麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?   作:与麻奴良 カクヤ

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半年……知らない子ですね。


六十五頁「2年後」

 凪の帯、女ヶ島より北西の無人島『ルスカイナ』

 48季と言い、週に一度季節の変わる過酷な環境の島。

 そんな過酷な島で、

 

 

「ゴムゴムの~~~JETピストル!!」

 

 

「JETウイップ、JETスタンプ、JETガトリング!!」

 

 

 

 スマラはゴム人間の猛攻を受けていた。

 これまで通りゴムの特性活かした攻撃。楽園レベルの海賊なら一撃一撃が必殺技級。それをギア2で加速させて速度と攻撃力をアップ。

 2年前ならば、億越えにすら少なくないダメージを与えられる事が可能な攻撃。

 

 それに加え、武装色の覇気を攻撃に纏っている。

 新世界でも十分に通用する攻撃だ。

 そんな攻撃を受けているのは……

 

 

「ハァハァ…。どうだ!!効いたかこの野郎!!」

 

「……野郎ではないと言っても無駄よね」

 

 

 この2年間(正確にはレイリーがシャボンディ諸島に帰ってからの半年間)ルフィの修行相手として島に留まっているスマラだ。

 修行なのだからと能力を使わずにルフィの攻撃を防御。それはつまり、生まれ持った肉体と武装色の覇気のみでガードした。ノックバックは僅か数センチ。

 

 

「……ま、見聞色の覇気で相手の出方を見て、武装色の覇気で纏った攻撃を当てる。少しは成長したのでは?」

 

「涼しげな顔で言われても嬉しくねぇぞ!! 何回か避けられるし、捕らえても平気な様子だしよ…。何でだぁ!!?」

 

「当然よ。貴方よりも覇気の精度が高いもの。経った2年でそれなりに扱える様になれただけでも驚きだわ」

 

 

 ルフィが悔しがり、スマラが当然のように言い下す。ついでに全く驚いていない表情で褒めるが、ルフィも全く嬉しそうにしてない。

 2年間修行してようやく能力無しの防御を少し押す程度なのだ。当人にとれば相当悔しいだろう。

 

 スマラは服に着いた埃を払い、少し離れた場所に置いてあった本を取り行く。戦闘中に本を読む事も不可能ではないスマラだが、流石に2年間修行したルフィが相手ではそんな余裕はない。……訳はない。単純に真面目にやってるように見せなければ面倒だからだ。

 まだ不機嫌を隠せないルフィを放っておいて、スマラは読書の続きを再開する。ごちゃごちゃ言っているルフィの声は、音を調整する事によってカット。

 今日が修行の最終日。先程の組手が最後の仕合だった。これ以上は面倒を見る義理は無い。

 残り数時間後の出航まで読書を堪能した。いや、シャボンディ諸島に向かう道中でも読書は辞めない。これぞスマラスタイル。

 

 

 

 

 

~シャボンディ諸島~

 

 王下七武海の特権もあって、海軍や海賊に邪魔される事はなくシャボンディ諸島にたどり着くことが出来た。

 否、シャボンディ諸島に王下七武海が居ると目立ち、その船から指名手配犯のルフィが乗って居ることがバレるとハンコックと世界政府の関係が崩れる。最悪、王下七武海の除名だ。

 なので、シャボンディ諸島に直接送り届けるのではなく、近海送った後は小舟でシャボンディ諸島に上陸することとなる。

 

 これで全てが終わり。託された(押し付けられた)願いもこれでお終いだ。後は勝手に消えるだけ。

 そう思っていたスマラに魔の手がかかる。

 

 

「では、シャボンディ諸島までよろしく頼むぞ」

 

「は?」

 

 

 つい、らしくない声が漏れた。

 

 

「そなたに託すのは癪じゃが、妾にも立場があるのでな」

 

「待って頂戴。何故私が麦わらを諸島まで送り届けるのが前提になっているのかしら?」

 

