「おー、結構綺麗っすね」
「みたいだな。もしかしたら律儀に掃除しに来てくれてたのかもな」
一刀たちはとある邑にひっそりと佇む山小屋、昔使っていた拠点の一つにやってきていた。久々だというのにほとんど埃が積もった様子はなく、炊事場も食材はないものの清潔を保っていた。
「くふふ、くふふふふ」
「何だその気持ちわるい笑いは」
「いやぁてんちょと二人っきりで淫蕩生活っていうのも憧れ、あたぁ!」
「お前はいきなり何を言ってるんだ」
気持ち悪い笑いを浮かべた徐晃に向けて、チョップ一閃である。徐晃ならば避けることも造作もないがそこはちゃんとノってくれるところは評価できるのだが、些かネタが不穏なところに行き過ぎている。むしろこやつM属性に目覚めているのではなかろうか。
「それに残念ながら二人っきりでもないぞ」
「・・・」
「にゃはははは」
そう背後には呂布と張飛が未だくっついて来ている。もう食料はないと勘弁願ったし、別れの挨拶を済ませたのに、である。
あのあと別れ、徐晃と二人とりあえず近くの邑へと向かった。もちろん目的は食料調達であった。道端にある食料を集めての旅は、どう考えても限度がある。というかそもそも食べられる食物が自生していることすら珍しい、それほどこの国の食料状況はよくはないのである。野生の生物を探せばいないこともないのだが、どうしても栄養は偏るし、狩猟するにしても時間がかかる上長持ちもしない。燻製にしている暇もなければ、どちらにしろそのための道具すらない。つまり現実的ではないのである。
幸いにして近くには邑があることがわかっていたので、多少無茶にはなるが目的地とすることにして歩き出した。しかし歩き出してすぐに、後ろから二つの気配が一定の距離をとって離れない。右にそれたり、左に戻ったり、時には徐晃と二人、突然走り出したりとフェイントをかけてみたりもしたが一向に気配が消えることもなく。
どうしようかと迷っているうちに徐晃がキレた。
「てめぇら、これ以上付きまとうならぶち殺すっすよ?!」
徐晃による張飛と呂布にぶち殺す宣言、歴史的に見ても恐ろしい所業であった。ただ運がいいのか悪いのか、彼女たちはその宣言には特に触れず、気まずそうに自分たちが迷子であることを明かしこちらに助力を求めた。見捨てないで、と。
いかに悪辣非道な徐晃とは言え、小動物のように上目遣いでこちらを見る少女たちを蹴りつけて逃亡なんて真似ができるはずもなく、今に至るわけである。
「てんちょ、なんか誤解を招きそうな想像、してないっすか?」
「よし、俺はこの近くの邑から食料を調達してくる。徐晃たちはここでおとなしく待っていてくれ」
一息つく暇もなく、最低限の荷物だけを持って玄関に足をかける。
「誤魔化された!?じゃあ私たちも一緒に」
「いらない」
「ふえ?!」
腰を上げかけた徐晃を手で制する。驚きの声を上げるが、こちらからしてみればむしろ連れて行く意味がわからない。ここにるまでに、あっちへふらふらこっちへふらふら、疲れた、喉が渇いた、お腹減ったと駄々をこね、いきなりくっついてきたりとやりたい放題の張飛と呂布(無言)にいちいち構っていたら時間がいくらあっても足りない。ただでさえ徐晃の世話もしなければならないというのに、俺は小学校の先生か。
「というわけでお留守番、よろしく。徐晃は二人が変なことしないように見張ってて」
「そ、そりゃないっすよー」
「二人もじょこたんの言うこと聞いて、おとなしくしてるんだぞー」
「いってらっしゃいなのだ!」
「・・・しゃい」
「すでに決定済みっすか?!」
すでにだらけモードに入った二人はぱたぱたを手を振って、お見送りしてくれる。というか呂布さん、オフトンシクノ、ハヤクナイデスカ?
