一色、スクールアイドル始めるってよ。   作:ぶーちゃん☆

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後輩に弄ばれて。

 

 

 

 アイドル王にわたしはなる!

 

 最初こそ「なに言ってんだこいつ」と一笑に付しそうになってしまったくらい、一見ふざけているようにしか見えないこのセリフも、一色いろはという人物の人間性を加味すれば、実はそこまで違和感を覚えない。

 

 

 まぁ一色だしな。

 

 一色ならそれくらい言ってもおかしくないか。

 

 だって一色だもの。

 

 

 例えどれだけおかしな事を唐突に口走ろうが、上記のような説明だけで大概納得出来るからあら不思議。そんな、一見納得不能な出来事をも一瞬で納得させてしまえる圧倒的説得力こそが、一色いろはが一色いろはたる所以だろう。

 これ、褒めてるように見えて完全に悪口ですね。

 

 しかしである。そんな一色を持ってしても、さすがに周りが納得しきれない事が稀にある。そんなレアな稀が、今まさに目の前で起きてしまった。

 

 わたしアイドルになる、ならまぁわかる。が、わたし達アイドルになる、は一切わからない。

 だってそういうのってさ、事前に当人達であれこれ話しとくもんじゃないの? お互いの夢を熱く語り合ったりして。

 

 しかしそんな事前の計画など一切ないまま彼女は言うのだ。わたし達、アイドルやりますから、と。

 計画など無かったであろうソースは、なかなかお目にかかれない雪ノ下と由比ヶ浜のこの間抜け面だろう。おっと、由比ヶ浜の間抜け面は日常茶飯事なので、正確にはなかなかお目にかかれない雪ノ下の間抜け面と、普段通りの由比ヶ浜の間抜け面、である。

 

 二人の疑問符が美しいハーモニーを奏でてからすでに幾数秒。あまりの珍事に惚けてしまい暫く動けずにいた雪ノ下だが、彼女はようやく口を開いた。

 

「……一色さん。今ちょっと幻聴が聞こえた気がしたのだけれど」

 

 明らかに幻聴ではない。そんなこと、本人が誰よりも理解しているだろう。

 だが雪ノ下は敢えて『幻聴』と言うのだ。それは、凍えた声と視線でそう伝えることにより、発言者を怯えさせて今の発言を無かった事に持っていきたいからなのか、はたまた単純に幻聴だった事にしておきたいだけの儚い希望によるものか。

 どちらにせよ、雪ノ下が今の発言を快く受け入れる気がない事だけは窺えた。

 

 しかし一色は、そんな様々な思いが籠もったセリフを容赦なく打ち砕く。

 

「どうしたんですかー? 雪乃先輩。わたしと雪乃先輩と結衣先輩の三人でグループを組むって以外で、なにかおかしな事でも聞こえました?」

 

 と、わざわざ三人グループのメンバー名を強調して。

 

 一色さん、あなた最近ちょっと雪ノ下の威圧に慣れすぎじゃないかしら。

 以前なら今の雪ノ下からの冷圧に「ひ、ひぃっ……!」と一震えくらいしたものなのに、今ではもうこの涼しい顔である。

 まぁね。あの子こう見えて甘えてくる女の子にめっぽう弱いからね。今や雪ノ下も一色の立派なジャグリング要員である。

 

「つーか、なんでメンバーをこっちで見繕おうとするんだ? 友達とかとやりゃいいんじゃねぇの?」

 

 仕方ないので、ここは部活メイトとして多少は助け船を出してやる事にしようか。部長の為に頑張る平社員。これは有給休暇も期待しちゃっていいんじゃないですかねぇ部長。でもお願いだから、絶対に全問正解できない有給チャンスクイズをメールで送り付けてくるのはやめてね!

 やはりブラック企業は恐ろしい……。働きたくないでござる。

 

「まぁ友達と一緒にやるのも考えたんですけど、やっぱまず学校全体で盛り上がる為にはネームバリューって必要じゃないですかー? あとヴィジュアルと人気? そこいくと雪乃先輩と結衣先輩って、この企画にピッタリなんですよね」

 

 企画って言っちゃったよ。なんかもう、アイドルへの純粋な気持ちから掛け離れていく一方だよ!

