幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい   作:仮面

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はつこい。

「だから、普通にネタとか挟んだ劇じゃ最優秀は取れねえって」

 

「でもその方が生徒ウケは良くない?」

 

「そうかもしれんが審査するのは頭の固い先生方だぞ」

 

「えー、でもハルに脚本任せたらめちゃくちゃ重たい話書きそうだしー」

 

 詩織はマジで夜ご飯食べに来て、そのまま俺の部屋で演劇コンクールに何をするか、という話し合いが始まっていた。

 本気で賞を取るなら脚本を考える所から真剣にやらなくちゃいけない。だから二人で案を出し合ってるのだが……

 

「一からとか出来るわけねえだろ。有名な戯曲とかから引っ張ってくるのがベスト」

 

「オリジナリティある方が絶対面白くなるじゃん!それに戯曲から引用したー!とか言っても解んない人いっぱいいるし。私とか」

 

 意見がめちゃくちゃ割れるのだ。

 

「お前が言う通り、ユーモアもオリジナリティも絶対必要なのは解ってんだよ。けどそれを全面的に出すにしては俺らのクラスには演劇部も居ねえ。あーゆーのは慣れてる奴らがやるもんなんだよ」

 

「むー」

 

「唸ってもこれは譲りません」

 

 やるなら勝ちたいんだよなぁ。まあ実質役の振り分けとかはこいつに任せた方がスムーズに進むんだろうけど……。さて、どうやってこの頑固者を攻略したもんか。

 

「別に既存の作品を丸々使うわけじゃねえよ。ストーリーやキャラクターを改変するんだ。例えばそうだな……ロミオとジュリエットをやるとするだろ?ロミオの親友、マキューシオを女性に変える、とかな」

 

「マキューシオって誰?私ロミオとジュリエットは「おおロミオ!貴方はどうしてロミオなの!?」しか知らない」

 

 マジかよ。……いや、普通の人のロミオとジュリエットの認知度ってそんなもんか。俺も金太郎って熊と相撲を取る、位しか知らないしそんなもんだろう。えーっと、どう噛み砕いて説明したらいいかな……。

 

「ロミジュリは、言ってしまえば二人の許されざる恋の物語なんだよ。で、ロミオには親友のマキューシオって奴がいるんだが、そいつが女性だったら……もしかしたら、それだけ仲が良かった二人だ。ロミオはジュリエットが好き。ジュリエットもロミオが好き。だけどマキューシオもロミオが好き……っていう人間関係が完成する」

 

「昼ドラみたいになったね」

 

「両想いなのはロミオとジュリエットだが、二人の恋は許されない。けどマキューシオとロミオなら許される恋だ。ロミオはどちらのアプローチを受けるのか!?……どうだ、面白そうに聞こえないか?」

 

「面白そうだけど……ドロドロしそう」

 

 まあストーリーを改変しないならマキューシオ、ジュリエットの従兄弟のティボルトに殺されちゃうしね。めちゃくちゃドロドロすると思うよ。

 なんだったらティボルトはマキューシオに恋をしていることにするか?愛ゆえに傷つけ、殺してしまった……的な。昼ドラ展開過ぎるかな?

 

「ハルの主張は解ったけどロミオとジュリエットは却下。ちょっと重すぎ」

 

 えー。これで重いのかよ……。

 

「てか、他のクラスはどんなことするんだろ」

 

「まあ普通に考えて既に考えてるクラスなんかそう無いだろ」

 

 俺もお前とじゃなかったら連携取るの面倒臭いしまだ企画してなかった。

 

「ハル、他なんか無いの?」

 

 お前さっきまで俺に考えさせたら重たい作品しか生まれないからヤダって言ってただろうが!なんでいきなり頼ってんの……。意外とロミジュリの改変案は面白かったのか?

 

「昔話とか童話とかの改変もいいんじゃねえの?白雪姫とか」

 

「おお、可愛いやつがきた」

 

 つっても白雪姫の改変案がパッと思い付かない。……グリム童話原典宜しく最後にお妃様に復讐して終わり!じゃ流石にまずいよなぁ。生徒ドン引きの審査員も苦い顔になりそう。適当に童話とか言ったけど俺Märchenの知識しか無いしなぁ。

 

「……姉ちゃんに意見を仰いでみねえ?」

 

「白雪姫浮かばなかったんでしょ」

 

「浮かばなかった」

 

 バレてる。まあそりゃ考えてる仕草した結果出た言葉が姉頼りならバレるわな。二人で一旦リビングまで戻る。姉ちゃんはジュースを飲みながらテレビを見ていた。

 

「姉ちゃん、演劇コンクールの案とかない?」

 

「んあー?演劇?んー……」

 

 テレビから目を離して考えてくれる姉ちゃんはやっぱり俺に甘いと思う。俺というか、俺らに甘いと思う。

 

