今章の峠ですね。
今更ですが戦闘シーンが多すぎてきつい件。
特に一人一人書き分けながらなので。
だが、此処を超えれば……!
なのでいざ、今章主人公一番の見せ場を!
何せ、隠しテーマとしては敵から見た主人公だったからね。
全体を通して主人公は薄味だったのだ。
蓮やら桜花の主人公周り、そして敵から見た視点。
こればっかりメインでしたのでようやく見せられるぜ……。
『剣の王』サルヴァトーレ・ドニ。
サーシャ・デヤンスタール・ヴォバン侯爵。
これまで草薙護堂は少なからず
それに加え、ゾロアスター教の経典に刻まれし神格、ウルスラグナの打倒、メルカトルとの死闘、アテネとの戦闘、ペルセウスとの決闘等々……。
神殺しとしては新米なれど、既に多くの戦い、多くの死闘を経験してきている。
また、神殺しとは即ち勝利を掴み取る者なれば、その経験値、実力差、年期の差違など些事であり、新米だから草薙護堂という神殺しが弱いということには決してならない。彼もまた神を殺しせしめた『獣』なれば、先達者たる七人の王冠に勝るとも劣らない王冠であることには疑いはない。
しかし勝てる可能性が残ることと、だから優位かは全くの別問題。
戦う上で、勝敗を分かつ大要因の一つはやはり戦闘経験である。
経験値は、そのまま知識に繋がる。戦闘に置いて未知とはそれだけで対処的行動を起こさざるを得ないのである。其れ即ち後手に回されると言うことであり、また攻撃手段が未知ならば対処する上での見切りや方法を一から構築しなければならず、逆に既知ならば対応は容易く、すぐに巻き返すことも出来る。
百聞は一見にしかず、知っているのと知らないのとでは圧倒的な差がある。
だからこそ──この戦闘推移は必然であった。
「ッ! ………クソ!!」
雷撃が肉薄する。
山羊の化身たる神獣は『鳳』に化身した護堂を掠めるように迫り、遠ざかる。
同じ《神速》であるが故にこうして見切れば何とか一撃滅殺を凌ぎきれるものの、これで同じ光景を
──アストラル界に護堂が強制召喚され、衛との戦端を切ってからおよそ数分。戦闘推移は端的に言って護堂が一方的に追い詰められていた。
フィールドたるアストラル界には衛の意図を汲んだのか異国の大地が再現されており、既に衛はその再現された大地、生い茂る森林に姿を消し、見せぬままだ。
その場に残ったのは衛の権能にして神獣たるアルマテイアと護堂だけであり、彼を打倒し、この場を脱出するにはこの神獣を速やかに倒し、操り手である衛を一発ぶん殴れば良いのであるが……。
「この……いい加減にしやがれッ! 戦うんだろ!? 出てこいッ!!」
エリカたちの心配や同族との望まぬ激突、今回のゴタゴタで堪りに堪ったストレスなど、諸々の怒りを込めるように護堂が吼える。
しかし返答は神獣の嘶きと静まりかえった緑の沈黙。
敵手たる衛からの一切の返答はなく、沈黙の意味を代弁するように再びアルマテイアの突撃が迫る。
「ぐ……おッ!」
躱す。アレの一撃は先ほど受けて身に染みている。
その威力、如何に神殺しの頑丈な肉体であっても何度も受けては無事に済むものではない。加えて本格的な戦闘に移行したためか、その出力は上昇しており、神獣が蹄で大地を踏み抜くたび小規模のクレーターが。突撃するたび、大気が焼かれ、酸素がオゾンへと電気分解により転換していく。
それは空恐ろしい威力、電力である。
嘗て、一時共闘によりヴォバン侯爵へ向けられたのを護堂は見たことがあったが、いざ自分に脅威が向けられて分かるのはこの権能の
ただ単純な威力の面を見ても神殺しの脅威たり得るものなのに、これに加えて神殺しやまつろわぬ神に容易く肉薄する《神速》や雷撃形態から地を蹴る神獣形態と姿形は変幻自在。あらゆる局面で使用可能な万能性を有している。
取り分け、威力もそうだが、厄介なのは変幻自在という点だ。
(っ……そろそろ『鳳』も限界か。となると有効なのは……!)
