煉獄さんの死亡フラグを折りたいだけの話   作:空兎81

2 / 4
鬼生はつらいよ

気付いたら鬼になっていたとか恐ろしい世の中です。

 

ボリボリと私を襲って来た鬼を食べながらそう思う。多分あの声の主は鬼舞辻無惨だったのだろうな。なんであんなところにいたのかはわからないけどまあラッキーです。おかげで鬼になることができた。

 

鬼になれば何十年、何百年と生きることができるので煉獄さんが生まれて来るまで命を繋いでいられる。あの日にたどり着くことができるのだ。

 

ああ、それにしてもお腹が減った。鬼をすべて食べきってからポツリとそう思う。

 

鬼に変わった瞬間はとてもお腹が空くと知識として知ってはいたが体験するとこの飢餓感はそんな言葉では言い尽くせない。

 

食べたい。食べたい。とにかく食べたい。ああ、満たされたい。

 

燃える炎の中に父と母の死体がある。とてもおいしそうだ。食べたら満たされる。それが本能でわかる。

 

でも食べない。おいしいだろうけど食べない。だって私は人間だ。そうだ。人間なのだ。鬼だけど人間なのだ。

 

鬼を食べたからかまだ理性がある。そのまま地面の下に穴を掘る。

 

鬼だから窒息はしないだろう。食べないならば眠らなければならない。眠ればこの飢餓感が収まるはずだと何故か知っている。

 

眠りたい。眠るなら父と母の側で眠りたい。

 

深く、深く穴を掘ってその中に身を沈める。ここならば太陽も届かないだろう。

 

自身に土を被せて目を閉じる。さよなら、父さん、母さん。この世界で貴方達の子どもとして生まれてこれて幸せでした。

 

そうして夢を見た。暗い暗い、何もないただ暗いだけの広い空間に私は立っていた。

 

そして身体中に赤い糸が巻きついている。それが雁字搦めに私を縛っていてしかも色々なところで絡まっているのだ。なにこれ不愉快。頑張ったら外すことできないかな?

 

ちまちまと縺れた糸を解いていく。強引に引き裂いてはいけない。そうしてはいけないと本能が囁く。

 

ちまちま。ちまちま。足元の糸がほどけた。手元の糸がほどけた。身体に巻きつく糸が取れた。そして首にかけられた糸を外した。

 

その瞬間、何かから解放された感覚があった。

 

目が覚めた。ザリっとした土の感触。這い出ると木の板に頭をぶつける。ここは床下だ。

 

そこから更に這うように進むと外に出た。久しぶりに空気を肺いっぱいに吸い込む。

 

うん、随分と寝ていたようだ。見渡せば知っているようで知らない景色。振り返れば立派な家が建っている。私が這い出た土の上に建っている家、見知らぬ家。鬼になって記憶が曖昧だけれどもその大きな家を見て私に帰る場所がなくなったのだとなんとなくわかった。

 

でも別に帰る場所なんてなくても構わない。私にはしないといけないことがある。

 

頭にチラつく笑顔がある。輝くような黄金の髪に毛先が炎のように赤く揺らめく。

 

変わらない笑顔を宿し続ける男、煉獄杏寿郎。この人を救わなければならない。鬼になって人としての記憶はぐちゃぐちゃだけどそれだけは忘れない。

 

私は煉獄さんを死なせないためにここにいるのだ。

 

足を動かしその場を後にする。もう、ここには帰らない。

 

100年という月日を生き延びる。それが私の目標だ。

 

 

はい、というわけで始まった鬼生だけどまあ、めっちゃ大変だわ。

 

まず食事。人間はなんか食べたくなくてだからといっていつも寝て回復するわけにもいかず結局私の主なご飯は鬼となった。

 

でも鬼ってめっちゃ強いんだよ。身体能力が人の比じゃないし血鬼術っていう超能力使えるしもうめっちゃしんどい。なんかわからんけど私のスペックもそれなりにあるから雑魚鬼ならなんとか倒せるけど十二鬼月とかはまともにやり合いたくない。間違いなく死んでしまいます。

 

しかもそんだけ苦労して倒してもまずい。クソまずい。

 

なんで?同じ肉じゃん?とか思うかもしれんが天と地ほど差があるぞ。いいか、ジュウジュウとニンニクと共に焼かれじゅわーっとソースをかけられる牛肉のステーキと牛革の靴並べられて同じ牛だろ?って言われても納得できんだろ?そのくらいの違いがあるんだよ。

 

鬼って本当おいしくないよぉ〜。でも食べたら強くなる感覚がある。

 

鬼舞辻の血を取り込めるからかね、食べれば食べるほど強くなれます。まずいけど。もう少しおいしければ楽しく食育ができたのになー。

 

次に大変なのが鬼の追っ手だ。人間を食べず鬼ばかり襲う私はそりゃもう鬼舞辻にとってうっとうしいことこの上ない。

 

しかもどうやら私はいつのまにか鬼舞辻の呪いを外しているっぽい。いつのまにやったんだろうね。あれかな、寝ている間に解いた糸がそうだったのかな?ちまちま面倒な作業だったけど鬼舞辻の呪いを解けたのなら良かったよ。あんまり私の持っている情報は鬼舞辻に知られたくないからね。

 

そんなわけで鬼に会ったら即戦闘をしかけられる。十二鬼月にも何度か襲われている。おおぅ、こわっ。私よく生きていられたな。

 

私が生き残ることができているのは間違いなく血鬼術のおかけだろう。私の血鬼術は身体強化、もっと言えば細胞の活性化だ。

 

身体を強化すれば死ぬほど早く動くことができる。一度十二鬼月に追いかけられた時も限界まで強化すれば逃げることができた。逃げることに関してはかなり得意な感じの能力である。

 

あと細胞を活性化することができるので怪我なんかもすぐ治すことができる。斬られたな、と思ってもその瞬間には治っている。驚くほどの再生速度でよく攻撃された相手に『ば、馬鹿な。今の攻撃を食らって無傷だと?!』とか言われる。ちゃうんです、食らったけど治ったんです。多分逃げ足と回復速度なら上弦にも匹敵するんじゃないかな。その代わり攻撃力0だけど。

 

身体強化をうまいことやったら攻撃もできる気がするけど戦う気力があんまりないんです。まあ100年生きれればいいので別に戦闘能力はなくてもいいや。

 

ちなみに治癒能力は他人にも使えたりする。なんかこう、触れるとその人の細胞が活性化して自己再生してくれるんだよね。いい能力で重宝している。

 

おかげで鬼殺隊の人たちの治療も捗っている。鬼殺隊の人が怪我をしていれば治療しなければならない。何故だかわからないけどそうしないといけない気がする。藤の家紋を背負う者は鬼殺隊の人を助ける、それが私の仕事なのだ。

 

人だった時の記憶がそうさせるのだろうか?正直人間だった時の記憶は酷く混ざり合ってぐちゃぐちゃだ。でもまだ私の心は人であった時と同じであると思っている。

 

最後に私は鬼だから鬼殺隊に襲われることもしばしばある。日輪刀で斬られるのは痛い。鬼だからと罵られ恨み言を吐かれることもしばしばある。

 

でもだからといって人を喰らうことも手当てを止めることもしない。正直人の評価はどうでもいいのだ。ただやりたいことだけをする。

 

後100年、鬼の力を使って生き延びよう。ただ、煉獄さん、貴方に生きていて欲しい。その為に私はこの世界にいるのだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。