おいでませ北郷亭   作:成宮

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まさかの連投


何この茶番

 

 

 

 

 

 

 

「最近、急に黄巾党の奴らが手強くなった?」

 

「はい、他の諸侯の間でも噂になっているそうです」

 

 桂花からもたらされた情報は、曖昧で、しかしなにか引っかかるものであった。各地で暴れまわっている黄巾党のうちの一部が、官軍を押し返すほどの精強さを見せたというのだ。

 数的にはあちらのほうが有利であるが、所詮は農民や賊、武器も粗末であり、身体は痩せ細り、戦術も殆どありはしない。これまで苦戦を強いられた原因は、その圧倒的な数と神出鬼没さ故であった。

 しかしその黄巾党の一部は、ほぼ同数の官軍を打ち破ったという、これまでとは明らかに一線を超えた強さを持った部隊と言えるモノであった。

 

「まったく、面倒なことね」

 

「はい、ごく一部であることが救いです」

 

 これが黄巾党全ての変化であれば、考えるだけで恐ろしいことになっていただろう。しかし何故急にこのような変化が起きたのだろうか。軍師でもついたか、いやそれならば一部ではなく全体に及んでいるだろう。首領の張角は妙な術が使えるという、もしかするとその効果だろうか。

 幾つもの考えを巡らせるも、どれもいまいちしっくりと来ない。何故この最早滅亡が確定した段階でこのような変化が起きたか、理由がわからない。

 

「考えても仕方ないわ。桂花、他に何か情報はないの?」

 

「申し訳ありません。これ以上特に黄巾党に関しての情報は・・・あっ」

 

「どうしたのかしら?」

 

 桂花は言うか言うまいか、非常に悩んだ様子を見せた。情報を整理し、取捨選択をする能力に長けた桂花が迷うなんて珍しい。それほど曖昧で、言うべきか言わざるべきか悩む事柄であるということか。むしろそのことに華琳は興味をひかれることとなった。

 

「言いなさい、桂花」

 

「はっ、実は捕まえた捕虜から聞き出した情報なのですが・・・」

 

 さて、どんな情報が飛び出すのか。今か今かと待ち望む華琳に向けて衝撃が放たれる。

 

「北郷亭の主人が、黄巾党と共にあるという・・・」

 

 そう言い切る前に華琳は驚きのあまり椅子を蹴飛ばし立ち上がった。そこまでの驚きを表すことなんて今まで一度もなく、桂花の中では『たかが』料理人一人に何をここまで華琳様が驚いているのだろうかと疑問符を浮かべた。

 

 そして当人である華琳は、『北郷亭』と名を聞いた瞬間すべてのピースがつながっていた。そして歓喜する、ようやくしっぽを掴んだと。

 

「待っていなさい、一刀・・・」

 

 そのつぶやきは、桂花の耳には入らなかった。華琳は獲物を見つけた狩人のごとく、ギラついた目で、無意識に舌なめずりをしていた。

 

 

 

 

 

 今回この2点の情報を得ていたのは、曹操、董卓、孫策、袁紹、袁術、馬騰、劉備、そして皇帝。

 これらの軍は、これまでの動きにとある変化が見て取れた。それは今まで力押しによるほぼ問答無用での撃破だったものが一転、様々な方法を用いての降参を促す武力衝突を行わない戦いという手段に出たのだ。

 

 時には大量の軍隊で囲み、時には補給線を断って、時には交渉によって。

 

 そして何故か大多数の黄巾党はその提案に従った。一部荒れ狂った者を除いて、抵抗しなかったものは罪を許され、散るはずであった命が救われる結果となる。

 

「そうか、天和ちゃんファンクラブ第二支部も下ったか。これで残すはここと、必至で抵抗している元賊の黄巾党だけだな」

 

 一刀は安心したように微笑み、優雅にはちみつれもんを一口のんだ。張三姉妹もそれに倣って、今では飲み慣れた同じ飲み物を、味わうように口に含んだ。

 

「これほどの命が助かったのは、一刀さんのお陰です」

 

「ほんと、ちぃたちのファンがみーんないなくなっちゃったらどうしようかと思ったけど。一刀さまさまね」

 

 一刀はあの後すぐさま行動を開始した。伝令を走らせ、各諸侯に《北郷亭》の噂を流したのだ。

 数多くの有力者を虜にしたその味は、正確に作れるのは北郷一刀のみ。また、皇帝や宦官が探しているという噂もある。探し出し、連れてくればどれほどの功績になるのか計り知れない。もし黄巾党を壊滅させ、万が一その中に北郷一刀が含まれていた場合、それをなしてしまった諸侯にどれほどの罰が下されるか。

