そして新キャラ二人追加です
原作キャラが空気となり始めました
洛陽での日々はまたたく間に過ぎていく。仕事に追われ、帰宅することすら叶わないこともあり、それでも少しだけ文句を言いつつ笑顔で出迎えてくれる一刀殿はかけがえのない存在だと思える。今この現状も充実していると思うが、涼州での一刀殿との日々のほうが私にはあっていたかもしれない、そんなことをつい部下に愚痴ったら黄色い声をあげられた。
明日は久々の休暇だった。気分転換にどこかへ行こうと一刀殿に誘われ、着ていく服を選ぼうと思ったらあまりの選択の少なさに絶望した。元々服自体もっていた数は少なく、加えてその大部分は涼州においてきている。日々の仕事が忙しく買いに行く暇というか発想すら浮かんでいなかった。どうしようか慌てふためいているとすれ違ったねね殿に鼻で笑われた。切れずに我慢した自分を褒めてやりたい。
そして当日、残念ながら恋殿とねね殿とは休みが合わず今隣りにいるのは一刀殿だけ、そして服は諦めた。気分転換にと街に繰り出すと一刀殿は少し歩くたびにすれ違う人に声をかけられていた。こっちに来ても相変わらず人気者なんだなと安心したが、こう、少し胸がムカムカするのはなぜだろうか。せっかく一緒に外を歩いているのに全然こっちを見ない一刀殿のすねを軽く蹴ってやった。
「こっちの方でね、大道芸をやってるんだよ」
手を引かれついて行った先では広い場所に開け、そこかしこで人だかりが出来ていた。どうやらここは踊ったり歌を歌ったりと芸をしているそうだ。こういったことに疎い私から見ても綺麗で楽しげな歌声に拍手が、そしてお金や食べ物が飛ぶ。一刀殿もそれに習うかのように地面に置かれたカゴに向けて小銭を投げ入れた。
「一刀殿は何をしているんですか?」
「気持ちを表したんだよ。楽しい気分にさせてくれてありがとうってね」
一刀殿いわく、こういった芸を見せて観客の満足に応じて気持ちを払うしすてむとやららしい。聞いたこともないことだったが、確かに先ほどの歌ならば少しくらいお金を払ってもいい、そんな気持ちになった。一刀殿が空のカゴに小銭を投げ入れるのを見て私も習って投げる。すると一人、また一人と真似するかのようにカゴに向けて小銭が飛んだ。
「ありがとー、また聴いていってね」
やがて小銭やら野菜やらよくわからないものやらでいっぱいになったカゴをもって、歌っていた少女は立ち去った。その空いた場所に今度は二人組が陣取り何かを始め出す。男が支える木の板に叫び声とともに魂を込めた拳の一撃を放つ。見事に粉々になった板に歓声が上がる。
「面白いよな。大人でも子供でも、認められればお金を稼ぐことができる。場合によっては召抱えられたりとかもあったりとかさ」
なるほど、先程の見事な一撃を放った男は軍でも十分通用するだろう。お金を稼ぐとともにそういった機会も得ることができる、さすが洛陽といったところか。
「あ、北のにーちゃん。今日はなにかしてかないの?」
「あー、今日は見学だから」
「えー、つまんねぇ!」
「いいじゃん、やってよぅ」
一人の少年が一刀殿に気づくと、続々と人が集まってきて、いつの間にか取り囲まれていた。急に集まってきた視線に思わず一刀殿の後ろに隠れてしまった。
「一刀殿、どうにかしてください。・・・あとできちんと説明してもらいますからね」
「うーあー、失敗だったなぁ。なにかしないと収まりつかなさそうだし、ちょこっと待っててくれる?」
一刀殿は私を引き離すと期待の眼差しでこちらを見つめる周囲に向けて、なにかないか、と呼びかけた。するとひとりの男が小振りのりんごを3つ手渡した。
「よっと」
一刀殿はりんごを順に上へ放り投げる。いわゆるお手玉というやつだ。空中で接触することなく宙を舞う。これだけならば別に特別すごいというわけではない。目を見張る光景はここから始まった。
「良い子は食べ物で遊んじゃダメだよっと。次、よろしくっ」
お手玉の最中、さらに3つりんごが投げ込まれる。一刀殿は器用にに受け取ると同じように宙を舞い、元々宙を舞っていたりんごの数と合わせると倍の6つとなった。地面に落ちることなく6つものりんごをお手玉する一刀殿に向けて歓声が沸く。
「さて、仕上げだ」
順に先程よりもひときわ高く投げられたりんごはもちろん一刀殿に向けて落ちてくる。
