幻想郷野球録   作:地雷一等兵

9 / 10

長いのを1話にまとめて投稿するのと、細かく分けて投稿するのとで、どちらが良いのかの実験中です。

では本編をどうぞ↓


第3イニング part1

 

 

今日、幻想郷の球場はざわざわとした空気で溢れていた。

 

この日の組み合わせはチーム旧地獄対チーム命蓮寺だからだ。

火が着いた時の爆発力はGBL8チームでも随一のチーム旧地獄とスカーレットデビルズのように全体が高い水準で纏まったチーム命蓮寺との試合に既にスタンドはざわついている。

 

 

 

「ハッハッハッ! この日を待ってたんだよ!」

 

「そうだねぇ、楽しみだよ。」

 

チーム旧地獄のベンチ前では4番の星熊勇儀と5番の伊吹萃香がバットを握りながら笑っていた。

この二人がチーム旧地獄の得点の大半を担っている鬼である。

その二人の視線は共にマウンド上の村紗に釘付けだ。彼女は投球練習でしっかりとマウンドとボールの感触を確かめるようにゆっくりとしたフォームで投げる。

ボールがミットに収まり、スパァンという乾いた心地よい音が響き、村紗は調子が良さそうに笑った。

その周りでグラウンドの状態を確かめるようにボールを回しているナイン達はそんな頼もしいエースに信頼の眼差しを向けている。

 

「ナイスボールじゃ村紗。この調子で行くぞ。」

 

「了解、マミゾウ。」

 

キャッチャーのマミゾウからの返球を受け取り、村紗は肩を回す。

緊張の様子も見られず、好調なようだ。

 

 

 

 

『1回の表、旧地獄グラウンドオーガスの攻撃は、一番、ショート、お燐さん───』

 

そうして試合は、チーム旧地獄の先攻でスタートする。

ウグイス嬢のアナウンスが球場に響き、先頭打者のお燐が左のバッターボックスに立つ。

 

「……。」

 

「おや、そんなに睨まないでおくれよ。怖くてバットが持てなくなっちまうよ。」

 

静かに闘志を燃やしてお燐を睨み付ける村紗に彼女は軽口を叩いてみるものの、村紗は何も反応せず、振りかぶる。

そして大きく足を踏み込んで上体を深く沈み込ませ、地面ギリギリからボールをリリースした。

低い所から浮き上がるようにミットに向かって飛んで行くボールはマミゾウのミットに収まると力強い音を鳴らす。

 

「ストライーッ!」

 

サブマリン投法から放たれたボールはお燐の内角低め(インロー)を抉り、ストライクゾーンに収まる。

そんな強気に攻めてくる村紗のボールにお燐はコクりと頷いてバットを握り締めた。

 

(相変わらずえげつないボールだこと…。見辛くて仕方ないったら…。)

 

コンコンとバットでホームベースの四隅を叩いたお燐はまた構え直す。

特に力んだ様子もなく構えるお燐を見てマミゾウは小さく舌打ちをする。

そして2球目、勢いよく振りかぶり、伸び伸びとしたフォームから放たれるボール。コース的には外角低め(アウトロー)ギリギリと言ったところ。それをお燐は大きく踏み込んで芯で捉える。

木製バットの音と共にボールはキレイに飛ぶ。が、しかし打球はそのままサード寅丸の真正面にライナーで向かっていき、キャッチされてアウトになった。

 

「あれま…。芯で当てすぎたね、こりゃ。」

 

アウトになったお燐はコンコンとヘルメットを軽くバットで叩きながらベンチに戻っていく。

そして次のバッターであるさとりとすれ違った。

 

「おや、旧地獄の大将がもう登場かい?」

 

「えぇ、適材適所ってやつですよ。」

 

キャッチャーマスク越しにマミゾウはさとりに話しかける。彼女の一番の特徴であるサードアイは上から八雲印のガムテープが貼られ閉じられている。

心を読まれる心配は無さそうだと感じたマミゾウはジェスチャーでマウンドの村紗にリラックスするように言う。

マミゾウに促された村紗はコクりと小さく頷くとぐるぐると首を回して、プレートに足を乗せた。

大きく振りかぶり、身体を沈み込ませ地面ギリギリから放たれるボールをさとりはピクリとも動かずに見逃した。

 

「ボールッ!」

 

(…好きなコースをボール1個分外しただけなのに反応しないのかい?)