「……あ。ロミオとジュリエットでさ、マキューシオもジュリエットに恋した!とか面白いんじゃないの?」

 

「ハルとお姉ちゃんってホントに似てるよね」

 

「今俺もちょっとビックリしてる」

 

 マジか。考えること殆ど同じか。流石姉弟。

 多分こういう所で好みが似るからここまで仲の良い姉弟でいれるようになったんだろうな、って気はする。

 

「というかなんでお姉ちゃんもその、マキューシオ?って知ってるの?」

 

「映画観たから。四十年前位のやつ」

 

「あれのジュリエット役やってる人めちゃくちゃ美人よな」

 

 なんか詩織がドン引きしてらっしゃるが、俺ら姉弟は普通に適当なDVDとかレンタルビデオ店で借りて観るからな。ロミジュリも四十年前位のやつ、二十年前位のマフィア改変されてるやつと両方観た。面白かったなぁ。

 

「というか詩織ちゃんそろそろ帰らなくて大丈夫?遅いけど」

 

「え?……うわっやばっ!?」

 

「やっぱり……晴人、近いけど送ってやんな」

 

「あいよ」

 

 本当にすぐそこだけどつい最近、ほんの少し前にあんな目にあってるんだ、男が送っていくのは当たり前の行動と言える。

 

「あー……ごめんね、ハル。ありがと」

 

「まあ俺が付き添って意味があるかはともかくな」

 

 まあいないよりはマシだろう。

 徒歩五分も無いから楽ちんだし夜中にコンビニ行くより近いから全然苦にはならん。

 

「んじゃちょっと行ってくるわ。鍵開けといて」

 

「あいよ。詩織ちゃん、またおいで」

 

「お姉ちゃんありがとー、またね!」

 

 サンダルを履いてドアを開ける。夜だがまだ少し暑い。外が真っ暗、っていうだけで普段歩いている道も少し特別感あるよね。ちょっと暑いから今日は特別感は半減だ。

 

「んじゃ行くか」

 

「うん」

 

 歩幅は自然と合わせられる。昔は詩織が走り回るもんだから必死に走って追いかけてたが、今は普通に歩いてるだけで歩幅は自然と合うようになった。

 

「玲音君もさ」

 

「ん?」

 

「歩幅合わせてくれるんだよね」

 

「あいつ、背高いから意識して合わせてくれてんだろうな」

 

 あいつのなんというかぼーっとした顔のままで、詩織の隣で少しゆっくりめに歩いている姿を思い浮かべる。うーん、なんとなくモヤッとはするがやはり似合ってるとは思う。

 

「ハルは意識して合わせてないの?」

 

「姉ちゃんとお前は意識しなくてもなんとなく合わせられるようになった」

 

 これに関しては本当に付き合いの差だと思う。前に石黒と帰った時は少し意識しないと俺の方が早かったし、やっぱりこういうのは付き合いの長さがものを言う気がする。

 

「そっか。……ハルと玲音君が怪我した時さ」

 

「んあ?」

 

「ハルさ、俺の女に手を出すな!って言ってたじゃん?」

 

「えっ、俺そんなこと言った?」

 

「言った」

 

 あの時は頭イッてたからなぁ、何叫んでたかとかイマイチ覚えてない。そんなこと言ってたのか。

 

「あれさ、ちょっと嬉しかったんだよね。ハルのことを初めてかっこいい、って思った」

 

 それなりに、いやかなり付き合いは長いが初めてか……俺ってそんなにかっこいいシーン少ないのか……。

 

「高見に怒られっぞ」

 

「かもね。……私、多分中学生位の頃はハルのこと、好きだったんだと思う」

 

「は?」

 

 いきなり何を言ってるんだこいつ。

 

 中学生位の頃?俺らが一番夫婦だー!ってからかわれてた時代か?その頃、俺の事が好きだった?

 

 何言ってんだ、本当に。

 

「好きだった……うん。好きだった。夫婦だー、って言われるのもちょっと嬉しかったし、本当にお嫁さんになれたらいいなー、って料理を練習したりしてた」

 

 真っ暗だから前をしっかり見ていないと足を踏み外して転びそうだ。しっかり前を見ていないと。隣で歩いている幼馴染の顔なんかを見てると転びそうだから、見れない。

 どんな顔をしてこいつの顔を見たらいいのか、解らない。

 

「というか、多分今もちょっと好きなんだと思う。……ホントはね、最初は玲音君からの告白、断ろうかな、って思ってたんだ」

 

 夜の道は少しだけ特別な気がする。昔はこんな夜遅くに、俺と詩織の二人で歩く……なんて有り得なかった。危ないから、って姉ちゃんと理恵さん、母ちゃんなんかが付いてきていた訳だ。当たり前。

 

 いつの間にかこんなに大きくなったんだなぁ、俺達。

 いつの間にか二人で色恋の話をするようになったんだなぁ。それがまさか、俺の事が好きだった、とかだとは思わないじゃん。

 

 この場から逃げ出したい。けど、逃げ出したらそれは詩織を殺すことになりそうな気がして。

 

「じゃあ、なんで高見の告白、オッケーしたんだ」

 

「うーん……怒らない?」

 

「ここまで聞いといて言わない方が怒るわ」

 

「そだね。……フェアじゃなかったんだよね」

 

「は?」

 

 俺はたまにこいつの言っている意味が解らなくなる。フェアじゃなかった、ってなんだよ?