 そりゃ気持ちはわかります。超有名人雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣を従えたグループでセンターとリーダー勤めたら、一色の評価爆上がりだもんね。

 すまん雪ノ下。俺では役に立てなかったようだ。有給は諦めます。

 

「ちょちょちょちょっと待って!? さっきから言おう言おうと思ってたけど、なんかあたしもナチュラルにスクールアイドルのメンバーに入れられちゃってるんだけど!?」

 

 すると、ここでようやく参戦の由比ヶ浜。

 あまりに飄々とした一色の受け答えにこめかみを押さえている雪ノ下を押し退けて、たまらず話に割り込んできた。

 

「はい♪ とーぜん結衣先輩も一緒ですよっ」

 

「違うよいろはちゃん!? あたしも一緒にやっていいの? なんて一言も聞いてないからね!?」

 

 これには流石のガハマさんもびっくりである。

 そりゃね、びっくりするよね。なんで自分が勝手に仲間に入れられてるのかを訊ねたら、返ってきた答えが「あなたも仲間の一人だから安心してね」と優しく諭されちゃうんだもん。

 

 すると由比ヶ浜、真っ赤に染め上げた顔と手を激しくぶんぶん振って、この傍若無人な生徒会長への抵抗を試みる。

 そんなに全身使って激しくぶんぶんしてると、違う部分が違う勢いでぶるんぶるんしちゃうから気を付けようね。この地球上で暮らしている以上、人類は万乳引力の法則には逆らえないのだから。ナイスおっぱい。

 

「無理無理無理! あたしにスクールアイドルとか無理だってば! 歌って踊るとか絶対無理だし!」

 

 いや、案外アイドルとか似合いそうじゃない? グループに一人は居るじゃないですか、童顔巨乳担当が。

 由比ヶ浜がアイドルのコスチューム着てダンスしちゃうとか実にけしからんうへへ。

 

「大丈夫ですよ結衣先輩! だってさっき三浦先輩達と歌って踊ってるって言ったばっかじゃないですかー」

 

「う」

 

 おっと、まさかアレがフラグとなっていたとは。まさか本当にYouがアイドルになっちゃうなんてね!

 

「そ、それは友達同士だからやれてるだけだからね!? 知り合いでもない大勢の人達の前で歌うとか絶対無理だから! それにいくらスクールアイドルって言ったって、あたしアイドル出来るほど歌上手くも可愛くもないし!」

 

 あっさりと言質をとられてしまった由比ヶ浜。しかしそれでもまだ抵抗し続ける。

 まぁね。こんな突然「Youアイドルになっちゃいなよ!」と言われたって抵抗するに決まっている。

 でもなんだろうか。この凄まじいまでの無駄な抵抗感は。なんていうか、すぐ落ちちゃいそうなんだよね、この子。

 

「え? そんな事ないですって。去年の文化祭のステージ、結衣先輩ガチで歌上手かったしガチで可愛かったですもん。ウチのクラスの男子達の間でもちょー話題になってましたよ? 誰だよあの超可愛い子! って。結衣先輩可愛いしスタイルも超いいんで、スクールアイドルとかやったらめちゃ人気出ちゃうんじゃないですかー?」

 

「…………え、う、上手かった? そ、そぉ? や、やー、そんなことないけどさー……! ……えへへ、か、可愛いって……」

 

 あ、これはもう落ちる寸前の予感。

 

「マジですマジです。ふふ、もしかしたら普段可愛いとか言ってくれない人も、スクールアイドルやったら可愛いって思っちゃうかもですよー?」

 

「マジで!?」

 

 はい落ちましたー。

 由比ヶ浜がいろはすの口車に耐えられる未来が見えないとは思っていたが、予想を遥かに超えるチョロさに微笑ましくなるまである。

 由比ヶ浜って見た目は可愛……げふんげふん。美少女の部類に入れてしまってもなんら問題のない容姿なのに、なぜだか自分にあまり自信が無いんだよね。その自信の無さゆえ、ストレートな褒め言葉に滅茶苦茶弱い。なんというチョロさか。これなら俺でもストレートな褒め言葉を駆使して口説けば落ちちゃうんじゃないかって思うほどチョロい。

 

