極東の城塞   作:アグナ

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台風ヤバいですね!
お陰で土曜日なのに暇という。

ところでピークは夜でしたっけ?
バビロニア見れるだろうか……(停電心配)


極東の王冠

「護堂ってば、結構勘がいいわよね」

 

 休日の校舎を歩きながら、ふと隣を歩くエリカはそう言った。

 周囲に人気は無く、遠くから休日返上で練習をしている運動部のかけ声などが聞こえてくるが、校舎の方に至っては職員室周りに僅かばかりの教師が居るのを例外に閑散としている。

 

 ──護堂のお妾となると言い、護堂の周囲を彷徨くようになった清秋院恵那という少女。その少女のせいで会話上、なし崩しの流れで現在、護堂はエリカとデートをしている最中であった。

 

 果たして馴れないエスコートに肝心要のエリカの方は最初の方こそ護堂の無作法に不満足げであったが、後半で何とか立て直してみたお陰か、彼女の機嫌は直っている。

 そして、帰り際にまだ用事が残っているとこうしてエリカに城南学院高等部、エリカと護堂が通う学校の校舎にまで足を運んでいた。

 

「……普通以下だと思うぞ。さんざん気が利かないって文句をつけられたし」

 

 主に隣の相棒に。

 しかし対するエリカはフンと鼻を鳴らす。

 

「勿論、魔術やまつろわぬ神がらみの話よ。男としての甲斐性はまだまだイタリアの幼児以下。まあ、そちらに関しては今後に期待していきましょう。なんて言ったって貴方の恋人はこの私なんだから。それなりに時間はかかるでしょうけど、これからたっぷりと貴方を鍛えてあげるわ」

 

「べ、別に俺とお前は……」

 

「あら? 俺とお前は、何なのかしら?」

 

 エリカの言葉に反論しようとする護堂。

 言葉が詰まる。果たして今日日二人っきりでデートするような男女の仲をただの友人と言って良いのだろうか、内心過ったそんな考えが護堂の言葉をせき止めた。

 

 それに対してエリカは艶やかに、挑発的に髪をかき上げながら微笑する。

 

 自分に絶対の自信を持っているからこその威風堂々。

 護堂の周りにどれだけの女性の影がチラつこうとも泰然自若。

 

 護堂には些か眩しいその在り方はとても魅力的で、初めて出会ったときから相変わらずな様に護堂は思わず見惚れる。

 

「俺は……」

 

「──まあいいでしょう。貴方が素直な人じゃないっていうのはよく分かってるしね」

 

 言葉に迷う護堂を見て、悪戯な笑みを浮かべそれ以上の追求を止めるエリカ。

 やはりこの手の話題ではエリカが断然一つも二つも上である。

 

「それにまずはこっちの用事を済ませなきゃいけないしね」

 

「あ……そ、それだ。その用事って言うのは一体何なんだよ。休日にこんなところまで来て」

 

「言ったでしょう? 最近のゴタゴタを片づける準備だって」

 

 校庭、敷地内、そして──校舎。

 学校中を汲まなく歩き回る意図はそれだとエリカは言う。

 

 最近のゴタゴタというと、やはり清秋院恵那という少女のことだろうか。

 妾だの嫁入りだと言って散々に護堂の周りをかき乱す少女。

 その一連の騒ぎに決着をつけようというのか。

 

「それで護堂? 件の貴方の直感に期待して質問。ある筋からこの校舎には妙な仕掛け──呪術何かが仕掛けたそうなの。その痕跡とか、何か感じないかしら?」

 

「……いいや、全然」

 

 エリカに言われ周囲を見渡す。

 しかし代わり映えしない校舎には変わった変化など無く、強いて言うならば休日とだけあって人気が皆無であることに普段とのギャップを覚えるくらいか。

 

 そんな率直な言葉を口にすればエリカは眉を顰めた。

 

「もっと真面目に集中してやりなさい。感性を研ぎ澄ませて。もしかしたら貴方の直感はリリィの霊視的中率より上かも知れないんだから」

 

「いや、それはないだろ。霊視なんて俺は出来ないし」

 

 霊視。

 万里谷祐理が幾度と見せ、そしてペルセウスとの戦いでは騎士にして魔女でもあるリリアナが披露した能力。

 

 しかし己にはそんな能力も技術も無いし、ウルスラグナより簒奪した権能にもその手の能力は備わっていなかったはずだ。

 