護堂の権能、まつろわぬウルスラグナから簒奪した『十の化身』は名の通り、ウルスラグナが神話において化身したという十の存在へとその身を変える権能である。一つの権能が十もの特性を有するというのは字面においては破格であるが、その破格さ故か権能を行使するための条件や制限があった。
例えば己を《神速》と化す『鳳』。今現在、行使する権能などは行使条件として高速の攻撃を受けること、これを代価に《神速》を行使できる。しかしそれも無制限にと言うわけでは無く、『鳳』使用中は時間経過で心臓に痛みが奔る。
その度合いは行使し続ける限り増し続け、限界を超えてしまうと《神速》は強制解除され、解除直後は金縛りで硬直してしまう。
現在、護堂の心臓の痛みは無視できない領域に到達しつつある。このままいけば後、数回の回避を待たずして権能は解除せざるを得ないだろう。だが、背後に追撃者を抱えたままそんなことになれば無防備を雷撃に打たれ、護堂は瀕死に陥る。
なればこそ、次なる化身に速やかに移行し、神獣を倒して衛を打倒しなければならないわけだが……護堂がその手を選べないのには致命的な訳がある。
(今使えるのは『駱駝』か『白馬』か。この攻撃を凌ぐのには『駱駝』が一番だけど)
先の雷撃を受けたことで『駱駝』の条件は満たされ、敵対者が神殺しあるが故、その過去にあるだろう破壊行動経験から『白馬』の条件も満たされている。
前者は蹴打の威力向上と耐久力、格闘センスの向上が獲得でき、後者は太陽フレアを地上に点射し、大破壊を齎す。
現状有効なのは《神速》を纏うアルマテイアに対抗するためにも『駱駝』だろう。衛を倒すためにもまずはアルマテイアを何とかしなければならないのは当然であり、そのためにも『駱駝』に化身するのは悪くない一手だと考えられる。
また、現状打破という意味でいっそ『白馬』に移行し、一帯を薙ぎ払うのも悪くない。さしもアルマテイアも『白馬』の一撃ならば打倒出来ようし、運が良ければ身を潜める衛を仕留めることも出来るかも知れない。
さらにこの動きにくい森林を薙ぎ払えればアルマテイアの行動も制限できるし、衛の居場所も特定できる。
どちらの化身も使えば、何らかの有利を齎すことが出来る……だからこそ、不気味で仕方が無かった。衛からのアクションが一切無いことに。
(アイツはこの神獣だけ置いて何処かに消えちまったまま戻ってこない。多分、どっかで見てるんだろうけど……一体何を考えてる? なんで何も仕掛けてこない?)
蒼天の具足……護堂が見た限りでは恐らく転移を司る権能だろう、それを以て衛はこの場から離脱した。護堂の足止め等の言動から察するに戦う気はあるはずだが、姿を消して向こう、アルマテイアを置いて行動を起こす様子は見受けられない。
最初は戦うと見せかけてエリカたちの方へ行ったかとも肝を冷やしたが、神殺しの直感が宿敵が近くに居るのを訴え続けているのでそれは無いはずだ。
だが、戦意があるというにも関わらず打つ手がアルマテイアによる一定の攻撃行動だけというのが解せない。姿を隠したからには相応の思案があるはずだ。
隙を狙った不意打ちか、或いは乾坤一擲のための準備か。
ともあれ、嘗てヴォバン侯爵戦で見せた苛烈なる怒濤の攻撃や護堂に対する怒りの感情からして何もしないという選択肢は無いはず。
伝え聞く、彼の性格。敵対者への苛烈さ、無慈悲さの程はエリカやリリアナ、祐理からも耳にしたし、他にも『堕落王』を語る人間らは総じてそれらを強調している。ならばこそ護堂としてはてっきり、ヴォバンのような絶え間ない攻撃が来ると予想していたのに……。意に反してこの通りだ。
薄気味悪い、と思う。
剥離した印象と伝聞に反する現状。
見えぬ思惑に積もり続ける疑心。
まるで釈迦の手の上で遊ばれる孫悟空の気分だ。
『Kyiiiii────!!』
「──ッ! ええい、迷うなッ!」
アルマテイアの嘶きが疑心に惑う思案の海から現実へ引き戻した。
再び雷撃を『鳳』で凌ぎながら意識を確と定める。
──やるべき事ははっきりしている。アルマテイアを打倒し、アイツに一撃を見舞い、現実に戻ってエリカたちを助ける。
「これもアンタの手の内だっていうなら……その策ごと打ち砕くだけだ!」
──我は最強にして全ての勝利を掴む者なり!
──立ち塞がる全ての敵を打ち破り、全ての障害を打ち砕かん!
定めか心と確と唱えた言霊が力となって紡ぎ上げられる。
『鳳』を消し、移行するのは『駱駝』の化身。
しかし──その間隙を狙ってアルマテイアは攻め入った。
『Kyiiiii────!!』
嘶きに同調して迸る雷光と加速する閃光。
光が如き突撃は一瞬にして護堂との間合いを踏み潰し、《神速》を失った護堂をいざ踏み砕かんと疾駆する。
対する護堂はただただアルマテイアを見て、見て、見て、見て……!
衝突寸前、アルマテイアの角に手を掛け真正面から受け止める!
『ッ────!?』
その時確かにアルマテイアの瞳に驚愕が浮かぶ。
者皆全てを粉砕する雷撃を、それも《神速》たる神獣の疾走を、よもや真正面から受け止める阿呆が現実に居ようとは……! さしも神獣にも予想できなかっただろう。
無論、代償はある。
今も受け止める護堂の両手は末端から雷撃に染まって、焼け焦げ、見るも無惨に黒ずんでいくし、壮絶な激痛が護堂の両手を襲い続ける。
しかし……!
「捕まえたぞ!!」
静止するこの一瞬。
これこそが護堂の掴んだ勝機だ。
受け止める両手、両腕に力を込め、その場で跳躍。
全身のバネを活用し、渾身の力を両脚に込めて……。
「喰らえッ!!」
打ち放つは全力の両脚蹴り。
『駱駝』の権能で跳ね上がってる蹴打は如何な神獣とはいえ、耐えうるものではない。まして予想だにしない方法で攻撃が受け止められ、無防備を晒す今なら。
『Kyiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiッッ────!!!』
絶叫するようにアルマテイアが吼える。
山羊の輪郭が消失し、稲妻たる無形の姿へと転じていく。
だが、遅い。形状変化よりも先に……蹴りが届く!
