幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
三連休は暇だったのに普通の土日の方が仕事忙しいの最早テロだと思うんですよね(?)
七月も終わり、八月に入った。いよいよもって夏休み本番!って感じが出てきて暑さもピークを迎えてる気がする。昼間がクソ暑いのは勿論のこと、朝も暑いし夜も暑い。暑すぎて蝉が鳴いていない。まあ蝉の声って聴くだけで暑苦しいからそれはそれでいいんだけども。
朝も暑いのだから、午前九時の現在でもアホみたいに暑い。そんなに暑いなら外に出なきゃいいのだが、俺はコンビニへと向かうべくダラダラと炎天下を歩いていた。
物凄く煙草が吸いたくなったのだ。
まだ片手で数えられる程度しか吸ったことは無いのだが、こう、なんとなくめちゃくちゃ煙草が吸いたくなる瞬間ってのは訪れる。初めて吸った時もそういう瞬間が来たから吸った訳だし。
で、今まで俺が吸う時は姉ちゃんの吸ってる煙草を一本貰って吸ってた訳だが。
「あー、あたしも今切らしてんだよね。買ってきてよ」
そして、今に至る。
いや、未成年に買わせるんじゃねーよ。未成年が「煙草吸いたい。一本くれ」って言うのも問題なのだが自分のことは棚に上げておく。
という訳で姉ちゃん曰く「あたしが高校生の頃に買ってたコンビニ」へ向かっている訳だ。店長変わってないしあのおっさん他人に迷惑かけない非行なら見逃す系のおっさんだから大丈夫〜!って言ってたけど本当だろうな?……まあ、姉ちゃんが煙草買おうとして怒られたり警察のお世話になったことは無いから大丈夫なんだろうけどさ。
「暑っつい……」
まだ朝じゃん?なんでこんなに暑いんだよ。アスファルトがゆらゆら揺れる。陽炎も見てると暑苦しいよな。幻覚みたいで気持ち悪いし。電柱が真っ直ぐに見えない。もたれかかってる女の人とか見えるし。
「……とうとう俺の頭が壊れたか」
このクソ暑い中電柱にもたれかかってる女の人……?おかしくないか、これ?というか別に暑くなくても電柱にもたれかかってるのはおかしくないか?
夏だし、幽霊とかの類が見えてるのではなかろうか……?いかん、怖くなってきた。
いや待て、普通に体調不良起こして立っていられないだけの可能性もあるぞ?救急車呼んだ方がいいんじゃねえのか?どうする、一回声掛けてみるか?
……あ、目が合った。
「……すみません、お願いがあるんですけど」
話し掛けられた。
綺麗な声だ、って思った。
「ビニール袋とか持ってませんか……?」
「……え?」
なんで?
「あっ無理……ヴォエェェエ!うぇっ、ゲホッ」
……は?
「うわきったねえ!くっさ!汚っ!えぇ!?」
女の人はその場に蹲ってゲロを吐いた。めちゃくちゃ臭い。汚い。
最悪だ。
〜〜〜
「ホントごめん!吐き気を堪えきれなくて」
「はぁ……」
どうしてこうなった。
ゲロ吐いたお姉さんにドン引きしつつも顔色がヤバそうだったので近くの自販機でお水を買って渡してあげたら、なんか喫茶店に連れて行かれた。助けて貰ったお礼の奢りという名目で。助けてないんですけど。
ゲロ姉さんは一言で言うと「派手」だった。美人なんですけども……。
ロングヘアーで、金髪にグラデーションカラーで毛先はライトグリーン。赤い口紅が少し毒々しく、目もパッチリしていてカラコンも入っている。普通カラコンって茶色とか入れて黒目の部分を大きく見せるもんだと思うんだが、あれ多分別の色入ってるな。両耳あわせてピアスが六つ着いている。
やべえロックバンドみたいだ。とてもじゃないが朝に喫茶店にいるタイプの人ではない。つまり浮いている。同席している俺も。
「アタシ奥村由紀。ちょっと昨日飲み過ぎちゃってさ、ぐったりしてたの。ありがとね」
「いや、別に俺何もしてねえし……」
「その場に居合わせてくれた」
「はぁ……」
奥村さんはクリームソーダを飲んでウッキウキだ。俺はメロンソーダを飲む気があんまりしない。頼んだのは俺だけども。
「てか、朝の九時までずっとあそこでぐったりしてたんすか」
「いや、昨日終電逃しちゃって。仕方無く飲んでた近くのネカフェで寝て、起きて電車乗ってたら気分悪くなっちゃった」
この人多分ダメな大人だ。人は見かけで判断したらダメな事は解ってるけどこの人は見かけ通りの人だ。
「君は高校生?」
「はい」
「夏休みか、なるほどね。何処行くつもりだったの?」
「コンビニっすけど。煙草買いに……あっ」
やっべ。
マジでこのすぐに口に出てしまう癖治さないとヤバいな。
奥村さんは俺の「しまった」みたいな顔を見てぷっ、と笑った。
「そっか!いやそんな顔しなくていいよ、アタシも吸ってたし。別に咎めやしないよ、君が思うようにすればいい」
