幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
「うわー、まばらな人」
我が校のサッカーグラウンドの脇に添えられた、気持ち程度の観客席にはちまちまと人が座っていた。普通に観客席じゃない所に地べた座りしてる人もいる。
二時十分。グラウンド上では既にユニフォームを着た選手達がアップがてら軽く動いている所だった。適当に空いている場所に腰掛けて、俺を呼んだ張本人である石黒の姿を探す。
「……あ、いた」
オレンジ色のユニフォームを着て、ベンチの近くでボールをコロコロと蹴っている石黒。いつもの天真爛漫!といった感じではなく、やる気!元気!強気!みたいな感じだ。なんか、こう、オーラが出てる。
練習試合の相手チームはどうも県外からバスで来たチームらしく、全国大会の出場も狙える程の強さなんだとか。まあ我が校も狙おうと思えば狙える位なので、同じ位の強さなのではないだろうか。
……それなら別にこの土のグラウンドじゃなくてさ、どっか芝生のグラウンド借りたら良かったんじゃねえの?公立校だから部活に回すお金があまり無いのは解るけどさ。
先にコンビニに寄って買っておいたいちごオレにストローを刺していると、グラウンドから選手の姿が消えていった。そしてベンチで監督を中心に円が組まれている。お、作戦会議って感じ。必殺タクティクスとかあるのかな。それともジャイアントキリングみたいに名采配とかあったりする?
口の中が甘ったるくなりだした頃、選手達がそれぞれのポジションについた。オレンジのユニフォーム、かっこいいな。相手の白も綺麗だ。……あ、相手のディフェンダーの子、可愛い。
先攻は我が校らしい。二時三十分。キックオフのホイッスルと共に、俺の初めての女子サッカー観戦が始まった。
〜〜〜
「うぅ……うーん?」
これどうなんだろう、押してる……のかな?
前半も残りわずか。そもそも俺のサッカーの知識が乏しいせいもあるのだが、どっちがどのくらい有利なのかが解らない。うちのフォワードの先輩二人は背が高いので(片方は170超えてるらしい)無理矢理高いボール上げて合わせてるが、キーパーがめちゃくちゃ上手いんだよ。あとあのディフェンダーの可愛い子。あのポジションはセンターバックっていうんだっけか、あの子がすげえ献身的に守備をしてる。なんというか、シュートコースがすっげえ絞られてるんだよな。そうやって守られた後のカウンターが早い。けどなんだかんだで点は取られてない。
石黒はなんというか……相当動きにくそうにしている。何かずっとマークされてるんだよな。ボールには触ってるんだけど、前の二人にパスさせて貰えない。というか前に蹴れなくて後ろに戻さざるを得ない感じだ。きっちり潰されてる。
もしかして、石黒ってそんなにマークしないとヤバいやつなのか?
前半がアディショナルタイムに入った。こっちのボールだ。攻め込むのはラストチャンスか?
コート中央辺りでボールを回している。おい、あんま時間無いんだぞ、早く攻めろよ。あと一分位しか無いぞ。
ボールが前に出て……石黒がそれを受けた。だけどやっぱりマークが厳しい。あのマークしてる奴ゴリラじゃん。誰だよ女子サッカー部に男子混ぜた奴。髪短いから余計男子に見えるわ。
多分ここが前半ラストプレー。必死にマークを外そうとしているんだが、ゴリ子の奴、見た目に反して意外とすばしっこい。あんなゴリラ反則だろ、キーパーもゴリラみたいだしさぁ。おい、時間無いぞ、早く……!