「なっ!」
一刀殿はその落ちてきたりんごのわずかばかりに伸びたへたを掴み取った。6つとも全ての。成功させた本人はこともなさげに周囲からの喝采と賛辞を受け止める。
「右手の3つは完熟してるからそのまま食べるのがオススメ。左の3つはまだ酸っぱいからもう少し待ったほうがいいかな」
そう言いながらりんごをくれた男に左の3つを手渡した。そして誰から渡されたのかそれとも最初から持っていたのかわからないが、手に持った包丁であっという間にりんごの皮を剥き、一口大にしてしまう。まさに早業というべき手技だ。
「げ、こっちはすっぺぇ!」
「だから言ったっしょ。ほらこっちは甘いよ」
皿に盛られたりんごは観客の手に渡り、一口食べうまいとりんごの感想と一刀殿のそのお手玉と手技を褒め称える。6つものりんごを苦もなくお手玉したこと、落ちてくるりんごのヘタの僅かな部分を掴み取ったこと、宙を舞うりんごの状態を視覚と触感で判別しきったこと、にこにこと喋っている間にりんごを食べれる状態にしたこと。
どれもこれもがそう簡単にできることではない。本当に一体何者なんですか、一刀殿。
「ほら、ぼけっと突っ立ってないで円もどう?冷えてたらもっと良かったんだけど」
差し出されたりんごを一口、しっかりとした食感と甘さはここ最近食べたものでもかなり美味しい。
「おっちゃんが作ってるの?機会があれば今度買わせてよ」
「北のにいちゃんならただでやらぁ。ちょうどいい宣伝になったしな、注文が殺到しちまってウハウハだぜっ」
男は手を挙げて走り去っていった。きっと準備に行ったのだろう。男がいなくなったところで落ち着きかけた空気が再度燃え上がる。それは声援となって一刀に降りかかった。
「兄ちゃん、次!つーぎ!」
「ほら、今度はもっとすげー事してくれよ」
「言ってくれればなんでも出すぜぇ!」
先ほどの光景を見て、商魂たくましい声も飛び交った。だがその期待に反して一刀の顔は不機嫌になっていく。ただそれに気づいたのはこの中で円だけであった。
「しゃーないなぁ。じゃあ最後にとっておきを見せてあげるよ」
一刀は手招きした先には円の姿があった。円は一度周囲を見渡して自分が呼ばれていることに気づくと慌てて一刀のそばに駆け寄った。突然の美女の登場に先ほどとは毛色の違った盛り上がりを見せる。
「か、一刀殿?」
「円は自然体で、ね」
不安げな様子を見せる円に対して一刀はそっと耳元で囁いた。その行為は周囲から二人が恋人ではないかと勘ぐらせるには十分なものであった。
突然衆人環視の中、何をすればいいのかわからず不安になっている円はその声を聞いて一旦落ち着きを取り戻す、かと思われたが次の一刀の発言で不安はピークとなり、更には混乱により思考停止へと突き落とされる。
「今からこの娘のブラジャーを気づかれないうちに脱がせます!」
誰しもがその言葉の意味を理解しきれず止まった時の中、最初に動けたのは当事者のひとりである円であった。正確には動けたというよりは反射的に動いてしまった、手が出てしまったと言えるかもしれない。
ドンっという音が後ろまで伝わった。
円の腹パンは正確に一刀に突き刺さる。声を上げることもなく崩れ落ちる一刀に唖然とし、誰ひとりとして声をかけることができなかった。そして次に認識したのは先程まで不安で小動物のような可愛らしさを醸し出していた美女ではなく、笑顔を携え刑を執行する処刑人のような空気をまとった悪鬼であった。
「一刀殿はお疲れのようでして、申し訳ありませんがここまでとさせていただきます」
「あ、ああ」
「では、失礼」
「お、お大事に・・・」
ぐったりとした一刀を軽々と脇に抱え、悪鬼はその場から消え去った。後にこの悪鬼が高順であることがバレ、勇名を轟かせたりしちゃったとかしなかったとか。
「疲れました。そろそろちゃんと歩いてください」
円はそう言い放つと遠慮なく一刀を支えていた手を放した。落下の勢いのまま地面に叩きつけられるかと思いきや、しっかりと受身を取りこともなさげにすぐたま立ち上がる。ただ少しだけ顔色が悪く、右手は砂を払いつつ、左手はお腹をさすっていた。
「ありゃ、バレてたね」
「手応えで分かります。上手く衝撃を散らされました。それに本当に気絶している人間と起きている人間では持った時の重みが違いますから」
