麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
「ふんふんん♪」
ペラりと本をめくる音を出しながら、女性はそこにいた。本を読みながら鼻歌を奏でている。
カフェのテラスに座って、まるで休日の午後のように読書を楽しむその姿は美しい。整った顔立ちに、腰辺りまで伸ばした薄いクリーム色の髪の毛。年は二十代を思わせ、服装もおしゃれとは言えないが、その辺の町娘とは全く比べ物にならないのが分かる。いい所のお嬢様なのだろうか?
そんな彼女は『今』でなかったのなら、歩いている歩行者をこぞって立ち止まらせるだろう。そう、今でなければ。
普段なら見惚れる人達も、今は彼女の姿は見えない。いや、見る暇が無いと言った方が正しい。
なぜなら……………
「おい嬢ちゃん!逃げなくてもいいのかい?」
「ひゃはは、そんな所で本なんか読んでないで、おじさん達とイイコトしようぜ」
ぐへへへ、と海のならず者『海賊』が女性を取り囲む。それでも女性は本を読む事を止めない。
事態が理解できていないのか?はたまた、理解できて尚本を読み続けるのか?
答えはどちらもだ。女性は自分が滞在している街が、自分が、海賊に襲われていることなどどうでもいい。どうでもいいから、そんな周りの事なんか知るか。どうでもいいし、知らないから、本を読む邪魔をするな。そう思っているだけだ。
女性、スマラが滞在している街が海賊に襲われたのは、つい数十分前の話だ。
いつもどおり、昼食後にカフェで本を読んでいると、急に現れた海賊が街を襲い始めたと言う訳である。そして現在、スマラはというと……………
「ふんふん♪」
「んだ!ゴラァ!!」
「無視してんじゃねぇぞぉ!!!」
「ああ゛ぁ!!舐めてんのか!!?」
スマラは海賊達の声が全く聞こえていなかった。
聞こえていない、を無視されていると取った海賊達は、腰に納刀されているサーベルやピストルを抜く。そして、切りかかる、発砲とそれぞれの攻撃手段でスマラの手足を狙う。手足を攻撃して動けなくなったところで、慰み者にしようと言う考えなのだろう。実にならず者らしい考え方だ。
そして、海賊達のサーベルが、ピストルの銃弾がスマラに当たる瞬間、スマラは置いてあったコップに手を伸ばす、本のページをめくる、足をパタパタと動かすと言った何気ない動作で海賊達の攻撃を避けた。
「あ?避けただと!!??」
「ま、マグレだ。もう一回やれ!!」
「オォォォ!!!」
さっきのはマグレだ、と言いながらも今度は手足をなどではなく、心臓、胴体、頭といった急所を狙って再度攻撃を仕掛けてくる海賊達。二度目の襲撃は、本から目離さずに動かないスマラを見た海賊達は「殺った!」と思う。
しかし、現実はそうならなかった。
スマラに当たった瞬間、刃や弾は肉体を破壊するどころが勢いが反射した。反射した勢いは、サーベルを持っていた者なら腕が折れるようにして、ピストルで撃った者なら自身の弾に撃ち抜かれるようにして、攻撃した本人に返された。
「あれ、いたの?」
攻撃を反射されて受けたダメージで地面に這いつくばっている海賊達を見て、スマラは今更自分が海賊達に襲われていた事を知った。すでに伸びておる海賊達を不愉快そうに睨むと、スマラは歩き始める。ぶらぶらと歩くスマラ、それを見つけるとゴキ〇リホイホイの様に集まってくる海賊達。スマラはそんな海賊達を気にせず歩く。
街を襲撃していた海賊の船上で一人の大男がふんぞり返っていた。海賊団の船長だ。その大男に一人の伝令役の海賊がやってくる。
「ハァハァ!ほ、報告します!」
「ん?あぁ、粗方奪えたか?ならば――――」
伝令役の海賊が何時も通りの報告をすると思った大男は撤退の準備を促そうとして、伝令役の海賊に遮られた。
「街に上陸した野郎どもはほぼ壊滅状態です!!」
「はぁ!!?百人はいたはずだぞ!!?一体誰にやられた。まさか、海軍でもこの街に居やがったのか!!」
「いえ!ただの女一人です」
「……………………」
伝令役の部下に、約百人の部下がやられたと報告を受けた船長は、黙ってプルプルと肩を震わせた。怒りだ。今まで何回もの街を襲撃してきた部下共が、たった一人の女に負けたと言われたのだ。海賊団の威厳が簡単に壊されたと船長は思ったからだ。
だが、こんな時に起こった事に対して憤怒を抱いているだけでは、船長として成り立っていかない。部下の下っ端海賊達はバカだが、船長は違った。
船長はすぐさま行動に移る。
「おい、今すぐに撤退の準備を整えろ!街で伸びてる奴らは置いておけ。良いか、出港準備が最優先だ!!行け!!」
「へ、へい!!」
部下に船長命令を下すと、船長は椅子にドガッと座り込み、自身の武器の手入れをし始めた。
船長が武器の手入れをし始めた理由は戦おうとか、時間を稼ごうとか、そういったものではない。そう言った事は部下に任せればいいだけだ。なら、何故戦う準備とも取れる行動を緊急事態にしなければならないか?と言うと、最悪の事態を想定してだ。
最悪の事態とは、正体不明の女が海兵または世界政府もしくは賞金稼ぎ、同業の海賊でやむを得ず戦わなければならない事態に陥った時のことである。