見かけ通りの人だ。未成年の煙草を容認するような大人はロクな大人じゃない。
だけど、そんなロクな大人じゃない人で良かった。ロクな高校生じゃない俺を容認してくれるのだから。
「君、名前は?」
「……神崎晴人っす」
「晴人……カッコイイ名前じゃん」
「そうっすか?」
「うん。ライブとかでギターソロ始まる前に「ハルトォッ!」ってコールしてみたい」
訳分からん。
「バンドとかやってるんすか?」
「そ、バンドやってんの。アタシギター」
だからその見た目か。このルックスでギターは中々に刺々しいものがあるなぁ……ヘドバンとかしそう。
「……奥村さんがギターならコールされる側じゃないすか」
「それもそうか。てか由紀でいいよ」
由紀さんは見た目こそ派手で刺々しいけど、話し方は優しかった。優しいというよりは、大らか?そんな感じだ。最初のゲロの印象が強過ぎてちょっと壁を作りたくなるけど。
「終電無くなってたの、気付かなかったんですか?」
或いは男の家に転がり込むorホテル作戦が失敗したとか?その辺りは高校生だし経験も無いから解らないけども。
「気付かなかったね。バンド仲間と大喧嘩してさ、皆頭に血が上って怒鳴り散らしてたの。それで「もう無理!やってらんない!」って言って店出てスマホ見たら深夜一時。はー、やらかしたー!って感じ」
「大喧嘩っすか」
「大喧嘩っす」
店の方も大概迷惑だったんだろうな……。というかそんな喧嘩しながら酒飲んでたならそりゃ悪酔いするわ。俺高校生だしそんな経験も無いから解らないけども。
「まあ、人って皆考えてること違うからさ、何人か集まって本気で何かしよう!って思ったら意見の食い違いもあるからさ。喧嘩するのは当たり前なんだけどねー」
「そうっすね」
本気で、って所がキモなんだろうな。俺は基本的にそこまで本気で何かをしようとしたことが無いから、上手いことギクシャクする前に相手に合わせることが殆どだ。
「由紀さんのバンド、なんて名前ですか?」
「addictって名前。中毒って意味らしいよ」
聞いた事は無いな。
「ガールズバンドですか」
「いや、女はアタシだけ。ボーカルもベースもドラムも男」
その中で大喧嘩かよ。無茶苦茶な度胸あるなこの人。
でもやってらんない!って言って出て行ったんなら、もうそのバンドでも無くなるのだろうか。そもそもメジャー?インディーズ?どっちなんだろう。本気で、って言ってるからアマチュアじゃないとは思う。
「なんで喧嘩したんすか」
「んー、なんていうかな。メジャーデビューを目指すべきか、インディーズを貫くべきか、みたいなね。他にも色々あったけど一番はそれかな」
インディーズだったのか。
「由紀さんはどっち派なんですか」
「グイグイ来るね」
「すみません」
なんというか、こういう大人は近くに割といるんだけど。こういう仕事をしてる大人は近くにいないから少しだけ興味があるというか、なんというか。
「別にいいんだよ。アタシもちょっと愚痴りたい気分だしさ。アタシはインディーズ派。メジャーデビューが嫌だ!って訳じゃないけどね」
クリームソーダの上のクリーム部分を頬張る由紀さん。俺のメロンソーダは減らない。
「アタシらのバンドさ、ちょっと軌道に乗ってきてるんだよ。ちょっと知名度も出てきてさ、いい感じなんだよね。これならメジャーデビューも夢じゃない!って皆が夢見始める位にはね」
ストローでソーダの部分を吸う。飲む。俺も少しメロンソーダを飲んだ。
「けどさ、メジャーデビューしたらさ、商業音楽を求められる訳じゃん?歌詞、今は全部アタシが書いてるんだけどさ、ぶっちゃけ万人受けするような歌詞じゃないからさ。……ちょっと、怖いんだよね。今の自分の歌詞が否定されるんじゃないか、って」
今の自分の歌詞。
俺は歌を歌う事は好きだし、聴くのも好きだ。だけど歌詞を作ったことは無い。
作ったことは無いけれど、なんとなく解る。歌詞っていうのはそれを書いた人の心……というか、凶器なんだと思う。誰かに刺され!この自分の気持ちで誰かを殺してしまえ!みたいな、そうでもしないと人前に自分の心をぶつけられないから、どうせなら殺してしまえ!みたいな。それはきっと、書く人にとっては押し込めてしまうと自分に刺さってしまって、自分を殺してしまうことになる。
メジャーデビューしたら万人受けするように書かないといけない!って訳じゃない。でも、その可能性があるなら、自分の心に凶器が刺さってしまう可能性があるなら、確かにそれは怖いと思う。
「他のメンバーも「別にそういうわけじゃないだろ」って言うんだけどねー。ギターが特別上手いわけじゃないのに、シン……あ、ボーカルでリーダーの人ね、シンがアタシを誘ってくれたのはさ、そういう歌詞が書けたからだったからさ。アタシにとっては誇りなんだよ」