 にしても由比ヶ浜さん、なんでさっきから紅潮した顔でチラチラとこっちに視線向けてくるんですかね。にまにまと視線を向けてくる一色の瞳との相乗効果で、俺のライフと居場所ががりがり削れていくんでそろそろ止めてもらえないでしょうか……

 あれだよ? 俺だって一応、可愛いんじゃないのかな? くらいは思ってるよ? 言わないだけで。

 

「ふふふ、結衣先輩? どうやら結衣先輩もスクールアイドルに興味津々になっちゃいましたね? よし、これでメンバーゲットです」

 

「え、待って!? べ、別にやるなんて言ってないよ!? ……そ、そりゃちょっとだけ想像しちゃったけどぉ……」

 

 真っ赤な顔でボソボソとそう言いながら、容易くモンスターボールに吸い込まれてゆく由比ヶ浜。キャタピーくらいゲット簡単だったね! バタフリーに進化して、大きな羽でアイドル界を優雅に羽ばたく未来が目に浮かぶぜ!

 

「……一色さん。どうやら由比ヶ浜さんはあっさり懐柔したようだけれど、残念ながら私はやらないわよ」

 

「あたしやるなんて言ってないよゆきのん!? あと怪獣ってなんだし!」

 

「私は烏合の衆の偶像になる事に、興味など毛頭もないわ」

 

「無視された!?」

 

 どうやらまだメンバー入りした事を自覚していないらしい由比ヶ浜はスルー。当然怪獣もスルー。

 こうして由比ヶ浜奪還を早くも諦めた雪ノ下だが、自分だけは折れまいと強靭な芯を持つ。

 当然だ。あの雪ノ下がアイドル活動などするわけがない。確かに見てくれだけで言えば間違いなくアイドル級だ。しかし中身まで加味すると、アイドルというよりはまさに偶像。無表情無感情な像みたいなもんだ。あと偶像だけに、なんか古代の呪いに呪われそうって意味で。……ヒッ、なんだか寒気が……!

 

 とにかくいくらジャグラープリンセスいろはたんとは言え、この雪ノ下という重い重い偶像を、光り輝くアイドルの道へと動かす事など出来るわけがない。………そう思っていました。あざとく両手をぽんっと合わせ、勝ち誇った悪魔のようなニヤリ面を晒す後輩の顔を見る、ほんの二秒くらい前までは。

 

「ああ、なるほどです。つまり雪乃先輩は自信が無いわけですね?」

 

「……はい?」

 

 あ、これアカンやつや。

 

「まぁ確かにそうですよねー。ウチの学校“内”では学校一の美少女とか学校一の有名人とか持て囃されてますけどー、それってあくまでもウチの学校内という狭い世界でだけのお話ですもんねー。いざ全国から選りすぐられた美少女達の集まりともなるスクールアイドルの……ラブライブの世界に入ってしまったら、自分なんか埋もれちゃうんじゃないか、って不安になっちゃう気持ちもわかりますもん。仕方ないですよね」

 

「……」

 

 

 ──一色いろは。俺はこいつを、この半年の成長を、些か甘くみていたのかもしれない。こいつはもうジャグラープリンセスいろはたんなどではない。今はもう、ジャグラークイーンいろは様なのだ。ヤツは雪ノ下の扱い方など、疾うに理解できている……!

 

「……フッ、面白い。この私が素人のアイドルごっこ遊びに負けるとでも? 一色さん、あなたは本気でそう思っているのかしら。……ふふ、ふふふ、いいでしょう。その安い挑発に乗ってあげるわ」

 

 はい落ちましたー。

 

 雪ノ下よ。その安い挑発に乗った時点でお前の負けだとなぜ気付かない。煽り耐性ゼロのねらーかお前は。

 

「いえいえ! 雪乃先輩ならスクールアイドルのトップになるのも夢じゃないって信じてますよー。ではでは、これで総武高校スクールアイドルグループ結成ですね♪」

 

「待っていろはちゃん! あたしまだやるなんて一言も──」

 

「さてと、これから忙しくなるぞー」

 

「ゆ、ゆきのーん……!」

 

 

 ……こうして、ついに我が総武高校にスクールアイドルが誕生する事と相成ったわけである。

 まぁ一色の事だ。ただの思いつきだろうし、飽きたりスクールアイドルとしての大成が無理そうならすぐ辞めんだろ。

 ……しかしなんだかんだ言って、このメンバーならば……、こいつらならば……、意外と簡単にトップまで登り詰められるのではないだろうか? そんな楽観的な考えも、俺の頭のどこかにあるのだった。