「霊視というのは、アストラル界──『生と不死の境界』に揺蕩うアカシャの記憶を読み取る能力よ。貴方がときどき発揮する異常な勘の良さは、カンピオーネの超直感が、アストラル界を覗いている可能性が高いと前々から思っていたのよ。だからちょっと試してみて」

 

 エリカの言葉が記憶の隅に引っかかる。

 アカシャの記憶うんぬんはともかくとして、生と死の境界……そんな言葉をいつか何処かで誰かに聞かされた覚えがある。

 

『─────』

 

「……え?」

 

 ふと耳に何かノイズのようなものが掠める。

 瞬間、ぞわりという背筋に謎の怖気が奔り、同時に身体が熱を灯していく。

 この感覚を護堂は知っている。

 

 『まつろわぬ神』や同族(・・)と相対している感覚だ。

 

「護堂?」

 

 スッと隣を歩くエリカを制するように腕を上げる。

 同時に瞑目し、先ほどエリカが口にしたように精神を集中し、感覚を研ぎ澄まし、校舎の気配を探っていく……そして。

 

「何となく、何となくなんだがこっちな気がする」

 

「……どうやら私の推測は意外と的を射ているのかもね」

 

 護堂の言葉にエリカは肩を竦める。

 かくして二人はともに護堂が見つけた場所へと歩く。

 

 下駄箱から校舎を後にし、校舎の裏側へと回る。

 そのまま校庭を歩いて、校舎の壁の前で立ち止まる。

 

 どうもここが気に入らない。

 敵、そう例えるなら敵の残滓が微かにそこから香ってくるような。

 それにノイズが聞こえる。いや、ノイズじゃないこれは……。

 

「……なあエリカ何か聞こえないか?」

 

「何か? いえ別に何も聞こえないけれど……もしかしてこの壁に何か仕込んでるのかしら。結界か、それとも……」

 

「いや、そうじゃなくて。言葉? みたいな……何処の言語だ?」

 

 カンピオーネとなった存在は『千の言霊』と呼ばれるあらゆる言語を習得する技能が備わっている。護堂も例に漏れず無意識のうちにそれを行使しており、だからこそイタリアなどの外国に言っても言語の壁による支障はないのだ。

 

 『千の言語』は人によって個人差はあるものの、大体が数分とかからず言語の体得を可能となるのだが、ノイズ混じりで聞こえにくいせいか謎の言語は一向に理解不能だ。明らかに外国語、それも英語や中国語といった何処かで聞き覚えがあるようなものではなく、発音的になじみがない。

 

 違和感とノイズ、その双方に護堂が頭を悩ませていると、不意に思わぬ方向から二人ならざる第三者による声が掛けられた。

 

「──結界じゃないよ、エリカさん。詳しくは言えないけれど、そこには恵那と天叢雲がちょっと仕掛けを施したんだ。……別にそこだけじゃないんだけどね。でも、王様の方は流石だね、まさか『あの人』の気配を術越しに感じ取れるなんて」

 

 弾かれたように振り向く二人。

 校庭の方から一人の少女が、清秋院恵那が近づいてくる。

 休日なのにその姿は他校の制服姿。肩にはもはや気にならなくなっているいつもの荷物が──細長い布の袋がかけられている。

 

「八雲立つ、出雲八重垣、妻籠みに。八重垣作る、その八重垣を。……知ってる? 早須佐之男命の呪歌。ちょっと前に此処に忍び込んで仕込んでおいたんだ。計八カ所、使う機会があるんじゃないかと思ってさ」

 

 親しみを持ついつもの口調。

 平時と変わらない自然体。

 だが何故だろう、今は妙なきな臭さが彼女から香っている。

 

「今日はまだ(・・)仕掛けるつもりは無かったんだよね。あの人はやる気満々というか早く終わらせたいって感じだったけど、ふたりはデートだって聞いたし、点検のつもりで来たんだけど……まあいざとなったら自前で十分とは言ってたけど」

 

 一見変わらぬ様子で、しかし僅かにその視線に剣呑さを秘めて恵那はエリカを見た。対するエリカは『紅き悪魔(ディアヴォロ・ロッソ)』の異名を取る少女は優雅に微笑んで、その剣呑な視線を跳ね飛ばす。

 

「今まさにデートの途中なの。ついでに恵那さんが用意していた悪戯の種を調べるつもりだったのだけれどね、他にも気になることが出来たわ」

 

「そう、邪魔しちゃってゴメンね? ところで気になることって?」

 

「あの人、っていうのは一体誰の事かしら?」

 

 交わされる言葉。

 穏やかかつ理性的なものであるが何処となく非友好的気配が拭えない。

 ──護堂は思わず割って入る。

 

