幼馴染が彼氏作ったから俺も彼女作りたい 作:仮面
「珍しいね、ハルが私の家に来るの」
「言われてみればそうだなー」
三本しかない煙草を一本だけ吸い、姉ちゃんに「煙草買ってこいって言ったじゃん!」と怒られ、昼飯を食べて詩織に連絡をして。
珍しく、俺は詩織の家に遊びに来ていた。基本的に俺の家で遊んだりすることが多いから本当に珍しく感じる。
急に「お前今日暇?」って連絡して家に押し掛けるのも悪い気もしたが、暇だったらしいし家も一人だったらしいのでまあ、良しとする。今更急に押し掛けるとか気にしないだろ、多分。
思い立ったらその日がきっと吉日なのだ。
「どうしたの?ハルから連絡してくるの珍しくない?」
「……おう」
なんだろう。少し怖い。
俺は何を言う為にここに来たんだっけ?心臓が跳ね飛ばされそうだ。
ちゃんと話せ。普通に話せ。今日ここに来てるのは文化祭の実行委員の為とかじゃない。だからこそちゃんと話せ。これは「俺の為」。
何が言いたかったんだ。
俺は、詩織になんて言いたいんだ。
「詩織」
「何?」
落ち着け。
前みたいに夜だから、周りが暗いから。歩きながらだから、互いに顔を合わせずに話してた、なんてことは出来ない。今は昼で、ここは詩織の部屋で、座布団に座って顔を合わせている。
譲っちゃいけない。
昔は、小さかった頃は無邪気で、きっともっと真っ直ぐ歩いていた。けど、大人になろうとする過程で、道を譲るっていう逃げ道を知ったんだ、俺は。
今日くらいは、子どもに戻ったっていいじゃないか。相手は子どもの頃からずっと一緒だった幼馴染だ。
ちゃんと、俺のことを、思っていることを、言う。
どれだけ、それが難しいことでも。
「俺は、昔っからお前のことが好きだった」
「……え?」
あれ、思ってたことと違うこと言ってる?
いや、これでいい。
今日限りは、今だけは。今、俺の口から出ている言葉が全て正しい。
「前、夜にお前が俺の事が好きだった、って言われた時に気付いたんだよ。俺も中学生位の頃からお前が好きだった。美味しくも不味くもないお前の料理を毎週食わされてる時は「夫婦になったらこうなのかな」とか考えてたし、夫婦ってからかわれるのも満更でも無かった」
そして。今も。
「今も、ちょっと好きだ」
真っ直ぐ、目を見て話す。詩織は、何も言わない。言えないのかもしれないが、何も言わずに俺の目を真っ直ぐ見ている。
「だから、お前が高見と付き合った、って聞いた時はしんどかった。すっげえ病んだ。高見が実は嫌な奴で、お前の事を苦しめてしまえばいいのになー!とまで思うくらいには卑屈になってた」
俺が卑屈なのはいつもの事なのかもしれないが。
気持ちが色々込み上げてきた。爆発しそうだよ。
ああ、そうだ。そうだったんだ。
俺、しんどかったんだ。キツかったんだ。隠してるつもりで、隠せているつもりだったけど。
こんなに込み上げてくるくらい。自分の気持ちがあったんだ。
「あのな……俺は!お前が俺の事が好きだったってことに全く気付かなかった!お前も多分そうなんだろうな、俺だって「あ、俺は詩織のことが好きだったんだ」って気付いたのは本っ当につい最近の話だ!けど!だけど!!」
涙出てきた。
「俺は!お前のことが好きだったので!たとえ嘘だったとしても!!お前のことを振るとか!絶対に出来ねえし!やりたくもねえし!!お前からそんなこと言われたくなかった!!お前にとっちゃ違ったかもしれねえけど!!俺にとっては!俺にとっては!!」
喉が枯れそうだ。こんなに叫んだのはいつぶりだろうか。
「俺にとっては、初恋だったんだよ!!」
「……えっ」
もし、マキューシオが女性で、ロミオの親友で、そして気付かぬうちにロミオに恋をしていて。けれど、ロミオの心は急に現れたジュリエットに向けられていると知っていたなら。
シェイクスピアの四大悲劇にも劣らない悲劇だったかもしれない。
あー、頭ん中ぐっちゃぐちゃだ。なんで泣いてるんだ、俺は。
なんで、詩織も泣いてるんだ。二人して泣いてさ。馬鹿みたいじゃねえかよ。
「……お前がさ、誰と付き合おうとそれはお前の問題だからさ。俺はただの幼馴染だから、それは何も口出し出来ねえ。高見はイケメンだし、良い奴だし、良物件だと思う。けど、お前が俺の初恋を終わらせる権利は無え。俺の初恋は、俺が納得いく形で終わらせる」
「……ごめん」
「別に、謝ってほしいわけじゃねえよ」