「おおおおおおおおおおおおおおッ!!」
確信とともに護堂は蹴りを穿ち、そして……。
「無茶をやる……だが、それもまた都合が良い」
「ガッ!!」
この上なく生じた隙を、衛に穿たれた。
腹部に突き刺さる蒼天の具足。
如何なる神からか簒奪した転移の権能が具現。
神鉄の防具が護堂の渾身を薙ぎ払った。
そして攻撃は終わらない。
「アルマテイア!」
『Kyiiiii────!!』
主の声と共に雷撃と化したアルマテイアが吼える。
山羊の姿を失って爆裂する稲妻の雷光。
まるで地上に降誕した第二太陽が如き輝きは、太陽に匹敵する光量で内包する電量を解き放った。刹那、悉く焼かれる大地と周囲の森林。
一帯を殲滅する光に逃れうるものなど何者も無く。
「ぐ、あああああああああああああああああああッ!?」
護堂もまた直撃を受けた。
先に受けた者とは比べるまでもない超威力。
これが『堕落王』が持つ権能の本当の威力!
だが、咄嗟に守りの体勢を築けたのと、『駱駝』の権能のお陰か、重い一撃を受けた者の何とか戦闘を続行するだけの気力を残すことには成功する。
護堂は片膝を突きながらも、ようやく姿を見せた好敵手を睨み付けた。
対して相手は冷えるような視線で以て答えを返す。
「お前の性格を考えて、最高のタイミングで詰めを打ったと思ったんだけどな。見誤ったか、お前の直感が優れていたか……生き残ったか」
「そういうアンタは高見の見物かよ……俺を倒すんだろ? 随分と弱腰じゃないか」
「……どうやらお前も勘違いしているようだな。俺をお前らみたいな無作為に何も考えず暴れ回る
「どういう意味だよ?」
舌打ちしながら心底、嫌がる衛に護堂は訝しむ。
周囲の評価、共闘からの経験。
二つから思うに閉塚衛という神殺しはどちらかといえばヴォバン侯爵のように権能任せ、呪力任せの攻撃威力を以てして敵を圧倒する苛烈な神殺しの筈だ。
衛を知るものもきっと同じ評価を下すだろう。だが知人であれば同時にこうも言うだろう。ヴォバンとの違いは彼が
「お前、防衛戦の知識はあるか?」
「………俺が素直に教えるとでも?」
「ないな、なら教えてやる。自分で語るのもアレだが、俺に取って大切なのは仲間であり、許せないのは仲間を傷つけるクソ野郎共だ。例え神であろうとも、俺の大事な友人を、恋人を、同胞を、傷つけることは許さない」
それは衛が嘗てまつろわぬアテネに語り、神殺しとなった契機であり、神殺しとなる前からずっと心に抱いてきた決意と行動原理である。
最優先するべきは仲間だ。心を通わせた知人だ。
故に矛先がひとたび仲間に向けられれば守戦の王は容赦しない。
あらゆる手段を講じて、防衛を、報復を成し遂げよう。
「だからこそ、別に俺は戦闘に対して拘りなんぞ持ち合わせていない。神殺しの中には決闘を好む輩もいるらしいがな。俺としちゃあ手段に一々手間を懸ける理由が分からんね。少なくとも俺に取っちゃ大切なのは常に仲間でそれが守られればどうでも良い」
そう、衛にとって戦闘は
仲間を守る、或いは傷つけられた報復を成すための。
故にこそ……。
「俺が力のままに権能を振るうのはそれがもっとも有効だと思うからだ。実際、アルマテイアはそこいらの者どもを鎧袖一触出来るからな。だが、お前みたいに少なからず賢しい相手なら、それに合わせた有効打に変えるさ」
暴威を暴威のままに振るうから苛烈なのではない。
手段を問わずして敵を容赦なく刈り取るからこそ苛烈なのだ。
実際、その性質は各所ににじみ出ている。
『女神の腕』による事前の情報確保などその最たるものだろう。
事実、衛は既に蓮より草薙護堂という神殺しの権能の知識を受け取っている。
条件に合わせて千変万化に転ずる『十の化身』。
それに圧倒的反射神経と観察眼で敵の意表を突くに長ける護堂の人格。
それら初見では得られないはずの情報を彼は既知のものとしている。
「闇雲に姿を晒せば、格闘能力に長けた『駱駝』の化身に、或いは先の『鳳』に補足されたろうな。後はアルマテイアを巨躯のままに振るえば『猪』出現を許したか?」
「なにを……」
衛の視線に護堂は困惑しながらも同時にゾクリと怖気を覚える。
……いや、もしかしてはき違えていたのでは無いか?
苛烈なるこの王は確かにヴォバン侯爵とその性質を似通わせている。
だが、守戦と好戦という根本的な気質の違いが呼ぶ差違は決して見逃して良いほどの差違ではないのではないのだと事ここに至って思う。
ヴォバン侯爵……どころではない。
この魔王は……!
「手は抜かんし、容赦をするつもりもない。お前の喝破は悪くなかったが、それだけだ。一連の原因がお前を中心とした騒動なのに疑いは無く、それで俺の知人に迷惑がいったのも事実だ。だからその分の報復はさせて貰う」
静かな言葉に確かな怒りを込めて宣する。
「願わくば、一方的に死んでくれ。どのみち俺を抜けなきゃお前の仲間は助けられんし、お前の明日も存在しない。忘れがちだが、お前と俺は他人だからな、どうなろうが俺の知ったことじゃねえ」
こと容赦のなさ、報復の苛烈さに関しては──ヴォバン侯爵の上を行く!