「そなたこそ何を言っておるのだ。妾が聞いた話では、ルフィを新世界まで送り届ける約束をしたと聞いておるぞ」

 

「…………」

 

 

 黙り込むスマラ。記憶を辿って白ひげ海賊団と……一番隊隊長マルコとの会話を思いだしているかのように思える。

 が、既にスマラは当時の状況を脳内に再生していた。

 何を黙っていると言うと……。あの時マルコに言われた『無事に出航するまで』の定義だ。

 

 無事というのが、怪我と精神面を現すなら、既に完治しているので達成済み。

 出航が治療場所から旅立つ事なら、女ヶ島及びルスカイナを出航した時点で達成されいる。

 と、そこまで考えたところで疑問が生じた。

 

 無事に出航というのは、麦わら一味が全員揃ってシャボンディ諸島の次の航海へと出航した時なのでは?

 そう思えば、そうともとれる。定義としてはどちらとも正しい。

 スマラは女ヶ島を、ハンコックは全員が揃って。

 着目点のすれ違い。

 

 正解は無い。しかし、自分の解釈を押し通すか、それとも譲歩するべきか。

 スマラが黙っているのはその一点に尽きる。

 麦わら一味と出会う前のスマラなら浮かびもしなかった選択肢。

 

 

 数秒、たっぷり悩んだ後、

 

 

「約束はしてないわ。でも、今の貴女を敵に回すほど私は愚かじゃない」

 

 

 ハンコックに間違いを訂正しつつ、解釈を受け入れた。

 

 

 

「しっししし。またお前と一緒に同じ船に乗れるとな!!俺は嬉しいぞ」

 

「勝手に喜ばれても困るわ。諸島までは貴方が漕いで行きなさいよ」

 

「あぁ、任せろ!!かっ飛ばすぞ!!」

 

「静かに漕いで。海に落ちたら二人共助からないわよ」

 

 

 ルフィもスマラも悪魔の実の能力者だ。海に落ちれば助からないであろう。

 億越え賞金首の最後が、人知れず溺死となるのはいささか物語のバッドエンドには不十分過ぎる。

 

 スマラが指摘するとルフィは渋々と従った。

 だが、その顔とても笑顔だった。

 何を思っているのか、スマラには予想することしかできない。

 

 スマラは本に目を落とした。

 

 

 

 

 

 一刻もしない内にシャボンディ諸島に辿り着いた。

 ここからは別行動だ。

 麦わら一味がシャボンディ諸島を出航するまでは此処に滞在する必要性があるかも知れないが、その場で見送る必要はないだろう。

 一緒にいるとあらぬ誤解で新世界に連れて行かれてしまう。

 それはスマラの望む事では無い。

 確かに、そろそろ新世界に戻る必要はあるかもしれないが、何も麦わら一味の船に乗船する必要はない。

 ……最も、シャボンディ諸島から新世界までの航路を考えれば、それなりの船をコーティングして魚人島経由で向かった方が1番早い。

 となれば麦わら一味の船に乗るのが1番合理的なのだが……。

 

 

「今更そんな真似出来る訳ないじゃない」

 

 

 ウォーターセブンで別れ、エニエスロビーで完全に下船した事が、合理的な選択肢を許さない。

 己の都合で消えたのに、乗る船がなくなったら戻るなど論外だ。

 ごく一部の馬鹿は気にしないだろうが、頭の回る船員なら当然警戒する。

 

 だから、スマラは無言でルフィと別れた。別れたと言うより、諸島に上陸した途端に小舟を放り出して駆け出したルフィと勝手に逸れたとも言える。

 もし声をかけていたのなら、ルフィに無理矢理船まで連れて行かれる事になっていた。スマラは正解の選択肢を選んでいた。

 はずだ。

 

 

 

 

 久しぶりにのんびりと街を歩く。女ヶ島とルスカイナに2年ほど引き籠っていたせいか、かなり久しぶりに感じる。

 街は騒がしい。2年前と比べて海賊が多いように感じられる。

 新聞で知ったが、海軍本部がG-1支部と入れ替わった代償だろう。とスマラは勝手に予想する。

 