ただ、俺が納得したいだけだ。
「詩織。無理を承知で言う」
「俺は今でもお前の事が好きだ。「俺と」付き合って欲しい」
人生初の告白が、寝取り宣言になるとは思わなかったなぁ。
けど、これでいい。
俺の初恋は、俺の勝手で幕を下ろすんだ。
詩織の勝手だって聞いたんだ。俺にだってワガママ言わせてくれ。
「……ごめんなさい」
知ってた。
当たり前だ。
それでも、なんか悔しかった。
「ハルのことは……好き。大好き。玲音君と付き合うまでは、異性として大好きだった。けど、やっぱり私は、ハルとはきょうだいみたいな、」
「「幼馴染の関係が一番楽しい」」
二人の声が重なった。
思っていることは同じなのだ。
「……俺も、そう思う。お前に彼氏がいようが、これからも俺はこうやってお前の家に押しかけるし、理恵さんも姉ちゃんも巻き込んで遊ぶ」
「……うん」
「だからといって、俺の初恋の相手がお前だったことも変わらない」
「……ごめん。私さ、ずっと片想いだと思ってたからさ。ハルにひどいことしたし、ダメなこと沢山考えてた」
「……まあ、病んだのは事実だけどな。お前に振り回されるとか今に始まったことじゃないし」
「ごめん」
「だから、別に謝ってほしいわけじゃないって」
もしかしたら、俺が、詩織が、どっちかが。もう少し前に自分の気持ちに気付けて、告白していたら。詩織と付き合っていたのは高見じゃなくて俺だったのかもしれない。両片想いだったわけだし。
でも、朝の由紀さんの言葉を借りるなら、少なくとも今の俺にとってはそうじゃないんだと思う。その時気付かなかったから、今、俺と詩織はカップルでも夫婦でもなんでもなくて、ただの幼馴染だから、それがいいんじゃないのかな。
「……まあ、お前がしんどくないように楽しくしてるならそれで俺はいいよ」
「……私も、ハルがしんどくないように楽しくしてて欲しい。私、距離置いた方がいい?」
「さっきも言っただろ。幼馴染の関係が一番楽しいからお前が距離置いても俺が押し掛ける。……高見に怒られたら、自重する」
詩織に向かって叫んだの、いつぶりだろうか。
小学生の頃はよく喧嘩してたんだけどな。中学生位から詩織に振り回されることは多かったけど、俺がこいつに叫んだり怒ったりしたことは無くなった気がする。
なんか、子どもになった気分。
歳は取りたくなくても勝手に取っていくもんで、三次元にネバーランドなんてものは無いからなりたくなくても勝手に大人になっていく。背は伸びるし、嫌でもワキ毛だって生えてくる。詩織だって昔と比べりゃ胸も膨らんでる。
だからこそ、こうやって「子どもになった気分」っていうのは嬉しい。それが、すっげえダサい理由だったとしても、子どもの頃を思い出せるようなことって素晴らしい……気がする。
別にそれがあったから今までのしんどかったもの全部パー!とかそういう訳では無い。見てしまった悪夢は見なかったことに出来ないし、心に塗りたくった泥も、それを取り繕った絵の具も洗い流せない。
けど、その悪夢も泥も多分今しか見れないから、大人になってもう一度!ってのは無理なんじゃないかな。高二の、夏の、今だから。もう一回同じ思いしろ、って言われたら絶対嫌だけどね。
……さて。
「今何時?」
まだ洟を啜ってる詩織に聞く。こいつの部屋、時計無いんだよな。どういうことだよ。
「え?……えっと、二時半、くらい」
スマホの画面を付けて時間を確認する詩織。ちらっと見えた待ち受けは高見とのツーショットだった。……くそ、やっぱりちょっと妬いちゃうな。
「まだ夜までめちゃくちゃ時間あるな……お前さ、約束覚えてる?」
「約束って?」
「テストの点数、負けた方は飯奢りっていう約束」
「……あっ」
忘れてました、って顔してやがる。そしてそのまま俺から目を逸らしやがった。今までずっとちゃんと真っ直ぐ見てやがったのに。
「俺、今回過去最高点だったんだよなー。詩織ちゃんはどうだったんですかね」
「え、えーっと……」
「なんか謝ってほしいわけじゃ無かったけど、詩織的には悪いと思ってるらしいし?これはきっと美味いもん奢ってくれるんだろうな〜」
「あんまり高いのはやだなー……?」
やっぱり焼肉か?人の金で食べたら美味しいものランキング一位に焼肉か?いや、ちょっとオシャレなレストランでパスタとピザ、なんかもいいかもしれない。もしくは寿司?回らない方のお寿司屋さん、行っちゃう?