「決めろよ石黒!」
無意識に叫んでた。つい言葉に出てしまってたらしい。
そして俺が無意識に声に出した瞬間、石黒が無理矢理ミドルシュートを蹴った。多分、本当に一瞬ゴリ子の向こうにゴールが見えたんだろう。徹底的にマークしてたゴリ子の脇を抜けてすんげえスピードでゴールに迫る。
しかしあのキーパー、ゴリ美の反応が早かった。キャッチはできなかったものの石黒のシュートをしっかり弾き、ゴールを決めさせてはくれなかった。
「だぁー!くっそ、ゴリラシスターズめ!」
だけどまだボールは生きてる、フォワードの先輩とあの可愛いディフェンダーの子がボールに向かって走り……
ディフェンダーの子が思い切りクリアしたところで前半終了のホイッスルが鳴った。
観てて疲れる。なんせあのゴリ子、容赦が無いから石黒吹き飛ばされるんじゃねーの?って思わないでもないわけよ。しかも基本的にサッカーって、バスケみたいにめちゃくちゃゲームスピードが早い訳じゃないから、普通にぽけーっと観てるんだよな。だけど石黒までボールが回ってる時はそりゃあもう得点のチャンスな訳でしっかり観ようとするから、こう、気持ちが追いついてこない。
にしてもあのゴリラシスターズは反則だわ。ちゃんと檻の中に入れとけよな。ちょっと前にジャンプでやってた少年サッカーの漫画に居たヒロインの子、よく男子相手に戦えたなって感心するわ。センターバックの子が余計に可愛く見える。けどあの子が最後に上手いことクリアしたから前半に点が取れなかったんだよなぁ……かわいいからゆるす。ゴリラシスターズなら許さなかったが。
「……暑っつい」
よくこんな暑さの中プレー出来るよな。そりゃ石黒も日焼けするわ。いちごオレがちょっとぬるくなっている。
後半がもうすぐ始まるらしい。選手達がまたグラウンドに現れた。次は相手のボールから始まる。
勝つって言ってたんだから勝てよな。
石黒が、こっちを見て笑った気がした。あー、叫んだの聞こえたかな?いや、気の所為かもしれんが。というか多分気の所為なんだと思うが。
後半開始のホイッスルが鳴らされた。
〜〜〜
後半から我が校の攻め方が変わってきた。
前半は縦に高いボールを上げて、背の高いフォワード二人がそれを受ける、というわかり易く身長差の暴力を仕掛けていたのだが、後半に入ってから縦より横に広げたパスを増やしている気がする。まあ、確かにさっきまでその作戦で前に運んでもしっかりシュートコース絞られてたからな。コートを広く使ってディフェンス陣を掻き乱したいんだろう。
どうも我が校の女子サッカー部は高い攻撃力が売りらしく、とにかく攻める。守りが薄い訳じゃないのだが、割と常にフォワードのどちらかは前にいて、あまり守備にも参加していない。そして後ろでボールを奪ったらすぐに前に蹴る……というのが定石らしい。石黒は最前線の少し後ろでボールを受けて、ゴールアシストを決めるのが仕事らしいのだが……まあ、今日はゴリ子にしてやられている。
そんな「ガンガンいこうぜ!」みたいなチームだが、ガンガン行かずに広くコートを使う「バッチリがんばれ」的な作戦もしっかりとこなしていた。中盤でボールがコロコロと回る。攻めの突破口を探ってる感じだ。
「じれったいよなぁ」
こうなってくると、サッカーの試合展開はゆっくりになってくる。まあこれだけ暑いし、後半も始まったばかりだから、スタミナ管理とかもあるんだろうけども。観てる側としてはこう、でかい動きが欲しいよな。いきなり化身とか出てきたら燃えるんだが。
……あ。石黒が走った。パスを貰う気か?当然のようにゴリ子がマークする。今のまま貰うと前半と同じで戻さざるを得なくなるぞ?
……いや、なんかさっきに比べてあいつ足速くね?ゴリ子が置いていかれそうになってないか?今ならゴリ子を抜けるのでは?
パスが出る。ちょっと遠いか……?あれ間に合うか?いや、あれ間に合うぞ?あれ、間に合うぞ!?
まばらな観客が湧き始める。すっげえ決定機になるかもしれない。ゴリ子を抜いたら石黒はフリーだ。あの足の速さならあの可愛い子も既に間に合わない。いける!
「いけるっ、いけっ!」
ボールに間に合い……ぁあっ!?ゴリ子てめえ今のはファウルだろっ!?絶対今のわざとだろ!?石黒が勢いよく転ぶ。痛い。あれは多分痛い。
「ゴリラぁ!野生に帰れっ!」
ホイッスルが鳴った。あ、やば。ヤジ聞こえちゃいました?……あ、違った。ゴリ子にイエローカードだ。……まあ、相手視点から見たらあれファウル貰わないと止められなかっただろうしな。くそっ、ゴリ子上手いな。
石黒は特に怪我とかも無かったらしく、そのままフリーキックのキッカーになっている。直接シュートを狙ってもいい、少し高めのボールを上げてフォワード二人に繋いでもいい、敢えて普通にパスを出してもいい。いいポジションだ。どうする……?
石黒が助走をつけて思い切りボールを蹴った。あれは……直接狙いに行った!いいんじゃねえのか!?位置的にはディフェンス陣を上手く抜けてる!あとはあのゴリ美の反応次第……!
「……うわぁまじかよ!?今の入んねえの!?」
ゴリ美上手すぎじゃね!?ちょっとその守備力日本代表にくれよ。かなり良いコースに飛んで行った石黒のシュートはまたもやゴリ美に阻まれた。だが弾いただけで、しかも弾き方も良くなかった。そのままコートから外れていく。コーナーキック獲得だ。まだまだ得点チャンスである。
コーナーキックのキッカーは三年生のミッドフィルダーの人だ。さっき石黒にパスを出した人。ここはやっぱりセンタリングを上げて身長差を活かすのか?どう考えてもそれが一番得点になりそうだが……?
蹴った。やっぱり高いボールだ。場所も悪くない。ゴリ子、先輩方、可愛い子も同時にジャンプする。いける。先輩が頭一つ抜けてる!そのままヘディングシュート。これは決まっ……らない!?
