Fate/stay night 異聞 ~観察者白狐~   作:Prometheus.jp

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立て続けに投稿してきましたが、書き溜めてきた序章は、今回がクライマックスです。
それではお楽しみください。

<9/18 若干修正しました>


#009 月光にたなびく

 家に帰る頃には、とうに日付が変わっていた。

 桜はもとより、藤ねえもとっくに帰ったようで、屋敷には誰もいない。

 意識はまだ朦朧としている。

 

 あの時、赤い男と青い男が校庭で戦っていた。

 喧嘩とかそういうレベルの話じゃない。

 アレは本物の「殺し合い」だった。

 青い男が禍々しいまでの魔力を放った途端、物陰に隠れていた俺は見つかってしまい、校舎内に逃げた。

 結果、俺は殺されかけた。

 

 いや…。殺されたのだ。

 

「見られたからには、死んでくれや」

 

 青い男が持っている槍で胸を刺された。

 十年前にも経験した、あの感覚。

 死の闇に包まれてゆく感覚。

 あぁ………俺は、ここで死ぬんだ……………。

 何もできないまま……………。

 何者にもなれないまま……………。

 その悔恨の情に、心が満たされてゆく。

 

 死の感覚に体が満たされてゆく。

 

 意識が、暗闇に染まってゆく。

 

「……やめてよね………なんだってアンタが………!」

 

 誰かの声が聞こえた。

 

「このまま苦しませるなら、楽にしてやれ」

 

 もう一人の声も聞こえる。

 

 苦しい……か………。

 もうそんな事を言えなくなっている自分がいる。

 あの時死んだ人たちも、やはりこんな気持ちだったのだろうか………。

 

 意識が、暗闇に染まってゆく………。

 そして、意識は不図して覚醒した。

 

 そこには誰もいなかった。

 あるのは制服の胸に穴が開いた自分と、床の大量の血痕、そして場違いに綺麗なネックレスだけだった。

 まるで殺人事件の現場の様な、いや正に殺人事件の現場を掃除し、ゾンビのような足取りで帰ってきた。

 

 腰を床に落とすと、ようやく気持ちが落ち着いてくれた。

 深く息を吸い込むと、ひびが入るかのように心臓が痛んだ。

 

 殺されて、そして誰かに助けられた。

 あの場に居合わせたのだから、きっとあいつらの関係者だったのだろう。

 それでも助けてくれたことには変わりない。せめて礼ぐらいは言わせてほしかった。

 

 と、気を抜いた途端、痛みが新たに嘔吐感を連れて戻ってきた。

 目を瞑って落ち着かせようとする。

 あの槍が胸に刺さっている気がする。

 そんな錯覚を振り払い、冷静になろうと努め………

 

「………よし、落ち着いてきた」

 

 深呼吸を数回するだけで、思考はクリアになり、体の熱も嘔吐感も下がっていく。毎晩の鍛錬の賜物だ。

 

「それにしてもアレは………」

 

 あの状況を思い返そうとした刹那、屋敷の天井に付けられていた鳴子が、乾いた音を立てて一斉に鳴り響いた。

 腐ってもここは魔術師の家。見知らぬ人間が入ってくれば警報が鳴るぐらいの結界は張ってある。

 

「こんな時に泥棒……いや………」

 

 このタイミング、あの異常な出来事の後では、物盗りの類ではない。やってきたのは…………

 

 命を奪いに来た暗殺者だ……!

 

 物音一つしない闇の中、あの校庭で感じた殺気が近づいてくる。

 とっさに、丸められて床に転がっていたポスターを手にする。

 相手が槍なら、ナイフや包丁ではダメだ。出来れば細長い棒状のものが良い。木刀なんてあればいう事は無かったのだが、そんなものはない。

 

同調(トレース)開始(オン)

 

 自己を作り替える暗示の言葉と共に、長さ60センチほどのポスターに魔力を通す。

 

「構成材質、解明」

 

 あの槍をどうにかするなら、ポスター全てに魔力を通し、固定化させなければ武器として使えない。

 

「構成材質、補強」

 

 自らの血をポスターに浸み込ませていくように、魔力と言う感覚を浸透させる。

 そして、ポスターの隅々まで魔力が行き渡るのを感覚で捉える。

 

全行程(トレース)完了(オフ)

 

