一色、スクールアイドル始めるってよ。   作:ぶーちゃん☆

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お、お久しぶりでーす…(ガクブル)まさか三週間近く開いてしまうとは…(白目)


人気皆無なクロスなんで待ってた人はあまり居ないとは思いますが、お待たせしました!ようやく5話目の投下ですッ




Step! ZERO to ONE

 

 

 

「おおー……!」

 

 

 千葉からやって来たお客様達の前で、いつも通りのダンストレーニングを披露する私達Aqours。

 人前でダンスするのはライブで馴れてるから平気かと思ってたけど、バッチリ練習した完成系を人前で披露するのと、格好もメイクも素のままの未完成品を披露するのとではワケが違う。これはなかなかに恥ずかしいかも。

 汗でびちょびちょな姿を男子に見られてる……てゆーか撮られてるワケだし。

 でも、暑さだけではない熱さで顔が赤くなっている私達のダンスを見て、総武高校の皆さんはとても感心してくれているのを見ると、やっぱり私達って根っからのスクールアイドル好きなんだなぁ! って思っちゃう! だって、恥ずかしさよりも嬉しさとかヤル気の方が勝っちゃうんだもん。

 

 

 

 ──バス停での出会いを経た私達は、校内を案内がてら先にみんなが練習しているであろう屋上へと向かった。

 屋上へのドアを開けると、雪ノ下さんのすっごい美人さとか、由比ヶ浜さんのスタイルの良さとか、いろはちゃんの可愛らしさとか、あと若干一名の制服愛とかでAqoursメンバーは散々盛り上がり、次いでその三人の後ろに隠れていた比企谷さんの姿を発見してワーキャー悲鳴を上げたりと、総勢十三名の出会いは結構変な空気になっちゃったんだよね、あはは……

 ちなみに校内案内中、部活動に来てる生徒達に見られてギョッとされたりAqoursメンバーに悲鳴を上げられた比企谷さんの目が、バス停で会った時よりもみるみる腐っ……どよんと濁っていってしまったのは内緒。

 ダイヤさんに「慣れる努力をしなさい」って言われちゃったルビィちゃんが、なんとか比企谷さんに話し掛けてみようとずっとそばをくっつき回って、いざ声を掛けようとする度にピギィって逃げ出し続けていたのも、比企谷さんの目の濁りに拍車をかけていたけどね。

 これは当分ダイヤさんからの指令を遂行出来そうにもないなぁ。

 

 

 それからはダイヤさんと私から経緯を説明したりお互いに自己紹介しあったりと順調にお迎え会は進行していき、そのままの勢いでこうして練習風景を披露することとなった。

 個人パートの練習だったりフォーメーションの練習だったりをたっぷり二時間ほど。音楽も掛けず歌も歌わず、パンパンって手拍子といっちにーいっちにーの掛け声だけで誰かがくるんと舞う度に、普段はこの屋上で聞く事が出来ない歓声がワアッと上がる。それだけでここは輝くステージに変わるんだ。

 そうなってしまえば私達スクールアイドルの練習はより一層の熱を帯びていく。普段通りの練習を見せるつもりだったけど、知らず知らずいつもよりずっと実のある練習になったのでした。

 

「ヤバいちょー格好いい……!」

 

「……思っていたより、ずっと凄いのね……」

 

「……すげぇ」

 

「……ッ」

 

 格好いい! ってぱちぱちと拍手喝采の由比ヶ浜さん。心から驚いてるって感じの雪ノ下さん。カメラ片手に感心してくれる比企谷さん。いやー、そんなに凄い凄い言われると照れちゃうなぁ!

 ……でも、いろはちゃんはなんだか複雑そうな顔してた。私の視線に気付いてすぐにっこり笑顔になったけど。

 うーん……、いろはちゃん的には私達のパフォーマンスあんまりだったのかなぁ。……もっともっと頑張らなきゃだね!

 

 おっと、そんなことを考えてる間にも、貴重な時間は刻一刻と過ぎていってしまうのだ。

 

「さてと、まだ全然練習足りてないけど、今日はこのあと予定押してる事だし、ちょっと休憩してからそろそろランニング行こっか!」

 

 気付けば総武高ご一行様をお迎えする前に予定していた計画時間を幾分過ぎていたため、私はそう言ってダンス練習を切り上げる。

 いつもと違う行動を計画通りにこなすというのはなかなかに大変みたい。これは結構忙しいぞー?

 

「……え、千歌ちゃん達、今まで散々動きまわってたのに今から走るの!?」

 

 でも私のそんな発言に、いろはちゃんが驚きの声を上げた。あ、ちなみに校内を案内してる最中、同学年という事もあって千歌ちゃんいろはちゃんと呼び合うことにしたんだよね。

 

「うん! まぁいつもとはランニングしに行くタイミングは違うんだけどね。でもどっちにしろ走る事には変わらないわけだし、だったらせっかくだからいつもの私達の練習風景とか練習内容を見てもらおっかなぁ? って、ランキングを後回しにしたんだぁ」

 

 そう。普段は大体ランニングからその日の練習をスタートするんだけど、総武高のみなさんが到着する前に走っちゃったら普段と同じ練習を見せる事が出来なくなっちゃうから、今日はあえてランニングをダンス練習のあとに回したのだ。

 

 そしてそれは、ただ私達の練習風景を見てもらいたかったというだけではなく、実はこういう計画も立ててました! どうせ走りにいくんなら──

 

「あ、そだ、せっかくだしいろはちゃん達も一緒に走ってみない? 運動用に着替え持ってきて貰ってるよねっ?」

 

 せっかくこんな遠くまで来て貰ったんだもん。どうせなら私達の練習も体験してもらいたいよねって、みんなで話してたの。

 でもさすがにまだ一緒にダンス体験をしてもらうのは無理だろうから、せめてランニングくらいなら体験してもらいたいかな〜って。みんなで海沿い走るの気持ちーし!

