Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~ 作:Prometheus.jp
さて、長らく執筆が滞っておりましたが、実はAIイラスト生成にかなりの時間を溶かしていました。
とはいえ、AIを利用しての本文生成は行わず、アイデア出し、挿絵生成、校正、資料まとめ程度にのみ使用するつもりです。
(試してみましたが、描写が画一的で、拙作のような多方面からの視点には向かないと判断しました)
さて、その代わりといっては何ですが、今回より不定期ではありますが挿絵を本文中に差し込む事といたしました。
投稿済みエピソードについても挿絵を追加予定で、追加のお知らせについては「活動報告」にてさせていただきます。
今までテキストのみで存在していた彼ら彼女らのヴィジュアルにご期待ください。
それでは、今回も拙作にお付き合いいただけましたら幸いです。
眼下に望む街の灯りの絨毯は、僅か数日で墨を零した染みのように仄暗く、所々で昏く染め上げられ、初めてこの街に来た時に感じた眩しさは見る影も無い。
何かを得る為には何かを手放す。当然の摂理ではあるのだが、無自覚に
如何に魔術師たちが、己を“人ならざる者”と定義しようとも、その根幹が人である以上、その軛から脱する事は出来ないのだろう。
ボクの願いが成就した暁には、一体どれほどの魔術師が、突きつけられる現実に狼狽するのか。目指す未来に思いを馳せていると、音も無く静かに戻ってきた
「申し訳ござらぬっ!」
話を聞くに、あの老人の切り札に迂闊に手を出してしまうという
なるほど、これは無視出来ない規模の損害ではある。
しかし、首領である
「さりとて、首領として御しえなんだ
「それよりも、今日得た情報を話してくれ」
彼の言う通り、首領である彼にも処罰が必要な人数の損害ではある。しかし質的には、サーヴァントという点を差し引いても、彼は得難い存在であるが故に、過度な処罰は必要ないと早々に断じていた。
いつもは飄々としているように見えるが、どうも彼は、物事に妥協を許さない性質のようだ。良く言えば真面目、悪く言えば堅物で遊びが無い。そんなところだろう。
令呪の無い身としては口約束程度でしかないが、彼自身が示した恭順を反故にされる事は無さそうだと安堵に傾く反面、その完ぺき主義の性質は大局を見誤らせかねない。“便宜上のマスター”としては、正すまでは至らなくとも、主導権は握っておく必要がある。
「かの
「…………
ボクの言葉に感銘を受けたのか、
これで後ろから刺される心配は無くなったと思いたい。仮に偽りだったとしても、令呪も無いボクは、サーヴァントの反逆に対して、
「それで、今日は何か収穫はあったか?あぁ、いつも通り気楽に話してくれて構わないよ」
「承知仕った。
「!………斃された………のか?」
まさかの報告に思わず立ち上がるが、
昨夜、あの老人の襲撃からアインツベルンのマスターを救出した手腕を鑑みれば、その結果に至るのも不思議ではない。
「なれど、それなりの手傷は負った様子」
「………今すぐ朝比奈の首を取ってこい。と言われれば可能か?」
「面目次第もござらぬ。
事態は願いに反する、か………。
並の結界であれば、
しかし向こうには忍者の英霊がいる。その忍者自身でさえ踏破困難な結界、なんてモノの構築に携われば、それは難攻不落の要塞と言えるだろう。
「………拠点にこもられたのなら望み薄だな………。それに朝比奈のサーヴァントは、明日にでも戦線復帰するだろう」
ボクの推論に
まず、あの老人の
以前遠坂のマスターと戦端を開いた折、あの老人は魔術を行使している様子は無かったところから、魔力の大半を使役する蟲の制御に割り当てざるを得ないほどに、その力が衰退していると見てとれる。何しろ「彼の代でマキリの血は魔術師としての限界に達した」と、公然と魔術世界で語られている上、ボク自身も、あの老人の