 

 

 

 

 と、それはそれとして、これだけはきちんと言っておかねばなるまいね。スクールアイドルがどのような物かもよく知らないまま、負けず嫌い根性だけで大地にすっくと立ち上がってしまった我らが部長様に。

 

「なぁ雪ノ下、本当にいいのか? スクールアイドルなんてやっちゃって」

 

「なにか問題でも……?」

 

「……こえーよ。ちょっとでいいから視線に温度を加えてくださいませんかね……」

 

 ただでさえ興奮状態の雪ノ下さんに水を差すとこうなります(白目)

 

「……いや、お前スクールアイドルってどんなのか、よく知らねぇんだろ?」

 

「ええ。まぁ、偶像を崇拝しにきた有象無象の前で歌と踊りを披露してあげればいいくらいの話でしょう……?」

 

 言い方!

 

「で、お前はそのスクールアイドルがどんな歌と踊りをどんな格好で披露するのかとか知ってんの?」

 

「はい?」

 

「お前、アレだぞ? なんつーの? きゃるん? とした原色でヒラヒラなミニスカートとか着て、きゃぴきゃぴるんるん? とした歌を歌って踊るんだぞ? 大勢の観衆の前で。さしあたり、まずはウチの生徒達の前で」

 

「〜〜〜!?」

 

 ああ、やっぱりな。こいつ全然理解してなかったわ。自分が置かれた……、いやさ飛び込んでしまった状況を。

 言っとくが、今更そんな真っ赤な困惑顔したって遅いと思うぞ? だって……

 

「……い、一色さん。や、やはり私には向か──」

 

「あれー? 雪乃先輩って、一度決意した事を自分の都合でそんな簡単に取り下げちゃうような人でしたっけ?」

 

「……クッ!」

 

 だって、今のゆきのんたら、一色さんの掌の上で見事に歌って踊ってるんですもの!

 

 

 

 

 と、これにて一色いろはの狩り……もとい勧誘劇は幕を閉じたかに思われた。

 しかしウチの生徒会長様は、小悪魔であっても鬼ではなかったようで。

 

「ま、わたしも鬼じゃないですしね。嫌がる雪乃先輩て結衣先輩を、わたしの我が儘で無理やり勧誘しようとまでは思ってないです」

 

 こう言って、文字通り彼女は自身を鬼ではないと言い張るのだ。

 俺の目には十分鬼に見えなくもないのだが、どうやら本気で無理にグループを組もうとしているわけではない模様。

 

「あー、一色、どういう事だ?」

 

 なので、未だ愕然としたままの雪ノ下と由比ヶ浜に成り代わり、俺が真意を訊ねるしかないだろう。

 

「えっとですね。実はわたし、スクールアイドルをやってみようと思ってから、とあるグループに取材という名目でオファーをしてみたんですよ。なんてゆーんですかねぇ、新しくスクールアイドルをやるにあたっての、役立つアドバイス的なものとか貰えないかなー? って」

 

「ほーん。で?」

 

「で、ですね。先方からなんとオッケーが出たんで、今度の土曜日にそちらの学校に見学に行く事になってるんです」

 

 やだ! いろはすったらそういう仕事ホントに早いわね! その有能さを是非とも他で活かしていただきたい所存です。

 

「ですので、雪乃先輩と結衣先輩、その取材に一緒に行ってみませんか? なんか取材の最後に体育館でライブとかも観せてくれるらしいんで、彼女達の取材とライブが済んでから、実際にやるかどうか決めましょうよ。やっぱわたし的にも、どうせやるなら二人にもやりたいと思ってもらいたいですし、逆にやりたくない人と組んで予備予選も通過出来ない事態になっちゃったら、出ても恥かくだけですし」

 

 ……おぉ、一色のヤツ、本当にただの鬼ではなかったらしい。とりあえず口車に乗せて選択肢を与えないようにしながらも、一緒に実際のスクールアイドル見てからYesかNoの選択肢を与える、か。これはなかなか優秀な指揮官様である。