 

 

 こうして、ダンス練習を終えた私達は部室での小休止を挟んでから、元気一杯にいつものコースへと飛び出すのだった。

 ……ランニングの話になったとき雪ノ下さんがすっごい嫌そうな顔してたから、体調悪いのかと思って「無理そうなら雪ノ下さんは休んでてもいいですよ?」って言ったらムキになってついて来ちゃったんだけど、だ、大丈夫かなぁ……

 

 

× × ×

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「き、きつい」

 

「……」

 

 いつもと同じ道のりを、いつもと違う速度で走った弁天島神社までの海沿いのランニングコース。そこには神社に辿り着く為の階段の中程で、バテてへたり込んでしまったいろはちゃん達の姿が。

 ちなみにランニングがスタートしてから最初の数分は涼しい顔で颯爽と先頭グループを走っていた雪ノ下さんは、途中で早々に力尽きて、付き添いを買って出てくれた比企谷さんとここまでなんとか歩いてきました。今では半ば放心状態で段差に弱々しくもたれ掛かってる。体調悪いんじゃなくて走るのが苦手だったのかな?

 そしてAqoursでここに残ってるのは私だけ。みんなには先に行って貰って、私だけ残る事にしたんだ。リーダーとしてみんなの練習時間は守らなきゃだし、リーダーとしてAqoursのお客様の面倒は私が見なきゃだしね。

 

「はぁ……はぁ……、ち、千歌ちゃん達って、いつもこんなメニューこなしてるの……?」

 

 ぐったりと階段に座りながら激しい息遣いでそう呟くいろはちゃんの顔には、なんだかよくわからないけど、悲壮感? みたいなのが浮かんでるような気がする。

 

「これでもいつもよりかはペース遅めなんだけどね。で、ここの階段はみんなで競争とかしてるんだぁ。ま、いつも果南ちゃんにボロ負けだけど!」

 

「……マ、マジで? こんなのもう体育会系じゃん……」

 

 あ、だから悲壮感が漂ってたんだいろはちゃん。スクールアイドルを始めてないんなら、そこら辺の事はまだわからないよね。

 ……スクールアイドルって、体育会系か体育会系じゃないかと聞かれたら、どう考えても間違いなく体育会系なんだよね。華やかに見えるのはステージの上だけで、ステージの下では基礎体力付けたり歌作る為に机に噛り付いてたりと、地味な作業の繰り返しだもん。

 だから始めは戸惑っちゃうかもしれない。スクールアイドルって、派手なだけじゃないんだって。

 

「……やー、みんな凄いね。あたしもうこれ以上階段上がれなさそーだし……」

 

 すると今度は由比ヶ浜さんが、苦笑いを浮かべながらそんな弱気な発言をする。

 うん。その気持ち超わかる!

 

「私達も最初は全っ然走れなかったんですよ? この階段だって、今の由比ヶ浜さん達と同じように途中でへばってリタイアしちゃってたし」

 

「ほえ〜、そーなんだぁ……。そんなに余裕そうなのに」

 

「あはは、全然余裕なんかじゃないですよ〜。けど、まぁ慣れかなぁ。スパルタのダイヤさんがAqoursに加入したからってのもあるんだけど、でもそれだけじゃないんだ。ちょっと前に、これじゃ……このままじゃダメなのかも……って思い知らされちゃう事があったから……」

 

「……ダメ?」

 

「はい。それはもう絶望的に……。だから出来ることは全力でやらなきゃって、そう思って今は超頑張ってるんです」

 

 

 ……ホント余裕なんてどこにもない。いくら慣れたって走るのはやっぱり辛いし、走ったあとにダンス練習したり発声練習するのはホントに大変。一生懸命練習した日はすぐ眠くなっちゃうし、翌朝は身体中がすっごく痛いもん。

 それでも早く布団に入りたいのを我慢して歌詞考えなきゃだし、どんなに身体が痛くたって朝のランニングを欠かすわけにはいかない。

 出来る事を全力でやれなきゃ、私達の目標には絶対届かないんだ……!

 

「……でも、スクールアイドルに体力ってそんなに必要なの……? ダンス練習だって凄かったし格好良かったし、あれだけ出来るのにこれ以上体力って要るの……? だって、プロのアイドルと違ってライブで何曲も歌って踊るわけじゃないじゃん? ……わたし、一・二曲くらい歌って踊れれば大丈夫なんだって思ってたんだけど……」

 

 すると、今度はいろはちゃんがそんな弱音をぽしょりと漏らすのだった。

 ……そうだよね。私も最初はそう思ってた。今考えるとちょっと甘く見てたのかもしれない。あの二人に……、Saint Snowの二人に『ラブライブは遊びじゃない』って言われちゃうくらいに……

 

「うん。歌なんて一曲せいぜい五分あるかないかだけど、その五分で最高のパフォーマンスをする為には、まずはいつでも最高のパフォーマンスを出せるような練習をしなきゃでしょ? そしたらさ、その練習に耐える為にはどうしても体力が必要になっちゃうんだよ。練習を全力で出来ないんなら、一回限りのライブで……、一曲限りのライブで……、最高のパフォーマンスを出せるわけないもん」

 

 ……初めて見た生のライブ、それはもちろんあの日のSaint Snow。

 私達は、あのライブに圧倒されてしまった。悔しいけど今の私達じゃ全然敵わないって思ってしまった。これがトップクラスのスクールアイドルなんだって。……でも、それでも九位なんだって。

 

 だからもうあんな悔しい思いをしないよう、後悔しないで済むように全力で頑張りたい。

 あの二人に勝ちたいの? とか、誰にも負けたくないの? とか聞かれたら、それはまだよくわからない。

 けど、そういう勝ち負けとかじゃなくて、負けちゃったとしても「あの時もっとああしてればよかった」「あの時もっと頑張ってればこうはならなかったかも」なんてつまらない後悔をしたくないから、出来る事を全力で頑張りたいって、そう思ってる。

 

「……そっかぁ。やっぱりトップクラスのスクールアイドルともなると、そういうとこからして違うのかなー……」

 

 そんな決意を胸に秘めて一人ふんすと息巻いていたんだけど、そんな私の思いも露知らず、いろはちゃんがとんでもない事を言い出しちゃったよ!