なので、全盛期の頃ならいざ知らず、今のあの老人に
翻って、朝比奈のサーヴァントはその真逆に位置する。
マスターからの魔力供給量は、そのサーヴァントの戦闘力に直結すると言われている。
昨夜、
最悪の想定をすれば、今回の
その戦闘力から逆算するに、マスター自身の魔力量、即ち魔力供給量は、並のマスターでは足元にも及ばないだろう。
なんなら、今この時すでに戦線復帰している可能性だってあり得るのだ。
「むぅ………殿のご推察、此方にも異論を挟む余地はござらぬ。なれば、アレを討つとなれば、搦め手より攻める
「そういう事だ。倒し得る者をそう仕向けられれば最上だけど、自前でやるとなると、頭数だけは揃っていたところで質は低い。十人程度損失したところで、状況が良くなる事も悪くなる事も無いさ」
それがボクたちにとって一番の泣き所である。
中には多少魔術の心得がある者もいるようだが、少数でも執行者や代行者に匹敵すると言われる朝比奈と相対した場合、ほんの数時間でボクたちの中で生きている者はいないだろう。
数は多くなくてもいい。腕の立つ人材がいればと思ってはいるが、無いモノをねだったところで不毛以外の何物でもなく、最大の課題とはいえ、この課題は何度目かの棚上げにせざるを得なかった。
「面目次第もござらぬ。此方も“
「そう言うな。君が現れなければ、ボクは今以上の制約に縛られて、今以上に何も出来なかったんだ。だから、ボクにとって君が来たことは、
「度重なる御高配、恐悦至極。それはそうと、朝比奈の“さあばんと”、あの者の真名が分かり申した」
「ほぅ?」
ボク自身も暗殺を生業としている以上、標的に関する情報は肝心要であり、命綱とも考えている。そんなボクから見て、
「真名は
伊賀という名称にはうっすら聞き覚えはあるが、正直“忍者”というモノはどれも同じという認識しかない。
先日
「
「あるのか?」
「御意。そも百地三太夫丹波は、かの織田信長公に謀反せし
寄せ手の総大将たる
サーヴァントの在り様は、史実によってのみ成り立つものではない。生前成した功績のみならず、死後語られる真偽不明の逸話も、サーヴァントを構成する要素の一つとなる。
その百地という忍者の死に様が、月明かりに照らされたが故に成立した逸話であるのなら……………
「つまり……明るい場所では戦えないか、もしくは能力が低下する。という事か?」
「ご明察にて。であるなら、日の高い内に討ち取るか、
「ああ、それでも駒が足りない」
結局は堂々巡りになってしまう。
最善はあの老人と朝比奈を対峙せざるを得ない状況に持ち込みたかったのだが、あのサーヴァントをどうにかしない限り、スタート地点にさえ立てない。
あの老人の切り札をけしかけるという手も考えたが、そもそもの話、あの老人はアレを御しえているのかさえ怪しい。それを軸に据えるのは、大船に見せかけた泥船に乗るようなものだ。
であれば、自前で応じる事が既定路線になりつつあるが、現状ボクと
それに、
どこかしらの勢力と同盟を組むにしても、
無音の時間が部屋を満たす。
天井を仰ぎ、ため息と共に言葉を吐く。
つまり“投了”だ。
第一線を張れる武闘派の魔術師集団。
一般社会にも影響力を持つ組織力と、それに伴う資金力。
そして極めつけは、強力なサーヴァント。
初手から敵う相手ではない事は明らかだ。
だからこそ、無念と嫉妬と怒りがこみあげてくる。
力無き者の細やかな願いさえ、力ある者の気まぐれで蹂躙される。
その願いがどれほど正しくとも、強者が否と言えば無かった事にされる。
どれほどの無力な人たちの血と涙で、数千年にわたる人類史の海は満たされてきたのだろうか。
手のひらで顔を覆い、絶望に絡めとられようとした刹那、
「殿、ご用心を。…………血の匂いが
ベッドルームへは、このリビングルームを通らなければ行くことは出来ない。
だけど、何者かが香蘭を人質にとってボクたちを脅迫する意図があるのだとしたら………。
