煉獄さんの死亡フラグを折りたいだけの話   作:空兎81

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黎明を散らさぬ為に

※煉獄視点

 

上弦の鬼が現れた。列車を守る為かなりの力を使っていたがだからといって退くわけにもいかない。竃門少年を庇うように立ち塞がる。

 

……再生速度が速い、この圧迫感と凄まじい再生速度。これが上弦の鬼か。

 

刀を構え猗窩座と名乗る鬼に向き合う。虚空を打った拳が打撃としてこちらに届く。このまま距離を取られると首が取れない。ならば近づくまで。

 

近距離で技を撃ち合う。途中傷ついた身体で参戦しようとする竃門少年を留め互いに大技を放った。

 

「【破壊殺・乱式】!!!」

「炎の呼吸 【伍ノ型 炎虎】!!!」

 

……相打ちだった。受けた傷がズキズキと滲む。左目は潰れ肋は砕け内蔵は傷つく。だが俺が猗窩座に与えた傷はもう癒えたという。これが鬼と人の差、同じだけの傷を与えても鬼の圧倒的な回復速度の前に俺の力は無力だという。

 

だけれども俺のやることはかわらない。不敵に笑おう。自分の責務を全うする。誰も死なせはしない。

 

最後の構えをする。一瞬で多くの面積を奪い斬る。

 

……炎の呼吸、奥義

 

「【玖ノ型 煉獄】!!!」

「【破壊殺・滅式】!!!」

 

炎を纏いし風が猗窩座の左半身を大きく削る。顔の一部を抉り左腕を切り裂く。だけれどもこれでも死なない。鬼を殺すには首を斬るしかないのだ。

 

俺の攻撃が当たるのと同時に猗窩座の拳が迫る。防ぐ手段はない。覚悟を決めて迫り来る拳を待ち受ける。

 

だけれどもそれが俺に届くことはなかった。視界に夜が舞う。

 

「ああ、痛い。流石に上弦の鬼の一撃は重いですね」

 

痛いという割には静かで落ち着きのある声が前から聞こえてくる。俺と猗窩座の間には黒い衣を纏いそして背中に藤の花を背負った女性が割り込んでいた。

 

「でも間に合って良かった。ここで死なせたら何の為に100年も生きていたかわからないからね」

「貴様は、裏切り者の夜苑ッッ!!!」

 

怒気を含んだ猗窩座の声が当たりに響く。夜苑、その名前の鬼の存在を俺は知っていた。

 

遥か昔から存在する人を襲わぬ風変わりな鬼の名前だ。夜を降ろしたような黒い衣を纏い目に三日月を宿す黒髪の鬼、夜苑。人を襲わぬ、それどころか夜苑に怪我を癒されたという隊士が幾人もいる。禰豆子の存在が許されたのも人を救う鬼、夜苑という前例があったからだ。

 

だが夜苑とは意思疎通が出来なかったはずだ。誰が何と話しかけようと答えることはなくただ傷を癒して去っていく。それが何故ここにいる?目的はなんだ?

 

「あの方を裏切っておいてよくも平然と姿を晒すことが出来たな。一体何のつもりでここにいるッ!」

「裏切るも何も私は一度たりとも鬼舞辻に与したことはないし心酔してない。私の立ち位置は最初からここだった。そして今日は目的を果たしに来た」

 

驚く。夜苑は鬼舞辻の名を口にした。鬼は全て鬼舞辻と繋がっていてその名を口にすれば呪いが発動する筈なのにそれがない。これが意味することは夜苑は鬼舞辻の呪いを解いているということだ。

 

特殊な鬼だとは耳にしていた。夜苑、一体この鬼は何者なのだ?

 

「あの方を名前を軽々しく口にするなッ!貴様はここで殺すッッ!! 【破壊殺・羅針】!!!」

「まだ、もう少しやる事があるから終われない。【黒衣開放・神威】!!」

 

猗窩座が動きその濃厚な闘気がズッシリとのし掛かってくる。殺意を持った一撃、だけど夜苑は動かない。その代わり夜苑の纏う黒衣が更に深く色を染める。

 

風が駆け抜け衝撃が身体を襲う。夜苑は避けなかった。猗窩座の攻撃は間違いなく夜苑に通った。

 

だけれども土埃が収まるとその場には無傷の夜苑が立っていた。

 

「ああ、痛い。痛すぎて死んでしまいそうだ。でもいい、これで私の勝ちだ」

「何を言っている。たかが1度攻撃を防いだくらいで良い気になるなよ。貴様は殺す。何度だって殺す。あの方に逆らう者は皆殺しにしてやる」

「残念だけど私の勝ちだと言っただろう?もう終わりなんだ、時間なんだ。ほら、朝が来た」

 

その言葉にハッと猗窩座が顔をあげる。俺も続けて空を見上げると薄っすらと白んでいた。夜明けが近い。

 

「くっ、日が昇れば戦えぬ。だが、夜苑、覚えておけ。貴様は殺す。必ずだ。忘れるな!」

 

その瞬間猗窩座が消える。鬼は太陽の光に当たると灰になるから陽の当たらない場所へと逃げ込んだのだろう。

 

だけれども夜苑は動かない。ゆらゆらと黒い衣を揺らしながら静かにその場に立っていた。

 