 

「へ? ト、トップクラス? いやいや! 私達なんて、全然トップクラスなんかじゃないよ!?」

 

 これには私もびっくりだよ! 確かに期待の新星とかなんとかってのをサイトで見て、取材するのを私達に決めたっていうのは聞いてたけど、まさかトップクラスとか思われてたなんて!

 

「……でも結成してちょっとで、ラブライブで上位になるようなグループばっかが参加する東京のイベントに招待されちゃうくらいのグループなんでしょ……?」

 

「あ、……うーん。……あはは、やっぱそこからだよね」

 

 

 ……うぅ、サイトに載ってたその情報で期待されちゃってたんだろうけど、それでトップクラスのスクールアイドルなのかと期待されちゃうのは正直キツい。

 でも、それで誤解しちゃってるのならちゃんと正さなくちゃだよね。私達は……Aqoursはトップなんかじゃないんだよ、って。

 

「……うん。確かに呼ばれたよ? でもね、それは私達がトップクラスだからなんかじゃなくって、あくまでも新人ゲストだから呼ばれたってだけ。……でね、そこに呼ばれて、そこで突き付けられた結果こそが、私達がトップどころかまだまだ全然なんだっていう証明でもあるんだよ」

 

「……ゲストに呼ばれたのに、それが証明……?」

 

「うん。上手く出来たPVの再生回数が結構伸びて、ちょっと話題の新人とか言われちゃったから呼ばれただけ。実力なんかじゃないんだ。実力で言ったら、私達は……ゼロだったんだから」

 

「……ゼロ?」

 

 

 ──そして私は語り出す。どうしようもなく苦くて、どうしようもなく悔しくて、そしてどうしようもなく向き合わなくちゃいけないほろ苦い現実を。

 

 

× × ×

 

 

 ──私達、結構浮かれてたんだぁ。いろはちゃんの言う通り、このままの勢いで自分達がトップになれちゃうんじゃないか、って。このままの勢いでラブライブに出れちゃうんじゃないか、って。そんな風に思ってた。そりゃそうだよね。一気にPVの再生数が伸びて一気に話題になって、まさかまさかの東京のイベントに呼ばれちゃうんだもん。

 よーし! このイベントでもっと話題になって、ラブライブまで一気に突っ走っちゃうぞー! って浮かれてた。

 ……でも、結果は惨敗。超惨敗。私達はトップクラスの中に入ったら相手にもならなかったんだよ。

 

 私達の前にSaint Snowってグループが歌ったんだけど、そのたった一曲で足がすくんじゃったよ。ああ、これがトップクラスのパフォーマンスなんだぁ……って。これがラブライブなんだぁ……って。

 それでも、足、すっごいすくんじゃったけど、私達は今までで一番のパフォーマンスが出来たんだ〜。あはは、あのイベントでそこだけは胸張れるよ!

 ……でも、それでも三十位。三十組中の三十位。応援してくれた人は……ゼロ。

 

 イベントの最後に会場のお客さんの投票で順位が決まったんだけど、私達に入った票はゼロ。Saint Snowでさえ、出場グループの中ではやっと九位。私達が気圧されちゃった凄い二人が九位だったんだよ。

 ……あの時の私達が、あんな凄いトコで好成績を納められるわけなかったんだよね。

 

 …………もう悔しくて悔しくて、泣きたくて、でも泣くわけにはいかなくて。

 スクールアイドルやろうよって言い出した私が泣いちゃったら、みんな不安になっちゃうって思ったから、絶対に悲しい素振りなんか見せちゃいけないんだ! って、頑張って泣かないようにしてた。

 でもそんなのみんなにはお見通しだったみたいで、結局内浦に帰ってきてからみんなの前で泣いて叫んでスッキリしたんだけどねっ。

 

 あ、話が脱線しちゃった!

 とにかくね、私あの時思ったんだよ。このままじゃダメなのかもって。

 もちろんね? それまでだって適当にやってきたわけじゃない。スクールアイドルが大好きだし、スクールアイドルやってると楽しいし、適当にやってる時間なんて一瞬だってなかった。そう思ってた。

 

 でもどこかでこうも思ってたんだよね。このままみんなで楽しくスクールアイドルやってれば、なにもかも上手く行くんじゃないかって。いつの間にか人気になって、いつの間にかラブライブに出場も出来て、もしかしら優勝とかしちゃったりして、そんでもっていつの間にか浦女を助けられるんじゃないか、って。

 

 あっ、うちの学校ね? 統廃合の話が出てるんだ。百人にも満たない小さな学校だからしょーがないけど、今のままだとこのまま学校を存続させるのは無理みたい。

 だからちょっとでも話題を集めて入学希望者増やして、私達の力で私達の学校を救うんだー! って張り切ってた。大好きなμ’sがやったみたいに。

 