目くばせのみで
侵入者の気配も、血の臭いもしない。暗闇に妹の寝息だけがかすかに響くだけだ。
「おっはーっ!…………って、なにこれ?超ウケる」
安堵のため息をつくのと、ドアが無遠慮に開かれたのはほぼ同時だった。
入ってきた人物は若い女。
顔立ちは比較的整っている方だが、この国の学生服をだらしなく着崩し、それだけで総重量の半分は占めているかのような多数の小物を、ジャラジャラとぶら下げた大き目のカバンを肩にかけている。
「
女の喉元に刃を突きつけつつ「僅かでも動けば殺す」と言外ににおわせる殺気を放つも、当の本人は怯える様子も無く、冷めた目線を
「あのさぁ…………下でも疑われたけど、アタイはデリ嬢じゃねぇっつぅの。マジチョベリバ」
「ちょべ?なに?」
ボクもそれなりに日本語は話せるが、女が口に乗せた単語は全く理解できなかった。
「アタイは
「お姉さま……?あぁ、アイツか」
こいつの言う“お姉さま”とは、ボクと
先日、あまりにも使えない組織をよこした事について抗議しておいたのだが、その釈明ついでに、詰め腹を切らされてはかなわないと、この女をよこしたのだろうか。
「てゆぅかぁ、お姉さま的にも、あんな使えない連中を送り込まれたのって、マジ想定外だったってわけ。ウチのバカ同士の権力争い的な?アレソレで、キミの依頼が都合良く利用されたって感じ」
「つまり、アイツの眼が節穴だったわけじゃなく、お前たち組織内での内輪揉めの煽りを食らった、という訳だな?」
空木は快活に肯定するが、まったくもって冗談じゃない。
たかだか一組織内での権益の為に、こちらは苦労した上、最悪、命の危機にさらされていたのだ。八つ当たりでも何でもいい、今すぐ目の前にいるこの女を八つ裂きにして、連中の下に送り付けてやりたい衝動に駆られる。
「んで、お姉さまがバックについてくれて、そのバカの片割れを粛清、的な?そんな感じでぶっ殺して、
肩にかけていたカバンを放り投げ、ボクの目の前で小物がガチャガチャと音を立てながら落ちる。
そのカバンは、年頃の女子高生が持つには大きく感じられるが、
中身が漏れ出ないようにはしているものの、そのカバンから嗅ぎ慣れた濃厚な血の匂いが漏れ出ていた。
何らかの罠を警戒しつつ、
泰然と構える空木から視線を切らないようにカバンを手元に手繰り寄せ、ジッパーを開け、中身に視線を落とすとその中には……………
「キミをハメてくれた
カバンの中には都合五人の男の首。その内二人の男は、ボクとそう大して歳は変わらないように見えるので、空木の言う“バカ兄貴たち”なのだろう。他三人は壮年の男の首ではあるのだが、そのどれもが苦悶の表情を浮かべていて、想像を絶する責め苦を与えられた上で殺された事が伺い知れる。
「んで?こっちには
「頭領であった者であれば、此方が首をはねてやったわ」
「へぇ、兄貴たちでも追い出すのが精一杯だったのに、キミ、超クールじゃん」
あの威勢と口だけが良い頭領だった男、その娘を自称する空木は、父の死を驚くでもなく、ただ熱いまなざしを
「此方は
「まっさかぁ!むしろ、あのクソ親父はアタイがぶっ殺してやりたかったくらいさ!てゆぅかぁ、あのクソが、どんな間抜け面で死んだのか見れなかったのが残念って感じ?」
憎悪と嘲笑の混じった快哉を叫ぶその様を見るに、やはりこの
頑迷で前時代的で、相手が自分より下と見做すとあからさまに
「それはすまなかったな。それで空木、君の用件はこれだけか?」
「アタイの事は“アオバ”って呼んでいーよー。これから、それなりの付き合いにはなるんだし」
「どういう意味だ?」
「アタイらの組織“
ウインクをしつつ敬礼のような仕草をする
冬木市内における情報収集と、必要に応じて魔術師の暗殺。その用を満たす人員の派遣というのが元々の契約だったのだが、藍葉は“