「てんちょ?!てんちょー?!」
「あ、暇だったら水汲みと薪の用意お願い。準備しておいてくれればすぐに料理始めれるから」
「おー、わかったのだ」
「それじゃ、いってきます」
背後で叫ぶ徐晃を無視し、素早く小屋を出た。なんだかんだ言って面倒見は良いはずなので、適当にどうにかしててくれるだろう。一瞬このまま逃亡することが頭によぎったが・・・逃げても地獄の底まで追いかけてきそうだ。
「ひっさびさの邑だな。何かいいものでも置いてあるといいけど」
邑にありそうな食材から今度の食事の献立を想像する。お腹を空かせ帰りを待ちわびる三人を想像し、自分のポジションが完全にオカンポジションであることに気づき、北郷一刀はひっそりと凹んだ。
「典韋ちゃん?許褚ちゃんから誘いの手紙が来たって言うんで曹操様のところへいったわよ」
またお前か曹操よ。
いや正確には予想してしかるべきであった。史実でも典韋、許褚は曹操の臣下となる人物である。故に詳細な時期はわからなくとも、いずれは彼女のところへいっていただろう。それにまさか彼女でも、幼い二人に手を出すような分別くらいわきまえているだろう、うん、違いない。・・・いや微妙に心配であった。
先ほどの小屋の管理をしてくれたのは典韋。以前にここを訪れた時に知り合った、素直で誰にでも優しいちょっとだけ耳年増な少女。許褚ちゃんとともに、『兄ちゃん』『兄様』と慕ってくれた妹分、戦いなど似合わなかった彼女には、できればここでのんびりと過ごして欲しかった。と北郷一刀にはそんなことをいうような権利はないのだけれども。
八百屋を営む主人の話では、つい数日前、俺がこの付近にきたのと入れ替わるように出て行ったそうだ。できれば小屋を管理してくれていた礼を言いたかったが、それもしばらくは叶いそうにない。だって曹操のところだもの。
過ぎたことを悔やんでもしょうがない。サッサと買うもの買って小屋に戻ろう。そう思って店主に礼を言い、立ち去るために一歩踏み出したその時、突然の悲鳴が響き渡った。
「な、なんだ?!」
「あっちは橙さんちのほうじゃないか?!」
近くにいた買い物客にも動揺が走る。なにやらきな臭いもとい、面倒なことになってきた。さすれば早々と退散するべきか。
「兄ちゃん、ちょいと様子みてきてくれねぇか?」
「ですよねー」
ああ、わかってたよこんちくしょう。そりゃ自分の身が一番大事、でも何が起きたか気になる野次馬根性も持つ彼らが、対してどうでもいい外の人に様子を見てくれと頼むのはもはや定番。まるで運気を吸い取られているかのごとく重なる不幸、ああきっとあれもこれも全て覇王が悪いに決まっている。
じーと見つめる店主の視線もそろそろ痛い、いい加減動くとしよう。
「わかったわかった。後でよるから何かつけてくれよ」
「ああいいぜ。まぁ無事に帰ってきたらな」
と不吉なフラグを立てる店主。くたばれ。
といいつつ向かってみたものの、すでに現場には野次馬根性に負けた人々が壁を作り、恐らく橙さんの家だと思われるところにまでたどり着くことができない。仕方がない、これはもう無理だろうし諦めて帰ろう。
「お、兄ちゃんも野次馬かい?いやぁ女好きの橙さんがまたやらかしたんだよ」
帰ろうとした瞬間、それを引き止めるように隣にいた男が話しかけてきた。どうやら事件のあらましを説明してくれるらしい。しかしなんだろうこのRPGの強制イベントのような流れは。
「橙さんはなぁ。邑一番の色男でな、本人は自覚してないんだが色々な女の子を無意識に引っ掛けて泣かせてるんだ。まぁ気のいいやつだから、男からも好かれるような奴で今まであまり問題にならなかったんだが、しかし今回旅の女の子を1人、助けてしかも連れ帰ったようなんだ。そしたら幼馴染がついにキレちまったらしくて、橙に包丁を突き立てようとしたらしい」
なにそれこわい。ヤンデレ、という言葉はなくとも概念はあるらしい。まぁ歴史を紐解いてみれば男女の情事なんて、どろどろのぐちょぐちょでもはや日常茶飯事であるわけで。
思わず自分の状況と重ね合わせて背筋が冷たくなってきた。