護堂は戦慄とともに確信した。
「じゃあ問答も終わりだ。改めて、詰ませて貰うぞ──アルマテイアッ!」
『Kyiiiii────!!』
戦闘再開──状況打破の秘策すら浮かばず圧倒的不利なまま戦いは続行する。
奔る無形の雷撃を『駱駝』の瞬発力で逃れながら護堂は高速で思考する。
(どうすればいい……!)
もはや残された手段は少ない。
敵は護堂に何もさせないまま嬲り倒すつもり出来ている。
アルマテイアとの一対一で何故、衛が手を出さなかったのか。
それは護堂の化身をよく知っていたからに他ならず、またその使用条件まで知っていたというならば……。
「くそ、条件を整えさせないって訳かよ!」
「ようやく可能性に気づいたな。だが、どうする? お前の横には誰も居ないぞ?」
「アンタッ……最初から!」
エリカらと分断されたのも恵那の意向を汲みつつ、勝ちへの布石として打ち込んできたというわけだ。エリカら補佐するものの存在無くして、衛に対する知識や衛が打倒してきた神々の知識もまた得られない。
全てにおいて後手を踏まされ、こうして詰みの段階まで踏み込まれている。
今まで護堂が敵対してきた相手の何れとも異なる異質の感覚。ただ激烈に闘争を望むのでも無く、ただ熾烈に尋常なる戦を演じる訳でもない。
淡々と苛烈に、一切の反撃や対抗手段を打たせずして持ち得る力と手段を尽くして敵を圧倒し、圧殺する。これが……!
「どうする後輩? お前の終わりはもうすぐだ」
七番目の王、閉塚衛……!
遂に衛という王の本質を掴み取って見せた護堂だが、やはり詰みも一歩手前だ。
姿を見せた衛は瞬間転移を活かしてアルマテイアとの変幻自在の攻防を演じる。
「足が鈍ってきてるぞッ!」
「まだ、なめんな……!」
雷撃が奔る。それを紙一重で躱した直後、すぐ正面に衛が出現する。
繰り出されるは不意打ちの蹴打。『駱駝』の化身で強化された護堂と比べれば威力は低いものの常人であれば容易く昏倒する一撃である。
尋常ならざる神殺しの反射神経を以てして護堂は対応してみせる。守りから続けざま、反撃しようと試みるも、しかし既に眼前から衛は消え失せており、代わりに頭上からアルマテイアが強襲してくる。
それを飛び退るようにして凌げば、刹那、打ち込まれる背後からの回し蹴り。
何とかそれも読み切って姿勢を下げ、地に伏すように躱した護堂であるが、護堂を踏みつけるようにアルマテイアの蹄が迫り……。
「逃げるだけかよッ! それじゃあ誰も助けられないぞ!?」
「うるさい! ことの元凶が言うに事欠いて……!」
「ハッ! お互い様だろそれは────!!」
蹴打、雷撃、蹴打、雷撃、雷撃、蹴打、雷撃──!
悪態を吐きながらも二つの攻撃手段を巧みに入れ替え、息つく暇も無く怒濤の攻めを見せる衛。先の攻防で護堂にクリーンヒットを入れたからだろう、此処が攻め時だと言わんばかりに様子見を捨てた苛烈な攻めが護堂を襲う。
『駱駝』によって格闘センス、耐久力ともに上がっているものの、受けるだけでは一方的に削りきられるだけだろう。
しかし反撃しようにも衛自身は瞬間移動で即座に姿を眩ますことが出来る上、その前兆なども皆無である。直感便りで何とか攻撃の予兆ぐらいは掴めているものの、それでも回避が精一杯。反撃に転じる時にはもう離脱されている。
さらにそういった見えない脅威にかまけていれば、見える脅威にして殺傷という意味では最も驚異的なアルマテイアが強襲してくる。
衛が瞬間移動能力を持っている以上、稲妻の放出や突撃で巻き込む心配は無く、また神獣に主を巻き込む躊躇いは一切疑えない。
両者の攻めに隙は無く、故に護堂は一方的に嬲られるのみ。
一撃だ。反撃の狼煙となる一撃が必要だろう。
その精神、恐るべき苛烈さと初志貫徹ぶりに一石を投じるためにはどうあってもあの王を動揺させる他ない。
しかし盤石たる守戦の王を乱すためにはそれ相応の衝撃が必要だろう。
護堂は紙一重でこれ以上の致命打を受けないように凌ぎながら考える。
思い返せ、言動を、攻防を、衛の信念、性格、気質を……。
勝利へ繋がる鍵は、その先にこそある!