ほぼ反射で殴ったとはいえ手応えははっきりとわかる。そしてそのことに気づいたとき、この場から逃げ出す絶好の機会だということにも気がついた。一刀がわざとあんなことを言って私を怒らせたことまで。
「私は悪くありません。謝りませんから」
「むしろこっちが謝らなくちゃな、こんなことになっちゃってごめん」
一瞬の沈黙のあと、二人して吹き出した。
「もうあんなことはやめたほうがいいですよ。今回はうまくいきましたが次があるとは限りませんから」
「そうだな、腹に穴が開くかと思った。もう少し穏便にできるよう努力するよ」
「本当に、もしこれが恋殿であれば衝撃を散らしたとしても穴があいてますよ。手加減を忘れた恋殿なんて、私でもぞっとします」
「・・・マジで気をつけるよ」
恋殿に串刺しにされる姿を想像したのか、一刀は冷や汗をかいていた。虎のようにじゃれついた拍子に引き裂かれることはないが、ドッキリを仕掛けてリアル返り討ちにされる可能性はありえそうだ、と一刀は恋には絶対に行わないように心に誓った。
「ま、お礼にしちゃ安いかもしれないけど、俺のオススメの店に行こう。ご馳走するよ?初めからするつもりだったんだけどね」
「いいでしょう、それで手打ちということで。私もただご馳走になるのであれば抑えようと思っていましたが、これで遠慮することはないですね」
「ははっ、円の良心に期待しておくよ」
世間話を交え二人寄り添って道を歩く。一刀にとって腹パンのダメージが抜けきらない自分を円が支えるという状態が情けない事この上ないのだが、支えている張本人である円はこの状態について悪い気はしていなかった。
一刀殿のオススメする店に入り席に着くと一刀殿は珍しく身体をだらけさせた。腹パンの他にも先程の大道芸は疲れる代物らしい。こともなさげにやっていたため私でも気づけなかった。
「演技だよ演技。必死にやってるよりもこれくらい出来て当然ってほうが凄いって思うでしょ。子供の一生懸命な姿はともかく、大人の必死な姿って見世物にするようなものじゃないし」
「そのようなものですか」
「そのようなものなんです。例えば円が泳げなかったとして、大勢の前で必死に練習してるところとか見せたい?」
「それは、すごく嫌ですね」
「見せるなら完璧で、かっこよく。まぁ時と場合によりけりだろうけど努力しているっていうのは見せていい時とダメな時があるよね」
「では一刀殿の先ほどの技術・・・は努力してできるようになったんですか?」
「そりゃそうでしょ。それなりの時間は費やしたつもり。円もじょこたんもちょこっと練習すればできそうな気がして複雑な気分だけど」
注文を取りに来た店員にいつもの二つと伝えると、一刀殿はあの場での経緯について語りだした。
先ほどの大道芸広場と呼ばれるものの基礎を作ったのはどうやら一刀殿らしい。いわく手っ取り早くお金を稼ぎたかったからとかなんとか。煽りまくった結果ここまで大きくなったのは計算外だったみたいだが、それなりに人気が出て稼げたようだ。いくらでも探せば普通の仕事くらいありそうなものだが、そもそもお金は生活費として少なくない額を渡しているのだけれど。
「ヒモは御免こうむる!」
どうやら譲れないものだったらしく、私が渡していたお金はほとんど手をつけていなかったようで、使っていたとしても食費程度とのこと。
一息ついたところで料理が届く。オススメというだけあってとても美味しい、のだが。
「どうしたの、円」
「いえ、そのなんというか」
「あー、もしかして苦手なものだった?」
「そういうわけではないのですが」
怪訝な顔でこちらを見る一刀殿、どうやら追求を諦める気はないらしくため息をついて白状した。
「その、一刀殿が作る料理の方が美味しいなって」
思わず小声になってしまったのはお店に配慮したから、それだけ。一刀殿の見透かしたような笑顔が直視出来なかった。
「そか。なら帰ったら腕によりをかけて作ってあげることを約束しよう。円の好きなものをね。それじゃ腹ごなしに歩きますか。せっかくだし円の新しい服でも探してみようか?」
だがその約束が果たされたのは随分先のことになる。