 でも今のままの私達には無理だった……。ただ楽しんでるだけじゃダメだったんだよ。学校を救うなんて大きな目標を掲げるんなら、ただ楽しむだけじゃなくて、全力で楽しまなくちゃダメなんだと思う。そして全力で楽しむ為には、もっと色んなこと全力でやって、もっと実力を付けなくちゃダメなんだよ。本物のトップクラスの子達と勝負しても悔しい思いをしないくらい。

 

 それはね、別に勝ち負けとかそういうのだけじゃないんだと思う。

 もちろん負けたくない! って思う気持ちもあるけど、でも勝つとか負けるとかじゃなくって、もっと大切なこと。

 

 だからね、私達は全然トップクラスなんかじゃないの。今はトップクラスのあの人達と少しでも肩を並べられるように、自分達に出来ることは全力でやりたいだけの、ただの新人スクールアイドルです。

 

 

× × ×

 

 

 私の長い長い話も終わり、弁天島神社までの長い長い階段にはほんの少しだけ重い静寂が訪れる。

 いろはちゃんも雪ノ下さんも由比ヶ浜さんも、もちろん比企谷さんもとても真剣な眼差しで聞いてくれてたけど、私達Aqoursの中だけのほろ苦い胸の内を語ってる間に思わず熱が籠もっちゃったみたいで、なんだか余計なことまで言っちゃったかなー? なんて、ちょっと不安になってしまうほどの静けさ。

 

「……あはは、ごめんね、なんかガッカリしちゃったよね。Aqoursがいろはちゃん達が思ってたような凄いグループじゃなくて……」

 

 なんだか申し訳ない事しちゃったかも……。スクールアイドルという活動に期待に胸を膨らませて、その期待を私達に目一杯向けてきてくれていたのに、蓋を開けてみたらAqoursはトップでもなんでもないただの新人グループでした! って事が判明しちゃったんだもん。活動自体も練習ばっかで地味に思われちゃったっぽいし。

 Aqoursにガッカリするだけならまだしも、スクールアイドルにガッカリされちゃったら辛いな……

 

「ふぇ? ……ん、んーん!? そんなことないよ! ……むしろ……あ、うん、なんでもない」

 

 それでもいろはちゃんはそう言ってくれた。逆に気を遣わせちゃったかなぁ。

 でも、「むしろ」っていったい何を言おうとしたんだろ? なんか最後の方は尻窄みになってっちゃったし。

 

「あ、千歌っちー! 総武のみんな大丈夫そぉ?」

 

 そんな時だった。何を言おうとしたのか聞き直してみようかどうしようか迷っていたら、上の方から元気な声と共に誰かが下りてくるのが視界に入ったのだ。

 

「あ、鞠莉ちゃん、みんな、もう下りてき──」

 

「フッ、情けない。千葉のリトルデーモンがここまで軟弱だったとは。待っていなさい、いま冥府より召喚したる我が堕天エナジーをそなたらに授け」

 

「やめるずら♪」

 

 階段の上段へと目を向けると、丁度みんなが下りてくる所だったみたい。

 やばいよ、総武のみなさん引いちゃってるよ善子ちゃん!

 

「こういうのにまだ慣れてない人達にランニング付き合わせちゃってごめんね? まだ顔色悪いみたいだけど大丈夫?」

 

「い、いえ、こちらこそみっともない姿を晒してしまってごめんなさい。あと少し休んでいれば、もう大丈夫だと思うのだけれど……」

 

「そっか。じゃあもう少し日陰で座ってた方がいいかもね」

 

「ええ」

 

 一年組二人の面白やり取りとは違い、果南ちゃんと雪ノ下さんが大人な落ち着いたやり取りを交わしているのを何気なく眺めていると、不意に肩をちょんちょんと突つかれた。振り返ってみると、そこには梨子ちゃんと曜ちゃんの姿が。

 そして、梨子ちゃんが私にこう耳打ちしてきたの。

 

「このあとどうする? 上でみんなと話したんだけど、もう少し休憩していくなら私達先に帰ってライブの準備しとこうか?」

 

「へ?」

 

 どうやらみんな、神社までの階段を競争しながらも総武のみなさんの疲労具合を心配してくれてたみたい。いやーさすがだよ! みんな気が利くよね。リーダーとして鼻が高いなぁ。

 

 だから私はこうお願いする事にしたの。みんなのあったかい心遣いに応えるように。

 

「うん、そだね! あとちょっと休憩したら私が責任持って連れて帰るから、みんな先に帰って用意しといてもらえるかな。最っ高のライブを観せられる用意をっ」

 

「うん」

 

「ヨーソロー!」

 

 

 こうして、総武のみなさんに水分補給を薦めながら、ライブ準備の為に先に帰ってくれたみんなの背中をにこやかに眺める私なのでした。

 

 

 

「もう大丈夫そうかな。さてと、それじゃそろそろ帰ろっか!」

 

 それからしばらくの後、みんなの……、特に雪ノ下さんの息が整ってきたのを見計らってから、階段に下ろしていた腰をすくっと上げて四人に笑いかける私。

 梨子ちゃん達に先に準備してもらっているとはいえ、私も帰ってメイクしたり着替えたりしなきゃだし、いつまでも私だけまったりしている場合でもないのだ。

 

「ええ、忙しいのに付き合わせてしまってごめんなさいね」

 

「いえいえ、ぜーんぜん大丈夫です!」

 

「ホントごめんね千歌ちゃん。あ〜あ、あたしだけでももうちょい頑張って、上から景色眺めたかったなぁ……」

 

「あはは、じゃあ由比ヶ浜さんだけでも今から神社までダッシュしちゃいますかっ?」

 

「え!? 今から一人!?」

 

