・・・
暇だったから鬼滅の刃という漫画を読んだらどハマりした。
時代背景は大正で、鬼になってしまった妹を元に戻すため人喰い鬼と戦う王道少年漫画で実に熱い。個人的に良いと思ったのはそれぞれの登場人物の個性が際立っているところだ。
どいつもこいつもとにかくキャラが濃い。主人公が真面目キャラだと思ったら『俺は長男だから我慢できたけど次男だったら我慢できなかった』とか言い出すんだぞ?腹抱えて笑ったわ。何という長男推し。次男だったら死んでいたのかよお前。
そんな中でも特にお気に入りなのはコミックス6巻にて登場した鬼殺隊の柱のひとり、煉獄杏寿郎だ。
熱血キャラなのになんかかわいい。表情が笑顔で固まりきっていて困っていると言いながら全力で笑っている強烈ポジティブ野郎なのだがそれが良い。兄貴好き。理屈などなく私は煉獄さんにノックアウトされてしまった。
お気に入りのキャラクターができるとその作品を読むのが楽しくなる。7巻は煉獄さんの戦闘シーンや家族についての回想があって実に充実していた。主人公との繋がりもできたし今後も登場が増えそうだと期待して迎えたコミックス8巻、唐突に現れた上弦の参という死亡フラグに絶望する。
何故敵陣営の最高戦力がこのタイミングでポツンと現れるんだよ。いやでも煉獄さん強いし逆に充血筋肉露出まつげ野郎をあっさりけちょんけちょんにしてくれないかな、と期待して読み進めたけど私の予想を裏切る結果ではなかった。
激闘だった。煉獄さんは強くてかっこよくて熱くて、力の限りを尽くして上弦の鬼と戦った。
でも及ばなかった。実力は拮抗していたのかもしれない。でも向こうは鬼なのだ。同じだけの手傷を負わせても鬼は瞬きの間にそれを癒してしまう。人間と鬼との間にはあまりにも差がありすぎる。同じ技量を持っていたとしても人間は絶対に勝てないのだ。
それでも煉獄さんは強かった。腹を貫かれても相手の首に刃を振るい振り抜かれた拳を受け止め堂々と戦った。
そして最後はとても穏やかに死んでいった。弟と父に言葉を残し次世代に思いを伝え、そして変わらぬ笑顔で逝ったのだ。とてもつらい。むちゃむちゃつらい。
その死に様でさらに煉獄さんが好きになった。でも悲しい。その場でガチ泣きするほど煉獄さんのことが好きだった。
なんでこの人が死んでしまうのだ。その後の宇髄さんは生きているじゃん。いや、宇髄さんに死んで欲しいとはミクロンたりとも思っていないけど煉獄さんも生きていてくれてよかったよね?なんで死んでしまったんだよ煉獄さーん!
こんなにも感情を引きずられるのだから鬼滅の刃はやっぱり名作だ。だけれども煉獄さんが死んでしまったことだけはどうしても納得できん。リタイアでもよかったから生きていて欲しかった。
所詮物語だといえばそれまでのことではある。1ヶ月もすれば気持ちも風化してしまうのかもしれない。でも今、私は本気で思ったのだ。
煉獄さんが生き残れる未来があるならばなんでもする。と
………そして、暗転、
気付いたら着物を着た幼女になっていたんだけどどういうことだってばよ。
落ち着いて周りの話を聞きながら状況を整理すると私はこの街唯一の町医者の娘らしい。何故急にタイムスリップして幼女になってしまったかはわからんけどこれはチャンスだ。
このタイミングでの転生なんだから当然この世界は鬼滅の刃の世界なんだろう?てことは煉獄さんの未来を変えることができるかもしれない。
そう思うとやる気がムンムンと湧いてくる。あの悲しくて切ない最後を変えることができるというのならばなんだってやってやる。
ただ、ひとつ問題がある。この世界……今の時代が江戸なんですがどうしたらいいでしょう?
