幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

1 / 36
一学期
死にたい。


 人が悪夢を見る時というのは、大体心の中でモヤモヤするものがあったり、不安なことがあったりする時だ。

 悪夢の種類にも幾つかあるんだろうけど、そもそも夢というものは大体覚めてしまったらどんな夢だったか思い出せないんだから種類もクソもない。目が覚めた瞬間に、「あー、なんとなく嫌な夢だったなー」とか物凄く朧気な記憶で目覚めを良くしたり悪くしたりする。大体悪くする。

 

 つまり今日、俺、神崎晴人が物凄く嫌な気分で目が覚め、その瞬間に何となく嫌な夢だった気がしているのは、多分悪夢を見たからで、なぜ悪夢を見たのかと聞かれたら、多分モヤモヤすることがあるんだろう。

 時計を見ると六時五十二分。あと八分したら目覚まし時計がクソうるせえ音で叫び出す頃だ。目覚まし時計に起こされた所で目覚めは悪いのだからたまには早起きして学校に行く用意を進めようと思う。八分早く起きただけで早起きと呼べるのかは別として。

 

 毎年毎年「今年の暑さは過去最高です!」なんてボジョレーヌーボーのチラシみたいなことほざく天気予報士にはイライラするが、実際毎年夏の暑さはだるくなっていってる気がする。制服とかいうカッターシャツは暑苦しいので登校ギリギリまで着ない。制服がかかっているハンガーを手に取り、寝間着のままリビングへ向かう。しょぼしょぼした目を擦り、階段を踏み外さないようにゆっくり降りる。この前踏み外して姉ちゃんにアホ程笑われたし。

 

「おはよ晴人」

 

「んあー」

 

 リビングでは大して面白くもない朝の情報番組をぼけーっと眺めながらコーヒーを啜る我が姉、神崎雨の姿があった。肩くらいまである髪の毛は茶色に染め、女性にしては高めの身長。めちゃくちゃはっきりした顔立ちで、今は椅子に座って足組んでるもんだから、なんというか、「女帝」って感じ。

 

「台風来てんだって」

 

「マジで?」

 

 テレビ画面は台風の進路を示しており、このまま進めば日本に上陸する旨を気象予報士が話してらっしゃる。うわ、直撃じゃん。あ、でもテスト遅れるかな?それはラッキーかも。

 

「いつもより起きんの早いね、まだパン焼いてないけど」

 

「悪夢で起こされた。いいよ別に、先に顔洗うし」

 

「おー、引きずってんね」

 

「そんなんじゃねーよ」

 

「ハムいる?」

 

「いる」

 

 姉ちゃんのニヤニヤを黙殺して洗面所に向かう。マジで引きずってないし。というかそもそも気にしても無い……いや、気にはしてるけど。

 乱暴に水を顔に叩きつける。夏だから、冷えた水が顔にぶつかるのは三割増し位で気持ちがいい。特に今日は目覚めが悪かったから余計に気持ちがいい。ついでに髪の寝癖を直しておく。まあ別にそんなに付いてないけど。

 

「寧ろこの寝癖、割と自然でかっこいいんじゃねえの?」

 

 鏡の前でボケた顔してる俺に話しかけてみる。かっこよくねえよ、って俺の中の俺が呟いた。えー、イケてると思うんだけどな、今日の寝癖。

 

「いや、寝癖以前に顔がかっこよくねえよ?」

 

 うっせえ。知ってるわそんなこと言われなくても。誰だそんなこと言ったやつ。俺か。

 姉ちゃんは美人なんだけどなぁ……なんか俺の顔はそうでもない。女みたいな顔してる気がする。しかも中途半端に。見てんの嫌になってきた。やめよ。

 

 リビングに戻るとトースターから食パンが二枚飛び出していた。テーブルにはレタスとハムが皿に盛り付けられており、俺が普段座ってる位置には麦茶の入ったコップも用意されている。

 

「なにその髪型?」

 

「寝癖直した」

 

「中途半端に直ってないけど。後ろの方とか」

 

「自分じゃ見えねえし」

 

「だからモテないんだよ」

 

 トーストにマーガリンを塗りながらククッと笑う。モテないのは寝癖のせいなのか。なるほど。

 

「それだけじゃないけどね」

 

「エスパーかよ」

 

「何年あんたの姉やってると思ってんの?……ほら、塗ったから食べな」

 