(アイツは俺以上に友達びいきだ。俺もエリカや祐理は大切だけど、多分大事にしているって意味じゃあ悔しいけどアイツに負ける)
護堂にとってエリカたちはかけがえのない仲間である。
だが、同時に彼女たちはただ守るべき対象なのでは無く、護堂と共に今まで戦い抜いてきた戦友でもある。
彼女たちがピンチなら心配するし、助けもするが、身命を賭して何が何でも守り抜くというよりかは友達として手を貸すのが当然だから助けるというのが大きい。ゆえに何が何でも守る、あらゆる手段を賭して守るかと言われれば、護堂はそうとは言い切れない。
大切にするのと同じぐらい仲間を信頼している護堂は、そう簡単に自分の仲間がやられるわけがないと信じてもいるからだ。
仲間と分かたれながらも集中して目の前の敵と戦えるのはエリカたちなら俺が行くまで持ちこたえられるという信頼感あってこそのことだ。
対して衛はそういった信頼感があっても、それよりも先に庇護の情が出る。
如何な成り立ち、環境で育ってきたかは知らないが、遮二無二仲間を守ることが最優先であり、その他はどうでも良いという在り方は徹底して守り手だ。
闘争に懸ける願いは常に排他であり、傷つける他者への拒絶。故に容赦なく何処までも苛烈に敵対者を殲滅するまで止まらない。
仲間に抱く情も一定の信頼に託す護堂とは異なり、全て全て悉く、己の手で守り切ってみせるという一種の傲慢が垣間見える。
誰を信じられる、誰を頼れる以前に、守りたい、守らなければならないという願いが優先している結果だろう、誰よりも常に最前線で戦い続ける様は正しく城塞であり、庇護の盾である。
大小あれど、闘争を好む神殺しにはあるまじきその性質だが、しかしその性質あっての神殺しなのだろう。庇護の祈りは時として神の思惑も凌駕するのだから。
(だから、アイツの逆鱗は同時にアイツの急所になる)
故にこそ、誰よりも仲間に懸ける情が重いからこそ。
彼の逆鱗は同時に彼の急所となり得るのだ。
事実、この一連の騒動に衛が巻き込まれた要因とは仲間の存在だ。
護堂は知らぬが御老公を名乗るとある神格に沙耶宮、甘粕を権力の傘と人質に取られたからこそ衛はこの闘争に身を投じているのだ。
彼の逆鱗は同時に弱点である、その護堂の見立てに間違いは無い。
(情に厚すぎるなら、多分、信頼する何かを挫かれた時、アイツはすごく動揺するはずだ)
よってつけ込むならばそこだ。
皮肉にも閉塚衛が最も信頼するものこと彼にとっての弱点である。
そしてそれは戦いの中で護堂は容易く見いだした。
「さあ──詰めだ! 奔れ、アルマテイアッ────!!」
『Kyiiiii────!!』
もう飽きるほど見た神獣突撃。
かの神獣、雷撃の権能は衛が開戦してよりずっと頼り続ける権能である。
護堂の様子見から始まって、勝負所、今の攻防、閉塚衛の戦闘を構成する中枢に必ずあの神獣、アルマテイアが据えられている。
即ちあの権能こそがかの王が最も信頼する権能であり、かの王の弱点である。
「だったら……ッ!」
衛を倒す、そのために必要な一撃とは、あの神獣を倒すこと。
此処に勝機は見定めた。
さあ、ならば反撃の時だ──!
「──俺の『山羊』を呼び覚ました権能、アルマテイア? か。随分と信頼しているんだな」
突然投げかけられた護堂の言葉に衛が訝しむ。
「……それがどうした?」
「いや別に? ただアンタは戦闘手段は選ばないって言ってたからな。その割にはアルマテイアを頼りに戦闘を構築するアンタが気になっただけだ」
「何も不思議なことじゃないだろう。俺が戦うに当たって最も有効な一手、ただそれだけだ。それよりも──俺の権能のことより自分の心配をしたらどうだ!」
言うや否や護堂の言葉を一蹴するように衛が叫ぶ。
同時に声に合わせてアルマテイアが突撃をする。
稲妻を四方に分散させ、大気に雷撃の軌跡を刻む其れは天災に相応しきが如き威容であった。
無差別に飛来するそれを的確な見切りで避けながら護堂は言葉を吐いた。
「アルマテイア、確かエリカが言ってたな。なんでもゼウスの養母だとかどうとかって」
「……剣の言霊か。それについては把握している」
護堂の思惑を読み切ったのか詰まらなさ気に衛が言う。
──『十の化身』が第十番目の化身『戦士』の権能。
その極意は相手の神話を読み解き、言霊の剣として知識の剣を紡ぎ上げ、敵の神格を両断する『剣の言霊』。これまで多くの敵を打倒してきた護堂が切り札として据える権能である。
だが……。
「付け焼き刃の知識で『剣の言霊』は発動しない。悪いが調査済みだ、勉強不足を呪うんだな。嫌々と、現実から逃避した報いだよ。精々悔やめ」
「悔やまないさ、そして変えるつもりもないッ!」
瞬間移動で現れた衛の蹴りを回避しながら反撃と共に言葉を返す護堂。
反撃は虚空を掠め、次いで右方からアルマテイアが強襲するが、大きく後ろに跳躍してそれも躱す。
すかさず跳躍直後を狙って衛が現れるが今後は……。
「何ッ……ぐっ!」
「いい加減、こっちも馴れてきたんだ……!」
攻撃に遭わせて相殺する。
幾度も同じパターンを見せられれば護堂とて見切るのは容易い。
しかもこの王、此処までの交戦で理解したがどうにもこういったステゴロは不得手とみた。動きにエリカやリリアナほどの精細さがない。
ならば瞬間移動の兆候は分からずとも、護堂の隙を狙って何処に打ち込んでくるかと念頭に据えて網を張れば、このように対処出来る!