 故に諸侯は、黄巾党を戦わずして鎮圧し、更にその中から北郷一刀を探すという手間ひまをかけざる負えなくなってしまった。

 本来北郷一刀は有力者によって籠の中の鳥になることを嫌う。しかし自分の身を囮とした、戦略を選んだ。彼女たちとそのファンを守るために。

 

「いや、三人の力だよ。俺はただ料理を作って、噂を流しただけだし。黄巾党の皆を納得させた三人のほうがよっぽどすごいって」

 

「えへへー、一刀に褒められちゃった」

 

 そう、本当にすごいのは数万人いる黄巾党をほぼ掌握できた三人のカリスマ。例え諸侯がそういった行動を取ったとしても、被害が多ければいずれ覆される。北郷一刀を手に入れるのはハイリターンであるが、自分の軍が壊滅するというハイリスクを追ってまでやるべきかとは多くの諸侯は思っていないだろう。例え殺してしまっても、秘密裏に処理してしまえばいいと考えている。だから、相手が取れる譲歩をギリギリまで引き出し、素直に投降しなければならない。

 そして彼女たちのファンは、彼女たちの言うとおりに遂行しきった。一部の賊たちは抵抗を示したが、放置、場合によっては粛清によってその数を大きく減らすことができた。ひとえに彼らの力も大きい。

 

 そして今残っているのは彼女たちの親衛隊と言われる集団のみ。最近噂になっている手強い集団のことである。頭である彼女たちがいの一番に捕まっては元も子もない。残った彼らは暴れ、惨劇を巻き起こしてしまう。故に、彼女たちの親衛隊は精強でなければならなかった。

 そこで北郷一刀が行ったのは、食事によるドーピング。各諸侯から稼いだ時間の間に、現代知識に基づき、的確な食事を元にトレーニングを重ねた結果、その効果は絶大なものとなる。そしてとある将軍の調練の結果、各諸侯の最精鋭にも負けず劣らずの恐ろしい集団が生まれたのである。

 

「さて、これで幕引きかな」

 

 準備は整った。あとは彼女たちが無事に保護される諸侯と上手く接触し、俺が逃げ切るだけ。時には北郷亭店主として、時には素性を隠して幾人かの諸侯と接触したが、彼女たちを受け入れる可能性があったのは二人、劉備と曹操であった。

 劉備は極度のお人好し、曹操は彼女たちの利用価値にすぐに気づくだろう。

 ほかは頭が固く、彼女たちを受け入れてもらえるような状態、状況ではない。袁術のところにいる張勲ならばまだ交渉次第では可能性がなきにしもあらず、ではあるが正直黒すぎて何が起きるかわからないためできるだけ関わり合いたくはない。ぶっちゃけ苦手です。

 

「そういえば曹操んとこと劉備っていう義勇兵ががやたらここを狙ってきてるんだけど、一刀、なにか心当たりある?」

 

「そうね。ここが精強なのは知れ渡り始めているし、あえて危険を犯してる曹操と劉備はなにか確信を持っているのかしら」

 

「ああ。曹操は昔ちょっと、ね」

 

 二人をどうこちらにおびき出すか悩んでいるところ、ふと曹操とのやりとりを思い出した。今の状況ともマッチしているし、向こうも覚えていれば執拗にこちらを狙ってくるであろうとの推測だ。予想は大当たりで、夏侯惇、夏侯淵を筆頭に、既に幾度と無く狙われ続けている。辛くも包囲される前に離脱できているが、確実に覚えていてくれたのだろう。

 そして劉備がこちらを狙ってきているのは彼女たちにはそれしかできないからだ。義勇兵故に領地を持たず、敵を討伐、物資の鹵獲ができない彼女たちは、いくら敵が投降してきても受け入れることができない。できる手は、北郷一刀を捕獲し、それを手土産に報奨を得ることだろう。上手く行けばその報奨で捕虜も養っていくことができるようになるかもしれない。

 

「当初の予定通り、劉備か曹操のどちらかが君たちを保護するだろうね」

 

「一刀さんの『しなりお』通り、ですか?」

 

「俺だけの、じゃないけど」

 

 この青写真を描いたのは俺ともう一人。大本は俺が考え、細かいところは彼女が煮詰めてくれた。とても頼りになるのだが、少々口うるさいのが玉に瑕だ。計画が最終段階に移行したのを確認した後、さっさと立ち去った。そう、ものすごくメリハリがあるというか、いて欲しい時に何故かいるんだよね、あいつ。

 

「あの、本当に一刀さんは一緒に来てくれないんですか?」

 