「おいエリカ、それに清秋院も……俺の知らない間にどんな因縁があったかは知らないけど、こんなところで妙な騒ぎを起こすのだけは止してくれ」

 

「かしこまりました、旦那様……なんて言いたいところだけど、難しいかな」

 

 そういって恵那は何気なく肩の荷物を降ろした。

 

「ところで、エリカさんの質問だけど。今はまだ答えられないかな。もしかしたら頼らずに済むかも知れないしね。あの人が出てこなくて良いならそれはそれで恵那としては良いんだ。おじいちゃまとしてはつまらないかも知れないけれど」

 

 そう嘯きながら丁寧に布を解いていく恵那。

 さらに恵那は言葉を続ける。

 

「第一、恵那の目的は別だしね──ねえ、草薙さん。恵那は確かに草薙さんの女になれって言われてきたんだけど、それとは別にもう一つの目的があるんだな」

 

「目的?」

 

「私を排除することでしょう?」

 

 訝しむ護堂にエリカが皮肉げに言葉を挟む。

 それに媛巫女は「正解」といって薄く笑った。

 さながら狩りに挑む獣の如く、獰猛な、笑みだった。

 

「草薙さんは重要な人物だからね。その周りに外国の人がいるのは面白くないってことだよ。恵那はそんなのどうでもいいやって思うんだけど」

 

「あら? 日本にはもう一人、『王』が居たはずじゃないかしら?」

 

「分かっているのに言うなんて酷いなぁエリカさん。もう一人の王様は自分で群れを率いているからね。今更、実家の連中や他の人たちが割って入る間なんてないよ。恵那みたいに女を宛がおうにも相思相愛の仲の子がいるからね」

 

 布袋が地面に落ちる。あらわになったのは鞘に入った大きな刀。

 

「そういうわけで、誰かがやらなきゃいけないお役目なら避けて回っても仕方が無いでしょ? それに相手がイタリアの騎士だって聞いて興味も湧いたし、同年代じゃ恵那と仕合を成立させられるのは一人だけだし、興味が湧いたんだ。そしたらおじいちゃまが変に面白がっちゃったから驚いたけど」

 

「おじいちゃま……その神刀を授けたという正史編纂委員会の重鎮ね?」

 

「詳しいね、流石エリカさん。うん、その通り。結構怖い人で委員会の人たちは中々逆らえないんだよ……今はもっと怖い人が怒っちゃってるけど」

 

 大丈夫かなー、おじいちゃまと呟きながら恵那が鞘から刀を抜く。

 抜き身の刀身は怖気が奔るほどに美しく神々しい。

 ……もはや疑うべくもない、向こうは明らかにやる気だ。

 

(とりあえず此処は私が引き受けるわ、護堂は下がっていて)

 

(おい、エリカ……)

 

(向こうはやる気よ。話し合いではもうどうにもならないでしょう。それに貴方に加われるとあの子、死んじゃうでしょう?)

 

(まあ、そうなんだが……)

 

 緊急事態の発生にアイコンタクトで会話をする二人。

 

 如何に壮絶な得物を携えている相手であろうと相手は人間。

 神殺しの護堂の力ではやり過ぎてしまう。

 

(それに……)

 

 ──もしかしたら来ている(・・・・)かも知れない……。

 

 そんな意味深な単語を呟くと同時エリカもまた自分の得物を、魔剣クレオ・ディ・レオーネを手に取っていた。清廉な細身の長剣である。

 それを見た恵那は獰猛な笑みを深めて楽しげに笑う。

 

「お休みの学校なら祐理を気にする必要も無いし、気兼ねなくいけそうだね。王様はいるけれど万が一の時はあの人に任せれば良いし、いくよ! エリカさんッ!」

 

 言って、先に仕掛けたのは恵那。

 踏み込みと同時に壮絶なる大刀をエリカに叩きつける。

 

 ──が、流石エリカは華麗なサイドステップでそれを往なすと、お返しとばかりに恵那に向けて突きを放つ、しかし木の葉が如く恵那はひらりと簡単に避けた。

 

 一瞬の空白。相応の視線がぶつかる。

 

 そこからは弾幕のような連続攻撃の剣舞だ。

 鋼の音色を奏でながらぶつかる魔剣と神刀。

 得物の差違で動きが身軽なエリカは果敢に舞うような連続突きを放つが、一方の恵那は動きの派手さなど要らないとばかりに、いっそ朴訥な様で僅かに得物を左右へ傾げるだけ、ただそれだけで怒濤の連続攻撃が見事に捌かれていく。