「……チッ。若くても同族か。だったらパターンを変えるまで……アルマテイア!」
『Kyiiiii────!!』
衛の呼びかけに応じ、アルマテイアが馳せ参じる。
嘶きを上げ、無形の稲妻から今度は鎧のように衛を覆った。
「そらッ!」
そして繰り出される、殴打、蹴打。
動きは正に素人同然であるが神殺しとしての身体能力と雷の鎧は素人体術とはいえ、まともに当たれば即死しかねない威力が込められている。
さらに殴打蹴打に合わせて時折放たれる稲妻の一撃もまた、一発でも受ければ護堂の肌を焼き、動きを麻痺させ、必殺に続く隙を作り上げるだろう。
だから躱す、躱す躱す躱す────!
あらん限りの集中力と反射でその一撃一撃を掻い潜る。
「おおおおおおおおおッ!!」
瞬間転移をも駆使した稲妻の体術は隙無く護堂の心臓、頭蓋、と言った急所を付け狙い、重要臓器蔓延る五臓六腑にねじ込まんとして襲いかかる。
直感を駆使しても瞬間移動の兆候だけはどうしても読めない。だからこそ敵の読みと攻撃の意にだけ全集中力と直感を回す。
そして躱し続ければ当然、相手も焦れ初め……そこだ。
「喰らえッ!」
敵手の絶対先制をも先んじる蹴りの一撃。
全身のバネと筋肉を余すこと無く利用した回し蹴りを衛の腹部にたたき込み……。
「無駄だ!」
効くかとばかりに問答無用の反撃を受ける。
硬質なものを蹴り飛ばす手応えと、無傷の衛。
両手で衛の掌底をガードし、吹き飛んだ先で護堂は先の感覚を吟味する。
「……守りも有りとかなんでも有りかよその神獣」
思わず何処かの言うことを聞かない『猪』と変えて欲しいと思った。
「違うな。コイツはこっちが本領だ。そしてそれだけじゃない。なあ、お前の『風』と『山羊』の権能。『山羊』はともかく……仲間がピンチだろうに使えないのは何故だと思う?」
「ッ……そういえば……!」
指摘されて思い出す。
──『山羊』の権能は精神感応を操る力であり、使用するには周囲の仲間や人々から生命力を借り受け魔力に転換して雷撃を操る力だ。仲間と引き離されている上、周囲に影響がないアストラル界での戦闘だからこそ使用できないことに疑問はない。
しかし『風』の権能はどうだろうか? 仲間の、心を通わせた知人の助けの叫びで瞬間移動を成すこの権能。現実世界でエリカを筆頭に祐理、リリアナたちがピンチだというならばこの権能の存在を知る彼女たちが利用しない筈は無く……。
「アンタが何かやってんのか!?」
「そう、俺も此処まで出来るとは思わなかったが、個人の現実が大きく世界の見方に影響するアストラル界だからだろうな。どうやらこの領域は俺の完全な支配下にあるらしい。正に城塞、いや……この場合は結界か」
城塞……先の余りの防御力といい、衛の気質といい、本質は守りにあるのだろう。
とはいえ、まさか世界そのものを支配するほどの権能とは。
正に規格外である。
いやアストラル界の事情を多く知らない護堂であるから現状、この場所が衛の支配下にある程度にしか理解できないがしかし。
「アルマテイア、守りの、城塞、そして……雷」
思い描くはこの景色、異国の風土。
カラッと晴れた陽気に緑豊かな景色、そして遠くに見える海。
得られる知識の限りを噛みしめて思い返す。
……衛がアストラル界に来てから己の権能の特性を新たに掴んだように護堂もまた無意識のまま思考の海に埋没し、本能のまま、衝動のまま、新たな一歩を踏み出した。
此処に来る前、エリカが逢瀬の時に言っていた。
アストラル界とは死と生の境界線。アカシャの記憶という情報領域が存在する異世界であると。祐理ら、巫女や魔女が行使する霊視とはその領域に刻まれた読み取る能力であると。
ならば掴め。勝利のための条件を。
アルマテイア、守りを得手とする城塞。雷を纏う山羊の化身。
その神格、その神話を紐解くのだ。
全ては勝利を掴むために。
──忘れてはならない。
彼もまた神を殺害せしめた獣、傲慢なる王者。
人類史上最強最悪の覇者たる神殺しである。
──勝機は見つけた。
──勝ち筋を見つけた。
ならば後は其処まで行き着く手段と掴み取る気概だ。
其は全ての勝利を掴み取る者なり。
全ての敵を、全ての障害を払いのけて、勝利を掴む覇者なり。
──我こそは
「──アンタが殺した女神は
故にいざ、今こそ絶対無敵の城塞を打ち破る。
勝利の剣をこの手に掴め!