李儒殿の振り下ろされた手に従い、一刀殿を取り押さえる兵士。その扱いはまるで罪人のようで、決して逃すまいという強い意志が感じられた。私はただその光景を見ていることしかできず、私が見たことのないような笑顔で一刀殿は素直に従い、私たちの目の前から消えた。
そして次に私が一刀殿を見たとき、彼は皇帝の隣で不貞腐れていた。
「人質とは、本当にいい性格してるよ」
大勢の兵士に囲まれて見慣れた洛陽の道を歩く。周囲の兵士は事情を知らぬ者からすれば一刀と李儒の護衛というふうに見られるだろう。もちろん実際は逃がさないようにするための人員であり、そんな素振りを見せればすぐさま止めに入るだろう。
「そちらこそ随分と酔狂な真似を。理解できませんね、名乗り出れば地位も名誉も思いのままだというのに」
「望まない地位も名誉も俺にとってはただの重りだ。しがらみに雁字搦めにされて喜ぶような趣味は俺にはないよ」
「でも、そのしがらみのせいでこんなことになっているんでしょう?聞いた通りの人ですね、あなたは」
「・・・」
「さて着きました。どうぞ、お入りください」
たどり着いた先は高官などが住む住宅密集地帯。目の前に屋敷は恐らく李儒のもの、警備の兵に会釈し李儒とともに門をくぐった。案内された部屋で少し待つように言われ、とりあえず椅子に腰を下ろした。
「悪いこと、したな」
円にとってせっかくの休みだというのにとんだことに巻き込んでしまった。もっというならば見られたくない状況を見られた、といったところか。まったく、別に悪いことした訳でもないのにあの犯罪者を捕らえるようなやり方をした李儒が全て悪い。
これで恐らく円達にも素性が伝わるだろう。楽しかった時間もこれで終わり、これからしばらくは退屈で、大嫌いな時間が続くのだろう。そう思うとなんだか気が滅入ってくる。
「おやおや、随分としかめっ面ですな。せっかくの久々のご対面だというのに」
「こんな対面じゃなければもっと喜んだんだけどな」
李儒ともうひとり、俯き顔を伏せた少女。名を荀攸、真名は鏡花。あの曹操のところにいる軍師、荀彧の姪に当たる。心なしかトレードマークである猫耳フードも元気がないように見えた。
「もうし、わけ、ありません。一刀様」
「いやいいさ。久しぶりだね鏡花、無事で、よかった。なにか酷いことされなかったか?」
「おや、私たちは彼女を保護しただけだというのに」
「なら解放してくれると嬉しいんだけど。きっと今からでも遅くないと思うな」
「せっかく手に入れた鬼札をそう簡単に手放す訳ありませんよ。くっくっ、精々利用されてくださいよ」
李儒は積もる話もあるでしょう、と部屋から出ていった。これから彼女と俺を軟禁するであろうに随分と寛大なことだ。恐らく逃げられないことを確信する何かがあるのだろう。
椅子から立ち上がり鏡花に近づこうとしたところ、彼女は突然バランスを崩した。なんとか受け止めることができたが、抱きしめた彼女からとある異変を感じ取った。
「鏡花!?」
「かずと、さま」
異様に軽かった。羽のように軽いという比喩ではなく、枯れ木を抱いたというような絶望的な軽さだった。急ぎ椅子に座らせると彼女の身体はあまりにもやせ衰えていた。
「まさかほとんど食事を」
「ちょっとドジってしまいまして」
「・・・李儒が?」
「いえ、それ以前です。ちょっとやらかした際に監禁されてましてね。李儒が助けてくれたというのは本当のことです。私が北郷亭の関係者だということをどこからか聞きつけたのでしょう、手厚い看護をしてもらいました」
その点だけは李儒に感謝するべきだろう。目的があったとしても曲がりなりにも鏡花を助けてくれたのだから。しかしやつはなぜ鏡花のことを知っていたのだろうか。
北郷亭の情報は多いがその情報のほとんどがブラフである。それは一刀自身が流したものもあれば諸侯が流したもの、伝わるうちに尾ひれがついたものと様々だ。それはスタッフに関しても同様である。故に露出の多い一刀ならいざ知らず、他の者はほとんど知られていない。
過去、偽北郷亭騒動なんていうものもあったが、実際あまりの敷居の高さに今では本人以外名乗る者などほとんどいないのだ。徐晃ならいざ知らず鏡花がそのようなヘマをするとは思えない。
「心当たりが一人。あの女狐です」
「狐なんて生易しい女じゃないだろ・・・」