「次なんて関係ないよ。今日だ。今日生き残ることが大切だったんだ。これで私の勝ちなのだ」

 

振り返って夜苑と目が合う。黒の世界に三日月の浮かぶ不思議な瞳だ。

 

夜苑が俺に向かって手を伸ばす。嫌な感じはしない。そのまま伸ばされた手が目に触れる。痛みが引いていく感覚があった。

 

「これでいいかな。ああ、炭治郎くんの傷も癒しておこうか」

「君は逃げなくていいのか。朝になるぞ」

 

竈門少年に手をやった瞬間その傷が癒える。驚く竈門少年に夜苑は静かに笑みを浮かべていた。

 

だけどもいつまでもそうしているわけにはいかないだろう。ゆっくりと太陽が昇ってくる。まもなくこの場は日の光に照らされこのままでは鬼である彼女は灰になってしまう。

 

「うん、いいんだ。今日の為に100年生きてきた。私の目的は達成されたからもういいんだ」

「今日の為に100年生きてきた?今日という日に何か特別なことがあったのか?」

 

そういうと夜苑の三日月を浮かべた黒目が深まった。彼女が今何を思ったのかわからないが、何故だろう。俺には夜苑が泣き出しそうに見えた。

 

「あったよ。君だよ、煉獄杏寿郎。君が死なずに済んだことだ。今日本当は死んでしまうはずだった君が生きていてくれること、この為に100年生きてきた。だからもう思い残すことはないんだ。貴方が生きていてくれてよかった」

 

その瞬間、日が昇る。日の光に照らされた夜苑に火がつく。

 

だけれどもやはり夜苑は逃げることはしない。そのまま火に炙られたまま笑みを浮かべて死んで行こうとする。

 

正直夜苑の言っている意味はわからない。俺を救う為に100年も生きていたなどまるで未来に何が起こるのか知っていたみたいではないか。彼女の言っていることはまるで理解できない。

 

だけれども彼女は俺を救ってくれた。竈門少年を癒してくれた。100年という月日の間隊士を救い続けてくれた。それで充分じゃないか。俺は今日人を救う鬼がいるのだということを知った。

 

羽織を脱ぎ日を遮るように夜苑に被せる。そしてえ?と声をあげる夜苑を抱え日の光が当たらない木陰まで抱えていった。ここならば大丈夫だろう。

 

「よし、ひとまずはこれでよかろう」

「どうして、私は鬼ですよ?何故助けたのですか?」

 

夜苑が三日月の映る黒目をまん丸にしそう尋ねる。何故助けた?おかしなことを聞く。最初に君が俺を助けてくれたのではないか。

 

「身を呈して俺を救ってくれた君を助けるのはそんなにおかしいことではないだろう?それに竈門少年を治してくれた。多くの隊士を癒してくれた。それが理由だ」

 

夜苑は呆然とした顔で俺を見上げる。百年という時を生きた鬼のはずなのにその顔は酷く幼く見えた。

 

「でも私は今日この日の為だけに生きていたのです。この後の生き方を思い描いたことがない。私はこれからどう生きればいいのです?」

 

表情はあまり変わらない。だけれどもどこか不安そうな声で夜苑はこれからどう生きればいいかわからないという。今日の為に生きていたからその先の未来を描けないのか。ふむ、それは簡単な話だぞ?だけれどもわからないというのなら教えてやろう。

 

「鬼殺隊の一員になればいいのだ。人を救うのならば鬼だろうが関係ない。君は鬼殺隊に入りたまえ。俺が面倒を見てやろう!」

 

そう言って笑いかけると夜苑から息を呑む音が聞こえてきた。予想外の言葉だったのだろうか。だが夜苑が今までしてきたことはそういうことだろう?

 

身を削って人を守る、それは人の心を持つ者の行為だ。

 

「鬼殺隊?私が鬼殺隊に入るのですか?」

「そうだ。君がしてきた行為はそう言った類だ。俺が認めよう。共に来るといい」

 

ジッと夜苑が俺を見上げてくる。表情は相変わらずあまり変わらない。しかしその代わり瞳の色が薄れていく。夜の移ろいが彼女の感情を表しているようだ。

 

「……煉獄さんがそういうならばそうしましょう。この先の未来を私は知らないから、貴方を見届ける場所にいたいと思う」

 

静かな声で夜苑がそういう。彼女の言うことはやはりよくわからない。どうしてここまで俺のことを気にするのか、百年を生きる彼女と俺に接点などないはずだ。

 

だけれども悪意は感じない。それどころか擽ったいような暖かな感情を向けられる。この気持ちはなんだろうな。

 

お館様に夜苑のことについて鴉を飛ばす。おそらく柱合会議が開かれるが竈門妹と同じように他の柱達から認められることは難しいだろう。かつての俺もそうだったように鬼と戦い続けた柱だからこそ鬼に対して持つ感情も複雑な物になる。

 

だから俺は心を尽くして彼女を守ろう。竈門少年が妹を庇ったように冨岡や鱗滝殿が行為に責任を持ったようにように俺も夜苑のために命を張ろう。

 

今宵俺は彼女に命を救われた。鬼である彼女に命を救われたのだ。

 

だから夜苑、彼女の為に命を懸けてもいいだろう。俺はこの人の心を持つ鬼と心を酌み交わしたいと思ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

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