 

 海賊が多いと言う事はトラブルも多いと言う事だ。

 中身はともかく、スマラの外見は美女だ。スラリと伸びた脚、大きくはないが決して小さい訳ではない胸、細いお腹周りには少しばかりの筋肉が。

 ゆったりとした上着に、動きやすいスエットパンツ。上半身と下半身のコーデが全く合ってないが、それはご愛嬌。

 服装なんて着衣していれば、動き易ければ、それなりに安すれば(幾ら手元に大金があろうと)なんだっていい。最後の最後に好みが来るが、基本的になんだって良い。上記の条件を満たしてさえいれば、手に取って余程可笑しな格好でなければ、なんだって着る。

 一人旅に出る前は、全て誰かが用意していた物に着替えるだけであったスマラにセンスを求める方が間違っている。

 ただ、一人間としての感性が、大衆から大いに逸れているわけでもない為、余程の事が無い限り奇抜な服装になる事は無い。

 

 

「はぁ、久しぶりに街を歩くのも悪くないと思ったのだけれど……」

 

 

 既に二桁にも及ぶならず者がスマラに潰された。歩いてきた道には屍……ではなく、意識を刈り取られた野郎どもが伸びている。

 全て、スマラの美貌を目にして誘拐を企んだ人攫いと海賊の成れの果てだった。

 美人というだけで彼等は群がってくる。それにスマラは呆れていたのだ。

 

 しかし、スマラも対応が悪いとも言えた。

 襲ってくる敵を気に留めないで返り討ち。能力を最小限使っていなしている為か、些か派手さに欠ける。ここでヤルキマンマングローブでも圧し折る勢いの反撃を行えば、凶悪な力を持った能力者で一向に歯が立たないと実力差を思い知って逃げ出していくだろう。見えにくい力は敵を勘違いさせやすい。

 

 

 そんな妨害に会いながらも足を進める事数十分。

 見聞色の覇気で冥王レイリーの居場所を突き止めたスマラは16番グローブに来ていた。

 既にレイリーとも距離は範囲内。(新世界の強者なら)肉眼でギリギリ見える場所には、麦わらの一味の船であるサウザンドサニー号。

 その甲板にレイリーが乗っているのを確認すると、スマラは大きくため息を吐いた。その心情は簡単に読み取れる。

 めんどくさい。わざわざ出向いたのにタイミングが悪過ぎる。早く切り上げて一人にならないかしら?

 怨念の如く悪態を心の中で吐くスマラ。当然、麦わらの一味のメンバーに合うのが嫌なのだ。

 というのも、半ば裏切る様な形で船から降りたのだ。誰だってそんな相手と顔を合わせるのは御免被るだろう。

 もっとも、スマラにとっては「裏切った」と言う感情はない。元々仲間でも何でもない食客。タイミングに思うところはあれど、船を降りて政府に側に着いたのはスマラの勝手。

 まぁ、その数か月もしない内に政府に裏切られるのだが、自業自得でもある。

 

 

 続々と麦わらの一味が船に集まってくるのを、スマラは遠目で感じ取る。

 今船に居ないのは、買い出しに出掛けてる『黒足のサンジ』、街をふらついて迷子になっている『海賊狩りのゾロ』、つい数十分前にはぐれた『麦わらのルフィ』の三名。

 奇しくも麦わらの一味の主戦力。ならば、ここでもう少し近づいてレイリーに気づいてもらおうかしら?

