ベル・ザ・グレート・バーバリアン   作:ドカちゃん

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OP「若山富三郎 極悪坊主」


蛮族の勇者

一通りハイドラの石像の調査を終え、クラークは一息つくことにした。

鉄格子の付いた窓際に寄り、外の様子を伺う。

 

大雨だ。

 

大粒の雨が庭先を濡らし、吹き荒む風が、広葉樹の枝を強く揺らしている。

 

地盤から半分ほど埋まっている、半地下造りの部屋を出ると、クラークは階段を登っていった。

少々喉が乾いたから、茶でも淹れようか、などと思いながら。

 

だが、突然飛んできた怒号のせいで、そんな思いも吹き飛んでしまった。

 

 

一体どうしたんだと、クラークは怒声の飛んできた居間へと急いだ。

 

そして、クラークは見たのだ。

 

 

 

 

この屋敷の主と執事が、大声で怒鳴り合う姿を。

 

 

 

 

「御屋形様がっ、御屋形様が悪いんだっ、御屋形様が浮気なんてするからっ」

 

執事のナカザが、主であるカヤーマに向かって大声で責め立てる。

 

「まだ根に持ってるのかっ、あれは金で買っただけの男娼だって何度言えばわかるんだッ」

 

ナカザに反論するカヤーマ。

だが、その反論は、ナカザの怒りの炎に油を注ぐだけだった。

 

 

「さっきだって御屋形様は、あの獣人のお尻を物欲しそうに見ていたのを、私は知っているんだっ」

 

偶然居合わせた、カヌゥを指さしながら訴えるナカザ──カヌゥは一瞬、遠い目をした。

 

「何度言えばわかるんだっ、俺が本当に愛しているのは、お前だけなのにっ、男娼のケツを買うなんて、

厠で小便をするようなもんだろうっ」

 

 

カヤーマが諌めるようにナカザに抱きつく。

だが、ナカザは「御屋形様は不潔だっ、触らないでっ」と、その腕を振りほどいた。

 

 

五十路を過ぎた、中年男ふたりの痴話喧嘩である。

 

 

「……ごゆるりと」

 

そう言うと、クラークは何事もなかったかのように居間のドアを閉め、その場を後にした。

カヌゥひとりを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

ディ=バダダ率いるディープワンの集団は、屋敷目掛けて殺到し、忍び返しのついた塀をよじ登ると、見回りをしていた警備兵達を、次々に襲っていった。

警備兵達も必死で抵抗を試みたが、しかし、雨水を浴び、本来の能力を発揮した深きものどもの敵ではなく、また、数も相手の方が上回っていたために、

喉笛を食い破られ、手足を斬り飛ばされ、ものの数分ほどで全滅してしまった。

 

 

命を散らしていった彼ら警備兵にとって、二千ヴァリスの日給とは、どれほどの価値あるものだったのだろうか。

果たして、安かったのだろうか、それとも高かったのだろうか。

 

 

「殺せっ、異教徒どもと、ハイドラを汚した犬どもを生きたまま捕らえ、皮剥ぎの刑に処するのだっ」

 

ディ=バダダの号令とともに、ダゴン秘密教団のメンバー達が、叩き壊した玄関や窓から、屋敷へとなだれ込む。

 

 

 

「ハイドラの石像を取り戻せェッ」

 

「偉大なるダゴン万歳ッ!」

 

「ヒャッハーッ、新鮮な異教徒どもだッ!」

 

 

 

 

 

異教徒に石像を奪われ、怒り、新鮮な血肉に正気を失ったダゴンの狂信者は、屋敷内を散策し、ハイドラの像と屋敷の人間を血眼で探し求めた。

 

「いたぞっ」

 

狂信者のひとりが、渡り廊下にいたリリルカを発見した。

血祭りにあげてやると、息巻きながらリリルカへと襲いかかる狂信者──リリルカの放った毒矢が、狂信者の胸を深々と突き刺した。

 

 

 

勢い余ってもんどり打つ魚人を尻目に、リリルカは右腕に装着したボウガンを構えながら、ジリジリと後退していった。

 

その行動を、怯えと見て取った他のディープワンが、仲間の死体を飛び越えて、リリルカに凶爪を振るう。

だが、リリルカの二度目の矢を受けて、この魚人も、さきほどの仲間と同じ運命を辿った。

 

 

ふたりも仲間を殺され、怒り心頭に発したダゴン・ファミリアのメンバー達が、リリルカを生きたまま引き裂くべく、

通路に殺到する。

 

 

「今ですっ、ベル様っ」

 

 

 

その言葉とともに、何処からともなく出現した人影が、深きものたちの頭上へと、鋭い刃を振るって行った。

紫電一閃、目にも止まらぬ早業である。

 

背後から奇襲を受け、挟み撃ち状態になったダゴン信者達は、ただ、ベルの蛮刀の餌食になるしかなかった。

「クソっ、罠だったかッ!」

「おお……ダゴンよ……」

 

 

 

「呪われろっ、薄汚い異教徒めっ」

 

胴体を薙ぎ払われ、横二つになった信者が、何故自分が床に転がったのか、理解できず、下半身を失った状態で、必死に立ち上がろうとしている。

 

 

 

 

上体だけの状態だというのに。

 

 

 

 

そして、ダゴン信者は、キンメリアのベルを、敵に回すことの恐ろしさを、身を持って知ることになっていったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クラーク達も意外な奮闘を見せていた。

取り囲まれないように狭い廊下や階段を利用し、続き扉になった部屋から部屋へと、飛び込んでいく。

その中でも、特に際立つのが、カヤーマの奮いし仕込み杖の切れ味だ。

 

小手斬り、脛斬り、浴びせ斬りと、カヤーマが襲いかかるダゴン信者達を、次から次にナマス切りにしていく。

 

そう、何を隠そう、このカヤーマこそは、かつて”親分”の二つ名を取ったレベル五の剣士だったのだ。

 

 

「今のうちに念仏でも唱えやがれッ、さあ、次の死に花を咲かせてえ奴はどいつだっ!」

 

 

カヤーマが血刀を突き出し、深きものどもに問う。

 

ダゴン信者が三体同時に飛びかかった。

 

 

 

そこへ踏み込んだカヤーマが、魚人三体を瞬時に三枚おろしにしてしまう。

 

 

これぞ必殺の念仏三段斬りッ!

 

 

「つ、つええ……なんて強さなんだ……」

カヌゥがその圧倒的な強さに舌を巻く。

 

「俺に惚れたかい?」

 

 

ごま塩頭の額についた向こう傷を見せながら、カヤーマがニヤリと笑う。

 

「いや、それはねえな……」

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