 切なげに、人和がこちらを見上げる。その目には、一抹の不安が見て取れた。確かに彼女たちにとって一世一代のギャンブルだ。それを俺に託したんだから、不安なのもわかるし、俺も側で見届けたい。でも。

 

「俺がね、どこかに捕獲されることになるとぶっちゃけヤバイんだよね・・・」

 

 今回の件を見ての通り、自分で言うのもなんだけど利用価値は絶大だ。そのまま皇帝に献上してもよし、秘密裏に捉えて、今回のようにドーピングとして軍事利用するのもよし、お抱え料理人として雇ってもよし。最後くらい平和的なものであればいいんだけど、曹操のところでも、劉備のところでも前2つの未来しか見えねぇ・・・

 故にここまでやらかしておいてなんですけど、当初の予定通りこのへんで御暇させていただきたいと思います。この世界のバランスをとるためにね。

 

「えー、もう一刀の御飯食べられなくなるのー」

 

「うう、お姉ちゃん一刀ご飯食べだしてから太っちゃったのに・・・」

 

「どうせ姉さんが太ったのは胸でしょ」

 

「えー、なんで地和ちゃん分かったの?」

 

「わからいでか!?」

 

 同じ食事をして、全然胸が大きくならなかった地和ちゃんに合唱。さり気なく胸元をガードしている人和ちゃんは、こっそりと育っていたりします。哀れ地和ちゃん。

 

「包囲網も狭まってきました。逃げるならば今のうちです」

 

 人和が真面目な顔で進言する。既に今いる拠点も、曹操、董卓、袁紹、袁術に四方を取り囲まれ始めている。確かに潮時である。

 

「ああ、最後まで一緒にいられなくてごめんね。無事でいることを祈ってる」

 

「はい」

 

「一刀!またちぃたちにおいしいゴハン、作りに来なさいよ!」

 

「えへへっ、皆には一刀のこと、絶対に内緒にさせるから大丈夫だよ~。一刀も、また私に会いに来てね」

 

「ああ、またライブ、楽しみにしてる」

 

 荷物を背負い、慣れ親しんだ天幕から出ようとした時、不意に人和が近寄ってきた。

 

「あの、はちみつれもんのレシピ、ありがとうございます」

 

「ああ。材料はちょっと高いかもしれないけど、喉にはとても良いから。声は消耗品、大事に扱ってあげなよ」

 

 北郷一刀が人にレシピを教えるのは非常に稀である。料理という希少価値は、己の身を危険に晒すだけではなく、守るための重要なファクターだ。それを一部でも手渡すのは、どれだけ彼女たちを大切に思っているかが伺える。

 それを十分理解していた人和は優しげに微笑んだ。

 

「一刀さん、すみませんちょっと屈んでもらえます?」

 

「ん?内緒話?」

 

「ええ、そんなものです」

 

 一刀は人和と視線を合わせるために少し屈んだ。一般男性の平均よりもやや高い方の一刀と、女性としては小柄な人和である。内緒話をするには一刀が屈むしかない。

 

「あー!人和!」

 

「人和ちゃん、ずるい~」

 

 屈んだほっぺたに、柔らかく、湿った感触がして、顔を真赤にした人和の姿を見て、初めて一刀は自分がほっぺにちゅーされたことに気がついた。事態に気づいた二人の姉が、一刀にちゅーをする前に、人和は呆けた一刀の背中を押し、天幕から追い出す。

 

「一刀さん、ごちそうさまでした。そしていってらっしゃい」

 

 突然のことに驚き、訳もわからず走りだす。背後の天幕からは、三姉妹の、楽しそうな喧嘩の声がいつまでも聞こえてくるようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、遅かったわね」

 

「げげげ」

 

 拠点を離れ、のんびりと一人歩いていた先に待ち構えていたのは金髪くるくる(小)。側には黒髪ロングのおでこさん。

 

「誰が(小)よっ!」

 

 怒り心頭の曹操さん。そりゃ(大)がいるからね。金髪くるくる(大)である袁紹さんと外見的特徴が似ているために区別をする必要があって、ならば一番わかり易いところで分けるしかないではないか。

 

「普通に名前で呼べばいいじゃない!」

 

「それじゃ俺が面白く無いじゃないですか」

 

「そもそも私は真名をあなたに預けたはずよ。きちんと華琳と呼びなさい」

 

「えー、周囲が親しいと誤解すると、面倒な目に会いますよ?」

 

「だ、だったら二人っきりの時は華琳と呼びなさい。いいわね!」

 

 なんで急にデレたし。隣の夏侯惇将軍が完全に敵視しておるんですが。

 