「はぁっ!?」
ゴリ美!そんなに頑張らなくていいから!ボールは弾かれてジャンプしていた選手達の脇を通り抜ける。
「……あっ」
観客がまた湧いた。
一人だけそのボールの行き先に飛び込んでいる選手がいたのだ。
石黒だ。
なんかもう確信した。これ決まるわ。
そのままダイレクトで蹴る。さっきまでのミドルシュートみたいな、めちゃくちゃな勢いは無いけど、絶対外さない、みたいなボール。そのままボールと一緒に走り抜ける位の勢いで飛び込んでいる。
ホイッスル。ゴールネットが揺れる。
「うぉぉおおおおっ!?!?」
観客が湧いた。
一点先制。決めたのは石黒だ。
グラウンド上で走り回ってゴールを決めた喜びをバタバタさせながら表してやがる。白い歯を思う存分見せて笑っていた。
すげえなあ。
かっこいいわ。
多分、あの位置のボールに飛び込めたのは運もあったと思う。けど、なんかそういう運とか、勝ちに対する嗅覚がすげえ強い奴っているじゃん?そういうものが備わってるように見えた。
簡単に言うなら、「勝利の女神に愛されてる」。なんか、そんな感じ。
多分、そういう運っていうのは身に付けなきゃいけないもんで。
長い間、サッカーを楽しんでやってて、好きでいて、真摯にやってるから、そういう女神に見守られてる?そんな感じ。
努力があるから、運がついてきてる。
努力があるから、運が良かった時にそれをモノにできる。
それが、すっげえかっこいい。
俺の周りって、そういう奴今までいなかったからなぁ。
試合が再開された。
真摯にやって、努力する。
真摯に向き合うって、なんなんだろうな。
ふと思い出すのは詩織と二人で夜に歩いてた時のこと。実は中学生の頃から好きだった、って言われて。でも振ってくれって言われて。
多分、俺は好きだったって言われて舞い上がった。俺も、多分好きだったから。童貞が夢見る両想いってやつだ。だからこそ、振ってくれっていう言葉は来るものがあった。
詩織は詩織なりに、高見と真摯に向き合う為にそういう事を言ったんだと思う。詩織なりに、俺と、俺への恋心と真摯に向き合う為にそういう事を言ったんだと思う。
俺はそれに真摯に向き合う事が出来なかった。俺も、詩織のことが好きだったから。高見っていう彼氏がいるのに、まだどこかで夢を見てて、振ることが出来なかった。
よくよく考えてみたら「別にそういうわけじゃないのに寝取られた気分」とか思ってたが、今の俺の方がよっぽど寝取る気満々に思えてくるじゃねえか。
じゃあ、どうすれば真摯に向き合えたのだろうか。あそこで、ちゃんと言われた通りに詩織を嘘でも振らなきゃいけなかった?
そうしたら今度は俺の気持ちに真摯に向き合っていない。ジレンマだ。
最初から、二人ともずっと幼馴染のままが一番良かったんだと思う。変に異性として意識したからダメなんだよ。
高いボールが上がる。うわ、到着点石黒の所じゃね?やばい、ゴリ子相手じゃどう考えてもフィジカル負けする。……ぁあ、やっぱり。ボールはそのまま弾かれてあの可愛い子の下へ。鋭い縦パスで中盤までボールを運ぶ。あの子上手いなあ。相手チームは守備寄りのチームなんだろうな。守って守って、カウンター!みたいな動きが多い。ソーナンスみたいだな。
後半もアディショナルタイムに突入した。このまま守り切れば勝ちだ。今は相手ボール。こちら側も最後ということもあり、全員が下がって守備に回っている。多分、もう一度ボールを奪って前まで持っていけたらもう勝ちだ。
さっきコーナーキックを蹴った人がボールを奪った。すぐに縦パス。前に走っていた石黒にボールが渡る。これ、あいつまたシュート打てるんじゃねえの?……いやダメだ。めちゃくちゃシュートを警戒されているのか、シュートコースにがっちりゴリ子がいる。その後ろにはあの可愛い子も控えてる。ここは落ち着いて後ろに戻して確実にボールをキープするべきか……?
石黒はそうしなかった。後ろではなく、斜め前に速めのボールを蹴った。そこに走り込む170越えの先輩。いやそれは流石に追いつけなくね!?だけど追い付いたらダメ押しの二点目が狙える。良い判断……なのか?
「どうでもいいわ、ノッポさん!追いつけ!!」
タッパがあるから足も長い。足が長いから歩幅も広い。ノッポさんはギリギリで石黒の鬼畜パスに追い付き、そのままシュートを放った。ゴリ美の逆を付く綺麗なシュート。二点目だ。
そして鳴らされるホイッスル。練習試合は二対〇で我が校の勝利で終わった。
……石黒、ワンゴールワンアシストかよ。半端ないって。他のスタメン先輩ばっかやのにそんなんできひんやん、普通。
観客目線でスポーツシーン書くのってアホみたいに難しいですね。正直頭抱えた