 コップの隣に置かれていた空の皿の上にマーガリンが塗られたトーストを置く姉ちゃん。自分のトーストにはマーガリンを塗らずにそのままかぶりついていた。ダイエット中らしい。

 

「まあ、その寝癖もちゃんと直したら詩織ちゃんも振り向いてくれるかもね」

 

「まあ、最近増えた二キロの体重を減らせたら新しい彼氏も出来るかもな」

 

「いっぺん死ねば?」

 

 腹立つこと言われたから腹立つこと言い返したらすっげえ素直に辛辣な言葉吐いてきやがった。弟に言うセリフかよそれ。

 

「てか、俺詩織のことはどうとも思ってないから」

 

「あっそ」

 

 そりゃあ、昔結婚の約束とかしたよ。何回も互いの家でお泊まりしたよ。でももう高二だし。そりゃあ彼氏だって出来てもおかしくないだろ。

 

 日高詩織は俺の幼馴染でクラスメイトだ。保育園の時に親同士が仲良くなって、家が近かったこともありきょうだい同然のように一緒にいた。小学校中学校も当然一緒。何故か高校まで被ってしまい、現在高校二年生、クラスまで同じである。

 セミロングの黒髪をサイドテールにしており、人当たり良好、誰とでも仲良くなる。ちょっとアホの子で、たまにド天然をぶちかます系女子。可愛くなかったらメッタメタにいじめられる系女子だが、ルックスがかなりいいのでそういうことも無く。同性から嫌われてるとかいう話もあんま聞かないから上手いこと立ち回ってんだろうな。

 

 今でも一緒に飯食ったり、急に家に来たり行ったりする仲だったりして、学校で言い合いなんかすると「また夫婦喧嘩かよ」とかクラスメイトに言われたりもしてた。その度に詩織が「ちがっ、そんなんじゃなくてー!」ってバタバタするのをみて更にからかわれたりもしてた。

 そんな詩織に彼氏が出来たのだ。お相手はバスケ部のイケメン。名前忘れた。バスケが上手いらしい。

 

 詩織に彼氏が出来たことで夫婦喧嘩といじられた時の「そんなんじゃなくてー!」がマジで「そんなんじゃなかった」ことが発覚し、クラスメイトにめちゃくちゃ謝られた後に同情された。いやお前らが勝手に勘違いしただけやん?

 

「なんかごめん」

「照れ隠しだと思ってた」

「よくよく考えたらお前と日高は無いわな」

「お前色々とダメだし」

「詩織ちゃんが神崎のこと好きになる理由無いもんね」

「お前色々と終わってるし」

 

 これら全部詩織が付き合ってから言われたことです。マジふざけんなよ。後半割とただの悪口じゃねえか。

 

 トーストは先に耳を綺麗に食べてから、真ん中の部分にレタスとハムを乗せる派だ。姉ちゃんも同じ食べ方をする。詩織はそんなの気にせずにバクバク食べる。

 

「まあ、解らないでも無いけどさ」

 

「何が」

 

「別にー。あ、今日仕事ラストまでだから夜遅い」

 

「あいよ」

 

 姉ちゃんは俺と六つ歳が離れてる。モールの中にある服屋で働いてる社会人。まあこの人は事務とかOLとかよりも、そういう営業とかの方が向いてるだろう。背高いから服とか映えるし。

 両親は県外で働いてる為、姉ちゃんと二人暮らし。たまに休日に帰っては来るけど、最早二人で生活することに慣れてしまったので逆に帰ってきたら気まずい。何喋ればいいか解んねえし。まあ生活費とか家賃はちゃんと入れてくれるからいいんだが。そんな訳で家事全般、二人で分担。ご飯は姉ちゃんが作る方が美味いから基本姉ちゃんの仕事になってる。

 

「ごちそうさま。寝癖直してくる」

 

「後ろのねー、右耳の上の方。ぴょんってなってるから濡らして櫛で梳きな」

 

 なんだかんだで姉ちゃんは俺に甘いと思う。

 

 

 

 

 〜〜〜

 

 

 

 

 俺の通ってる高校は歴史ある云々かんぬんで多くの若人が社会へ翔いたらしい公立高校である。らしい。詰まるところボロい。古い。ちなみに偏差値は中の下くらい。門だけ異様に綺麗。立て替えたから。

 そんな無駄に綺麗な門をくぐる。

 

「暑っつい」

 

 まだ六月も半ばだってのにこの暑さマジで何なの。外に出た瞬間に体力削られる。ホント高校近い所選んでよかった。歩いて十五分。神では?