 

全く動かずに見逃したさとりを横目で見ながらマミゾウは村紗に返球する。

村紗はボールを受け取ると直ぐ様モーションに移った。

見惚れるほど洗練されたアンダースローから繰り出されるキレのあるボール、コースは先ほどと同じく内角ベルトの高さ。先ほどと違うのは、これがストライクのコースだと言うこと。

さとりはボールがストライクだと見るや否や、直ぐ様踏み込んでバットを振る。

 

「ッ!?」

 

がボールは急速にさとりの身体の方向に曲がり、バットの根本に当たる。

当たった場所が悪かったボールは力なくサード方向に転がっていった。

 

「星!」

 

「オーケー!」

 

ボールが転がった瞬間に走り出していた星はぽてぽてと転がるゴロを捕球しすぐにファーストへと送球する。

 

「アウト!」

 

さとりがファーストに到達するよりも前にボールが送球され、塁審がアウトを宣言する。

さとりはその場で引き返し、ベンチに歩いていく。

 

「うにゅ? さとり様、腕、どうしたの?」

 

「…すごく痺れました…。私がピッチャーでなくて良かったです。」

 

ネクストバッターズサークルにいたお空の質問にさとりはプルプル震える腕を見せる。

 

「…高速のシュート、ですね。直球だと思ったのですが…。」

 

そう言ってさとりはすごすごとベンチの中に入っていった。そんな彼女の後ろ姿を見送ったお空はうんっと頷いて打席に入るのだった。

チーム旧地獄の三番を任されるお空は左打ち、左打席に入ってしっかりバットを構える。その右手には特徴的な制御棒がない。

 

(さて、ストレートに滅法強いって話じゃが…。)

 

打席に立つお空を横目に見ながらマミゾウは村紗にサインを出す。村紗もマミゾウのサインに納得して頷くと大きく振りかぶる。

大きく踏み込み、思いっきり腕を振り抜いてボールを投げた。

 

「うぅ~!」

 

外角高めに投げられたボールに対してお空は思いっきり力強くバットを振り抜いた。が、しかしそのスイングは宙を切る。

 

「ストライーッ!」

 

「…うにゅ?」

 

確かに捉えたはずなのに、とお空は首を傾げて後ろを見る。

ボールをキャッチしているマミゾウのミットは外角高めの位置ではなく、位置的にはベルトの高さやや低めほどの位置だった。

 

「ナイスボール!」

 

「おう!」

 

マミゾウの声にガッツポーズしながら村紗はボールを受け取る。

そして直ぐ様モーションを開始した。

 

「うぅー!」

 

地面ギリギリから浮き上がるように向かってくるボール、そして的確に織り混ぜられる変化球に手も足も出ずにお空は凡退するのだった。

 

 

「さて…。ぬえ、頼みますよ。」

 

「任せてよ。」

 

聖の言葉にぬえはウィンクで返事をして打席に立つ。

ワクワクしたような好奇心旺盛な顔つきで打席に立つぬえ、その視線の先にはマウンドに立つお空の姿がある。

ざっざっとマウンドの土を整えるお空。そして良い具合に均し終えると足をプレートに乗せて振りかぶる。お空のフォームは左のオーバースロー、お手本のようにキレイなフォームから豪と音を立てて豪速球を投げる。

 

「ふっ…!」

 

内角高めに投げられたボールをぬえは苦もなく打ち抜いた。

鋭く低く跳ねる打球はそのまま二塁ベースのショート側に飛んで行く。

その打球にショートのお燐が飛び付いてキャッチしようとするがあともう少しと言うところ、グローブの先で弾いてしまう。

そうやって打球の軌道がそれている間にぬえは一塁に到達した。

 

「う、うにゅ…。」

 

ノーアウトのランナーにお空は次のバッターを見る。

そこには飄々とした顔をしたマミゾウがバットを握って立っていた。

 

「さてお仕事じゃなぁ。」

 

自分の深さに打席の土を整えてバットを構えるマミゾウ。

それを見てお空はセットポジションから素早く投げる。その瞬間にぬえは二塁ベースに向かってスタートを切った。

 