 成功の感触に身が震えた。ポスターの硬度は、今では鉄並みになり軽さはポスターのままだ。

 ここまで巧く成功したのは何年ぶりだろう。こんな状況で巧くいくとは、何とも皮肉な話だ。

 来るなら来やがれと身構えた瞬間、背筋が総毛立った。

 天井に現れたソレは、一直線に俺へと落下してきた。

 

 天井から透けて来たとしか思えないそいつは、脳天から俺を串刺しにせんと降下してきたが、それを夢中で転がるように前へと身をかわした。

 たん、と軽い着地音を耳にし、急造の剣を持ったままその方向へ向けて立ち上がる。

 

「……余計な手間を。見えていれば痛かろうと、俺なりの配慮だったのだがな」

 

 そいつは退屈そうに、そして気怠そうに槍を持ち替える。

 どういう訳か、今のあいつには校庭で見たような覇気はない。

 

「………全く、一日に同じ人間を二度も殺す羽目になるとはな。いつになろうとも、人の世は血腥いと言う事か」

 

 こちらの事など眼中にない、と言う素振りで悪態をついている。

 じり、と少しずつ後ろに下がる。今なら、何とか出し抜くことが出来る………!

 このままあいつを出し抜いて、土蔵まで走り、武器を調達して、改めてあいつと対峙する。

 

「じゃあな。今度こそ迷うなよ、坊主」

 

 溜息をつくように男は言い、無造作に反応する間も無く男の槍が突き出された。

 本来なら二度目の死を迎えていたであろうその一突きは、身構えていた急造の剣で阻まれた。

 

「………ほう、変わった芸風だな」

 

 男の顔から表情が消え、獣じみた眼光で、こちらの動きを観察している。

 

 しくじった。何とかなるなんて度し難い慢心だ。目の前にいるこいつは、常識から外れた悪鬼だ。そいつを前にして、少しでも気を緩ませていた自分の愚かさを呪う。

 

「ただの坊主かと思ったが、なるほど……微弱だが魔力を感じる。心臓を穿たれて生きている、ってのはそういう事か」

 

 槍の穂先をこちらに向けて構える。

 

「いいぜ、少しは楽しめそうじゃないか」

 

「勝手に…………言ってろ間抜け!!!!」

 

 後ろも見ず、背中から窓へと飛び退いた。

 背中で窓をぶち破って、庭へと転がり出る。

 そのまま数回転がって、立ち上がりざま、体ごとひねって剣を一閃する。

 予想通り、あいつは追撃してきた。それを、こっちが起き上がる前に追いついて、確実に殺しにかかる。だからこそ、必殺の一撃が来ると信じて、渾身の力で槍を払った。タイミングを見誤れば確実に死ぬ。実力差を考えれば、早すぎるなんて事はない。

 

 突き出した槍を弾かれ、わずかに躊躇する男。

 その隙に、何とか土蔵まで走り抜ければ………!

 

「飛べ」

 

 男は槍を構えずに、空手のまま俺へと肉薄し、くるりと背中を向けて回し蹴りを放ってきた。

 景色が流れていく。

 ただの回し蹴りで。自分がボールみたいに蹴飛ばされるなんて…

 

「ぐっ………!」

 

 背中から地面に落ちたそこは、土蔵の戸口だった。

 本当に、二十メートル近く蹴り飛ばされたのか………。

 背中がつぶれるほどの衝撃で立ち上がれない。

 しかし、気力を振り絞って立ち上がり、土蔵の扉を開ける。

 これが最後のチャンス。土蔵の中に入れば、何か武器になるようなものあるはず。

 転がりながら土蔵の中に滑り込む。

 そこへ男は槍を持ち直して、一直線に突進してくる。

 

 殺される………。

 

 間違いなく、今度こそ殺される。

 

 男が来るまで……死にたくないのなら、迎え撃たなければ………。

 

 男が土蔵の扉にたどり着くまであと数メートル。

 

 一点にこちらを見据えていた男は、何かに気づいたように視線を外して立ち止まる。

 その刹那、一陣の白い風が横合いから銀光を一閃させた。

 

「!」

 

 男は槍を縦に構えて、その銀光を遮りつつ、その受けた勢いのまま後ろに飛び退いて間合いを開ける。

 

()ね。ランサーのサーヴァントよ」

 

 その闖入者はこちらに背中を向けて男と正対していた。

 その男は、平安貴族の様な白い狩衣の一方を肩脱ぎし、その手には日本刀を持っている。

 