確か主人公たちの時代は大正だ。え、100年くらい未来なんだけど絶対に生きていられないじゃん。オワタ。
せっかく鬼滅の刃の世界っぽいところに来たのにこれでは意味はない。私は煉獄さんを助けたいのだ。どげんかせんといかん。
小さい身体でうんうん唸って考えすぎて知恵熱出して父に看病してもらいながら私は思った。よく考えたら別に私が100年後のあの場面に立ち会う必要はなくね?
ようは上弦の参が来ること、それにより煉獄さんの命が失われることが伝わればいいのだ。あの場に私がいたって肉壁にすらならないからね、うん、別に100年後まで生きている必要はなかったわ。
幸いにして私の家は藤の家紋を掲げる家だ。鬼殺隊を支える家なのだからこのまま情報を残していけば後世まで伝わるだろう。子どもたちには『家宝だぞ!絶対に伝えろよ!』とか言って残すように全力で伝えよう。
せっかく鬼滅の刃の世界にやってきてキャラクター達に会えないのは残念だけれども同じ世界に来れただけで価値はある。煉獄さんの命を救えるかもしれないこの情報を未来まで残してみせる!
そうして藤の家紋を掲げる一家のひとり娘として生きていた。父さんを手伝い医療の勉強をしてたくさんの隊士の傷の手当てを行った。将来は婿を取ってこの家を継いで医者になる。鬼殺隊の為になることをしよう、それが私のこの世界での人生だ。そう決意した。
………そして、暗転。
燃える。燃える。夜の街を暗闇を照らすほど火は轟々と勢いよく燃える。ああ、何故こうなった?
いや、理由などわかっている。鬼の報復だ。鬼殺隊に与し隊士の傷を癒すから狙われたのだ。
私の家が燃えている。炎を操る血鬼術を持った鬼が私の家を襲ったのだ。父さんは焼かれて死んだ。母さんは私を庇うよう鬼に飛びかかっていった。おそらくもう死んでしまっただろう。
私は走って走って、家の外に出た。そして見たのは暗闇の中で燃え上がる我が家だった。
わかっていたことだった。鬼殺隊に与するというのは鬼の反感を買うことだと、もちろんわかっていたことだ。それでも私の家は藤の家紋を掲げていた。
それを間違ったことだとは今でも思わない。そもそも私は鬼殺隊の柱、煉獄杏寿郎を救う為にこの世界に来たのだ。だから藤の家紋を掲げる家に生まれたことを誇りに思っている。父さんも母さんも素晴らしい人たちだった。この道を生きることに後悔などない。
だけれどもすべてが燃えてしまった。私が家宝にしようと思って書きためた原作知識もすべて燃えただろう。そして、鬼が来る。私も生きられない。
ああ、弱い。私はなんて弱いのだろう。このまま死ぬならなんで私はこの世界に来たんだ?何も成し遂げれなかった。何も変えられなかった。煉獄さんは死んでしまう。私は無力だ。
ああ、嫌だ嫌だ。好きなんだ、煉獄さんが好きだ。好きで好きで堪らない。あの笑顔が守れるのならなんだってしてみせる。
この世界に来ても色あせたことのない私の前世での記憶、煉獄杏寿郎の死という未来を変えられるのならなんだってしよう。
ひとつの選択を頭に思い浮かべる。叶えようと思ってできることではない。そして実現すれば私は間違いなく忌み嫌われる。
だけどもそれがなんだというのだ。私は別に煉獄さんに好かれたいとか愛されたいとかそんな理由でこの世界に来たのではない、ただ生きていて欲しいからこの世界を望んだのだ。
弱いことは罪だ。だから強さを望む。生きることのできる強さを、人の身では残らない。だから私は、
「鬼になりたい」
「この状況で願うことはそれか。面白い。お前を鬼にしてやろう」
ポタ、ポタ、ポタ、と雫が落ちた。そこからの記憶は曖昧だ。
気付けば私は父と母を焼き殺した鬼を喰っていた。