「走った!」

 

「うにゅ?!」

 

お空はセカンドのヤマメの声に首をかしげながら投げ終える。

捕手である萃香も取ってすぐ投げるために体勢を変えるが、その必要はなかった。

カッと言う音を響かせてマミゾウの打球が一二塁間を破って飛んで行く。

 

「うそっ!?」

 

外に外したストレートを狙い打たれたお空は驚きの声をあげる。

打球はライトのパルスィがキャッチし、ファーストに投げようとする。だが、パルスィが送球する直前にさとりが大きな声で叫ぶ。

 

「っ! 3つ!!」

 

「えっ!?」

 

パルスィがさとりの声によって三塁方向を確認すると、そこには既にセカンドベースを蹴って三塁に向かうぬえが視界に映った。

急いで彼女は三塁に送球する。

しかしボールが三塁に届くよりも早くぬえがサードベースに滑り込んだ。

 

「セーフ!」

 

「へへ、やったね。」

 

塁審が両手を左右に大きく開くと、ぬえはベースの上に立ってベンチに向けてガッツポーズをした。

1回表から到来した大きなチャンスにチーム命蓮寺側のスタンドもベンチも大いに沸く。

 

『次は三番、ライト、一輪さん───』

 

ウグイス嬢のアナウンスで一輪が打席に立つ。

伸び伸びとした自然体の構えで打席に立つ一輪からは普段の優しい印象からは程遠い威圧感を覚える。

 

 

 

「どうする?」

 

「一点は仕方ない場面だろ、普通にやろうぜ。」

 

ノーアウトランナー一、三塁という状況にチーム旧地獄ナインは外野手も含めてマウンドに集まっていた。

そしてサードを守る勇儀から“一点は棄てる”という言葉が出る。

その言葉にキャッチャーの萃香も、ファーストのさとりも確かにと言うような顔で頷いた。

 

「ここは確実にアウトを取っていきましょう。幸いまだ1回の表ですし。」

 

「そうだねぇ、それくらいならまだまだ取り戻せるし。」

 

チームのまとめ役であるメンバーが勇儀の言葉に賛同すると、他のメンバーもそれに頷く。

そうして方針が纏まったナインはそれぞれのポジションに散っていった。

 

「負けないよ~!」

 

ふんすと鼻息を荒くしながらお空はセットポジションからボールを投げる。内角高めを厳しくついたボール、しかしそれを一輪は苦もなく外野に持っていった。

その打球をセンターのこいしが捕球し、内野に返球している内にサードランナーのぬえはホームベースを踏み、先制点を挙げる。

 

「まだまだ甘いですね。」

 

一塁の一輪はバッティンググローブを外すと、一塁コーチャーに渡して呟いた。

 

そしてノーアウトでランナー一、二塁と依然としてピンチの状況は変わらず、迎えるのはチーム命蓮寺の4番、寅丸星であった。

 

 

 





チーム紹介

チーム旧地獄(通称グラウンドオーガス)
 
1 遊 火焔猫燐
2 一 古明地さとり
3 投 霊烏路空
4 三 星熊勇儀
5 捕 伊吹萃香
6 二 黒谷ヤマメ
7 右 水橋パルスィ
8 左 キスメ
9 中 古明地こいし
 
変化球に強い萃香と直球に強い勇義の鬼二人を中核に据えた打線による火力を武器にするチーム。しかし、その二人が通用しないと途端に得点力が下がってしまう。よくも悪くも打線の中核は鬼の二人である。
 
 
 
チーム命蓮寺(通称セイントロータス)
 
1 中 封獣ぬえ
2 捕 二ッ岩マミゾウ
3 右 雲居一輪
4 三 寅丸星
5 一 聖白蓮
6 投 村紗水蜜
7 遊 多々良小傘
8 二 ナズーリン
9 左 幽谷響子
 
チーム紅魔館と同様に高い水準で纏まったチーム。エースの村紗は威力のあるストレートとキレのある変化球を自在に使い分ける器用な投球を行い、気迫で抑えるチームの大黒柱である。
打線もクリーンナップの3人を中心に、手堅く点を取っていき、エースを支える。


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