ああ、帰ったら目のハイライトを消した徐晃に刺されるんだろうか。そばには冷たくなった呂布と張飛が・・・はさすがにないとして刺されるという可能性は大いに有り得そうだ。うわ、帰りたくない。
「まぁそんな状況でついに橙も年貢の納めどきか?!となったっつーわけよ」
「あれだよね。橙さん本当に男にも好かれるような奴なの?」
結婚ならいざ知らず、刺されて年貢の納めどきとか笑えない、笑えない。
「いや、ここでまた悪運というか女運の強い奴でな。たまたま旅の女の子が腕の立つ人だったらしくて紙一重で傷一つつかなかったそうだ。まぁ代わりにその女の子がちょこーっとだけ怪我しちまったようでいま治療中ってわけで。幼馴染ももうちょっと気張れよって感じだが、まぁ残念ながら一件落着だ」
「ちょこっと本音でてるけど」
とりあえずは一件落着らしい。話もしっかりときけたし、店主に報酬でももらいにいこうかね。得意げになって話を続けている男に、そろそろ礼を告げさっさと帰ろう。
「しっかし錆び付いた包丁でよかったなぁ橙のやつも。いつも手料理ばっか差し入れしてもらってたから、使わずじまいで切れ味もほとんどない鈍で―――
「もーなんで蒲公英が責められなくちゃいけないの?!」
―――俺も女の子に差し入れしてもらって・・・ってあれ兄ちゃんどこいったんだ?」
気分良く話していた男を遮るように聞こえた可愛らしい怒った声、さらに話を広げようとしていた男の視界にはすでに北郷一刀はいなくなっていた。
ついていない。
―――優しそうな人の口車に乗せられてホイホイ付いてきてみれば、いきなり怒鳴られるわ、モノを投げつけられるわ、修羅場に巻き込まれるわ。流石に刃物が出てきたから助けちゃったけど代わりに怪我もするし、もー散々だよぉ。
馬岱は怪我をした傷口を押さえながら、深々とため息をついた。まさに好奇心は身を滅ぼす。幸いにも包丁は錆びていたため深い切り傷ではなかった。これくらいの怪我は日常茶飯事の範疇、むしろこの程度のことで怪我をしたことが、彼女の現在の母替わりである馬騰や従姉妹であり姉と慕う馬超に知れた時のことを考えると頭が痛い。
かばった男は未だに腰を抜かし、取り押さえた女は憎しみの目でこちらを見る。本当に厄日だった。
「ね、落ち着いて。蒲公英はこの人のことどうとも思ってないし。あなたのこと邪魔するつもりはないから」
なだめる言葉は確かに耳に入り、女性は一旦は落ち着きを取り戻したかに思われた。だがとある光景を目にし、和らぎかけた表情は憤怒に変わる。
―――あっちゃー。なんでそんな顔するかなぁ。
馬岱のどうとも思っていない発言、その言葉を聞いた男は恐らく無意識に、ショックを受けた表情を浮かべた。なんという迂闊、想っている人の目の前で、していい表情ではない。いっそ助けなければもしかしたらいい方向に向かっていたかもしれないというIFは、本当に意味のない想像である。
馬岱はいっそこの拘束を解いてやろうか、とも考えるがいつものお茶目で済まないことは目に見えている。騒ぎを聞きつけて人も集まってきたようだ、こっそりと姿をくらます方がいいかもしれない。
「馬岱ちゃんも助かったよ。脇のあたり、血出ちゃったね。手当してあげるよ」
それは男、橙の優しさだろう。本来ならば美徳と言われる行為であるが、しかしこの場では完全に裏目、騒ぎを聞きつけてやってきた近所の人たちも白い目で彼を見ている。この空気の読めなさは逆にすごいかも知れない。
「いいよ。ほら、恥ずかしいし」
「自分じゃ分かりづらいとこだから。ほら俺結構慣れてるしちょちょいとやるよ」
むしろこれはわざとやってるのではないだろうか、脇腹の傷以外にも頭も痛くなってきた。周りは馬岱の返答を待つ、期待した眼差しを向ける橙、恐ろしい形相で睨む女性、白けた空気をまとわりつかせた周囲の野次馬。
白けるのはこっちの方。蒲公英は何もしてないのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないの?!
「もーなんで蒲公英が責められなくちゃいけないの?!」
馬岱はついに限界を迎える。反省することなど何もない、ただ人に助けてもらっただけの自分への理不尽にぶち切れて声を張り上げた。
なんて顔してるの?私が怒ったことに驚いた?