「華琳様。こやつを叩ききっても構いませんね?」

 

「いや構うわ!」

 

 ダメだこのアホの子。普通に俺のこと叩き切るつもりまんまんだわ。正直こういう脳筋が2番目に面倒くさい。肉体言語でなんでも解決できると思ったら大間違いだ。ちなみに1番面倒なのは袁家の両名である。理屈が通用せず、こちらのことはお構いなし、交渉の余地はなく、我が道を疑わずに進むスタイルは尊敬できるが、搦手も一切通用しないため対処がしづらいのだ。

 

「春蘭、待て」

 

「はいっ、華琳様!」

 

 このやりとりにどことなく懐かしさを感じると思ったら、そうか、ご主人様と犬か。もし夏侯惇にしっぽが生えていれば千切れんばかりに振りきれていただろう。あー、実家の我が愛犬、いまどうしてるのかなぁ。

 

「夏侯惇将軍」

 

「なんだ?」

 

「後でこれ食べてください」

 

 そういって手に持っていた袋を放り投げる。ゆっくりと放物線を描いたそれは、俺が昼用にと作っておいた特製おむすびである。鶏ときのこをふんだんに使い、ふっくらと炊きあげた炊き込みご飯で作られたそれは、味もさることながら匂いの威力が半端ない。コメ一粒一粒にしっかりと味が染み込み、鳥の旨み、きのこの薫りがブレンドされ、初めての匂いだというのに、匂いを嗅ぎつけた黄巾党の奴らが押し寄せて大変なことになったといういわくつきである。

 

「?意味わからんが、ありがとう」

 

「いえいえ」

 

 あなたを見て、久々に愛犬の事を思い出しました、その御礼ですとは口が裂けても言えないだろう。激怒するのが目に見えてる。

 

「あら、私の分は?」

 

「残念ですが、売り切れです」

 

「そう、ならあなたを捕まえて作らせるしかないわね」

 

「隣の将軍に分けてっていえよ!」

 

 やっぱり捕まえに来たようだった。わざわざこの道に待ち伏せしてたってことは、まんまと罠にハマったということ。もしかすると伏兵を周りに配置しているのかもしれない。あれ、もしや積んだ?

 

「・・・いいんですか?指揮してなくて」

 

「問題ないわ。秋蘭がいるし、もともと本気で戦う気のない連中に、私がわざわざ指揮する必要はないわ」

 

 やはり気がついていたか。これまで戦ってきた本隊がもうその理由を失っていることを。

 

「張角、張宝、張梁の三人はどうするおつもりで?」

 

「そうね、皇帝もすっかりあなたにお熱のせいで忘れちゃってるみたいだし、それに彼女たちがいれば、あなたが鍛えた本隊をそのままこちらで吸収できるのでしょう?で、あるのならば適当に死んだことにして保護してあげるわ」

 

「相変わらず計算早いことで」

 

 やはり既に彼女たちのことも把握していたか。一を聞いて十を知る、ではないがここまで読みきってもらえると嫉妬とか以前にいっそ清々しい。

 

「そりゃ何より。じゃ俺は行きますんで」

 

「だからといって、みすみすあなたまで見逃す必要はない、わよね」

 

「欲張り過ぎは良くないですって」

 

「ええそうね、私は欲張りなの。どうしても私はあなたのことが欲しいの」

 

「か、華琳様・・・?」

 

 まるで乙女のような曹操に、見方によっては愛の告白、とも取れるかもしれない。現に夏侯惇将軍は曹操の物言いに驚き、手に持っていた大剣を取り落としている。

 だが向こうにそんな色気のある展開にしようとは微塵も思っていないだろうし、俺も決してそんなことはないことを知っている。

 

「一刀、早く私の胸を大きくしなさい!」

 

 瞬間、魏の大剣が怒りに我を忘れて襲いかかった。

 




非常にわかりにくい説明で申し訳ありません

簡単?にいいますと

(諸侯側)北郷一刀を捕まえたいけど、相手賊だから大人しく投降しないだろうしどうしよう

(黄巾党側)事体終息させたいけど、官軍に大人しく投降しても処罰されるんじゃねー?

(一刀)じゃぁ大人しく投降するから処罰しないでやってね 俺はそのどこかにいるから頑張って探してね

という茶番でした うん、これでもわけわからないね
一刀という影響力の強いファクターがいたからこそ、できた芸当ですね 阿呆ですね俺
ぶっちゃけこの展開は無理だわ―とか思いつつ、これくらいはちゃめちゃなほうが恋姫っぽい気がします

あと最後の人和のごちそうさまは、ちゅーしたことに対してではありませんw
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