ベル・ザ・グレート・バーバリアン   作:ドカちゃん

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OP「スプラッターハウス EVIL CROSS」


蛮族の勇者

ディ=バダダは困惑した。

 

まさか異教徒に、これほどの手練が潜んでいたとは、思いもしなかったのだ。

次々に倒れ伏していくダゴンの信者達。

 

阿鼻叫喚の叫びと共に、切り飛ばされた首が宙に舞っていく。

 

 

「クソッ、蛮人ベルが何故ここにいるのだッ、あの血に狂ったヤクザ犬めがッ」

 

 

 

悪態を突きながら、歯ぎしりするディ=バダダ。

濃い鮮血の臭気が、屋敷内の空気に溶け込んでいく。

 

 

 

恐慌の余り、逃げ出したディープワンの一人が、リリルカの矢に背中を射抜かれて、もんどり打った。

そのままつんのめるように倒れる。

 

 

ベルを中心に、斬り飛ばされた生首や手足が散乱する広間。

殺されたばかりの肉塊が、粘りつくような熱気を留める。

 

 

「粗方は始末したか」

 

血と脂に濡れた蛮刀を、獣のなめし革で拭いながら呟くベル。

 

 

 

「どうやら、そのようですね。ベル様」

「では、残りを始末してから、依頼主へと合流するとしようか」

 

 

 

ディ=バダダにゆっくりと近づいていくベル、脂汗を浮かばせながら、ディ=バダダは、懐から掴みだした逆十字を掲げた。

「反逆の十字架よっ、ここに暗黒神ダゴンの威光を指し示すのだっ、ははっ、呪われろッ、異教徒よっ、キサマらも道連れにしてやるッ!!」

 

 

逆十字を放り投げるディ=バダダ──激しい瘴気が、空中に浮かんだ逆十字を中心に渦巻いていく。

 

 

もはやダゴンの高僧の顔貌は、歪に崩れた肉塊へと変貌していた。

 

 

強い瘴気を浴びたせいで、青黒く腐り溶けながらも、不気味に嗤うディ=バダダのその姿よ。

これほどまでに濃厚な瘴気を、常人が浴びれば、とうの昔に発狂死しているだろう。

 

 

ベルは、そんなディ=バダダの中に、気高き狂気を垣間見た。

 

だからといって、このまま放っておいていいというものでもない。

 

 

「リリルカよっ、すぐにこの場から逃げろッ」

 

「ベル様はどうなさるのですか?」

 

「俺はこいつを始末してから合流する」

 

「わかりましたっ」

 

 

 

広間から脱兎のごとく逃げるリリルカ──ベルはその背後を守るべく、逆十字の前に立ち塞がった。

 

「存外仲間思いのようだな、キンメリアの虎よ」

顔半分が髑髏となったディ=バダダが、ベルを見据えて言う。

 

 

「そういう貴様もな。名はなんという」

 

「わしはディ=バダダ、ダゴンの司祭よ」

 

「仲間の敵を討つために自らの命を捧げるか。中々見上げた奴だ」

 

「これほどまでに信者を殺され……わしだけが……おめおめと生きて帰れるものかッ!」

 

 

ディ=バダダが、カッと目を見開いた。

 

 

肉が腐って、剥がれ落ちたその両腕が、白骨の双剣へと変わり、膨張する肉体が、禍々しい筋肉の束となって、ベルの前にその姿を現す。

 

 

逆十字に集まった呪詛を呟く生首達の群れ──剣を握り締めて、変わり果てたダゴン信者の悪霊たちへと、ベルは飛びかかったッ!

 

歯を剥いて唸るディ=バダダの振るい掛かった双剣を弾き返し、血涙を流して飛翔する生首を叩き斬っていく。

 

 

殺されたダゴン信者の屍が、次々と蘇りながら、蛮人へと襲い掛かった。

憎悪に燃える両眼をぎらつかせながら。

 

 

ベルが、アンデッドと化した深きものどもを、地獄へと送り返すべく、剣で薙ぎ払っていく。

再び胴体を輪切りにされ、首筋を切り裂かれ、顔面を潰されるアンデッド達。

 

 

これでは、ただ、ベルの剣の錆にされるがために、蘇ってきたようなものだ。

 

 

ディ=バダダの突き出た眼球が、必死でベルの動きを追った。

「死ねッ、死ねッ、ベルよッ、荒野の悪魔よッ!!」

 

 

黒い粘液状の腐汁を撒き散らし、ディ=バダダが白骨剣を振り回す。

だが、どれもが、空を切るだけに終わった。

 

ベルが左手の人差し指と中指を、ディ=バダダの右の眼窩に突き刺す。

そのまま眼球をえぐり出した。

 

眼球が、引きちぎれた神経ごと外へと飛び出す。

 

残った瞳に憤怒の黒い炎を宿し、ディ=バダダは凄まじい形相で、ベルを睨んだ。

「命と引き換えに力を得たというのに……貴様には及ばぬというのか……」

 

 

わななく唇から腐血を零し、ディ=バダダが嗄れた声を喉奥から漏らす。

 

 

 

「散り際に微笑まぬ者は生まれ変われぬぞ、ディ=バダダよ」

ベルは、剣を振り下ろすと、ディ=バダダを真っ二つに切り裂いた。

 

 

 

あれから何日か経ったあと、他のダゴン秘密教団の者が、ハイドラの石像を買い取ったという。

カヤーマは、三倍の値段を吹っかけたということだから、大儲けだろう。

差額にして六千万ヴァリスが手に入ったのだから。

 

こちらも一割の六百万を寄越されたので、文句はない。

 

ベルは、その中から百万ヴァリスほど抜き取ると、ダイダロスのスラムへと向かった。

 

今夜は、この金が尽きるまで、酒場を貸し切って遊ぶことにしたのだ。


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