「まぁ、せっかく学校で待ってくれてる連中をいつまでも待たせっぱなしってのもアレだしな。俺達は先に帰っとくから、ダッシュで上行ってダッシュで景色眺めてダッシュで追い付いてくればいいんじゃねぇの?」

 

「ぐむむっ……、ヒッキーマジ超性格悪いし! ……や、やっぱやめとこうかなぁ」

 

 ふふっ、ホントこの人たち仲いいなぁ。比企谷さんは私達とは全然話さないけど由比ヶ浜さん達とはよく喋るし。

 よし、もうみんな元気みたいだし大丈夫かな。じゃ、無理せずゆっくり帰りましょうか。

 

 

「……あの、千歌ちゃん」

 

 みんなの様子を見てそろそろ帰る事を決めた私ではあったんだけど、その時、そんな私を引き止める弱々しい声が掛かったんだ。

 

「どしたの? いろはちゃん。もうちょっと休んでく?」

 

 それは、さっき私が余計なこと言いすぎちゃった長い長い話のあと、ずっと俯いて黙ったままだったいろはちゃんの小さな声。

 口では「もうちょっと休んでく?」なんて、まるで体調のことを心配してるみたいな声をかけたんだけど、本当は全然違う部分を心配している私。それは私達Aqoursがトップアイドルとは似ても似つかないレベルのスクールアイドルだったって事と、スクールアイドルの活動がいろはちゃんの想像とは違いすぎたであろう事による彼女の気持ちの部分。

 ……やっぱり私が余計なこと言っちゃったせいだよね。

 

 

 もしかしたらこのまま私達のライブも見ずに帰りたい──なんて言い出してしまうかも……、って心配してたんだけど……

 

「あの、このあとライブ観せてもらってからインタビューする予定だったから、その時に聞こうって思ってた事があるんだけど、いま千歌ちゃんだけでも先に聞いちゃっていいかな」

 

「へ? う、うん、なんだろ」

 

 

 返ってきたいろはちゃんの返答がちょっと意外だったからつい間抜けな声を出しちゃったけど、どうやら少なくともライブだけは観ていってくれるようで、ほっと胸を撫で下ろす。

 で、胸を撫で下ろしついでに改めていろはちゃんの表情を真っ直ぐ見つめてみたんだけど、、確かに出会った時に比べたらやっぱりどこか元気がないように見える。でも彼女の瞳がとっても真剣だったから、私も今から聞かれるであろう質問には真剣に応えようと思う。

 

「おい待て一色、インタビューっつうんなら記録して纏めなきゃなんねぇんだろ? まだなんの準備もしてないんだが」

 

「あ、これは別に記録しなくても大丈夫です。ちゃんとしたインタビューはまたあとでやりますし。……ただ、今どうしても聞きたくなっちゃった事があるだけなんで」

 

「お、おう、そうか」

 

 ……そしていろはちゃんは私の目をしっかり見据えて口にする。今どうしても聞きたいのだというその疑問を……

 

 

「……なんかナントカ大陸みたいなベタでありきたりの質問で恥ずかしいんだけど、…………あなたにとって、スクールアイドルってなんですか? あなたはなんの為にスクールアイドルをしてるんですか?」

 

「……」

 

 

 ──正直、確かにありきたりな質問だな、って思っちゃった。そりゃ何か目的を持って何かの活動に打ち込んでいる人にインタビューってヤツをするのなら、そんな質問をするのがベタだけど間違いないよね。

 そんなベタでありきたりな質問を、なんでいろはちゃんが“今”、なんで“ここで”聞いてみたくなったのかは分からない。あとでインタビューするつもりなんだったら、その時でよくない? って思えるくらいの質問だから。

 でもいろはちゃんの目を見れば解る。“それ”を今ここで聞く事は、今のいろはちゃんにとって、とても重要なことなのだろう。

 

 だったら私は全力で答えるよ! 確かにベタでありきたりな質問かもしれないけど、その質問の答えは私にとっても……、とても大切な答えなんだから!

 

 

「……私にとってスクールアイドルは、……んー、答えもベタかもだけど、……夢、かな」

 

 あなたにとって○○とはなんですか? という質問に対して、それは夢ですと答える。ベタだベタだとは思ってたけど、いざ口にしてみるとホントにベタすぎてまいっちゃう! うひゃ〜、ハズカシィー!

 でもでも、これは紛れのない事実なんだからしょうがないよね!

 

「……私ね、すっごい普通なの。普通怪獣ちかちーなの。なにをしても普通。なにを話しても普通。普通普通普通。本当に平凡で普通の女の子だった。それが当たり前だったの」

 

 ……別にね、普通って悪い事じゃないって思う。いいじゃん、普通。

 普通って事は、毎日が平和ってことだもん。毎日幸せでいられる事が当たり前。だからこその普通ってことだもん。うん、普通は全然悪いことじゃない!

 

 ……でも──

 

「でもいつかなにかやりたいなって、いつか輝きたいなって、ずっと思ってた。なにをやってもすぐ飽きちゃったり、すぐ諦めちゃったりしてひとつも長続きしなかったけど、でも、ず〜っと憧れてた。私だけの輝きを見付けてキラキラ輝くことに」

 

 それは、ちっちゃな頃からいつも隣に曜ちゃんが居たからかもしれないね。いつもキラキラ輝いてる曜ちゃんみたいに、私もいつか輝きたいって、ずっと思ってたんだ。

 

「……そんな時、たまたま遊びに行った秋葉原で出会っちゃったんだよ。スクールアイドルに。μ’sに。私とそう変わらない普通の子達が、私なんか比べものにならないくらいキラキラしてた。キラキラ輝いてた」

 

 あの時の衝撃は凄かったなぁ。ビビビ! って、身体中に電気が走ったもん。

 ああ、これだ、これだよ! って!