しかも、前首領に付いてきていたのは、技術も肉体もとうにピークを過ぎたロートルが大半で、今回藍葉に従って合流した者は、若く脂ののった腕利きも多いという。
「殿………?」
まるで京劇の変面のようにコロコロと変わる藍葉の表情に、振り回される懸念はある。
百余名の精兵を以てしても、朝比奈の前では弱兵でしかない事には変わらないだろう。
だが、風向きは確実に変わりつつある。
質、量共にやれる事が増えるという事は、それが蟻の一穴にもなり得る。
それこそ、現状を打破出来得ると確信するほどに。
であれば…………今こそ舵を取るべき時だ。
「…………放してやってくれ」
「との仰せだ。其方も得物を仕舞うが良い」
「さぁっすがぁ、キミが
子供の悪戯が露見した時のように、おどける空木が手にしていたのは、柄の先に輪が付いた
「ほぅ?其方、気づいておったか」
感心するように
ボクでさえ、
しかもだ、空木がこの部屋に足を踏み入れたのと、
「アタイも魔術師、ってゆぅか、魔術使い的な?ヤツだからさ、それくらいわかるっつぅの」
“魔術師”と“魔術使い”は、共に“魔術を扱う”という点においては同じだが、その在り様は天と地ほど異なる。
簡単に言うと、魔術師は根源に至る為に魔術を研究し、魔術使いは自己の目的の為に魔術を使う。
どれほど未熟であろうとも、根源に到達する為に魔術を研究し、代々受け継いでいく者は“魔術師”であり、どれほど魔術の腕前があろうとも、魔術を道具とする者、ともすれば一代で使い捨てる事も厭わない者は“魔術使い”なのである。
それ故に、魔術師は魔術使いを侮蔑の目で見るのだが、“腕の立つ魔術使い”である藍葉やその部下たちを蔑むつもりは微塵も無い。
目的の為に最善たり得る手段を用いるのは、魔術師として当然の思考であるからだ。
「それよか、お姉さまからもう一つアフターサービス。魔術も荒事も腕に覚えのある連中なら、同盟相手として紹介するってさ」
随分と手厚いアフターサービスだ。と、内心で冷笑するが、魔術も荒事も腕に覚えがある者たちと言われて頭をよぎるのは、片手でさえ余す程度しかいない。
「共和国。と言えば、キミも聞いたことあるっしょ?」
予想は理所当然の模範例のように外れる事は無かった。
十数年前に起きた民衆の武装蜂起に乗じて、魔術協会と聖堂教会によって滅亡させられた独裁国家ではあったが、政権幹部の一部、そして育成された魔術兵の多くが、今も尚世界各地に潜伏しているのは有名な話で、そしてこの冬木にも、多くの共和国関係者が集結しており、
藍葉の言う通り、実力と規模だけ言えば、手を組むには悪くない。
だが、そんな共和国と対等な同盟など成立し得るか?という懸念が、当然のように脳裏に浮かぶ。
「畏れながら、その共和国とやらが盟約を反故にしたとあらば、此方が即刻大将首を討ち取りまする故、御懸念無用にて」
自信を“十全ではない”と卑下する
共和国もまた聖杯を狙っているのは明らかである以上、最終的には決裂するが、仮に途中で共和国が裏切ったとしても、
「………わかった。共和国の連中に繋ぎをつけてくれ」
互いに利用出来るところは利用する。それが現状では最善の手、と言うより唯一の手だろうが、それでも聖杯戦争という荒ぶる海を渡るには筏のようなモノでしかない。
我ながら随分と悲観的だと笑いたくもなるが、今までの泥船で漕ぎ出さざるを得ない状況よりはマシ。と、自身に言い聞かせる事にした。
「あいよ~。あ、そうそう、ウチの連中はアタイが仕切らせてもらうわ。一応、頭領だし?キミはマスターを護る方に集中した方が良くない?」
「お前で御しえるのか?」
「まっかせて!歯向かうようなら、ぶっ殺せばいいだけだし?」
カラカラと笑いながら親指を立てて請け負う藍葉ではあるが、その凶暴性はさておくとしても、組織を束ねる者として、部下の命を無駄に損ねようとする短絡的思考に、一抹の不安がよぎる。
「………
「仰せのままに。なれど、其方ら
「いやぁ~ん♡優しくシて~♡つってね!キャハハハハッ!」