 

「だってそうじゃん。私はハルのこと好きだったからさ、どうやったら私の気持ちを伝えられるかなー、でも伝えない方がいいのかなー、って悩むんだよね。でもハルってさ、アホだから。そんなことで悩んだ事ないでしょ?」

 

「失礼な」

 

 少なくともお前が高見と付き合った、って聞いた時は結構悩んだぞ。理由はまた違ったけど。

 

「だから玲音君と付き合うことにしたの。そしたら、ハルに気持ちを伝える、伝えない、って悩まなくていい。ハルはもしかしたら私みたいに何か悩むかもしれない。私の悶々とした気持ちを食らえー!って感じ」

 

「……アホか」

 

 こいつアホだ。

 確かに俺はすっげえ悩んだ。正直ちょっと病んだ。病んだ?……病んでたな。病んだ。幼馴染なのに寝取られた気がして、正直しんどかった。

 けど、その為にオッケーするのはアホだろ。俺にアホって言えねえだろ。

 

「それでもちょっと好き、って思ってしまうのはダメだよねー。勿論、玲音君がすごく好き。一番好き。最初はちょっと不純な理由で付き合ったけど、すごく優しくて、カッコよくて、楽しくて。付き合ってるうちに好きかわかる、って本当なんだなって思った」

 

 当たり前だろ。あいつは俺よりかっこいいし、多分俺より優しい。思ってることが口に出る、とかそんなんも無いだろうし。

 

「……ねぇ、ハル。一つお願い」

 

「……なんだよ」

 

「私を振って」

 

 ……。

 

 詩織の言いたいことは理解出来る。

 

「幼馴染だしさ、また家には遊びに行くよ。家族巻き込んで遊ぶよ。けど、私は一回、ここでハルに振られて、ちゃんと玲音君一筋にならないとダメ」

 

 多分、詩織が急にそんなこと言った理由はその俺が叫んだ「俺の女に手を出すな」みたいな発言なんだろう。それのせいで、昔好きだった感情が少し押し戻ってきた……そういうことだと思う。

 だが、正直俺の頭の中はパンクしそうなのだ。そもそも詩織が俺の事を好きだった、とか本当に知らなかったし解らなかった。その時点で容量オーバーしかけてるのに、この短時間に情報量が多すぎる。

 

 俺は果たして詩織のことをどうしたかった?

 幼馴染が彼氏作った。その時は独占欲に駆られた。好きでもないけど俺が先に告白しておけばよかった、とクソみたいなことも考えた。

 

 本当に告白しておけば。今頃俺達は付き合ってたかもしれない。

 

 じゃあ、俺は詩織の事が好きだったのか?

 

 ……解らない。

 

「……俺を巻き込むなよ。勝手なことばっか言って、俺に振ってくれとか、意味わかんねえし」

 

 それが詩織の考えたケジメだとしても。

 

 俺は詩織を振る、ということをしたくなかった。

 出来ない。

 

「……そうだよね、ごめん。すごく気持ち悪いこと言って」

 

「……家、着いたぞ。明後日、テスト返却と終業式の日にまた」

 

「うん。ありがと、ごめんね。……じゃ」

 

 タイミングが良かったのか、悪かったのか。いつの間にか詩織の家の前まで到着していた。

 鍵を開けて家の中へ消えていく詩織を見送ってから、ゆっくり踵を返して歩いていく。

 

 

 振りたくなかった。

 

 

 それが何故かは解らない。ケジメだとしても、詩織を振れなかった。

 

 俺も、中学生位の頃はあいつの事が好きだったのかもしれない。

 

 もし、告白して、振られたら。幼馴染っていう関係も壊れてしまいそうで怖くて、すぐにその気持ちをどっかに封印したのかもしれない。

 今、振ってしまったら。その頃の自分が死んでしまうような気がして。

 

 ちょっとだけ、高見が羨ましくなった。

 

 夜の道っていうものは少しだけ特別感が増す気がする。暗い道は前をしっかり見ていないとすぐに足元を掬われそうな気がして、ずっと前を見ている。

 

 だけど、少しだけ上を見てみると。腹立つくらい三日月だった。

 

 あーあ。失恋した。

 

 多分、俺も今もちょっと好きだった。

 

 サラバ、俺の初恋。





マキューシオの失恋

原作ではそもそもマキューシオ誰にも恋しませんけど。
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