「生きているか?衛宮士郎」

 

 肩越しに振り返るその男は、狐の面を被っていた。

 

「そのままそこに籠っていよ。ランサーの前では、お主の様な無力な小僧は、狩りの兎にも劣る」

 

 そうか、あの男は「ランサー」と言うのか………。そんな場違いな感想が頭に浮かぶ。

 

「てめえ、いつぞやの狐か!」

 

「応よ。そういうお主は、盗人の走狗になり果てたか」

 

「ぬかせっ!」

 

 目にも止まらない一閃。狐の男が串刺しにされると思った瞬間、刀の切っ先で槍の穂先を逸らし間合いを詰める。

 

 ランサーがそれを迎撃すべく、右の蹴りを浴びせようとしたところ、いつの間にか抜いて左手に持っていた短刀で受け止めつつ切り上げる。しかし浅い。

 自身の蹴りを力づくで止め、それをまた力づくで引き戻したからだ。

 その足で踏み込み、間合いを開ける。

 ランサーの槍の圧が減じたその隙に、長刀で追撃の打ち下ろしをランサーの脳天に放つも、ヤツの方が数瞬速く、前髪を数本掃ったに過ぎなかった。

 

「………やるじゃねえか。魔術師とは言え、それなりに心得があるとは踏んでたが、思ってた以上だぜ」

 

 先ほどの退屈そうな表情とは打って変わって、ランサーは得たりと言わんばかりの笑みを浮かべて構える。

 

「うむ、心身の鍛錬にと始めたのだが、これが存外に面白うてな、先年、遂に師より印可を賜った」

 

 同じく狐の男が、大小二刀を中段に構える。

 狐の男は、ランサーが土蔵に飛び込んでくることをけん制しつつ、土蔵から離れている。

 

 

 

 そこからは時間が止まったかのようだった。

 僅かな動きの乱れが相手の先手を許してしまうのだろう。互いに構えを崩すことなく、にじり寄る。

 ランサーの槍が届くか否かの間合いになった瞬間、ランサーが突きを繰り出すも、狐の男が切っ先で掃う。

 

 互いに金属音を鳴り響かせ、時には近づき、時には遠ざかる。

 校庭で見たランサーたちの闘いも殺し合いだったが、こちらの殺し合いは、まるで舞を舞っているような華やかささえ見て取れる。

 

 剣道三倍段と言う言葉があるが、槍や薙刀に対して剣術で戦う場合、段位で言うなら三倍の技量が必要と言われている。

 槍を揮うランサーに対し、狐の男は互角の勝負をやってのけている。それだけでも、狐の男の技量が筆舌に尽くしがたい程であることを物語っている。

 しかも、狐の男は魔術で刀を強化しているようだ。

 

「くくく……ははは……すげえ、すげえぜアンタ!こっちはヌルイ仕事ばかりで鬱憤が溜まってたんだ!アンタみたいな使い手、今まで会ったことがねえ!」

 

 狐の男を強敵と認めて心が躍っているのだろう。

 ランサーの思考からは、もう既に俺の事など消えているのかもしれない。

 

「それは………!光栄だな!」

 

 狐の男が刀で槍を掃い、間合いを取る。

 

「やれやれ、さすがは三大騎士クラスのサーヴァントよ。近代の術理ではなかなか押し切れぬわ」

 

「いやいや、この時代の剣使いの中でも、アンタの腕前は相当なものさ。で、一つ聞きたいんだが………」

 

「何かね?」

 

「アンタのその、流派ってのか?その中で弓も達者な奴ってのはいたか?」

 

「はて?慶長の世に興ったと伝え聞く我が流派だが、弓の達者がいたとは終ぞ聞いたことが無いな。精々で武門の嗜み程度であろうが、それがどうしたのかね?」

 

「いやなに、さっきアンタと全く同じ剣筋の弓使いとやり合ってきてよ、そこから野郎の真名でも、と思ったんだがね」

 

「ほう、私と同じ太刀筋の弓兵…。なかなかに興味深い」

 

「ああ、だが腕前はアンタの方が数段上さ。これだけは間違いねえ」

 

「ふふふ、お主がどこの英霊かは知らぬが、こうも褒め称えてくれるとは有り難いことよ。さて、褒め称えるついでに、ここは退いてはくれぬかね?」

 

「はん!狸め………。残念だが、そりゃ無理な話だ。いけすかねえマスターだけど、命令は命令だ。アンタも目撃者である以上、そこの小僧共々消さなきゃならん」

 

