ベル・ザ・グレート・バーバリアン   作:ドカちゃん

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ダンジョンの首狩り人

廃教会の門前に集まった蛮族達が、熱気に包まれながら踊り狂っている。

 

篝火の前で、ミノタウロスの革を張った太鼓を、甲高く打ち鳴らすピクト人の戦士、北方の蛮地からやってきたという弓使いの娘が、

ヒンナっ、ヒンナっ、と叫びながら、頭骨を叩き割ったオークの脳みそを、手づかみで食していた。

 

 

羆の爪を磨く狩人、オーガとミノタウロスの生首を、鞠の如く交互に蹴り続けながら、炎を吹くアスガルドの大道芸人。

 

 

巨大な酒盃に注がれた酒をみなで回し飲みし、彼らは大いに笑い、歌った。

 

 

そして彼らは、大量の穀物、野菜、酒、生肉、塩を門の前に供すると、勝利と狩りの成果を祈願し、何処となく消えていった。

 

 

 

 

ヘスティアの住まう廃教会前では、週に一度の割合で、蛮人達がこのような宴を開いているのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

半夏生の季節である。

 

初夏の割には、蒸し暑い。

アブラゼミがけたたましく鳴いていた。

 

きつい陽射しを浴びながら、それでもメインストリートでは、今日も人がごった返している。

もうすぐ怪物祭が催される。

 

それ故か、人々はどこか浮かれている様子だった。

 

 

 

だが、そんな祭りを尻目に、今日もベルは、いつものように魔物や賞金首を狩っては、干し首作りに勤しんでいた。

 

近頃では、ベルの干し首は評判を取り、蛮族や一部の好事家が、買い求めていくのである。

 

 

これにはヘスティアも大変に驚いていた。

一体何で、干し首なんて買っていくんだろう、と。

 

だが、無骨ながらも一つずつ、丁寧に仕上げられた干し首には、まるで魂が宿っているようだと、買い求める者達は口々に言うのだ。

 

 

ベルの作る干し首には、どれを取っても、何とも言えぬ味わいと風情があると。

それはもはや、一種の工芸品と呼んでも差し支えないだろう。

 

 

 

このキンメリアの蛮人は、オラリオ随一の干し首職人といっても、過言ではないほどの腕前に達していたのだ。

 

 

 

今日の干し首作りを終えて、ベルはヘスティアを伴うと、酒場へ出かけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

西の地区にある<豊饒の女主人>は、今日も賑やかだ。

ベルは、ヘスティアやリリルカと食事を取るときは、この酒場を利用している。

 

もっとも、普段はダイダロス通りにある行きつけの酒場か、色町にある淫売宿にしけこんでいるのだが。

 

 

「そういえば、ベル君、もうすぐ怪物祭だねっ」

 

 

「そのようだな」

 

酒精をぷんぷんとさせる強烈な酒を飲みながら、ベルがヘスティアに頷いた。

 

 

 

「楽しみだなあ。露店や屋台もいっぱい来るだろうし、色んな芸も見られるよっ」

 

「そうか」

このキンメリア生まれの若者にとって、人々に混ざって催し物を眺めているよりも、ダンジョンで魔物を狩っていたほうが、憂さ晴らしになる。

だが、だからと言って、行かないわけでもない。

 

ヘスティアが祭りに行きたいというのであれば、連れて行く。

それくらいの情けは、この蛮人も持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中で、ジバガは蹲っていた。

クチャ、クチャと、湿り気を帯びた音が響く。

ジバガがしゃがみこんでいる脇には、人間と思しき遺体が見えた。

 

まだ若い、女の遺体だ。

 

ジバガは、まだ生温く、水気をたっぷりと含んだ、若い娘の柔らかな肉を噛み続けた。

娘の血と脂が、唇を赤く濡らし、その双眸は暗黒の中で不気味に光っている。

ジバガは、なぜ自分が娘の肉を食らっているのか、皆目検討がつかずにいた。

 

 

 

ただ、酷く空腹で、目の前に美味そうな肉があったから、気がついた時には、貪り食っていた。

 

 

死んだ娘の顔を見ても、誰だったのか思い出せない。

見知った顔であることは覚えているのだが。

 

 

ジバガは娘の腱を引きちぎると、骨に張り付いた肉片をしゃぶった。

 

それからジバガは、すっかり娘の肉を平らげると、外へと出て行った。

 

 

 

かつての冒険者仲間である、娘の骨だけを残して。

 

 

 

 

 

 

年に一度の催しだけあって、オラリオは雑踏で溢れている。

威勢良く通行人に声を掛ける行商人達、その隣では、胡散臭げなシャルラタンが口上を述べながら、商品を掲げてみせる。

 

ミンストレル芸人は、炭で黒く染めたその顔で、ダルファル人の奴隷の物真似に興じているようだった。

 

ミンストレル芸人が、主に懇願する奴隷の役を演じると、見物客は大声で笑い、小銭を放り投げた。

すると芸人達も、更に哀れっぽい声を出し、客達を沸かせた。

 

ベルは、そんな市井の民達を、つまらなそうに遠巻きに見やった。

 

市場では、野菜や果実、肉に魚、衣類、陶器、手作りの工芸品などが売られ、屋台では、酒と食物を求める客達が集まっている。

 

 

途中で、酒で気が大きくなった酔漢が、ヘスティアとリリルカにちょっかいをかけてきたが、ベルがひと睨みすると、大慌てで逃げていった。

 

 

この身長、六尺半(約二メートル)余りの筋骨隆々とした蛮人が立っていると、それだけで威圧感がある。

 

三人は屋台で腹ごしらえをすると、ガネーシャ・ファミリアの待つ闘技場へと足を伸ばした。

 

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