 

 神刀はエリカの魔剣と比べ明らかに大きく、華奢な少女の身には扱いにくいはずなのに一切それを窺わせない恵那の剣捌き。完璧な防御術でエリカの攻撃を悉く打ち落としながら、同時に生じた間隙へとカウンターをすり込む。

 

 カウンターだけではない。視線誘導、フェイント、足さばきの陽動。どれもがエリカに一つの事柄に集中させないように働き、攻めに僅かばかりの隙を生じさせる、そしてそのたびにエリカは次につなげる攻撃をかき乱されて……。

 

「くっ……随分と手癖が悪いのね!」

 

「見よう見まねの技だけどね! 恵那のお友達にこういうフェイントとか牽制とかそういうのが凄く上手い子がいるんだよ!」

 

 攻めのエリカと守りの恵那。

 剣舞における二人の関係性は正にそれなのにどういうことか攻めているエリカの方がまるで押されているようになっている。

 

 恐ろしきは剣術における制圧力だ。一撃一撃に重きを置かず二手三手先をつかみ取るためにたたき込まれる布石の数々。それを布石と思わせない必殺の偽り方。

 さらには折り重なるカウンターが一層、エリカのペースを乱していく。

 

 なんと言うことか──まさか日本にエリカと互角以上、いや圧倒するほどの剣術を操るような少女が存在しているとは!

 

 そんなことに驚愕しながら護堂は歯がみしながら考える。

 注意したにも関わらず、斬り合いはこの通り苛烈に。

 これではどちらかが大けがをしてしまうことだろう。

 

 しかし止めることが出来るほど護堂は剣術や体術に造詣など無く……。

 

「くそっ、やるしかないか!」

 

 そういって護堂は、あろうことか激しい攻防を演じる二人の間に、無防備に割って入った。

 

「──護堂!?」

「──草薙さん!?」

 

 護堂には『雄羊』の権能がある。それがあれば重症であろうとも、権能の治癒能力で復活は可能だろう。そう見立てた無謀の突貫に二つの驚愕の声が上がる。

 

 幸い、どちらも卓越した剣士であったお陰だろう。両者の刃は護堂を傷つける寸前のところでピタリと止まっていた。

 どちらかが半端な強さの強者であったらこうはならなかっただろう。

 

 それに護堂はほっと息を吐く。

 だが安堵する護堂とは対照的に、珍しくエリカが怒りを見せる。

 

「なんてことをするの、護堂!? 馬鹿をするにも程があるわ!」

 

 あと一歩で重傷だった、暗にそう案じながらエリカは護堂を問い詰める。

 

「し、仕方ないだろ! これしか止める方法が思いつかなかったんだから……」

 

 激高するエリカに気圧されつつも弁解する護堂。

 実際、この巫山戯たチャンバラごっこを止められたので結果オーライだろう。

 

 そんな二人の様を見て、恵那はぽかんと呆けながらも苦笑するように剣を下げ、笑いながら言った。

 

「無茶するね、王様。でも少し納得かも。あの祐理が惚れるだなんて一体何があったのかと思ったけど、俺の女を守るためなら命を懸けるって奴? 意外と男前なところもあったんだ……あの人に少し似てるかもね。もっとも向こうは──」

 

 敵対者を粉砕するほど容赦が無いけど──そう、困ったように笑う。

 

「別にそういうんじゃない! 清秋院だって怪我させるわけにはいかないだろ。だいたい揉め事を刃物で解決しようとか最低だろ、話し合いとかもっと平和的な方法を選択しろよ」

 

「そっか、恵那も『俺の女』に入れてくれるんだ。ちょっと照れるな……」

 

「いやそうじゃなくて──! 誰であろうと目の前で斬り殺されてたまるかってことで」

 

 えへへと照れる恵那に護堂は強く訴える。

 だが、当の本人に言葉に託した深い意味が伝わった様子は無く、なおも刀を隙無く構え直しながらも飄然と言った。

 

「やっぱりこうなっちゃうか。おじいちゃまの読み通り……いや、こうなるように仕組んだのかな? 何にせよ保険のままで居てくれた方が皆、幸せだったかな。あの人も戦いは好きじゃないし、恵那も悪戯に場を混乱させたいわけじゃないし──」

 

 そういって諦めるように呟く彼女。

 まるであーあと大切な茶器でも壊してしまったように。

 

 そう──彼女は真実、壊してしまったのだ。

 この均衡を、氷上に立つ平和を。

 図ったように相会わなかった二つの王を引き合わせることで。

 