 まぁ最後に二択を与えてしまっては嫌がる雪ノ下と由比ヶ浜が首を縦に振るとは思えないが、いざとなったら「あれ? やっぱ実物見たら自信なくなっちゃいましたー?」とか挑発すれば、極度の負けず嫌いを言い包めるのなんて今の一色にとっちゃ朝飯前だし、雪ノ下がやるんなら結局由比ヶ浜もやる事になるだろうし。

 鬼ではないと見せ掛けて結局のところ詰んでるとか、やるな一色。

 

 ……ま、本当は解っている。雪ノ下と由比ヶ浜が大好きなこいつの事だ。ほんの思いつきで大好きな二人の先輩とスクールアイドルをやってみたいとか思いついちゃったんだろうけれど、その大好きな二人が本気で嫌がるような真似をしてまで無理強いはしないだろう。

 こうして色々と策を労して準備して、雪ノ下達がその気になってくれるのを期待している、というのが本音なのだろう、一色いろはという後輩は。

 

「……そうね。そういう事であれば私も参加させていただくわ。一度Yesと言ってしまった手前、無下に断るというのも情けのない話だしね」

 

「うん、わかった。いろはちゃんがそういう気持ちなら、あたしもちゃんとスクールアイドルを見てから答えを出すよ! ……やははー、ぶっちゃけちょっとだけ興味もっちゃったしね、ゆきのんといろはちゃんと一緒にアイドル活動するの!」

 

 スクールアイドルとアイカツは別の方向性ではあるのだが、どうやら一色の目論見通り、こいつらもまんざらってわけでもなさそうだ。

 自分達と一緒にアイドルをやれる事をこんなに期待している可愛い後輩の姿を目の前で見せられてしまっては、お人好しの……というよりは一色好しのこいつらじゃ、ついつい乗せられてしまうのも無理からぬ事。

 

「えへへ、マジですかやった♪」

 

 二人から貰えたようやくの肯定的な反応に、一色は得意のあざとさを一切感じさせない笑顔を見せた。そんな、とても柔らかな三人の笑顔を見て俺は思う。

 やれやれ、じゃあ俺もこいつらの活躍ってやつを、心の中だけででも応援してやりますか、と。

 

 

 

 ……あ、そういえば応援する前に、まずはまだ聞いていない情報があったわ。

 

「あ、そういや一色」

 

「なんですか?」

 

「結局、その取材のオファーを取り付けたグループってのは、いったい誰なんだ?」

 

 そう。俺達はまだそれを聞いていなかった。三人の微笑ましいやりとりで勝手に話が先に進んでしまっていたが、せっかく僅かながらにやる気を見せはじめた雪ノ下と由比ヶ浜のためにも、部活仲間としてこれくらいは聞いてやらねばならないだろう。

 雪ノ下と由比ヶ浜を応援する以上、まずは二人が実際に師事する……と言うと大袈裟ではあるものの、最後の一押しをしてくれるのであろう相手がどこの何者かさえも知らなければ、こっちも応援のしようが無いもんね。

 

「あれ? まだ言ってませんでしたっけ」

 

「おう」

 

「えっとですね」

 

 ──そして遂に明かされるその正体。

 一色のお眼鏡に適ってしまったグループとは、一体どこの誰なのか……?

 

「……Aqoursっていう、最近人気急上昇中らしいスクールアイドル界のニューフェイスらしいです」

 

「……ほーん」

 

 

× × ×

 

 

 ……うん。知らん。Aqours、か。聞いたことないグループだ。もっとも俺が知っているグループ名なんてμ’sくらいなもんだけど。

 だからそもそも俺からの質問は、実はまったく意味のないものだ。なにせどんなに有名なグループ名を出されたところでどうせ知らないんだし、俺が知らないのならばμ’sも読めない由比ヶ浜や、ましてスクールアイドル自体を知らない雪ノ下も知っているわけがない。

 つまり俺が聞きたかったのは、本当はグループ名ではなくて『どこ』の『どういった連中』なのか、なのである。

 

 とはいえ、今の一色の短いセリフの中に気になる点が存在した。

 そこを紐解いていけば、おのずと答え──つまりどこのどういった連中なのかが判明することだろう。

 

「なんだ。これからスクールアイドル界のいろはを教わろうって言うのに、そいつらも新人なのか」

 

「っ! ……な、なんですか先輩、いきなりファーストネームで呼び捨てとかいきなりそんな彼氏面されても困りますちょっぴりときめき掛けましたがよくよく考えると先輩が俺様系とかちょっとキモくて無理ですごめんなさい」

 

 いろは違いだから。まさか今の流れで振られるとは思わなかったわ。こいつとはおちおち日光にも行けねぇな。行かないけど。

 ちょっといろはす? そこまで顔真っ赤にして怒らなくてもよくない?