 いくらここが偉大なる航路の楽園とはいえ、スマラがもう少し近づけば警戒していない見聞色の覇気に引っかかるだろう。

 それとも、リスクを確実に回避するべくここは待ち。つまり、麦わらの一味が出港して邪魔が入らなくなるまで待つべきか……。

 迷うスマラ。昔のスマラならば待ち一択だったのだが、少しでも迷うという事は変わって来たのか、否か。本人ですら分からない。

 

 

 近づくかここで待つか迷っていると、運はスマラに味方した様だった。

 話を終えたのか用事が出来たのか、はたまたスマラがいるのを感じ取ったのか、真相はレイリー本人にしか分からないが近づいて来るのが見えた。

 気配ではなく肉眼で見える範囲まで近づくと、レイリーはようやくスマラを認知した。

 

 

「おぉ、こんな場所に居たのか。ルフィ君は一緒ではないのかね?」

 

「逸れたわよ。分かり切ったことを聞かないで」

 

「会話によって生まれるものもある」

 

「要らないわ」

 

 

 相手のページに乗せられるのを防ぐ為、レイリーの言葉を一蹴するスマラ。

 世界一の海賊船で副船長を務めていた男なのだ。船長が突進型なのも相まって、必然的に頭を使うことに長けている。

 長々と会話に付き合った挙句、こちらが不利になる状況に持っていかれることもある。

 時間をかけたくないのと、主導権を握られたくな位ので、スマラは早速話を切り出した。

 

 

「本題に入りましょう。私はこの二年間麦わらの修行に付き合ったわ。そして、こうしてシャボンディ諸島まで護衛もした。これ以上は何もしない、これで良いわね」

 

「あぁ、それでいい。協力感謝する」

 

「協力ではなく、武力による強制だったわ。それじゃあ私はこの辺りでお暇させてもらうわ」

 

 

 これ以上厄介ごとには関わっていられない。颯爽とキビを返すスマラ。

 目的地は民間運営の船が停泊してる港。海軍本部からも近いこの島から遠ざかるつもりだ。

 

 せっかく楽園と新世界の間まで来たというのに、航路を逆走して戻るのは残念だと思うが、シャボンディ諸島から新世界に向かうには赤い大陸の頂上を通るか、海の底にある魚人島を経由する進路しかない。

 当然、海賊ではないが賞金首なので赤い大陸、つまりマリージョアを通るルートは使えない。許可が降りたら政府頭を疑うレベルで有り得ない。

 主に海賊が通るのは海底の魚人島を経由するルート。観光名所でもある魚人島に行きたいと思う海賊は後を絶たないだろう。

 しかしこのルート。深海を潜って移動する為、魚人島への強いては新世界への到達率はそれなりに低い。能力者であるスマラも出来れば通りたくないルートだ。

 

 スマラが考えているのは破天荒な3つ目のルートである。

 海は基本的には繋がっている。赤い大陸を挟んだ向こう側でなければ、理論上は何処にだって船で移動出来る。

 しかしこの方法が基本的には不可能なのは、赤い大陸と交差するようにある偉大なる航路とその両脇に位置する凪の帯が原因だ。

 何が原因なのか不明だが無風であり波が無い。これだけでもパドル式の船や人力での移動手段を持つ船でなければ海は移動できない。

 さらに移動を困難とさせているのが、大型の海王類の巣という点だろう。スマラレベルともなれば勝てない相手ではないが、海に落ちればアウト。一体ではなく何十体何百体と襲ってくる可能性を考えれば、あまり使いたくない手段だ。

 

 しかし、このまま凪の帯を抜けても迎えるのは東の海か南の海だ。

 故に東と南、西と北。楽園と新世界。行き来は困難である。

 なので海以外の道を使う必要がある。つまり、赤い大陸を登って超えるのだ。しかし、どこでも登ることが出来ると言う訳でもない。

 一番楽な場所は先述したように、マリージョアを経由する唯一の公認ルート。そのルート以外は見つかれば政府に捕縛されるルート。

 しかし、グレーゾーンのルートが一つだけ存在している。それは、リヴァースマウンテンを登って偉大なる航路に入るルートだ。四つの海から主に海賊船が使うルートである。偉大なる航路に入る前半数以上が沈むとされる第一の関門だ。

 絶壁を登るよりは楽だろう。スマラはそう考えてリヴァースマウンテンまで戻ることを決める。

 