 

「アスファルトに溶かされる……」

 

 つい言葉に出てしまうくらい暑い。さっさと教室入ってしまおう。

 

 大体高校生にもなってきたら一クラス四十数人、まあ色々な奴がいる訳で。教室の中が一つの地球の縮図になってんじゃねえの、って思ったりもする。

 例えば、教壇の近くではしゃぎ回っている運動部の連中。多分朝練終わりなんだろうな、クソ暑いのによくやるわ。そんな後なのにあんだけはしゃげるあいつらは……

 

「ガキ」

 

「聞こえてっぞ神崎!」

 

 やべ、声に出てた。

 で、なんか俺の机の周りで漫画読んで笑ってる連中は……

 

「陰キャ」

 

「殺すぞ神崎」

 

 やべ、声に出てた。

 で、後ろの方できゃっきゃしてる派手な女子連中。髪の毛の色も睫毛の長さもスカートの長さすら皆色々と違うのすげえな。あいつらは……

 

「ビッチ」

 

「死ねよ童貞」

 

 やべ、声に出てた。

 

「そーゆーとこだよ、ハル」

 

 ふと後ろから声をかけられる。姉ちゃんの次くらいによく聴く声。親の声より聴いた声。もっと親の声聴け。いや帰ってこないからしょうがない。

 

「思ったことすぐ口に出すから「色々と終わってる」って言われるの」

 

「そういう体質なんだよ」

 

「そんな体質はありません」

 

 いつも通りのサイドテール。幼馴染で彼氏持ちの日高詩織がそこにはいた。

 

「おお、離婚調停だ」

 

 誰だ今離婚調停とか言った奴。

 

「てかお前珍しく早いな。いつも遅刻ギリギリなのに」

 

「え?あー……うん。まぁね」

 

 頬を赤らめてぽりぽりとかく。いや何処に赤らめ要素あったんだよ。よくわからん。

 けど、なんか、あんまり見たことない顔してやがった。あれか。恋してる顔か?

 

 ちょっとイラッとした。

 

「ムカつく」

 

「なんで?」

 

「俺も知らん」

 

 本当に俺も知らん。

 けど、なんかムカムカする。

 あー、やっぱ気にしてんのか。

 別に詩織のことが好きだ、とかそんなことは無い。けど、なんかイラッとする。

 

 独占欲?幼馴染に?

 

 アホじゃねえの?……でもそうな気がする。

 

「嫌な夢見たから機嫌悪いんだよ」

 

 嘘は言ってない。そう言ってから俺の机へ向かい、俺の席を占領してる陰キャ共に声を掛ける。

 

「どいてくんね?陰キャ君たち」

 

「いやお前もどっちかと言うと陰キャだぞ?」

 

 え?マジで?俺自分のことバリバリ陽キャだと思ってたわ。

 まあクラスで一番仲いいのかこの陰キャ君たちの中の一人である時点で俺もお察しである。そいつが現在進行形で俺の席を占領してる。

 

「おい、どけよコバ」

 

「解った。解ったから蹴るな」

 

 眼鏡を掛けたこいつ、小林亮太。通称コバ。ルックスは悪くないのだが、如何せん趣味がエロゲーとかいう気持ち悪さでクラス全員から若干引かれてるダメな奴。エロゲー趣味が無ければ普通に面白い奴だから割と仲良くなれた。

 席を退いてくれたので鞄を置き、椅子にもたれかかる。暑い。なんで陰キャ組、皆俺の机の周りにいるの?

 

「神崎氏、何故、今日は日高氏が早くに登校していたか気になりませぬか」

 

「須田、普通の話し方してくれ」

 

 丸眼鏡をかけたチビ、須田がイタイしキモい喋り方で訳の分からんことを聞いてきやがる。今機嫌悪いの見えてねえのかなコイツ?