「恐らく私が監禁されたのも計画していたことなのでしょう。おかげで逃げることもままなりません。それだけの才と財力、地位がある人間はたった一人だけ」
ギリギリまで削られた体力は回復するまでに相当な時間掛かるだろう。この時代、点滴がないため食事以外の栄養補給法なんてものはほとんどない。つまり食べれなくなった時点でアウトだ。鏡花はそのギリギリ危ういラインといってもいいだろう。間に合ってよかった。
「でも、一刀様が無事で良かった。倒れられたと聞いたときは心臓が止まるかと思いました。本当に、ご無事で何よりです」
「それはこっちのセリフだ。助けてやれなくて、悪かった。鏡花が元気になるまで、俺が責任をもって傍にいてやるから」
「一刀、様」
鏡花が一刀の胸に顔をうずめた。細かく震える鏡花の小さな身体、もしかして罪悪感から泣いているのかもしれない。そもそも監禁された原因は俺にあるのかもしれないのだ。洛陽にて北郷亭をサポートしていた鏡花は、権力に近い分危険も多い。黄巾党時に無理をしていたため監禁されていたのかもしれない。
一刀は鏡花をぎゅっと抱きしめようとした、その時。
「感動の再会は済みましたか?」
まだわずかしか話していないのに無粋な声が割り込んできた。もちろん李儒である。
「積もる話も、じゃなかったのか?もう少し気を使うことを学んだほうがいいぞ」
「いえいえ、申し訳ない。緊急事態でして」
「緊急事態?」
「ええ、呂布殿がここまで来てるんですよ。一刀はどこ、ってね。なんとか張遼殿と華雄殿に抑えてもらっていますがいつ爆発するかわかりません。早急に止めてもらいたいのですが」
予想外です、と李儒はため息をついた。その顔には冷や汗と苦労がにじみ出ていた。性格は悪いが、そんな人間臭い部分が一刀はあまり嫌いではなかった。それに鏡花を助けてくれた礼もあった。
「わかった、適当に説得してくるから。つじつま、考えておけ」
「ええ、あまり荒唐無稽でなければ。それではよろしくお願いします」
一刀は部屋から出ていった。そこで残されたのは鏡花と李儒の二人。そして互いににらみ合う。
「まったくせっかくいいところだったのに、死ね」
「場合によっては呂布殿にあなたが殺されていたかもしれませんよ?」
不機嫌さを隠そうともしない鏡花を李儒は鼻で笑った。二人の間には険悪ながらもある種の気安さが込められていた。
「あんなしおらしいあなたは実に気持ち悪い。部屋に入ろうとしたとき思わず鳥肌が立ちました」
「の、覗いてたの!?しかもわざとあの状況に割り込んできたの!?死ね、あんたなんか呂布にでも斬殺されちゃいなさい!」
「いいじゃないですか。これからしばらくは彼がつきっきりで看病してくれるんですよ?その間にイチャイチャでもしててください。まぁ必要な時にはお借りしますけど」
「うっさい、一刀様が戻ってくる前にあんたなんか出てけぇ!」
手当たり次第物を投げつける鏡花をよそに、李儒は逃げるようにしてその場を立ち去った。向かう先は一刀のところ、彼はうまく呂布を説得できただろうか。
「面白くなってきました。存分に踊り狂いましょう」
外で叫び声が聞こえる。李儒の足音はその声にかき消された。
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荀攸 北郷亭『事務スタッフ』
実は一刀にこの世界のイロハを教えた少女。叔母に荀彧がいる。
お気づきかもしれないが、人によって猫を被っている。ツンデレ?
一刀と共に行きたかったが体力等の問題上泣く泣く断念、洛陽にて北郷亭のサポートを行う。
そのことに一刀も罪悪感を持っている、また先生でもあるため非常に甘い。
衣装はジャンパースカート ただ公の場では荀彧の色違いの服を着ている。(荀家の公式服のため)
裏方なので接客はほとんど行わない 一刀の前のみふりふりのエプロンを装備
ここまで読んでいただきありがとうございます
デートっぽいところをしっかり書こうかと思いましたが
無理だったためこうなりました すまんこーちゃん・・・
そしてタイトルの『渡り鳥』 あえて説明はしません
ようやく逸話部分までたどり着けそうです まぁ逸話であって事実とは違ったりするんですが
どのようにまとめていくかは腕の見せどころといったところで、ない腕で頑張ってみようと思います
次回があればよろしくお願いします