 

「……いやなんでだよ。いろはだぞいろは。物事の初歩とか基本とかのいろは」

 

「ちょ、ちょっと、解ってますからどさくさ紛れにいろはを連呼しないでくださいよ! ガ、ガチで暑くなっちゃうんで」

 

 こっちにも心の準備とかあるんですからッ、とかゴニョゴニョ言いつつ、桃色に染まった頬っぺたパタパタして膨れている一色さんにこう言ってやりたい。いやいや解ってるならまず振り芸の流れに持っていくなよ。そう改めて言われると、こっちまで変に意識しちゃうだろが、と。

 だいたいお前、葉山とかに普通に呼び捨てされてんだから、今更そんなに照れる必要なくない? 俺に呼び捨てにされるのが心底気持ち悪くて怒りで体温が上昇してるだけですよねわかります。

 あ、あれ? ちょっと? なんでゆきのんとガハマさんはそんなにシラ〜っとしてるん?

 

「……いつまでもアホなこと言ってないで、とっとと話を進めろ」

 

 あまりの居心地の悪さに、げほごほけぷこんおこぽーんと咳払いして誤魔化して、いろは発言を無かった事にして話を先に進めようとする俺マジ大人。

 大人っていうのは、嫌な事から上手く逃げ出す汚い生き物なんですよ!

 

「ん! んん! ……確かにAqoursの皆さんも結成数ヶ月の新人さんなんですけどね、まだスクールアイドルを始めたばかりなのに、人気急上昇中としてスクールアイドル界でちょっとした話題になっちゃうような新人だからこそ、今のわたしには重要なんです」

 

 そしてそんな大人な俺に触発されて、けほこほとあざとく咳払いして話を先に進めてくれるいろはすも立派な大人だね。よし、大人として、まだ耳がほんのりと赤いのは触れないでおいてあげよう。

 

「新人だからこそ重要?」

 

 はて、どういう事だろうか。普通に考えたら、教えを乞うのであればある程度経験と実績を積んだ実力者の方がいいと思うのだが。

 

「ですです。なにせAqoursはまだ結成数ヶ月にして、スクールアイドルランク100位以内に入るほどの勢いがあるグループらしいんです。しかもつい先日その勢いを買われて、新人ながらに強豪ひしめく東京のイベントに呼ばれた程の話題性の持ち主みたいなんですよー。なので上手くいけば、どう立ち回ればそんなに早く出世出来るのかのノウハウを聞いていい感じにパク……いい感じに吸収していってー、上手い具合に踏み台……参考にさせてもらえるじゃないですかー?」

 

「……お前ホント最悪な」

 

「なんですとー!? ……あ、あとそれにですね、どうやらAqoursについ先日加入したメンバーが、なんと生徒会長と理事長らしいんです」

 

 ……は? 生徒会長はわかるが、理事長ってなんだよ。漫画やラノベじゃあるまいし、女子高生が理事長やってるのん? どんな学校だよ。

 

「なので、そちらの学校自体はちょぉ〜っと遠いんですけど、相手の立場を上手く使って生徒会同士の交流とかの名目にしちゃえば、旅行費……移動費とかも生徒会予算から計上できちゃって超お得っ! みたいな? ホラ、綺麗な海とか目の前にあるみたいですし☆」

 

 みたいな? じゃねぇよ……。もう旅行費とか言っちゃってるし。君、完全にタダで海で遊ぶ気満々だよね。

 

「本当に一色さんて、こういうところは妙に優秀というか、要領がいいのよね……」

 

「あはは……」

 

 そんな一色の様子に頭痛を堪える雪ノ下と苦笑いの由比ヶ浜ではあるが、それもう要領じゃなくてもはや横領じゃないかしらん。

 

「あ、言っときますけど基本生徒会主導のスクールアイドルでやってくつもりなんで、決して横領とかではないですからね?」

 

「……さいですか」

 

 やだ、この子ったらホントにどこまでもしっかりしてる!