 苦笑いを浮かべる恵那に困惑する護堂とエリカ。

 事態を掴めない二人を傍目に──真の嵐が姿を現す。

 

『ハッ! 茶番だな』

 

 嘲弄するように、何処か苛立つように。

 虚空から声は舞い降りた。

 

『守るにも中途半端、止めるにも中途半端、覚悟するにも中途半端。挙げ句、事ここに至っても平和的解決をなどと口にする。クソジジィほどの傍若無人さも剣バカほどの向こう見ずも、先輩ほどの決断力もない、論外だ』

 

 ひたすら罵倒し、嘲弄する。

 護堂に敵意が突き刺さる。

 声の主は何処までも護堂に苛立ち、怒っている。

 

『そんな様だから──こうして俺が出張る嵌めになる。自分の女が大事ならそれ以外を容赦なくなぎ倒せよ。戦いが嫌いなら策一切を捻じ伏せろよ。全部ちぐはぐ、中途半端、嗚呼──今、理解した、俺がお前を嫌うのは、他ならないその覚悟の無さだ』

 

 天が翳る、闇が落ちる。

 曇天が空を覆い、怒れるように雷光を轟かせる。

 バチバチと帯電するその様は声の主の怒りを表しているように。

 

『二人が大事か? 戦いを厭うか? 平和が好きか? だったら選べ、選択しろ。言っておくが両立など不可能だぞ? そもそも混沌の徒、望もうが望まざるが神殺しとなったものにはそんな言い訳も自由もない。中途半端のなあなあで済ませられるのは平和な世に生きる凡夫の自由だ』

 

 望んで神を殺し、果て無き闘争に身を投げたもの。

 望まずして神を殺し、手に入れた力を人のために使うと決めたもの。

 

 どちらにも差違は無い。

 ただ其処には、『選択した』という結論があるだけ。

 何も選ばずしてただただ平穏に、平和に生きていくなど彼らには出来ない。

 彼らの自由とは選び、決断し、貫き通す傲慢と傲岸。

 

 我に比するものなしと不遜に吼え、自分の目的と意思を阻害する悉くを薙ぎ払い、打倒し、殺害する。

 

 死するいつかのその日まで止まることも諦めることも知らない。

 史上最悪にして最強、希望を担う絶望の暴君。

 

 人々よ、恐れよ。

 神々よ、怒れよ。

 彼らこそ王冠を担うチャンピオン。不倶戴天の魔王。

 

 ──神殺し(カンピオーネ)

 

 地上もっとも、悍ましく罪深い獣なり。

 

「……嘘でしょう!? やはり来ていたというの!?」

 

 戦慄と恐れを吐き出すように叫ぶエリカ。

 それに応えるように声の主は……七番目の王冠は宣戦を布告する。

 

『──一陣の風となりて、濤々たる海を渡り、広大な大地を超え、走れよヘルメス! 蒼天の具足は冥府魔道、蒼天大海すら渡りきるものなればッ!!』

 

「これは……さっきの!?」

 

 爆発し、響き渡る声に護堂が驚愕する。

 聞き覚えがある……これは先ほど耳にしたノイズの……!

 

 混沌と乱れる場に次の瞬間、特大の変化が生じる。

 護堂の足下、まるですっぽりと人一人を落とすような穴が生じ、その向こうに空が広がっている(・・・・・・・・)

 

「はぁ、あああァァァ!?」

 

「護堂ッ!?」

 

 尾を引く悲鳴。

 護堂はそのまま()へと墜ちた。

 

 手を伸ばそうとするエリカも間に合わず、抗する術一つ講じることも出来ず、そのまま、護堂は、墜ちて、墜ちて、墜ちていって……。

 

 

 ──『その領域』へと辿り着く。

 

 

「よう、後輩君。出来れば会いたくなかったぜ」

 

「アンタ、は……」

 

 一面に広がる森林。

 カラカラと乾いた空気。

 勇壮に広がる大地と彼方に見える大海。

 

 感覚で日本と異なる異国の地の環境と分かる場所だ。

 その場所に、泰然と立ち尽くす王が一人。

 

「神殺し、閉塚衛。訳あって敵対させてもらう。自分の相棒が気になるなら、この場で心を決めていけ、でなくばお前には誰一人守れない」

 

 東方に君臨する城塞が──軍神の前に聳え立った。




ほぼ原作準拠からの対衛戦。
できるだけ登場を魔王っぽく登場させたい、ってしたら何故かどっかの閣下みたくなった件。

まあ黄雷の輝きとかそれっぽいし是非もないよネ!


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