クリームソーダのクリームの部分が無くなった。
「別のパターンの歌詞を書いてみたらそっちの方がいい可能性だってあるだろ、って言われたりもしたけどさ。そうじゃないんだよね。少なくとも「今のアタシ」はそうじゃない。今のアタシは、この歌詞を、この今の歌詞を書けないならこのバンドにはいられない!って喧嘩したの」
「……じゃあ、辞めるんすか」
「……どうだろうね。お酒飲みながらの喧嘩だったからさ。アタシも、皆も冷静じゃなかったし。またちゃんと話して、またちゃんと喧嘩して、そうやって次の道を探して行くと思うよ」
それが辞めるって形になっても、その時はその時のアタシにとってそれが一番よかったんだと思う。
そう言う由紀さんの姿は「派手」の一言には表せない何かがあった。オーラ、とか哀愁、とか、そういうものじゃない。
なんというか、バンドメンバーに対しての信頼と、自分の心に対しての正直さ。
「酒飲んでたから冷静じゃなかった、ってのはなんとなく解ります。……いや、酔うほど飲んだことないからちゃんとは解らないですけど」
「君は中々に正直だな」
「けど、終電無くなるまで喧嘩して、それでももう一回、ちゃんと話して、喧嘩して、って言えるのって、どうしてですか」
正直、俺ならそのまま辞めていると思う。だって、終電が無くなることに気付かないくらいの大喧嘩だ。しかも長丁場だった筈だろ。酒飲んでたとは言え、一度そこで決着しているようにも思える。
それでも、また話し合おうとしている姿がすげえと思ったんだ。……ちょっと、滑稽にも見えるけども。
「……ハルト、君はアレだね。喧嘩してる友達とかいるね?」
「居ないっすけど」
「……ありゃりゃ、違ったかー。まあいいや。青春真っ盛りのハルトに、ちょびっとだけ先に大人になったお姉さんが教えてあげよう」
クリームソーダはソーダの上にアイスクリームが乗っているものだ。そのクリームが無くなればただのソーダ。俺の目の前にあるメロンソーダと何ら変わらない。
「アタシはさ、addictっていうバンドが好きなんだよ。バンドそのものも、メンバーも、今まで積み上げてきた時間もね。そこに関してはさ、他のメンバーも絶対変わらないと思うんだよ。いや、「変わらない」。確信出来るね。そりゃあ、ガチ喧嘩もする。昨日より前も、何回も何回もガチ喧嘩した。何回も何回も「やってらんない!」って叫んだし叫ばれた。けど、それが普通なんだよね。アタシら、違う人間だからさ。だけど、絶対にやっちゃいけないことがある。……なんだと思う?」
「……なんですか?」
「絶対、手ぇ出しちゃいけない。喧嘩がどれだけ激しくなっても、殴っちゃいけない。蹴っちゃいけない。相手を罵っちゃいけない。それは喧嘩じゃなくて、戦争だからね」
喧嘩じゃなくて、戦争。
止まるところが、見えなくなってしまうから。
「ぶつかるのは当たり前。大事なのはぶつかった時に、相手を轢き殺そうとしないこと。なるべく痛くならないように道を譲る、ってことをしないこと。すっごく難しいけど、そうしていけば化学反応が起きて、ぶつかっちゃった場所から次の道が舗装されていくの」
なるべく痛くならないように道を譲る、か。
なんというか、うん。ちょっと思い当たる節があるかもしれない。
「今、アタシがこれで本当にアイツらと会わなくなったら、「なるべく痛くならないように道を譲る」ってことをしちゃうんだよね。そうしたくないから、またアイツらに会うの」
人を見かけで判断してはいけない。頭では解っていても、多分、皆ある程度は見かけと第一印象で判断するんだろうな。
バンドマンなんて、ロクでもない奴ばかりかもしれない。見かけが派手過ぎて、こんな喫茶店には合わないかもしれない。
けど、この人だって、奥村由紀さんだって、ちゃんと「大人」だ。
「……さて、助けてくれて愚痴まで聞いてくれたハルトにはプレゼントだ。はい、どうぞ」
机の上にぽん、と置かれたのは一枚のフライヤーと、小さな箱。煙草だ。
「三本くらいしか入ってないけどね。フライヤーは今度やる予定のライブのフライヤー。まあ、これからの喧嘩次第ではアタシは出ないかもしれないけどさ。もしこの日が暇なら観に来てよ。アタシに言ってくれたらチケット代安くするからさ。……あ、ラインやってる?」
「……未成年に煙草渡していいんですか」
「アタシはハルトが高校生、ってことしか知らない。高三で二浪しているなら二十歳だしね」
前言撤回。人は見かけで判断してはいけないが、やっぱり奥村由紀という大人はロクな大人では無い。
けど、最初に比べたら悪い印象は持てなかった。
俺も、少し頑張らないといけない気がする。
しつこいようですが煙草は絶対に二十歳を過ぎてからです。法律で禁じられています。