ベル・ザ・グレート・バーバリアン   作:ドカちゃん

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OP「Dio - Holy Diver」


ダンジョンの首狩り人

「オラリオ一の傾奇者、ベル殿とお見受けする」

ベルは残った酒を飲み干すと、染みだらけのカウンターへとカップを置いた。

 

 

極楽鳥の羽で編んだ外套を身に付け、銀の鎖帷子を着込んだ男を、ベルが一瞥する。

 

「どこの誰かは知らんが、この俺に何か用か」

 

「……オラリオ一の傾奇者の名は……今日よりこの耳削ぎガンボウのものよッ!」

そう叫ぶや、男がベルの腹目掛けて居合斬りを放った。

 

 

ドスッ

 

 

 

ダイダロスの酒場に鈍い音が響き渡る。

 

 

 

ベルの振り下ろしたる手刀が、耳削ぎガンボウの脳天から下腹部までを、一気に裂き潰したのだ。

 

ドスンという鈍い音を立てて、身を二つに割いた肉塊が、床へと横転し、脳髄とともに内臓をぶちまけた。

 

酒気に混じった血と臓物の臭気が、立ち立ち昇る。

 

「貴様如きの腕では、このキンメリアのベルは仕留められぬ」

 

 

酒場の主がモップを片手に、血に染まった床を掃除し始めた。

 

 

給仕が無言で、二つの肉塊を引きずり、路上へと捨てに行く。

 

 

 

 

 

蒸し暑い。

季節は夏を迎えていた。

 

夜が訪れる時刻は長くなり、朝を迎える時刻が短くなる季節だ。

 

 

もっとも、酒を飲むのに時刻は関係ない。

今日も真昼間から、ベルは酒を掻っ食らっていた。

 

 

「流石はベルの旦那でさあ」

 

ソーマ・ファミリアの一員であるカヌゥが、揉み手をしながらベルに話しかける。

「カヌゥか」

 

「へい、いちでなし、にでなし、さんでなし、しでなし、ごでなし、ロクデナシのカヌゥにございやす」

 

ベルは給仕に、新しく酒を持ってくるように命じた。

「へへ、こいつはありがとうございやす」

 

卑屈そうに身を屈め、酒の注がれたカップを受け取るカヌゥ。

 

「して、カヌゥよ。俺になんぞ用か」

「ヘイ、それでござんすが、新酒のソーマが出来上がったとのことでございやして」

 

「ほう」

 

 

 

「リリの姉御が、旦那はここで飲んでいるから、知らせてくるようにと、言伝を賜ってきやした」

カヌゥの言葉に、ベルの両眼が爛々と不気味にギラついた。

 

 

 

「ほう、新酒のソーマか……聞くだけで勃起する」

 

 

「……へ、へへ、そうでござんしょうとも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バベルの最上階にそびえ立つ豪奢な大邸宅の主、フレイヤは、朱色に染まった黄昏にも似たその魂を、食い入るように見つめていた。

どこまでも純粋で、どこまでも獰猛で、どこまでも貪欲貪婪な荒魂、その魂は鮮血を啜るほどに彩られた。

 

「この者の魂は、人の身でありながら、鬼神へと近づきつつあるわ……」

 

フレイヤは中毒した。ベルのその魂に。

 

 

蛮人ベルの魂は、ケシから採取された阿片の如く、この美の女神を溺れさせたのである。

 

「フレイヤ様、少々顔色が優れぬかと」

 

「ねえ、オッタル、私は、これほどまでに獰猛で灼熱の如き真紅に染まった魂を見たことがないわ。

まるで薄暮のように薄紅色になったかと思えば、突然猛り狂った太陽の如く燃え上がる……

これほどまでに醜悪で、これほどまでに鮮やかで、これほどまでに不吉で、これほどまでに美しく燃え上がる魂を……」

 

「フレイヤ様、もうお休みになられたほうが良いかと……」

 

 

 

「……ええ、そうね。今日はもう疲れたわ……この魂は、見ているだけで私から、精気を奪い取ろうとしてくるみたい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ベルは、カヌゥを従者のごとく引き連れ、古に伝わるエウタイ王の墓所へと訪れていた。

 

 

「カヌゥよ。本当にこの場所に宝が隠されているのか」

 

「へい、あらかた財宝は盗まれておりやすが、最近隠し通路が見つかったらしく、まだ取り残された宝が眠ってるって噂でして」

 

「ならば、何故誰も取りに行かぬのだ」

 

ベルがカヌゥを胡散臭げに見やる。

 

 

「それなんですがね。墓所をうろつくモンスターや、設置されたトラップのせいで、手をこまねいてる次第でやして、へへ」

 

 

「金も欲しいが、魔物退治もまた一興というものよ」

「そういうと思いやしたぜ、ベルの旦那」

 

 

「言っておくがカヌゥよ、俺を騙し、財宝をかすめ取るような真似をすれば、わかっておるな」

「へ、へへ……そりゃ、勿論でございやす。そもそも、あっしにゃ、旦那の持ち物に手を付けるような度胸はございませんぜ」

 

カヌゥのその言葉には、嘘偽りなど微塵もなかった。

 

 

キンメリアのベルから財宝を横取りしたとあっては、その末路は首を跳ねられるか、あるいは串刺しかのどちらかである。

 

ソーマ・ファミリアのこの獣人には、そんな大それた真似はできない。

そんな度胸があれば、とうの昔にもっと出世しているだろう。

 

それにもう一つ、この卑しい獣人は、ベルが恐ろしく気前の良い事を知っていた。

 

 

この蛮人は懸命に働いてやれば、充分すぎるほどの分け前を、惜しげもなくポンと渡してくれるのだ。

 

「では、参るとするか」

 

 

 

 

 

 

 

一筋の明かりさえ見えぬ暗闇だった。

 

夜目の効くその両目で、ベルは死の臥所を見渡した。

かつては豪奢であっただろう、エウタイ王の墓所は、しかし今では見る影もない。

 

あるのは、荒らされた納骨所と、叩き壊されたいくつもの柩だけだ。

 

 

無造作に放り出されて散乱した骨、幾条にも重なった蜘蛛の巣、走り回るネズミの鳴き声。

 

 

ベルが転がった頭蓋骨を爪先で蹴ると、中で眠っていた小さな毒ムカデが、眼窩から這いずり出てきた。

 

ベルはカヌゥから聞き及んでいた隠し通路の扉を叩き壊すと、通路を渡った。

 

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