 逆走して登る苦労を考えれば、ここから適当な海賊船や船に載って魚人島経由で新世界に入った方が遥かに楽なのだが、麦わらの一味から逃げる事を第一に考えているスマラには思いもつかない。

 盲点と言うべきか冷静になって考えれば分かる事だが、それすらも思いつかないということはそれだけ余裕がない証拠だろう。

 自分のペースを乱されるととことんポンコツになるスマラだった。自由気ままなルフィはスマラの天敵とも言える。

 

 

 

 

 

 歩き出すスマラ。

 

 

「まぁ待ちたまえ」

 

「ッ!?」

 

 

 それに待ったをかけたのはレイリーだ。彼はスマラの肩に手を起き歩みを止めた。

 スマラは急に後ろから触れられた事に驚きを隠せない。

 

 それもそうだろう。彼女の肩を触れて歩みを止められる者は新世界でも数少ない。

 不幸だったのは、その数くない相手が目の前にいた事だった。早く立ち去りたい気持ちが先行して、周囲の警戒を疎かにしてしまったスマラの落ち度だ。

 とはいえ、今この島にスマラをどうこう出来る人間など、目の間のレイリー以外には存在しない。強いて上げるなら、麦わらとぼったくりバーの女店主程度だろう。

 麦わら一味総力なら少し迷惑そうに足を止める程度だろう。ルーキーの中でも頭一つ抜けているとは言え、まだまだ新世界にも入っていないルーキーなので当然だ。

 

 レイリーの手を振り払おうとするスマラだったが、老人とは思えない力で引き留められる。

 振り返ってキッと睨みつけてやるが、レイリーは全く気にしない。それどころか煽る様に笑う。

 

 

「依頼はルフィ君が出航するまでだろう?なら見届けようではないか」

 

「此処まで付き合っておいて?この島まで連れて来た時点で終わったも同然よ」

 

「出航するまでが約束のはずだが?それとも、約束も守れないのかね?」

 

「所詮は口約束よ。ここまで健気に付き合ってあげただけでも感謝して欲しいわ」

 

「感謝はしてるさ。私だけでなくルフィ君もそうだろう。君ほどの人物が居るからこそ、私は半年間任せられたのだ」

 

「勝手に始めた修行の最後を押し付けただけでしょうに。ギャンブルは楽しかった?」

 

「ハハッ、最近は自制してるんだ。シャッキーがうるさくてね」

 

 

 皮肉も通じないのか?スマラはそう思ったが、口には出さなかった。

 レイリーの事だ。分かっててわざと言っているのは透けて見える。

 だからスマラは余計にイラッとする。相性が悪過ぎる。一刻も早くこの場を、この島を去りたい。

 そんスマラの心象も知らずに、レイリーは話を続ける。

 

 

「君に感謝しているのは本当だとも。私も老体だ。今の君ほどは動けまい。現在の新世界の強者を知らしめる良い機会になってくれた」

 

「感謝しているなら、とっとと解放して貰える?」

 

「それとこれとは話が別だとも。 それに、引き留めたのは労いも兼ねて一杯奢らせてくれ」

 

「羽振りが良いのね。でも断るわ。お酒の一杯よりも、赤い石の在処を教えて貰える?」

 

「冗談では済まないぞ」

 

 

 瞬間、レイリーの発する覇気が強まったのをスマラは感じ取った。スマラとて冗談で言ったわけではない。

 がしかし、

 

 

「嫌なら良いわ。私とて期待はしていないもの」

 

「…………」

 

 

 殺気はまだ散らない。断るだけでは許してくれないらしい。

 話題を変えるのは愚策。無理矢理この場を去るのが最悪の行動。

 正解が何か……。何か……。…………。

 

 スマラよりも先にレイリーが動いた。否、空気を動かした。

 

 

「……海賊王には興味が無かったのではないのかね?それとも、君も彼女の子と言う訳か?」

 

「ハッ!?馬鹿言わないで。誰があんな親……」

 

「では何故その石を求める?」

 

「……知的好奇心よ。アレとは縁を切ってるわ。実際にここ数十年一切接触は行っていない」

 

