ベル・ザ・グレート・バーバリアン   作:ドカちゃん

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蛮族の勇者

楽士達が、思い思いの曲を奏でている。

集まった神々が、雑談を交えながら酒と食事を楽しんでいる姿が、そこかしこで見られた。

 

 

その中にあって、ヘスティアはある種の異彩を放っていた。

 

ベルに純銀の馬車に送り出されたヘスティアは、その車室の中で、ベルの雇った者達に更なるコーディネートを施された。

 

 

両腕の手首には純金の腕輪、両足首には、翡翠の足輪、そして肌は、蜂蜜と香水を混ぜた乳液で磨かれ、今では象牙色の光沢を放っている。

 

 

ワインの入った水差しを掲げた給仕が、ゴブレットに酒を注ぎ込むと、それをヘスティアに恭しく手渡した。

 

 

 

ヘスティアは心を落ち着かせようと、ワインを一息に飲み干し、再度給仕にワインを注がせた。

 

神々は、ヘスティアのその姿に羨望や嫉妬、あるいは侮蔑といった様々な視線を投げた。

 

ある神は、ヘスティアがベルを眷属にした事を聞き及び、大変羨ましがった。

神に対して、これほどまでに尽くしてくれる眷属は、オラリオでも希だからだ。

 

 

又、ある神は、ベルの戦士としての勇猛さと力強さ、そして雄々しさを賞賛し、ベルを眷属に迎えたヘスティアを妬んだ。

 

 

 

だが、荒事とは無関係であり、質素を旨とする地味な神々からは、ベルは眉をひそめられ、ヘスティアのその服装は、

下品で卑猥だと咎められた。

 

 

迷宮都市オラリオの神々や人々にとって、ベルは良くも悪くも目を引く存在だった。

 

 

大食らいの大酒飲みで好色漢、文明社会のルールなど、どうでも良いとばかりに好き勝手暴れる無法者、

キンメリアの辺境からやってきた野蛮人、鮮血と闘争を撒き散らす厄介者、殺戮と破壊の象徴、

だが、バーバリアン特有の義理堅さを持ち、単純明快なる信念の元に動き、時に弱者にその力を貸す。

 

そして何よりも、ベルは決して敵に背を向けることはない。

 

 

オラリオの神々からすれば、これほどまでに強烈な存在感を放つ人間は見たことがなかった。

 

少なくともオラリオという、文明社会に浴する神々からすれば。

 

 

当たり前だ。

 

文明社会では、蛮人は生まれないのだ。

 

 

ベルはキンメリアの荒野が産みだした戦士であり、同時に荒ぶる御霊の化身でもある。

 

 

 

あるいは太古の神話から蘇った強大なる戦士か。

 

 

 

神々がこの地上に降り立つ遥か文明の夜明け前、神の恩恵を受けることなく、異形の者どもを相手取り、

壮絶な戦いを繰り広げてきた種族が存在した。

 

 

この種族は、誇り高く、そして恐ろしく好戦的であり、酷く野蛮でもあり、魔物が闊歩し、

災害が渦巻く過酷な大地を平気な顔をして、無遠慮に闊歩していた。

 

そう、彼らは生まれながらの戦士だったのだ。

 

腹が減ったら、そこらを歩いているモンスターを、まるで新鮮な果実をもぎ取るように仕留めて、食った。

 

 

彼らは天性の捕食者でもあったからだ。

 

 

そして彼らは、時に巨人や邪神と相対し、これを討ち取ることもあった。

 

古の神々たちが、殺し合いを演じていた時代の話である。

 

 

この種族は、現存する人類とは、また別の進化を遂げた種族と言えるだろう。

 

だが、余りにも獰猛で強すぎたせいで、この種族は自らの手で滅びてしまった。

 

 

 

誰がこの中で一番強いのかと、同族同士で戦い始めたせいである。

 

 

 

 

そう、彼らの誇りの高さと知性の高さは、決して結びつくことはなかったのだった。

 

 

 

 

いや、ほんの僅かだが生き残りも存在した。

 

このトーナメントに勝ち残った者達だ。

 

 

 

そして、この種族の生き残りは、辺境へと散り散りになってしまい、それから再び姿を見せることはなかった。

 

 

それは気の遠くなるような大昔の話であり、この当時を知る神は、ほんのひと握りしかいない。

 

不思議なのは、キンメリアのベルには、この種族と瓜二つといっても良いくらい、多くの共通点が存在していた。

 

 

また、ベルはこの文明都市の中にあって、野蛮なる古代神話の海を泳いでいるようにも見受けられるのだ。

 

 

古き神からすれば、ある種の懐かしさを抱かずにはいられない。

 

 

それは詰まるところ、こういうことだ。

 

 

 

この文明社会に置いても、なお、蛮人は蛮人なのだと。

 

 

 

 

 

五杯目のワインを飲み干すと、流石に酔いもきつくなってくる。

酒精に頬を紅潮させたヘスティアは、椅子に座って、しゃくりあげた。

 

 

「おい、どチビ、なんや、その格好は」

 

普段着のロキが、ヘスティアの横から顔を出した。

 

「誰がどチビだっていうんだい、このまな板」

ヘスティアが、酔眼でロキを睨みつける。

 

「なんやとっ、このどチビっ、そんな格好、今時、娼婦でもせんでっ」

 

 

「ふんっ、これはベル君が僕のために用意してくれた服さっ、もっとも、君が着てもその胸じゃ、似合わないだろうけどねっ!」

 

 

ヘスティアが、鼻先でせせら笑った。

その態度にロキが顔を真っ赤にする。

 

「ワインはいかがですか?」

 

ヘスティアの隣にいた給仕が、二人に声をかけた。

 

 

 

二人は黙って頷くと、ゴブレットにワインを注がせた。

 

 

「流石はお前んとこの蛮人や。悪趣味なやっちゃで。それとも下品なんは、どチビ譲りか?」

 

 

「そんなこと言いながら、内心じゃ、羨ましいんじゃないのかい、君は。なんてったって、ベル君はとっても強いし、僕を大事にしてくれるからね」

 

「はんっ、誰があんな化物の親戚か、怪物の従兄弟みたいなもん欲しがるねんっ」

 

「なんだとっ!」

 

 

それから取っ組み合いの激しい喧嘩が始まった。

ロキの右フックがヘスティアの顎を捕らえると、その応酬にヘスティアはロキの向こう脛を思い切り蹴飛ばしたのだった。

 

こうして神々の宴は深けていったのである。

 

 

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