ありえないものをみた、そんな表情をした彼らが可笑しくて、もっとその表情を変えてやろうとさらに畳み掛けようとしたその時。
「はぁ、なにやってんだか・・・」
「あうっ!」
不意に背後から伸びた手は、馬岱のポニーテールを引っ張った。そのまま上げられた視界に映るのは久々に見る男の顔。
「ってカズ兄?!」
「これ馬岱ちゃんが悪いの?」
久々にあった姉の友人のような男は、相変わらず蒲公英を信用していなかった。
久々に知り合いの声がしたと思って見てみれば、思いっきり当事者だったとさ。以前涼州を訪れた際に領主の馬騰さん、その娘の馬超さん、そして馬岱ちゃんと知り合う機会があったのだが、特にこの馬岱ちゃんとはウマが合った。
なんというか学園の悪友とつるむような、そんな馴染む雰囲気を醸し出すのだ。
「相変わらず、だなぁ」
「ひっどーい。久しぶりに会ったのにその感想!」
「そりゃこんな修羅場にいるんだから。ほんとどうしようもないほどのトラブルメーカーっぷりにお兄さんも驚嘆ですよ」
「あー知らない知らないそんなこと言われても知らなーい」
先程までの空気は一変、周囲はきょとんとした顔でこちらのやり取りを眺めているだけ。計算通り、この隙にさっさと連れ出してしまおう。
「ほら、さっさと行くぞ」
「はいはーい。橙さんもありがとねー」
呆気にとられているうちに馬岱の腕を引き、体を寄せる。一瞬馬岱の顔が苦痛で歪むが、申し訳ないが我慢してもらうしかない。こんなところで長々とさせるよりかはさっさと連れ出してしまったほうがよほどいい。
「ごめん、ちょっと肩貸して欲しいかも・・・」
少し辛そうな馬岱の声、その声に応じて傍目から見てみればカップルのように寄り添って表から出る。ざわついた周囲、そこかしこから聴こえてくるヒソヒソ声。もし雑誌とかがあればどのように記事が書かれるだろうか。恐らくドロドロの展開が面白おかしく綴られているだろう。
「あー助かった」
「状況的にはあまり助かってないけどな」
現代でなくて本当に良かった。であったならば恐らくスレ建てられて祭り状態になっていただろう。そして及川が同類を見るような生易しい視線を向けてくるに違いない、うぜぇ。
「流石にこの邑じゃ買い物はもう無理だな」
「ごめんねー。蒲公英のせいで」
「まったくもってその通り。でも怪我人なんだから今だけは忘れとけ」
「今だけ?」
「そう今だけ。後でしっかり反省すること」
「えー蒲公英悪くないもん。最後はついカッとなっちゃったけど」
言いたいことも言えないこんな世の中、大人になるって辛いことだ。でもだからと言って甘やかしたりはしない。
「まぁとりあえずいいか。ほら脇腹見せてみ」
邑からは出ずに、人気のないところで腰を下ろす。流石についてくるような野次馬はいなかった。馬岱は若干頬を染めつつも、言われた通りに服をめくる、すると浅いものの無造作に荒れた傷口が姿を現す。
「やっぱ切れ味悪いのっていうのはダメだな。傷口がズタズタだ。これは治るのに時間がかるぞ」
斬るというよりは削り落としたような傷跡。更に凶器は錆びた包丁との事から感染症の疑いもある。
この世界で北郷一刀が気をつけていることの一つ、それは極力怪我をしないこと。医術、医療設備がはるかに劣る為、少しの怪我が致命傷になりかねない。特に病気にまで発展してしまうと薬などないため、そこでお陀仏となってしまう。多少知識はあってもただの一高校生、出来ることなどたかがしれている。今回の馬岱に対してもそう、怪我に対して適切な処置は出来ても、感染症はどうすることもできず、やれるのはただ祈ることだけ。
「はい終わり。ここ数日で体調が悪くなったら絶対安静にすること。いいね」
「はーい」
素直な返事に若干の違和感を覚えるが、ここは信じよう。
「ねね、蒲公英のお腹、どうだった?」
「そうだな。ちょっと丸みを帯びてきたんじゃないか?」
「えーひっどーい」
「褒めてるよ。丸みを帯びてきたってことは女性らしくなったってことでもあるんだから」
「女性らしくっていうのは嬉しいんだけど、太ったって言われてるみたいで複雑・・・」
からかうつもりが逆に少ししょんぼりとする馬岱。腹筋が割れてるような女子力を持った女の子よりかは、はるかにいいんじゃないだろうかと思うのだが。徐晃はきちんと女性らしさを保っているあたり、しっかりと教育が行き届いた結果だろう。苦労したかいがあったというものである。
「ま、移動しよう。動けそう?」
「あーうー、・・・おぶって?」