「狐だよ、私は。………ふむ………外野の魔術師としては聖杯戦争に深く関わる事は慎むべきなのだが…。よかろう、背に腹は代えられん。…………ランサーのマスターよ!聞こえておろう!己がサーヴァントを此処で失うことになろうとも、尋常な立ち合いの末の事、異を唱えるは罷りならぬと知れ!」

 

「いい覚悟だぜアンタ。いいぜ、全部出してきな!」

 

 ランサーが改めて構えると、狐の男は短刀を納め長刀を地面に突き刺した。

 

「青龍、白虎、朱雀、玄武、勾陳、帝台、文王、三台、玉女……オン・メイギャシャニエイ・ソワカ…………」

 

 狐の男は呪文を唱え印を結ぶ。

 ランサーは術を見定めようとしているのか動かない。

 

「ノウマク・サラバ・タタギャテイ・ビヤサルバ・モッケイ・ビヤサルバ・タタラタ・センダ・マカロシャナ・ケン・ギャキ・ギャキ・サルバビキナン・ウン・タラタ・カン・マン!」

 

 男が呪文を唱えるごとに、周囲の魔力が濃くなるのが肌で感じられる。

 それは、ランサーが校庭で放った禍々しい魔力とは異なり、神力、法力と言った類の清冽な魔力が湧き上がっている。

 

「白狐、推して参る!八龍不動金剛縛鎖(はちりゅうふどうこんごうばくさ)、急急如律令!!」

 

 地中から八本の鎖が伸び上がり、ランサーに向かっていった。

 その鎖は、一本一本が意思を持っているかのようにランサーを追い立てている。

 左からの鎖を躱すと、右から、下からと、様々な方向からランサーを捕えようとしている。

 

「我が剣術は、人の術にして魔術師の術に非ず。しかし二刀使い故に、印が結べず、さりとて印を結べば二刀が使えず」

 

 抜いた二刀を、左右反対の脇に置いた構えをとる。

 

「魔術師たるこの身が、剣術と魔術を併せて使うなら、また異なる術理が必要となる…。ランサーよ、我が研鑽の末の魔術刀技、篤と御覧候(ごらんそうら)え!」

 

 狐の男の魔力が更に上がる。

 魔力が物質化することはないのだが、まるで魔力の鎧を纏っているかのようだ。

 

陸式(ろくしき)八重疾風(やえのはやて)!」

 

 鎖に追い立てられてたランサーが着地した瞬間、十メートル以上離れていた狐の男が、瞬間移動のようにランサーの懐に入った。

 

「!固有時制御だと!?」

 

 固有時制御………。

 切嗣(オヤジ)が使っていた魔術と同じだ。

 固有結界の体内展開を時間操作に応用し、自分の体内の時間経過速度のみを操作する。しかし、固有時制御を解除した後に、世界からの「修正力」が働き、術者の体に相当の負担がかかるとか。

 昔一度だけ切嗣(オヤジ)にせがんで見せてもらった事がある。だけど、その術後に負担で相当苦しそうな顔をしていたのを覚えている。

 それ以来、俺は切嗣(オヤジ)に魔術を見せてくれとせがむことはしなかった。

 

 その固有時制御による倍速で懐に飛び込んだ狐の男を、ランサーは槍で横薙ぎに掃おうとするも、十字に組んだ二刀で防がれる。

 その勢いで狐の男は吹き飛ばされるが、一回転して体制を整える前に、ランサーが追撃の刺突を繰り出す。

 狐の男がそれを一刀で受け流すと、懐から取り出した数枚の呪符をばらまき…

 

参式(さんしき)千切時雨(ちぎりしぐれ)!」

 

 呪符一枚一枚が刀の形に変化し、一斉にランサーに向かって雨が降るように放たれる。

 

「しゃらくせえっ!」

 

 今度はランサーが槍を振り回して飛んできた刀を叩き落とす。

 

「!」

 

 最後の刀を叩き落としたランサーの足首に、先ほどから執拗に追い回していた鎖が一本絡みつく。

 どんな達人であろうとも、常に周囲に意識が向くわけではない。

必殺の一撃を掃うその時、迫りくる刀の雨をしのぐその時、その意識は刹那の合間、対象に向けられる。

 その一瞬の隙を作るために、狐の男はランサーに攻めかかっていたのだ。

 次々に鎖がランサーに絡みつき、四肢の自由を奪い去った。

 