 

 

 でもまぁ、要領だろうが横領だろうが別にいいか。せっかく可愛い後輩がこんなにも楽しそうにしてるんだし、雪ノ下達もせっかくやる気になってる事だし。

 心の中でだけでも応援しようと決めた俺に、この件についてとやかく言うこともないだろう。……フッ、なにせ今回、俺はとても気楽なご身分ですしね!

 

「……ホントすげぇわお前。……はぁ〜、ま、いいんじゃねぇの? “三人で”ゆっくり楽しんでくりゃ」

 

 

 ──ふっ、ふはは、ふはははは! そう、そうなのだ! 心の中だけで応援。つまり俺の秘かなる応援が表に出る事はない。要は表向きにはこの件について、俺は完全なる無関係なのだよ!

 

 常であれば、働きたくない俺は一色からのふざけた提案は意地でも阻止してやろうと無駄な足掻きを試みるのが通例である。無駄って言っちゃった。

 由比ヶ浜が嫌がっていれば、由比ヶ浜の反対を後押しするよう話題をこねくり回し、雪ノ下が抵抗していれば、雪ノ下の理屈を後押しするよう屁理屈を持って引っ掻き回す。それが俺である。

 

 しかし今回に限り、俺はそれほど由比ヶ浜を後押しもしなければ、それほど雪ノ下の肩も持たなかった。基本のスタンスとしては由比ヶ浜達側に立ってはいたものの、出物腫物所嫌わずの言葉通り、どんな事態になろうとなるようにしかならないだろうし、なってしまった場合はみんなで頑張ってね! という、完全なる第三者スタイルを取っていた。

 それはなぜか。そう、今回の件は俺に一切関係がないからだ。例え雪ノ下達が一色の面倒ごとに巻き込まれてしまったとしても、俺に火の粉は飛んでこないのだから。

 だってスクールアイドルだもん。ラブライブだもん。俺が出張る機会なんてないじゃないですかー?

 

「は? なに言ってんですか? 当然先輩も一緒に行くんですよ?」

 

「は? なに言ってんの? スクールアイドル関係の仕事で俺が出来る事なんてあるわけないだろ」

 

 ホントなに言っちゃってんですかねこの子。俺がスクールアイドルの取材になんて行けるわけがないだろうが。今回はお留守番確定でしょ? 今回どころか、君らがスクールアイドルやってる最中は一人でこの教室を警備し続けちゃうぜ!

 

「いやいや、やること超ありますし。今回の取材、インタビューをワードにまとめたり練習風景を撮影したりライブを動画で撮ったりしてウチの学校のホームページに載せる約束なんですよ。その情報がわたし達がスクールアイドル始める際の宣伝にもなりますし、アチラの宣伝にも繋がりますしね。なので生徒会備品のカメラやらなんやらの運搬全般から撮影雑用エトセトラ、全部先輩のお仕事です☆」

 

「なん……だと?」

 

 ……バカな! そんな事が許されるはずがないではないか! だって──

 

「バッカ、それは無理だろ。スクールアイドルは男子禁制の世界だろうが。ラブライブの世界には男は居ちゃいけないんだぞ? 知らないの?」

 

「なにバカなこと言ってんですか。漫画じゃあるまいし、あんなおっきなイベントに男の人が関わらないワケないじゃないですか。確かにアイドルはみんな女の子だし男の人は表に出てこないかもしれないですけど、裏方のスタッフさんとか企画者サイドとか、見えない所に超居るに決まってるじゃないですか。アイドルイベントの重い機材とか誰が運ぶと思ってるんですかねこの人」

 

「……お、おう」

 

 なんか凄い冷めた目で凄い正論言われちゃった。

 

 ……お、おかしい……、俺の認識が間違っていたのか……? 俺が材木座に見せられたラブライブの映像には、どこにも男なんて居なかったはず……。しかし言われてみれば男が居ないわけがないんだよなぁ……。

 あれだね! 見た目が映えないむさい野郎共なんて、画面からサクッと見切れちゃってただけなんだね!

 

 

 ──くそッ! まさかこんな事になろうとは!