 

「だから私もこの人達みたいに輝きたいって思った。ずっと夢見てたから。輝きたいって。キラキラしてみたいって」

 

 動機は不純で短絡的かもしれない。でも私は出会ってしまったんだ。どこにあるのかわからないけど、でもずっと探してた私の輝きのカケラを。

 

「……だから、ずっと見つからなかった輝きを見つけさせてくれるかもしれないスクールアイドルは、私の夢なんだよ……!」

 

「……」

 

 ふんっ、て鼻息荒く、顔も身体も熱く赤く紅潮させてそう叫ぶ私を、総武高のみんなはぽけ〜っと見つめてる。

 あまりにも荒唐無稽すぎて、あまりにもセリフが臭くて恥ずかしすぎて、もしかしたら呆れられちゃってるのかもしれないね。

 

 でも誰になんと思われたって、これが私の偽らざる本物の気持ちなの。

 これからスクールアイドルを目指そうとしている人達が私達を選んでくれたんだもん。だったら一足先にスクールアイドルを目指した私の想いを、全部聞かせたい。聞いてもらいたい。

 ……そう、全部!

 

「──でもね、まだ私は全然輝けてない。てゆーか、なにが私の……私達の輝きなのか全然わからない。今はまだわからないけど、それはもしかしたらラブライブに出場出来た時にわかるのかもしれない。学校を救えた時にわかるのかもしれない。ラブライブに優勝出来た時にわかるのかもしれない。でももしかしたら、ラブライブに優勝したってわからないのかもしれない。……だからこそ、だからこそだよ。だから私は、私達はスクールアイドルやってるの! なにを成せば輝けるのかわからないから、まずは全速前進で一歩ずつ。まずは、……あのゼロを1にしたい!」

 

「……まずは、1に?」

 

「うん! ゼロを10にも100にもするのはすぐには無理だから、まずは1にする為に、私達いま全力で楽しんでるんだ! それでね、そんな全力のライブをいろはちゃん達にも見てもらいたいの。まだまだトップクラスなんかじゃないけど、これがスクールアイドルなんだよって。これがラブライブなんだよって。……だから、観て、くれるかな」

 

「……うん、観せてもらうね」

 

「あたしも!」

 

「……ええ、私も観せてもらうわ、しっかりとこの目で」

 

 

 

 

 

 

 

 そして────

 

 

「ふふ、こんなにお客さんの少ない会場で歌うのなんて、なんだか私達の初めてのステージを思い出すわね」

 

「あの時は千歌ちゃんがライブの開始時間間違えちゃったんだよねー!」

 

「うー、曜ちゃんそれは言わない約束だよぉ」

 

「あはは」

 

「あなた達、無駄話はそこまでです。多かろうと少なかろうと、せっかくわたくし達を観に来て下さったお客様をお待たせしないのが、一人前のアイドルというものですわ」

 

「そうそう、ダイヤの言う通り! 千歌、早く気合い入れるよっ?」

 

「新人ちゃん達にAqoursの雄姿を見せ付けてやりまショウ!」

 

「わ、私も頑張ルビィ!」

 

「クックック、今こそこの堕天使ヨハネが新たに召喚したリトルデーモンを魅了する時……!」

 

「善子ちゃん、また引かれちゃうずらよ」

 

「引かれてないわよ! あと ヨ ハ ネ よ!」

 

 

「さぁ、行こうよみんな! 観客はたった四人だけど、いつも通りの私達を全力で楽しもう! ……ゼロから1へ、1からその先へ! Aqours〜──」

 

『──サーンシャイーン!!!』

 

 

 

 ──そして私達は駆け上がる。たった四人だけが待つステージへと。

 ペンライトの光もたくさんの歓声もないけれど、私達は今の私達の輝きを全力で見せるんだ。

 

 

「……聴いてください。Step! ZERO to ONE !」

 

 

× × ×

 

 

 西の海に傾いた太陽の光で、広〜い空と海が全面オレンジ色に染まる内浦の美しい夕暮れどき。

 昼間のうだる熱風がまるで嘘だったみたいに、いま私の頬を撫でているのは、思わず微睡みの中に引き込まれそうになってしまいそうな程のとてもとても気持ちのいい潮風。

 私はそんな穏やかな夕焼けに包まれながら、色々と考え事をしていた。

 

「……行ってしまいましたね」

 

「あ、ダイヤさん」

 

 今の自分達に出来る最高のライブをやり終えた私達。その後は当初の計画通り、ちょっと恥ずかしいけど各自いろはちゃんからの独占インタビューを受け、それも無事終了すると総武のみんなをバス停までお見送り。ほんの数時間だけの関係だったのに、なんだか名残惜しかったなぁ。

 

 そしてそれからステージの後片付けなんかをこなした私は、ほんの休憩がてら一人屋上に息を抜きにきて、オレンジ色に染まる空と海をぼーっと眺めていたのだ。眺めていたのは空でも海でもなく、遠く千葉の方向かもしれないけど。

 

「とてもいい方たちでしたわね」

 

「そうですねっ。なんか普段じゃ絶対に味わえない刺激だったからなのかなー。すっごい楽しかったぁ」

 

 両手の指を絡めて、空高くのびーっと背筋を伸ばす。んー、気持ちー!