「その御首級(みしるし)、貰い受ける!」

 

 狐の男の長刀が光を、魔力を放つ。

 アレは多分、魔力で限界まで強化させているのだろう。

 いや、「斬る」と言う概念自体をも強化しているのかもしれない。

 斬鉄すら可能にするであろう必殺剣。

 ランサーの頸を一刀のもとに切り落とさんとする斬撃。

 

肆式(よんしき)散り椿(ちりつばき)!」

 

 椿が散る時は、その花の頭がポトリと落ちる。

 今まさに、ランサーの頸が椿宜しく落ちようとしていた。

 

「なぁめるなぁっっっっ!!!!!!!!!」

 

 ランサーの魔力が膨れ上がる。

 右腕に絡みついて縛っていた鎖を一本引きちぎり、槍に魔力を集中させる。

 アレは校庭で見た………

 

突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)!!!」

 

 魔力を蓄えた槍は、しかし、ミサイルのようにランサーの手から放たれ、狐の男の長刀に命中し爆発した。

 爆発の中から狐の男が飛び出す。

 いや、吹き飛ばされたのだ。

 狐の男は背中から地面に落ちると、ゴロゴロと転がって、仰向けに倒れた。

 刀は手放してはいないものの、長刀は刃の根元から折れている。

 

「…………くそっ!魔術師相手に宝具を使うなんてよ………間抜け!」

 

 ランサーを縛っていた鎖は、いつの間にか全て煙のように消えていた。

 

「いや、俺に宝具を使わせるまで追い詰めたこいつが強かったんだろうな………」

 

 ミサイルのような槍は、本来奥の手だったのだろう。それも、使えば勝負が容易に決するほどの。

 それを出し惜しんだのは、ひとえに自分が認めた強者との勝負を楽しんでいたからだろう。

 だからこそ、ランサーのその表情は、勝利の会心よりも禁じ手を使ってしまったという悔恨に満たされていた。

 

 狐の男はピクリとも動かない。

 このままでは、ランサーの槍の一突きで殺されるだろう。

 そして、その次は俺だ。

 俺にはランサーに抗し得るだけの技量はない。

 いや、どうにかしようと思うこと自体、度し難い慢心だと、さっきも思い知ったじゃないか。

 だけど………

 

「………白狐(ホワイトフォックス)、この一突き、アンタへの手向けだ」

 

 仰向けの男の心臓を、槍の重みだけで突き刺せるのに、ランサーは槍を構える。

 狐の男はそれでも動かない。

 ランサーの槍は、ぴたりと狐の男の心臓に向けられている。

 

 俺を守るために飛び出してきた男。

 見ず知らずの俺を守るために死力を尽くしてくれた男は、今殺されようとしている。

 もしかすると、さっき助けてくれたのもあの男かもしれない。

 せめて一言、礼を言いたかった。

 

 ………ふざけんな。

 

 このまま見殺しになんてできるか。

 

 俺は正義の味方になるんじゃなかったのか。

 

 誰かを助ける正義の味方に。

 

 ただ助けられ、その助けてくれた人が殺されるなんて…。

 

 このまま、簡単に殺させていいわけがない!

 

 頭にきた。

 

 そんな簡単に人を殺すなんてふざけてる。

 

 他人が死ぬのを見てるだけだなんてふざけてる。

 

 こんなところで………

 

「……あばよ……」

 

 意味もなく………

 

「アンタみたいな男とやり合えただけでも………」

 

 お前みたいなやつに………

 

召喚()ばれた甲斐はあったってもんだ」

 

 殺させてやるものか!!!!!

 

 

 

 それは魔法のように現れた。

 

 土蔵の中が眩い光に包まれ、それは俺の背後から現れた。

 

 思考が停止している。

 現れたそれは、少女の姿をしていた。

 

「なに!?七人目のサーヴァントだと!?」

 

 月光に照らされた少女は、銀の鎧を纏い、金糸のような髪をたなびかせていた。

少女は宝石のような瞳で、何の感情もなく俺を見据えた後、凛とした声で言った。

 

「問おう。貴方が、私のマスターか」




長くなりましたが、ここまでが序章となります。
立て続けにアップしてきましたが、ストックはここまでしか書いてないので、次回は少しお時間をいただきますので、気長に拙作をお待ちいただけましたら幸いです。
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