「ゼウスを育てた養母にして山羊、それがギリシャ神話における神獣アルマテイアだ! だけどそれはギリシャ神話に組み込まれる過程でその姿と権威を落とした女神の仮の姿に過ぎない!」
──手に黄金の剣が宿る。
その様と言葉を理解して衛が驚愕と共に憤怒を吼えた。
「剣の言霊!? 馬鹿なッ……それは知恵の魔術のバックアップなしに発動できないはずでは……! ────…………ッ! そうか、アストラル界ッ! アカシャの記憶に触れたのかッ!!」
「そうだ! 此処だからこそ力を発揮できるのはアンタだけじゃ無いんだ!」
戦闘開始から初めて動揺を見せた衛に護堂は強く言い放った。
此処だ。此処しかない。
この攻城戦を今こそ征して見せる。
取り乱す衛を前に護堂はさらに剣に
「神獣アルマテイア、いや、アルマテイアたる女神は本来、ギリシャ神話では無くエーゲ文明……ギリシャはクレタ島を中心に発展した地中海文明における文明の女神だった! その神権は生と死、自然を従えるほど強大で、万物の女王、クレタ島の陸海空を統べる全権神として女神の頂点として君臨するほどに!」
「……
最大出力、雷撃が襲う。
もはや容赦も確実な勝利も放棄したのだろう。
殲滅のみを優先すべく呪力を全開に注ぎ込んだアルマテイアが駆ける。
その雷撃ほどに大気は絶叫を上げ、視界は雷光に眩む。
一撃、二撃、三撃と立て続けに打ち放たれるそれはもはや雷撃と言うより光線だ。万物を融解し、焼け焦がす一撃にしかし護堂は怯まない。
剣を振り、切り払い、突き進む。
「エーゲ文明における宗教観は同じ海域で見られる別々の民族に共通して、聖石崇拝、柱崇拝、武器崇拝、樹木崇拝と自然の創造物に神秘を見いだして報じる自然崇拝が大多数を占めていた、その中には動物崇拝も含まれていてアンタが殺した女神はこれら自然の、万物の頂点として崇められていたんだ!」
最初期の誕生したその女神に名は無い。
明確な神名をただ在るが儘に自然を、万物を統べる頂点に君臨していた。
元よりクレタ文明はその地理上、様々な国々と国交を経ており、それこそがクレタ島を中心に一大文明が築き上げられた要因と言えよう。
取り分け、紀元前一五〇〇頃にはクレタ島ではアナトリア宗教観、現代におけるトルコにて発展した宗教観に大きく影響を得てか、母権……母神崇拝を旨としており、女性は島の祭祀を統べる祭司長として大きな権力を保有していた。
「天上の神として全盛期には全宇宙を統べる大神格として君臨した女神は天体運行を司り、季節の移り変わりを司った! 地上では豊穣の化身として、戦では人間を守り、海上では危険な航海に際し、守り手として人々から崇め奉られた!」
「その口を閉じろよ……後輩ッ!!」
雷撃、雷撃、雷撃、雷撃、雷撃────!
地よ焦げよ、害あるもの一切を焼き切らんとばかりに降り注ぐ落雷。
その威力、激情の程からして如何に衛にとって逆鱗であるかがよく知れる。同時に言霊には敬意が垣間見えた。それはさながら恩人の恥辱を隠そうとするような、不名誉な歴史を弾劾するような憤りと思いやりが込められている。
だが、譲れないのはこちらも同じだ。今も現実で戦い続けているだろう仲間を思い、護堂は容赦も手加減もしない、言霊の剣で雷撃の雨を切り開きながら言霊を紡ぎ上げる。
「だが絶対的な権力を有したエーゲ人らが崇めた神は男権優位と共に失われていく。クレタ島におけるアルテミスとまで言われたこの神格はしかし信仰が男神崇拝になるにつれ、徐々にその神格を落としていった。同時にその過程で真実の名についても失われる。ゼウス信仰下においてクレタ島の女神を呼ぶ際にはレアーとなっているが、これはこの女神に与えられた偽りの名に過ぎない!」
「お前は……!」
女神レアー。それはクロノスを夫に戴く女神であり、ヘーシドスが『神統記』において古代クレタ信仰を参考に蘇らした伝承である。
真実のクレタ信仰において語られた女神の名ではない。
剣に言霊を宿られ尚も切り進む護堂に衛は初めて脅威を感じた。
『剣の言霊』……それは神格を裂く剣にして、衛が持つ権能の一つと効果を類似させる権能破りの一種だ。如何に守りに長けたアルマテイアであろうとも神格そのものを引き裂かれたのでは防御も何もあったものではない。
これ以上、目の前の男を好きにさせてはならない。
「逃さない、許さない、ああ──認めてやるよ、お前は俺の敵だ!」
傍迷惑な後輩、などと甘い潰し方はしない。
女神の真実に気づき、この城塞に肉薄する者だというならば。
それは明確な敵だ。
だが雷撃は届かない。言霊の剣はアルマテイアが繰り出す一撃の悉くを払いのける。ならば良いだろう。もっと
アストラル界、場の支配……それら未知の経験が与えてくれる進化はお前だけの者では無いと知れ!
「雄弁なるヘルメスよ! さあ、その言葉を届けたまえ! 疾風の如き両脚を以て、女神の裁きを地上の人々に宣するのだ!」
権能併用。頭痛が襲うが構うものか。
言霊を唱えると同時、衛が指を鳴らした。
瞬間、護堂に雷撃が直撃する──!
「があああッ、なぁッ……あ!?」
直撃を受けた護堂は苦悶に顔を歪ませながら驚愕する。
何故なら雷が放たれた瞬間、護堂は直撃を受けたのだ。
まるで過程をコマ飛ばししたような理不尽。
守る、切り払う、躱す……そういった挙動を取るより先に襲いかかった雷撃。
これでは
「まさか、例の瞬間移動! アレで雷撃を飛ばしたのか!」
「こっちに来てから向こうヘルメスから奪った権能の調子が良くてな! やって初めて出来ると確信したが……此処からは回避なんて許さない──!」
雷撃、雷撃、雷撃、雷撃──。
雷撃、雷撃、雷撃、雷撃、雷撃、雷撃──。
雷撃雷撃雷撃雷撃雷撃雷撃雷撃雷撃雷撃────!!