「2年前とは状況が変わった。君は殆ど表舞台から消えて活動していたかもしれないが、あの戦争で表舞台に返り咲いたと言っても良いだろう。そんな君を彼女が放っておくと思うかね?」

 

「……思わないわ。だから、勝手に来られて私の計画を無茶苦茶にされるより、自分からコンタクトを取った方が賢明だと思わないかしら?」

 

「ふむ……それがルフィ君の船に乗らない理由か。何だかんだで優しいじゃないか」

 

「勘違いしないで。もうあの船に乗るのが嫌なだけよ」

 

 

 そうだ。アイツ等が現れて麦わら一味に被害が出るのが心苦しいわけではない。ただ、乗せてもらっているのに、現れて全てを無茶苦茶にしたら後味が悪いだけだ。

 あと、普通にもう一度あの船に乗るのが嫌なのも本心だ。理由は何度も述べてる通り。

 だから優しいと言うのは間違っている。スマラは心の中でそうレイリーの言葉を否定する。口に出さないのは、何を言っても誤魔化しにしか思われないと分かっているからだ。

 

 

 

 未だにレイリーはスマラの肩を離さない。まだスマラに用がある用だ。

 話は一番初めに戻って来る。

 

 

「ここまで来たのだ。最後まで付き合ってもらおうじゃないか」

 

「断ると言っているはずだけれど?」

 

「ふむ……」

 

 

 何かを考える様に目を閉じて黙るレイリー。手を引き離そうにも緩めてはいない。

 いっそ、能力で引き剥がしてやろうか?と物騒な思考回路へと繋がり始めた頃、レイリーの口角が上がったのをスマラは見た。

 

 嫌な予感がする。現在進行形で嫌な事は起こっているが、それを遥かに超える事が起こる気がする。

 見聞色の覇気で未来視にはまだ見えてこない。しかし、確実に警報器はガンガンと鳴り響く。

 未来視で視える前にさっさとこの場から離れるべきだとスマラは決めて、レイリーの手を振りほどきにかかった。

 

 能力で相手の力関係を逆転。緩まった一瞬を使って振りほどく。

 後はこのまま全力ダッシュで逃げるの……

 

 

「ふむ……。厄介な事になったらしいな」

 

「何を言って……」

 

 

 突然の事だった。レイリーに促されるまでもなく、スマラはレイリーに尽力していた見聞色の覇気の範囲を拡大。すると、シャボンディ諸島の一角に大勢の声が集まってるのを感じ取った。

 それだけならスマラもレイリーも気にも留めない事だっただろう。が、その中心に居るのはこの島でスマラとレイリーの除くと最も強い力を感じ取れる者だった。

 現在の島の情勢を考えると候補は一人しか存在しない。

 

 

「アイツ……」

 

「この様子では何かに巻き込まれたと見る。海軍が出張っているのを見かけたぞ。ほれ、君の出番だ」

 

 

 見聞色だけでは大勢の人が戦っていることしか分からなかったが、レイリーがそう言うなら海軍が出て居るのは間違いないだろう。

 無法地帯が多く、2年前と比べて海賊の数が増えたと聞くが、直ぐ先には海軍のグランドライン第1支部がある。ただのルーキー程度が少し滞在するなら海軍側も偵察程度に留めるはずだ。白ひげの死で海賊の増加が起こり、海軍及び世界政府はそれの対応で人材不足を抱えてる。ただのルーキー程度に割く戦力はそこまで持ち合わせていない。

 しかし、偶然か運命か、現在この島では麦わら一味を名乗る海賊が百数人人もの仲間を集めていた最中だった。生死が不明な麦わら一味が2年越しに表舞台に現れて仲間を集めている。例え噂話であろうと、一定の危険度から海軍は動かざる得ない。

 例えそれが本物であろうと、偽物であろうと百数人にも規模も膨れあがるとなると、治安維持の為にも出動しなければならない。

 