 

 ……でも、そう言って元気一杯に振舞いながらもどこかしこりが残っている私の胸の内なんて、どうやらこの人にはバレバレみたいだ。

 

「……で、わたくし達が席を外している間、総武のみなさんとなにかありましたの?」

 

「へ?」

 

「へ? じゃありませんわ。なにかあったのでしょう?」

 

「えっと、な、なんで?」

 

「わたくしを誰だと思っているのかしら。弁天島神社から下りて来た時すぐに感じました。なにかあったのだろうと。千歌さん自身もちょっと変でしたが、何よりも総武の方々が……、特に一色さんの様子がおかしかったですもの。あれだけ元気一杯だったというのに、なんというか……、あの時から途端に元気がナリを潜めたというか。そしてそれが、今の千歌さんの様子にも関係しているのでしょう?」

 

「あはは、バレてたかー……」

 

「ふふ、バレバレですわ。わたくしだけじゃなく、みなさん心配してましたよ?」

 

 ……あちゃー、ダイヤさんだけじゃなくって、みんなにも心配されちゃってたのかぁ。ホント、ダメダメなリーダーだなぁ。

 

 みんなには心配かけたくないから言わないでおこうって思ってたけど、……やっぱり私はダメダメなリーダーだね。こんなにバレバレなんじゃ、もう話さないワケにはいかないよ。だって仲間だもん。

 

「……私、いろはちゃん達に余計なこと言っちゃって……」

 

「余計なこと、ですか?」

 

「はい。なんかいろはちゃん達、Aqoursがトップクラスのスクールアイドルだって思って期待してたみたいで。……だから私言っちゃったんです。私達はトップでもなんでもない、イベントで一票も投票してもらえない程度のスクールアイドルなんだよ、って」

 

「……なるほど、わたくし達の現在地を教えてさしあげたんですね。まだゼロから1を目指しているレベルだと」

 

「はい。スクールアイドルの勉強の為にAqoursを選んでくれたのに、実は選んだAqoursが大したことないグループだったなんて、総武のみんなからしたらガッカリもいいトコですよね……。あとそれだけじゃなくって、スクールアイドルの活動自体にもびっくりしてたみたいだし。多分、普段はこんなに地味な事ばっかりしてるんだ、って、思われちゃったんじゃないかなぁ……って」

 

「なるほど。そういう事でしたか」

 

「……だからせめて全力のライブを観てもらって、総武のみんなにスクールアイドルの素晴らしさを分かってもらいたい! って頑張ったんだけど……、ちゃんと伝えられたのかなぁ、スクールアイドルにガッカリして「やるのやめよっか」みたいな話になっちゃってないかなぁ、とか、……色々と頭ん中がぐるぐるしちゃって」

 

 ……私はμ’sを知ってスクールアイドルが大好きになった。μ’sを知ってスクールアイドルになりたいって思った。

 だから私達を見てスクールアイドルやってみたいって思ってもらえたのなら、それは最高に幸せ。だって、それはその子達から見た私達が輝いて見えたって事だから。

 

 だからこそ逆に、私達を見てガッカリしちゃったのなら、私達を見てスクールアイドルに興味が無くなっちゃったのならば、それは最高に悲しいし悔しい。

 ライブさえ観てもらえばスクールアイドルがもっと好きになってくれるはず! って精一杯の私をステージに込めたんだけど、ライブが終わった後のいろはちゃんの元気が無い様子を見てしまい、それからはずっとそんな事ばかり考えてた。

 だからみんなには内緒にしとこうって思ってた。私の余計な一言のせいでいろはちゃん達がスクールアイドルに嫌気が差したのだとしたら、今日の為にあんなに頑張って計画を立ててたみんなに申し訳がないから。みんな、私達の活動を見て新しいスクールアイドルが誕生したら嬉しいよねって、楽しそうに話してたから。

 

「大丈夫。それは千歌さんの杞憂ですわ。スクールアイドルの素晴らしさもスクールアイドルの楽しさも、彼女達には伝わっています。確実に」

 

 ……でも、ダイヤさんは優しい笑顔を浮かべ、私の目を真っ直ぐに見つめてそう言ってくれた。一人で不安になってたのが馬鹿みたいに思えるくらい、とてもとても自信に満ちた優しい笑顔で。

 

「……そう、かなぁ。そうだったらいいなぁ」

 

「ええ。それはもう間違いないですわ? ……だって、ステージの上から見えた彼女達の顔、とても輝いていましたもの。千歌さんには見えませんでしたか? Aqoursのライブを食い入るように見つめる、彼女達の楽しそうな笑顔が」

 

「え? ……あ」

 

 ……そっか。ライブ終わったあとのいろはちゃんの沈んでる顔を見ちゃったから、私すっかり忘れてたよ。

 そうだ、そうだよ。私達のステージを見てたいろはちゃん達の顔、すっごいキラキラしてたんだった! まるで、秋葉原のおっきいモニターで初めてμ’sを見た時の私みたいに!

 

「ふふふ、ね? 大丈夫でしょう?」

 

 ……そう。ステージの上からいろはちゃん達の顔を見た時は、私も凄いテンションが上がっちゃってたはずなんだ。あの顔を見た時、ライブ観てもらって本当に良かったって、そう思ったもん。

 

 ……でも──

 

「でも、じゃあなんでいろはちゃん、ライブの後あんなに暗い顔してたんだろ……?」

 

 あんなにもキラキラしてたはずなのに、ライブ後に私達と話すいろはちゃんの表情は本当に元気が無かった。それはもう、ステージの上での昂揚感なんてすっかり忘れてしまうほどに。

 

「あれは暗いというよりは、……いえ、なんでもありませんわ。それはわたくしの口から言う事でもないでしょう」

 

「?」

 

 なにかを言い掛けて途中で止めたダイヤさんの顔は、なんだか悪戯っ子のようだった。

 なんだろう? ダイヤさんには分かってるのかな。総武のみんなの……いろはちゃんの元気が無かった原因が。

 

「ダイヤさんは──」

 

「そんな事よりですわ!」

 

「は、はい!?」

 

 なにかを知っているのなら……なにかに気付いているのなら……、それを聞いてみたいって思ったから、言い掛けたなにかを聞こうとしたらダイヤさんに力強く制されてしまった。び、びっくりしたぁ!