「ガ、ア、ア、ア、ア、ァ、ァ、ァ、ァ、ァ────!!」
痛みにショートしそうな意識。
痺れで麻痺していく感覚。
苛烈なまでの落雷の攻めは常人であれば全身が炭化するほどに凶悪だ。
耐えているのは偏に護堂が神殺しであるからだろう。
だがそれもこのまま受け続ければ終わる。
どうする、どうすべきだ!?
こうなっては回避不可能、防御不可能、殲滅不可能。
雷撃を打ち破る手段は無く──!
「だったらこれで──!! ッぐぅ!」
しょうが無いなので護堂は
瞬間移動で飛ばされる雷撃を対処するにはあの瞬間移動の権能をどうにかするしかないが今、その方法を考えていればこのようやく掴み取った勝機を逃す。
だから強引に事を収めるため護堂は発生原因となっている自らに剣を突き立てる。
「……出鱈目なッ!!」
さしもの衛も唖然と吐き捨てるが有効には変わりない。
これで雷撃は瞬間移動したと同時に切り裂かれて無意味になるだろう。
だが、同時に護堂はそのために剣を刺しっぱなしにせざるを得ないため、これでいよいよ残された時間は少なくなった。
それでも勝機と敗戦の境界で護堂は尚も勝利へ向けて手を伸ばす。
「女神アルマテイア……いやアンタ
クレタ島における太古の信仰。
その欠片として残った名は二つある。
一つはブリトマティス。若い女狩人であり、神話においてはミーノースに愛を告げられ、拒否したところを乱暴されそうになり七ヶ月の逃亡の末、海に身を投げたという。 それを見たアルテミスが娘を憐れに思い、またその身が純血のままであったことから女神として神々の列に加えたという。
彼女は海に身を投げた後、漁師の網に掛かり、そのことから網の女神として夜間、船乗りたちの前に姿を現していった。
「ブリトマティスの他にもこの女神は網の女神に因んでディクテュンナとも呼ばれた。後に狩猟網に転じるこの名は本来、ディクテー山に山の女神として伝わったクレタ島最古の女神たる側面から取ったものであり、ギリシャ人はこの名も無き女神をディクテュンナ=ブリトマティスと呼んだんだ!」
嘗て、文明の中心点に君臨し、時代の流れと共に神格と神話を忘れられ、本来の名をも失った女神──山羊の化身、女神アルマテイアと偽装した衛が操る《母なる城塞》と名付けられた権能を保有する真の女神。
「大女神ディクテュンナ=ブリトマティス! それがアンタが本当に殺した女神の名だ!」
「ッッッ!!」
喝破と共に遂に衛の間合いに踏み込む護堂。
その名が、余程衛の何かを揺さぶったのかもはやヘルメスの権能による瞬間移動さえ放棄して七番目の神殺しは目の前の男を睥睨する。
「
「おおおおおおおおおおおおッッ────!!」
黄雷の一撃と黄金の一撃が交差する。
激戦を彩る最後の交錯、全力を振り絞った末の終焉。
──周囲に静寂が落ちる。
果たして──黄雷の輝きは潰えた。
周囲に広がる異国の景色は既に無く絶対城塞は静かに陥落した。
されど、黄金剣には傷は無く──即ちは。
「約束通り、一撃。くれてやったぞ
「ああ、
護堂が宣し、全てを噛みつぶすように衛が受け入れる。
《軍神》────《城塞》を破れり。
此処に、勝敗は決した。
原作主人公には勝てなかったよ……。
ふ、主人公相手に自分語りなんかするからこうなるのですよ。
まあ本当の敗因はギリギリまで護堂君を敵じゃ無くて障害だと思ってたその思い違いにこそあるんですが、後、事の元凶に向けて力を抑えていたり。
ともあれ、これにて一番の戦闘シーンは終了。
くー、疲れました!
執筆時間半日は過去最長ですね。
……まあ今章はまだ終わらないんですがね。
そしてようやく明かされる衛君が殺した最初の神様。
大女神ディクテュンナ=ブリトマティス。
まさかのアルマテイアはただの偽装というオチ。
多分、聞いたこと無いと思うね。
何せ作者も最初はアルマテイアを殺害しようとしたことにしてて、クレタ島関係で調べた時に初めて知った神様だからね。
《母なる城塞》の効果範囲は実はわかりにくい伏線だったという。
雷 = 力のある神様の象徴。
結界 = 土地を支配していた神の暗喩。
豊穣 = アルマテイアへのミスリード。
ゼウスの親 = 嘘は言っていない。
細かく上げるとまだまだある権能の効力。
どう考えてもアルマテイアだけで収まる神権じゃないよネ!
《母なる
やっぱり最初の権能はクッソチートじゃなきゃ。
ともあれ、結構頑張った戦闘回。楽しんでくれれば幸いです。
感想とか評価とか誤字報告とかお待ちしてます。
……本当は、誤字報告はお待ちしたくありませんが。
ふふ、誤字は我が友……これが諸行無常か(違)