 

「なんでだと思うー?」

 

「幼馴染とは言えアイツの行動原理を全部理解してるわけじゃないぞ俺は」

 

「だろうねー、絶対神崎が想像出来ないと思うよー」

 

「そう言われると腹立つと同時に気になる」

 

 俺が想像出来ないこと?ごめんマジで解らない。というか俺が想像出来ないことらしいから俺がわかるはずないか。

 

 

「日高、高見と一緒に登校してたんだよ、今日。バスケ部朝練あるのに」

 

 

「……高見って誰」

 

 ……あ、あいつの彼氏のバスケ部の。思い出した。高見玲音。そうだ、キラキラネームみたいなやつ。

 

 へぇー。朝起きるの超苦手系人間の詩織が。彼氏と登校する為に。早起きして、一緒に登校。確かに俺はあいつの彼氏でもなんでもない。ただの幼馴染だから、成程俺には想像出来ないことだった。

 

 ただ、それなのに。

 なんかムカつく。

 

 高見玲音は名前負けしない高身長爽やか系のバスケ部で、顔が良くて運動神経も良いというのに変に気が弱い奴……らしい。同じクラスなったことないからよく知らない。

 けど噂によると草食系なんだとか。どっちから誘ったんだろうな。多分詩織だろうな。一緒に登校しない?って言ったんだろうなー。私頑張って起きるからねって。

 

「あれ?高見どうしたのー?」

 

 なんというか。

 この感情が解らん。

 

 ……ただ、ひとつ言える事は。

 

「……死にたい」

 

「振られたもんな」

 

「だから元々付き合ってもねえって」

 

 あ、今日見てた悪夢思い出したわ。

 学校の体育館。沢山の観客。響き渡るドリブルをつく音。俺はすげえ必死な表情で高見玲音をコート上で睨み付けてる。1on1。目の前にはドリブルをつく高見玲音。

 相手がバスケ部で勝てるわけないのに、なんとかして勝とうと必死になる俺。姿勢を落として、絶対ゴール前には行かせるもんかって鼻息荒くしてる。

 高見の目線が左へ動いた。これは左から来る。体重を移動させる。

 

 その瞬間に高見は右へ動いた。フェイントだ。

 

「うぇっ!?」

 

 口からすっげえ情けない声が漏れる。必死に右に戻ろうとするけど体が言うことを聞かない。足が軽い。地面についてないみたいだ。尻が重い。地面についているみたいだ。

 あ、俺尻餅ついたんだ。俗に言うアンクルブレイクってやつ?

 

「頭が高いぞ、負け犬君」

 

 高見が俺に笑顔でそう言うと、ゴール下でも無いのにそのままシュートを放った。いやせめてもうちょい前行ってから打てよ。ここからじゃ入ったらスリーだぞ?

 

 ボールは綺麗な軌道を描いてポスっとゴールに入った。

 

「俺の勝ち。今日のラッキーパーソンは詩織、っておは朝でやってたんだよ」

 

 観客がどっと沸く。俺は立ち上がることも出来ない。詩織が走ってコートの中の高見に抱きつく。尻餅ついて立ち上がれない俺に目もくれず。

 

「おい、置いていくなよ」

 

 震える手を伸ばそうとするのに、バスケ部相手に1on1挑んでた疲れが今来たのか、呼吸すら満足に出来ない。全身に力が入らない。

 

「神崎晴人君、ボッシュートです」

 

 いきなり姉ちゃんの声が拡声器で聴こえてくる。その声はどうやら俺以外は騒ぐのに夢中で気が付かないらしく。地面にいきなり穴が出来て、俺一人がすっぽり穴に落ちていく。

 

「ふざけんなクソ姉貴何考えてんだよぉぉぉぉ!!!」

 

 って叫びたかったけど声も出ない。

 

「おい助けてくれ!落ちる!死ぬ!」

 

 って助けを求めたかったけどやっぱり声も出ない。

 

「詩織!!」

 

 って呼びたかったけど。その言葉は声に出せた気がしたけど。

 

 穴に落ちる寸前に、高見と詩織がキスしてるのが見えた気がして。

 穴の底には、大蛇が大口を開けて待っていた。

 

 

 

「……はっ!」

 

「はっ!じゃねえから。神崎、お前いつまで寝てんの」

 

 気が付いたら教壇に担任の皆川が立っていた。口悪いけどちっちゃくて可愛い。生徒人気もある。……あれ?てことは今現代文の授業?

 

「皆川ちゃん、今、何時限目?」

 

「先生と呼べっつってんだろ。二時限目」

 

 どうやら俺は悪夢を思い出しているうちにまた夢の中だったらしい。

 

「……死にたい」

 

「……神崎あんた具合悪いの?保健室行く?」

 

 あ、やべ。口に出てた。

 皆川ちゃんは割と心配してくれるいい先生だと思います。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。