「やっぱり夜は焼肉っしょー!!!」
俺の初恋を知らなかったとは言え、私を振ってくれなんて残酷なこと言ったのは焼肉で許してやる。散ったけど、初恋相手には未だ甘々なのだ。……まあ、幼馴染じゃなかったら焼肉程度じゃ許さないけどね。
「あはは……なんかデジャヴ」
「何が?」
「ハルに焼肉奢らされそうになる夢を前見たの」
「奢らされそう、じゃなくて奢らされるんだよ」
「むー……約束だもんね。奢らせてください」
「よろしい」
人の金で食う焼肉は美味い。
まあ基本的に俺達は高校生だし、バイトもしてないから正確には人の小遣いで食う焼肉は美味い、なんだが。……あれ、そういや詩織は夏休みだけバイトしてるんだっけか?まあいいや。俺は財布持っていかなくていいんだし。
「そうと決まれば今日の夜予約しようぜ」
「ハルがお店決めていいよ。予算は一人三千円くらいまで」
「三千円だったら二時間食べ放題とかのコースか?スマホで調べてみるか」
焼肉とか久々に食うぞ。楽しみになってきやがったぜ。
……あ、この店前に姉ちゃんと行った記憶あるな。店員さんの愛想が良くて可愛かったお店。ここにするか。
「……なあ、詩織」
「何?」
「彼氏出来るってどんな感じ?」
「ぇえー……?どんな感じって……うーん、何だろ、ドキドキはするけど」
「親に隠れて煙草吸う、みたいな?」
「私吸ったことないからそれはわかんないけど」
「じゃあさ」
これ、実はちょっとだけ気になっていた。
「俺に彼女が出来たら、どう思う?」
「えー……ちょっと、妬いちゃうかもね。むー!私の幼馴染に目を付けるとは中々やるなー!って」
「ブフっ、なんだそりゃ」
「うーん、なんだろ?別にさ、ハルは私の彼氏じゃないし、きょうだいみたいだけどきょうだいじゃないじゃん?だけど、なんかハルが彼女作ってる姿は想像したくないかな」
なるほどね。
詩織が彼氏作った時に俺が抱いた感情は、どうやらおかしなものでは無かったらしい。
なんとなく、安心。
「……あ、成程。ハルもそうだったのか」
「さあな」
「妬いてたの?」
「……まあ、そりゃあ。幼馴染に彼氏が出来るのは複雑だった。何より好きだったわけだしな」
「むー……」
一丁前に照れてるんじゃねえよ。高見にどやされるぞ。
まあ、嫌いじゃないやつに「好き」って言われたらどう反応したらいいかわからなくなって照れる気持ちは解る。俺、そんなこと経験したことないけども。
……やっぱり、俺も彼女作りたいな。誰でもいいから付き合いたいとかそういうのは無いけど。なんとなく、こう、恋がしたい。
コバの言ってた「男ならモテたいだろ!?」って真理だと思うけど、なんかそれ以上に。詩織の言ってるどきどきとやらは感じてみたい。
というか詩織には高見とかいう彼氏がいるのに俺には彼女がいないのがちょっとムカつく。やっぱり普通にムカつく。
「予約するけど何時から行く?」
「六時半くらいでいいんじゃない?ハルも一回帰って用意しなきゃでしょ?」
「何言ってんだ、外行きの服着てるし奢りだから財布いらねえし俺はこのまま行けるぞ」
「うわ、そうだった。えー、じゃあ結構時間あるね……久々にゲームでもする?」
「乗った。負けた方は……」
「ダメ!もう今日は賭けなし!私の財布がもたない!」
「あいよ」
二人でリビングに降りる。ちぇー、どうせこいつとやるゲームなんてマリカーだろ?今日は勝てる気がしていたのになぁ。
……うん、やっぱりこいつとはカップルとしていちゃいちゃしてるよりも、姉ちゃんと遊んでる時みたいにこうやって好き勝手出来る関係の方が楽だ。
改めてサラバ。俺の初恋。
……彼女って、どうやったら出来るんだろう。
多分、ここが一つの「区切り」になっていると思います。あ、この話が最終話とかそういう訳じゃないです。
この話書いてる途中で、なんか私泣いてました。晴人に感情移入しすぎていたのかもしれません。お前ホントよく頑張ったな。
あとクソどうでもいいんですけどサブタイトルを考えてる時、どうしても「人の金で焼肉が食いたい。」しか思いつかなくて、流石にこの内容でこれはダメだろ、と思い番外編以外で初めて「○○〜たい。」みたいなサブタイトルから離れました。
それなりにしんどいお話が続いてしまいましたが、またこれからも適度にお付き合いいただけると幸いです。