげられないけど。
イリヤはずっと独りだった。そして、先日の戦闘でバーサーカーも喪ってしまった。
だから、
「…………シロウが良いっていうなら、私はそれで良いんだけど…………」
「ああ、遠坂の事なら任せろって。俺が何とか説得して見せるさ」
先程の遠坂の剣幕だと、ものすごい勢いで猛反対されるだろうけど、こればかりは俺も退くわけにはいかない。これは、負けられない戦いなのだ………!
「そうじゃないの。それはリンよりも、おじ様に訊いてみなきゃいけないわ」
先生たちに助けられ、今は朝比奈一門の拠点とも言うべき
「それもそうだな。じゃあ、俺からも先生に訊いてみるよ」
イリヤの身柄が先生の元に在る事に、不安が無い訳では無かった。
だけど先生なら或いはと言う思いも確かにある。
遠坂には甘いと言われるだろうけど。
「見て!シロウ!」
イリヤの突然の呼びかけに、彼女の指差す方向に視線を向ける。
「
さっきまで空一面を覆っていた暗く、厚い雲の切れ間から、まるで光が滝のように地上に降り注いでいた。
イリヤの言う“天使の階段”や、ある画家が好んで使った表現手法なので、その画家の名前が付けられたり、宮沢賢治だったかが“光のパイプオルガン”と表現していたりと、何かと呼び名の多いこの現象は、確か“薄明光線”とか言うんだっけ………。
眼を細めて微笑むイリヤの横顔を見ていると、唇がおもむろに動き出し、消え入りそうにか細く、しかし芯がはっきりとした、小鳥のさえずりのような旋律が紡ぎだされる。
それは、どこかで聞いた覚えのあるメロディだった。
風に乗って聞こえてくるドイツ語の歌詞の意味はほとんど判らず、辛うじて英語と同じ読みの「冬」くらいしか理解出来ない。
「なあイリヤ、その歌、なんて言うんだ?」
「これ?これはね“
「なんでさ?」
「だって、お城の外は年中雪が積もってるのに、
ころころと鈴を転がすように笑いながら説明したイリヤの答えに、納得して目線を上にあげていると、イリヤの口から、先ほどとは異なる笑いが漏れだした。
「ごめんごめん。ちょっとキリツグの事思い出してね」
「
イリヤの思い出した
「………うん!キリツグったらね、外で一緒に遊んでくれるのはいいんだけどね、お城に戻ったら、ずっと暖炉の前から離れなくて、ずっと震えながら“寒い寒い”って……アハハ!」
ついには腹を抱えて笑うイリヤを見ながら、そう言えば
それでも寒いのは苦手だなんて言いつつも、結局外で子供と一緒にはしゃいでいた
「ハハハハハ………ハァ………ねえシロウ?」
笑いすぎたのか、イリヤの両眼から、涙が光の糸を曳いたかのように幾筋も流れていたので、持っていたハンカチを手渡す。
「ありがと……ねえシロウ、今度はシロウが教えて頂戴。キリツグとシロウの話を」
「……ああ、いいとも……!でも、ここじゃ寒いから、一度家に戻らないか?」
交わる事も無く、共有する事も無かった
「
わずかに振り返り、ひと時の別れを
長い、長い冬のようだった。
どうすれば“正義の味方”になれるのか、悩み、迷い、それでもがむしゃらに走ってきた。
だけど、聖杯戦争が始まってから見た事、感じた事、考えた事、そして出会った事は、この空のように、俺の中に一筋の光をもたらした。
家族としてイリヤを護る。
そう決意した今の俺ではそれさえもままならない。だけど、周りの大人を頼って、いつか俺自身の力で護れるようになればいいのだ。
そう考えるようになった俺は今、冬に別れを告げた。
どうしても書けなかったのですが、
「アウトプットが滞ってるんなら、インプットに時間を使おう!」
と割り切ったならあら不思議、筆がすいすい進むようになりました。
逆に考えるんだ「あげちゃってもいいさ」と考えるんだ。
煮詰まった時の至言ですね。
さて、次回は……
・ふわっふわやぞ!
・なべてこの世はいとヤバし
・中かき回しちゃらめぇっ!
・やるっきゃないと
・先生おこ
・栞さん本気出す
・来なかったらどうしようかと不安になっていたところだ
・グレートビッグベンロンドンスター
以上の予定です。