 海軍と海賊。その衝突が今まさに行われていた。

 偽麦わらの一味がこれ以上は無駄だと判断し、募集で集めた海賊を集めて己を侮辱した野郎を処刑しようとした瞬間、戦力を集めていた海軍が集会に乱入。

 敵がまとまっている内に叩くとばかりに偽麦わら一味とその傘下を捕えようとしていた。

 そして、何かの因果関係か、偽麦わら一味の中に麦わらのルフィ本人が紛れ込んでいたのを、スマラは見聞色の覇気で感じ取っていた。この島でも5本指に入る覇気。人混みの中であろうとスマラが感じ取れないはずがない。

 

 

「アレ、私が対処する必要があるかしら?海軍の戦力は居ても中将が2人程度、暴君クマの模造品ロボットが数体、後は取るに足らない雑兵だけよ」

 

「ルフィ君はもとより、他の仲間たちも負けはしないだろう。しかし、多勢に無勢。数には勝てない時がある。このままだと一向に出港出来ないぞ」

 

 

 それは君も見過ごせないだろう?とレイリーは言う。全くもってその通りなので癪に触る。本人は分かって言っているから余計に気に障る。

 言葉外に「ルフィ君の危機だぞ?早く解放されたいなら海軍と事構えて来いや」簡単に言い直すとこう言っているレイリー。

 

 それを分かっているスマラは恨めしやかに睨む。黙って行動を待つレイリー。

 シュールな光景が数秒間続いた。なお、本人たちは至って真面目なのでここら一体だけ空気感が違う。ピリピリした空気が周囲の人間を遠ざける。

 もっとも、元から人が殆ど居ない場所だったので問題は無い。人通りが多い場所なら、ここはぽっかりと空いていただろう。

 

 何秒間にらみ合っていただろう。数秒かもしれないし、何分も経ったかもしれない。

 両者黙って己の意見を押し通そうとする。意見が別れたなら、力を持って己が意見を貫き通すのがこの世界。つまり、拳をぶつけて相手を打ち負かすのが手っ取り早くこの状況を終わらせる事が出来る。

 しかし、そうならないのは双方に理由がある。

 スマラはめんどくさがりで、無駄な行動は極力控える。ここでも早く離れたいが、暴力で解決するとなる相手が悪く、周囲に甚大な被害を生み出してしまう。しかし早く解放されたい。暴力に訴えて逃げに徹するか、それとも今後の付き合いや労力を考えて踏みとどまるべきか……。揺れに揺れていた。

 レイリーとしては実力行使はあまり行いたくない。隠居した身ではあるがそれで実力は健在。海軍大将と互角に戦える力を持っており、ここでスマラを叩くのは簡単だ。しかし、歳の差で押し切れない可能性もあり、現在この島で海軍が動いてるとなるとここで衝突するのはいい方向に転ばないと考える。荒事を起こすならスマラとではなく、ルフィを逃すために行うべきだ。

 

 

「いい加減に覚悟を決めたらどうかね?先の戦争で君は表舞台に戻った。世間では分からぬが、君をしる者達はそう考えるはずだ。この機に新世界に戻りなさい」

 

「貴方に言われなくても分かってるわよ。でも、私の航海図は私で決める。……の船もね」

 

「そうか……。で、いい加減終わらせてもいだろう」

 

「癪だけどそうするしか諦めてもらえそうにないのよね。…………良いわ。ほんの少し手助けを行うだけよ」

 

「あぁそれでいい」

 

 

 ようやく動く事を決めたスマラ。初めから素直に従っていたら無駄な時間を過ごさずに済んだ、とは言ってはいけない。

 殆ど無い様なものだが、何でもかんでも素直に動けば今後も押し通される。それを防ぐためでもある。

 一番なのは、もう二度と安請け合いをしない事だが、なんだかんだ言って押しに弱いスマラが果たして断れるか……。

 

 

 




次回も1年以内に投稿します。今年入ってから毎日少しずつ時間が取れてるので、場合によっては半年で行けるかも。

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