藍葉が愉快そうに大笑しながら退室した後の部屋は、文字通り風が止んだかのように元の静けさを取り戻した。
「……………どう見る?」
彼女が組織の頭領として君臨し、全面的な協力を得る事が出来たのは幸運と言っていい。帆を張り大海を走る為に風は必要である。
しかし、|藍葉〈アレ〉は|颶風〈ぐふう〉とも|乾熱風〈かんねっぷう〉にも似た、強く激しく、そして熱くはあるが乾燥した暴風だ。
藍葉個人だけを見れば、十代を出ないであろうというのに、その実力、胆力共に申し分ない。
だが組織の長として、彼女の在り様は最適解とはいかずとも、適切であるか否かは全くの別物だ。
暴風の中で船を走らせざるを得なくなったとしても、転覆してしまっては元も子もない。
「あの胆力と腕前は、他の者に比して懸念ござりませぬ。さりとて、頭領の器に適うや否やは別儀にて。なれど、
生前、集団の長としての経験が豊富であった
「時に、マキリの御隠居との盟約は
正直、あの老人と同盟を結び続ける意義は薄い。
没落したとはいえ、聖杯戦争を始めた名門魔術師の一角という名声と実績、それを担保としたサーヴァントという対価に食指は動かされたものの、あの老人にとってボクは、
そもそもの話、無能な
「…………そうだな………とりあえず、今は
「承知仕った。しからば———」
「まあ待て、先に君にだけは伝えておく。あの老人とは、少なくても共和国との同盟が成立するまでだ。それ以後は状況次第としておく」
あの老獪な魔術師を出し抜くことは出来ずとも、
だがその前に………
「そこで忌憚のない意見を聞かせてくれ。あの老人が従えるサーヴァントたちの中で、君が最も警戒を要すると思うのは誰だ?」
あの老人を直接打倒する事になったとしても、その壁は厚い。
周りにいるのが
だが今は、
「此方が最も気を配るとなれば、難攻不落の城が如き結界を構築出来る“きゃすたあ”に他なりませぬ。さりとてマキリの御隠居は、五百年に渡り命を長らえてきた
「…………そうだな。どうやら調子にノリすぎていたようだ」
心中に鬱積した憤懣を、残らず洗い流してしまいたい欲求に駆られても致し方なしとさえ言えるだろう。
だが、それで視野狭窄に陥ってしまっては、元も子も無くなりかねない。
悲観的とも嗤われるかもしれないが、今はまだ獲物を狙う獣のように、状況を見据えることが大事なのだ。
「気づかせてくれてありがとう、
「勿体無きお言葉……!此方がお諫め申したとて、殿ご自身が御身の熱を冷まし、正道をお見通しになられたまでのこと。これよりは殿の刃となり、影となり、忠勤を尽くしまする……!」
やれやれ、そこは頭を下げるだけでいいものを………。
普段は飄々と煙に巻くような顔を装っているが、一度肚を決めればどこまでも隙を許さない堅物。それが
だがまぁ、その堅物さに救われたのは、他ならぬボク自身か……。
「では、頼んだぞ
命令に呼応して退室した
彼によって冷まされたものの、未だ胸中に熱いナニかが脈動していることを自覚する。
静かに息を吐き出し、
投了寸前の盤面は、今まさに覆ろうとしている。
そう意識するだけで、抑え込んだはずのナニかが再び熱を帯び、溶岩流のように全身を駆け巡ろうとする。
(落ち着け……全体を観察し、最善と言える一手を打て。全戦全勝とならなくても、最後にボクたちが勝者の丘に立てば良いんだ………)
最たる敵は強大。
しかし、敵は一つだけではない。
自身の敵を見定めろ。
自身の味方を見定めろ。
自身そのものを見定めろ。
熱を持った身体に、心に、頭脳に、全身を開いて氷を割り入れるかのような、呪詛にも似た呟きを静かに繰り返す。
焦るな。今はまだ勝ち筋を探す時だ。
浮かれるな。勝負に出るのはこれからだ。
そして…………
先ほどの何気ない一手が妙手となり「まさに天祐」と快哉を叫ぶ事になるとは、この時のボクは知るはずもなかった。
・キャラクター紹介【空木藍葉】