「はいはい」
とりあえず馬岱をきちんと休ませるため、移動を提案する。といっても邑に戻ることは正直やめてほいたほうがいいだろうし、放り出すこともできない。じゃぁどうするのかといえば小屋に連れて行くしかないのだが、3人が4人になったところでもう気にするようなところではない。最悪一刀が外で寝ればいいだけの話である。このじゃじゃ馬の声を聞いた時点で大体の予想は出来ていた、毒を食らえば皿まで、である。
「あ、待って。飛燕もいるから」
背に乗せるため腰を屈めたところ、馬岱が慌てて指さした。その方向にはこの邑には似つかわしくない立派な軍用馬が一頭、繋がれていた。騎兵を得意とする馬一族の名に恥じぬ名馬の貫禄がある。ぶっちゃけ怖い。
馬岱を背負い飛燕の前まで連れて行くと、飛燕は嬉しそうに馬岱にじゃれ付き、その頬に顔をこすりつける。
「わっ、くすぐったいよ飛燕」
繋いでいた縄を解くと、すぐさま寄り添ってくる。ここまで懐かれているのはちょっと羨ましい。
「馬岱ちゃんは飛燕に乗る?」
「んーそれよりもカズ兄の背中がいいかな、てへっ」
「はいはい、馬岱ちゃんはかわいいねー」
「あー心がこもってない」
「はいはい、馬岱ちゃんはあざといねー」
背後でわめいている馬岱を放置し、歩き出す。寄り添うように飛燕がついてきてくれる、本当に頭の良いこだ。徐晃と交換・・・できないだろうなぁ。
馬岱のわめき声を適当に聞き流しながら、帰路につく。そういえば、買い物は途中までしか出来なかった・・・
正直分けがわからない。どうしてこうなっているのだろうか。
小屋に戻って見た光景は、丸太の山、山、山。ものすごい数の丸太と、背後には切り株。
「あー、兄ちゃんお帰りなのだ!」
「・・・おかえり」
こちらを見つけて駆け寄ってくる二人、そばに寄ってくると隣にいた飛燕に少し目を輝かせたあと、こちらに向けて顎を少し引いて上目遣い。え、頭撫でろと?
この一帯の森林を伐採した諸悪の根源は無邪気にこちらに期待を寄せている。背後の馬岱からは細かい震え、それは恐怖ではなく、確実に笑いをこらえていることだろう。叩き落としてやろうかこの野郎。
撫でないと先に進まなさそうなので、怪我人である為やむなく馬岱を優しくおとし、ようやく空いた手でふたりの頭を撫でた。気持ちよさそうに目を細める二人、少しバカ親の気持ちがわかったようなそうじゃないような。
「うわーん、てんちょ遅いっすよー」
満足したのか今度は飛燕の方に向かう二人の後に、徐晃が飛びついてきた。迷わず回避する。
「ってなんで避けるっすか?!」
「大丈夫だ、問題ない」
「確かに問題ないっすけど」
ダイブを避けたにも関わらず空中で身体をひねり、見事に受身をとってノーダメージである。さすがの判断力と反射神経、この場面で使うには明らかに無駄であるが。
「これどうゆうこと?」
「そりゃカクカウシカジカっす」
「ほう、カウカウシカジカか」
水汲みと薪集め。
呂布は本来何度も往復して瓶をいっぱいにするはずなのだが、その瓶ごと持っていき水を汲んでくるという人間離れした行動を行う。
張飛は多ければ多いほうがいいという理論から、木の枝を拾うのではなく、近くの木を伐採し始める。それなりの量を倒し終えたあと合流した呂布と共に小屋近くに積み上げる。
徐晃は食材を集めるために森に入り、一人サボり昼寝を開始する。帰宅途中襲ってきた猪を素手で屠り予定通り食材ゲット。
「うぷっ、うぷぷぷぷ。馬鹿だ、翠姉さま並にのーきん・・・・」
絶句のする一刀の背後で馬岱は笑いすぎて悶絶。いっそそっちであればどれだけ楽になれただろうか。
「徐晃」
「はいっす!」
「今後一切お前を信用しない」
「まじっすか!?」
頭を抱えている徐晃に背を向け、馬岱に肩を貸し小屋に戻る。中は獣独特の匂い。あの馬鹿はなんの処理もせず小屋のそばに猪を放置したらしい。さすがの馬岱もしかめっ面になっている。
「とりあえず換気だな。申し訳ないが丸太か切り株にでも座って待っててくれ。今のうちに猪の処理をしてく」
「りょーかい。悪いけど蒲公英はちょーっとゆっくりさせてもらうね」
馬岱は手頃な丸太に寝転び、身体を休めた。そこに寄り添う飛燕。そしておまけの二人。ちょっとほんわか。
「ほら、徐晃は動け」
「うぅ、扱いがおざなりすぎる・・・」
徐晃に水を外に持ってくるように指示を出し、手荷物から包丁を取り出し猪のもとへ。
あ、やっぱり瓶ごとなんですね。ここにいると自分の常識が崩れ落ちそうな北郷一刀であった。