 

「あの方達がスクールアイドルを始めるのか、それともやめておくのか、それはわたくしにはわかりません。でも、もしもこの事態を受けても尚スクールアイドルを目指すつもりなのだとしたら、その時わたくし達はどうなってしまうと思います?」

 

「え、えーと、……う、嬉しい?」

 

「ブッブー、ですわ! それは、わたくし達に強力なライバルが新たに誕生してしまう、という事です」

 

「は、はい……?」

 

「あの性格、あの容姿、あの器量、どれをとってもあの方達は間違いなく一級品。体力の方はまだまだ全っ然ダメダメですけどね。……そんな方達が甘えを捨てて本気でスクールアイドルに打ち込むようであれば、ラブライブを目指すようであれば、わたくし達もうかうかしていられませんわよ?」

 

「で、ですよねー……っ」

 

 甘え? 捨てる? それはどういう事だろ? とか思いながらも、右手の人差し指をピシィッと立て、左手を腰に添えて凄い勢いで詰め寄ってくるダイヤさんに聞き直しなんて出来るはずもなく。

 ただただ冷や汗まじりの苦笑いでYESと答える事しか出来ない情けない私です……

 

「ならば、今わたくし達がしなければならない事はなんです?」

 

「……? え、えと、い、いろはちゃん達がスクールアイドルになるのを全力で阻止……?」

 

「ブッブッブーーー! ですわ! ていうか、あなたは何をおっしゃっているんですか……」

 

「い、いやー……、なんかよくわかんなくてぇ……」

 

 あ、あはははは……、なんかすっごい呆れられちゃった。い、いや、まぁね? そりゃそんな答えじゃないって解ってたよ? ただなんかこう……、ノリに負けちゃってぇ……

 

 すると、やれやれと溜め息を吐いたダイヤさんは、呆れ顔から一転ふっと表情を柔らかくした。

 

「まったくもう……。今わたくし達がしなければならない事、それは……、どんな新人ライバルが現れたとしても、問答無用で返り討ちに出来るくらいの実力を身に付ける事です」

 

「……」

 

「今は、余計な事を考えてくよくよしている暇などないのですよ? ゼロを1に……するのでしょう?」

 

 そう言ってニッコリ微笑むダイヤさんは、本当に強く優しく、そしてとても頼りになる私の大切な先輩。

 ホント敵わないなぁ、ダイヤさんには。私達が結成出来たのも、私達にへこたれない強さをくれたのも、私達にAqoursの名前をくれたのも、全部全部、この優しいお姉さんなのだから。

 

「……はいっ!」

 

 だから私は、そんな大切な先輩へと迷いのない答えを返すんだ。ダイヤさんはとても強く優しく頼りになる先輩。だけど、Aqoursのリーダーは私なんだから。

 いくら頼りになるお姉さんだからって、いつまでもメンバーにおんぶに抱っこじゃ、いい加減リーダー失格だもんね!

 

 

 

 

 ──出会う事なんて無いはずだったこの出会い。

 このとても可笑しくてとても不思議な縁で結ばれた私達の出会いが、Aqoursに、総武高校のみんなに、一体なにをもたらすのだろう?

 それはまだ解らない。解らないけれど、このまちがいのないはずの出会いが、いつか私達といろはちゃん達の未来の輝きのカケラに繋がればいいなぁ……

 

 オレンジ色の心地よい海風にふわり髪をなびかせながらそんな事を思う、とある夏の日のとある一日の出来事でした!

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ! そうと決まりましたら明日から猛特訓ですわ! 千歌さん? わたくし達三年生が加入してからの準備期間は今日までで終了です。明日からはもう容赦しませんからね。μ’sも真っ青になるくらいのシゴキでビシバシ行きますわよっ?」

 

「ひ、ひぇぇぇ! なんかダイヤさんに火が付いちゃってるよぉ!」

 

「ふっふっふ、そんなの当然ですわっ? 東京などには絶対に負けられません!」

 

「い、いや、総武高校はお隣の千葉なんですけど……」

 

「そんなの知ってますわ! 気分です気分!」

 

「は、はぁ」

 

「お返事はもっと気合いを入れなさい! そんなんじゃ明日からの猛特訓には……って、あら? 千歌さん、電話が鳴ってますわよ?」

 

「へ? 電話? ……あっ、いろはちゃんからだ! ……な、なんだろ、ヤなお知らせじゃないよね……っ」

 

「あなた達、いつの間に連絡先を交換したんですの……? まぁそんな事より早く出なさい! くよくよしている暇は無いと言ったでしょう?」

 

 

「は、はい! えっと……

 

 

 ──も、もしもし!!」

 

 

 

 

 

 ここは沼津市内浦にある、総生徒数百人にも満たない小さな小さな浦の星女学院。私 高海千歌はこの学院に通う高校二年生。

 そして私達Aqoursは、そんな田舎の小さな女子校で一生懸命スクールアイドルやってます!

 

 

 

続く

 

 





というわけでありがとうございました。これにてAqoursパート終了となります!
いやぁ、マジで難しいです。読者さんの目にはちゃんとAqoursに見えてるのかなぁ……?
しかしそんな難儀なAqoursパートにあってダイヤちゃんの使い勝手の良さは異常(・ω・)



次回、スクールアイドルの現実を知ってしまった奉仕部メンバーは、一体どんな答えを出すのか…!?
それでは最終回でお会いいたしましょうっノシノシ


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