「クッソ、この辺りは海軍の見回りが少ないはずだったな。なら、他の海賊か?」
船長は同業者の海賊団を思い浮かべる。東の海(イーストブルー)最高懸賞金で魚人の集団であるアーロン一味、船長が悪魔の実能力者であるバギー海賊団、女でありながら腕っぷしが強いアルビダ海賊団、数年前に船長が捕まって処刑されたクロネコ海賊団、5000人の兵力を所有するクリーク海賊団。
東の海(イーストブルー)で有力な海賊団を思い浮かべる船長だったが、どれも『女一人』という情報にピンとこない。唯一条件に当てはまるアルビダでも、被害状況に当てはまらない。
兎に角、
「兎に角、早く出港しねぇと」
「そうね、早く出港して貰いたいわ」
「あいつらおせぇぞ。早くしねぇと……………………て、テメェは誰だ!!?」
余りにも自然に独り言に返してきた声に船長は初め、全く分からなかった。
どういうことだ?部屋に人が入って来る気配が感じられなかったぞ。それに、不自然に静かだ。船長はそう思いながら、声の主を観察する。
クリーム色の長髪が特徴の女だ。おしゃれとは言えない服装だが、値が張ると分かる。無機質な目でこちらを見ている姿は、けだるく疲れているようにも見えた。
「(こいつが部下共をやった犯人か…)テメェは誰だと聞いている。どうやって此処まで来た?部下共が居たはずだが……………………まさか素通りって訳はねぇよな」
「私が誰とかはどうでもいいわ。名前を名乗った所で、どうせ知りもしないでしょう?どうやって此処まで来たか?と言われても、ただ歩いて来たとしか言いようがないわよ。私に向かってきた人達は勝手に倒れていっただけだもの。安心しなさい、殺してはないわ。足になって貰うもの、船を動かす最低限の人数は残っているわ。……………所で貴方……」
「テメェ!!!何が目的だ!!」
今まで冷静だった船長も所詮は海賊、遂に頭に血が上ってしまい、女――スマラに向かって剣を上段から振り下ろす。確実に脳天に当たった、そう思った瞬間力が反転し腕の構造を無視して弾かれる。が、ここで終わらないのが一船の船長である意地なのか、無防備であるはずのすらっとしたくびれがあるお腹に向かって、回し蹴りを叩き込む。
今度は弾かれない。そう確信した船長は口元をニヤリと意地汚い笑いを顔に思い浮かべて……………………強靭な痛みに意識を失った。
船長の回し蹴りは確かにスマラにヒットした。しかし、回し蹴りがヒットしたくびれ部分を見てみると、黒く変化している。まるで肌が鉄の鎧を着たみたいに硬化したのだ。唯の足が鉄に匹敵するはずもなく、船長の足はゴキッと音を立てて折れ曲がったのだ。
東の海(イーストブルー)では殆ど使う者の存在しない技術、『武装色の覇気』を解除したスマラは痛みに倒れる海賊団の船長を、何でもない物を見るかのように見ながら、独り言でポツリと
「データベースで賞金首と確認完了。本代を獲得」
目の前に倒れる男を海軍に引き渡すと得られる賞金を思い浮かべて、表情を緩めた。だが、緩めた表情を直ぐに一転させる。今後の移動について考えたからだ。
「はぁ、能力の連続使用で疲れたから穏便に済ませようとしたのだけど………何で襲って来るのかしら?」
スマラは元々、今日の昼過ぎで出港する予定の船に乗って近くの島に移る予定だったのだ。それが海賊団の襲撃によって予定がズレてしまう。海賊が襲撃してきたのに、予定通りに暮らす者などいないだろう。そんな島があるとしたら強力な保護を得ている島しかない。海軍然り、四皇然りだ。
この島で船が出港するまで待つのも良いが、どうせなら元凶である海賊船に乗せて貰おうと、スマラは船長室を訪れたわけだったが。話し合いが起こる前に船長が攻撃を仕掛けて来た為、正当防衛で攻撃をせずに倒したわけだ。
「さて、どうしようかしら?流石にこの大きさの船は能力で動かすとなれば、疲れるわね」
スマラは考える。このまま復旧が整うまで待つか、それとも多少無理をしてこのガレオン船で適当な島まで航海するか……………………。
スマラが出した答えは、
「とりあえず船内の探索でもしましょうか?」
問題の先送りだった。めんどくさい事は後で考えよう、船内を探索している内に良いアイディアが出るかも知れない。実にスマラらしい考え方である。
スマラが海賊船を探索した結果見つかったのは、貯めていた財宝が幾つか、スマラ一人では何か月分にもなる食料、それと、
「なんだ、小舟があるじゃない。これくらいなら大した疲労もなく動かせるはずだわ」
船を島に定着できない時の為だろうか?小舟が二隻しまっていた。
スマラは早速、財宝と食料を幾つか貰い(強奪)能力を使って背負うタイプのリュックサックに詰め込むと「ここにはもう用がない」とばかりに人知れず島を出た。
もしこの場に小舟が無くて、スマラが島の復旧を待っていたのなら、この後に起こるスマラの人生を変える者達と出会う事はなかっただろう。この運命がスマラにとって吉と出るか?凶と出るか?それは神様とやらにしか分からない。
「あ、船長を縛ってくるの忘れた。…………………ま、いっか。大した金額でも無かったし」
案外と抜けている所があるスマラであった。彼女を乗せた小舟は当てもなく、波任せに進む。