 ふぇぇ……、こんなことなら最初からもっと雪ノ下達の味方して、一色の妄言などぷちっと叩き潰しちゃえばよかったよぅ!

 あと雪ノ下達には強制しないとか言っときながら、俺にはそもそも選択肢自体が与えられてないんですね(白目)

 

「比企谷くん。当然あなたも参加するわよね?」

 

「ヒッキーも一緒に行こうよー……!」

 

「……」

 

 これはもう駄目かもわからんね。最初から反対してればなんとかなったかも知れないけれど、本決まりしてしまってから俺一人で抵抗したって、それこそ無駄な足掻きにしかならないのだから。

 

「はぁ……仕方ねぇな。今回だけだからな」

 

 ま、こうまで頼りにされてしまっては、大人しく同行を認めざるを得ないだろう。頼り=雑用&荷物持ちだけどね!

 そもそも生徒会主導でやるんなら副会長とか会計の稲村辺りを連れていけよ、と思わなくもないが、なにせこれほど無茶で強引な企画に、学校から簡単に予算が下りるわけもない。せいぜい必要最低限の人数分の交通費と食費くらいが関の山。

 であるならば、スクールアイドルメンバー(仮)の三人は確定として、あとは雑用の一人分が限界。そう考えると、女三人の小旅行に副会長を連れていくと書記ちゃんが嫌がりそうだし、稲村はそもそも雪ノ下達と関わりがほぼ無いから精神的に無理。必然選択肢は俺一択、となるわけだ。

 さすがは売れ残りの中の売れ残り、キングオブデッドストックと呼ばれるだけの事はあるぜ!

 

 

 

 ──こうして、青天の霹靂レベルの急転直下で、奉仕部のスクールアイドル企画への参加が決定してしまった。

 奉仕部に放り込まれてから一年以上の月日が経過し、酸いも甘いも様々な経験を果たしてきた俺達ではあるが、そんな普通の高校生よりもいくらか濃い高校生活を送ってきた俺達でさえも、今回ばかりは完全な未知の世界への挑戦である。

 

 スクールアイドルとの……、ラブライブとの出会いが、いったい俺達にどんな未来をもたらすのかなど今はまだ想像さえ出来ないが、まぁこいつらとならなるようになるだろう……、なんとかなってしまうだろう……、と、そんな思いを抱きつつ、俺は話題のスクールアイドルAqoursとの邂逅の日へと思いを馳せるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あ、そういや結局Aqoursってのはどこの学校のご当地アイドルなんだ?」

 

 誠に遺憾ではあるが、行くなら行くでどこまで行くのかくらいは知っておきたいよね。帰宅時間に関わる重大事項だし。

 なんか目の前に綺麗な海があってちょっと遠いとこ、みたいなこと言ってたし、銚子とかそこら辺かな?

 

「あれ? まだ言ってませんでしたっけ? Aqoursは浦の星女学院のスクールアイドルです。沼津の」

 

「「「……ぬ、沼津?」」」

 

 

 ……と、遠くない? 県外どころか神奈川のさらに先だよ! もっと近くに絶対居るでしょ、もっと都合のいいスクールアイドルグループがさぁ。

 これ完全にタダで行ける小旅行が目的ですね? (遠い目)

 

 

 

続く

 

 




ありがとうございました!
今回の話が五千文字くらいで済むと(実際は一万二千文字)思っていた頃が私にもありました(遠い目)



さて、こんな感じで二つの世界が交差することとなりました。ホントいろはすって万能ですよね♪原作者様がいろはすを重宝する理由がよく分かります(^皿^)
まぁこの設定で行くのならμ’sの方が距離が近くて自然じゃね?と思われるかもですけど、そこはホラ、完全に作者の好みの問題です☆(少数派かもしれませんがサンシャイン!!の方が好きなので)

そして次回、遂に私史上初の俺ガイル以外のキャラ(オリキャラ除く)が登場します!
初の俺ガイル以外のキャラをどれだけ違和感なく書けるかはわかりませんが、なんとか頑張ります!


それでは、最強の八幡が大活躍するわけでも格好良い八幡が別作品ヒロインにモテモテになるわけでもない、どこにも需要が無いこの作品をまた読んでいただきありがとうございました!

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