こういう奴をやってみたかった
セミが鳴いている。気づいたら深い山の中にいた。なぜここまで来たのかを考え、右手に握ったロープを見て、あぁ、死にに来たのかと思い出した。
思えばたかが17年だが、ろくでもない人生だった。痣だらけの体を見て、何故こんな目に遭わなければいけなかったのか、今でも疑問に思う。
「俺は幸せになれなかった。」
その言葉を最後に、ロープの輪に首をかけた。
・・・
小学6年生のころ、僕はイジメにあっていた。世間一般的な「イジメ」というものの基準がどういったものかは知らないが、まぁまぁ酷いものだったんじゃないだろうか。机には毎日落書きをされ、掃除中には水をかけられ、時には何人かで殴られ、痣なんてしょっちゅうできた。
学校は世間体を気にしてなにもないことにしたし、両親は共働きで帰りも遅いし僕にあまり興味もなさそうだったので、隠すのは簡単だった。
どうせ僕は中学になるころには引っ越す予定だし、大事にはしたくなかったから、たかが1年くらいは耐えてやろうと決めた。
そもそも始まりは何だったのだろうか。
たしか同じクラスの男子が難癖をつけて、
昼休みに殴ってきた日から、自分も自分もと増えていき、最終的には6人グループくらいに膨れ上がった気がする。
正直言ってこうやって集団でないと強気でいられない奴ら馬鹿だと思って心の中で笑っていたりもした。大人びてるって?勘弁してくれ。まだ子供だよ。
まぁそんなこんなで変わらない日常が続いていたある日、校舎裏で泣いているあいつを見つけた。
…いや、この時ばかりは自分でも馬鹿なことをしたと思う。前々から聞こうとは思っていたが、なんでどう見ても不安定な状態の奴に、
「なぁ。なんで僕をイジメるんだよ。」などと聞いてしまったのだろう。
案の定奴は怒りや悲しみが入り混じったような顔で、
「なんでだ?わかんねぇのか?」
「いや、わかんないから聞いてるんだよ。僕はお前に何もしてないだろ?」そこまで言ったところで、今までで一番強いパンチを食らった。それも腹に。
痛みにうめきながらも睨むと、そいつはさっきよりも大粒の涙を流して、
「お前は幸せじゃねぇか!親に殴られた傷もないし、毎日うまそうな弁当を作ってもらえる!親に愛されてる!俺とは大違いだ!だから少しでも惨めな気持ちにさせてやろうと思った!だけどいつもいつもへらへらしてる!
俺はお前が憎い!」一息に言って疲れたのか肩で息をしながら僕をにらんでいた。
正直、怒りを覚えた。そんなくだらない私怨で、今まで僕はあんな目にあっていたのかと。それを許せるほど聖人君主ではない僕は、気づいたらそいつを殴っていた。
そこからは先生に発見されて止められるまで殴り合いをしていた。
ここまで大事になると学校も隠すことはできず、親にもばれて、僕は即転校となった。
風の噂で聞いたことだが、あいつの親は虐待をしていたらしく、働きもせず食事は一日二回菓子パン一つ与えられていただけだったそうだ。
その後施設に送られたあいつとは、当然出会うこともなく、時は過ぎていった。
・・・
セミが鳴いている。昼間の墓地を歩き回っていると、周りのものより少し小さな墓石を見つけた。それに花を投げつけ、ポケットに手を入れたまま目をつむる。
幼いころは平気だと思っていたあのイジメは、存外僕の心に深い傷を残したらしく、高校生になった今でも苦しめられていた。
目を開き、ため息交じりに呟く。
「僕はお前を許さない。だからお前も僕を許さなくていい。どうあがいたって、変わらないだろうから。」そうだ。僕は親に興味を持たれていなくても、確かに愛されていた。暖かい食事と時間があった。
愛されていた僕と、愛されなかったお前。
絶対に分かり合えない、非対称な存在。
「今更だけど、お返しだ。」
最後にバケツに入った水を墓石にぶっかけて、その場を去った。
一度も振り返ることもなく。
END