麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが?   作:与麻奴良 カクヤ

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少し早いですが出来上がりました。


六十七話「魚人島で本屋巡り」

 海底1万メートルに位置する魚人島への航海は安定とは言えずに進む。

 カリブーと言う今年のルーキー海賊の船がサニー号に接近して、船長のカリブーだけを置いて逃げたり。

 深層海流に乗るために巨大な滝にも思える場所で伝説の巨大水怪生物クラーケンと一戦交えたり、深海でアンコウの罠に引っ掛かりフライングダッチマン号と大入道に襲われかけ、海底火山から逃げたり……。

 語るには数行では足りない程の苦難を麦わら一味は乗り越えて行った。

 

 スマラ?彼女は船の最後尾に位置する円形の部屋、測量室兼図書室にて優雅に寛いでいた。

 ナミが毎日付けている航海日誌やルフィ以外の船員が持ち込んだ本を勝手に引っ張り出しては読み漁っていた。

 海は想像以上に広い。数十年と海を流離っても未だに見たことのない本に出会う。未読の本をチェックし、麦わら一味の船に乗る楽しみを見つけた。

 

 

 

 鼻歌を奏でつつ読書を行い、海底1万メートルへの旅を測量室から出ることなく過ごす。

 しかし、数度目の揺れ……否、揺れと言うより360度回転しながら落下して行くと、流石のスマラでも本を閉じた。

 グルグル回る船内。壁に引っ付いている棚を掴むことでスマラは振り回されてしまう事を回避。

 

 数分…数十分船は落下しただろうか?揺れに耐えていると、薄暗かった船内が明るくなっていく。そして数分後、太陽の下と間違える様な程明るい日差しが窓から差し込むと……少し経って軽い衝撃がサニー号を襲った。

 その後は船が動いている気配が感じられない。窓から外を覗き込むと、見えたのは日光に照らされた地面。否、宝樹イブの光に照らされた海底の砂浜。

 船が大破したわけでもなく、船員を失ったわけでもない。砂浜から視点を上げるとこそには、大型の海王類と比べてもまだ巨大に見える程大きい過ぎる根っ子の間にシャボンに包まれた島が見えた。

 

 あの幻想的な島こそが魚人島。偉大なる航路の楽園と新世界の狭間にある海底の楽園だ。

 

 

 

 魚人島は海上の島と違っておいそれと行き来が出来ない場所にある。舟をコーティングして、約3割しか生き残れない死の海中を潜って航海しなければたどり着く事が出来ない。その確率はどんな大海賊、何度も航海している海賊でも同じだ。

 

 スマラも昔、一度だけ魚人島に上陸した事があった。もう何十年も昔、大航海時代以前の話だ。

 何十年も前となると、景色は少なからず変わる。古い記憶なので美化される場合もあるし、朧気故に現在の方が美しく見えたり……。

 心なしか、早く魚人島に行きたかった。

 

 

 

 

 程なくして船は魚人島に向けて進み始めた。しかし、魚人島に入る前に数十体もの海獣に行く手を阻まれてしまう。現在魚人島に入ろうとする海賊を捕まえて隷属させている新魚人海賊団だ。

 彼らは麦わら一味に隷属を求めるが、船長であるルフィはそれを拒否。クー・ド・バーストと呼ばれる空気を使った移動法を用いて一気に魚人島に上陸した。

 

 当然、船内に居たスマラには溜まったものではない。この揺れではゆったりと読書も出来やしない。パタンと閉じて揺れが収まるまで待機する。

 

 

 数分後、ドスンッと大きな揺れと音を立てて何処かに漂着した。再び窓の外を覗くとサンゴの森が広がっていた。

 ここは魚人島南東の海の森。潮の流れの関係上、操作性を失った船は殆どここに流される。通称船の墓場。

 そんな場所にサウンド・サニー号は座礁していた。

 

 揺れが納まり、船が何処かに止まったと確信したスマラはゆっらりと船を降りた。肩には容量を弄っているポーチが一つぶら下っている。

 

 

「クジラ…サンゴ。人里からは離れてるみたいね。さて…ここからどう動くべきか」

 

 

 誰も居ないので独り言が漏れる。言葉は誰にも聞かれる……という事もなく空に消えた。

 2年前と同じだ。島に着いたらスマラは勝手に散策する。麦わら一味の出航に間に合わなければこのままお別れ。誰かについて行くでもなく、監視されるわけでもない。船に乗せてもらっているだけの関係。

 しかし、魚人島では話が違う。これまでなら移動手段の船は幾らでもあった。しかし、魚人島から地上に出る船はほぼ存在しない。

 つい200年ほど前まで差別を受けていた魚人島に向かう客船は皆無。地上ルートが通れない関係で海賊船は通るが、麦わら一味の様に気前のいい連中はほぼいない。それの上、海中の航路は新世界の海と同等以上に危険な航路だ。運良く他の船に乗れたとしても、麦わら一味の航海士には到底及ばないであろう。

 つまるところこれまでの島とは違い、この魚人島を確実に出航する船は麦わら一味の船しかないのである。よって、かなり慎重に行動しなければならない。幸い魚人島はそこまで大きくない為、スマラの足ならどこにいても1時間もかからずに戻って来れる。さらに言えば、入国時はハプニングがあったが出航する時は必ず国の正面入口から出るはずだ。

 魚人島の正面入口は島の橋にあり、海の森からは大分離れている。普通の島の様に外周を回って移動できない構造上、シャボンを使って空を移動するしかない。

 よって、空を確認続けていれば見逃す事はないだろう。懸念事項としては、読書に夢中になり過ぎて見過ごすと言う事だが……。新たな本の探索だけにして、読書は船に戻ってから行う様に気を付ければ問題なかろう。

 試し読みがガチ読書にならないように。腰を据えてリラックスタイムに移行するのは船に戻ってから。ここで置いてい行かれても絶望的な状況にはならないが、地上に戻れるだけの運と実力、そして己を乗せてくれる船を探す方が非常にめんどくさい。だから、絶対に本の世界に飛び込まない様に注意しなくては……。

 スマラは何度も何度も自分に言い聞かせる。ここまで自分を縛るのは何時ぶりだろうか?割と最近もあった様な気がしなくもない……。

 

 

 スマラは自己暗示にも等しい今回の目標と厳重事項を決めると、行動を開始する事にした。

 とりあえず、ふらふらと辺りの散策だ。街に向かうのが一番なのだが、現在地と目的地の位置が不明のため、最短ルートは通れない。

 月歩を使い、空から街を目指すという手も取れるのだが、人や時間に追われていないにも拘らずその様な体力を消耗する様な事はしない。要はめんどくさいのだ。

 非常事態に備えて体力の消耗を抑えるのは基本だ。数日以上慣れしんだセーフティーゾーンや、全くもって不愉快極まりないが自宅などなら襲撃の心配を恐れないでいれる。もっとも、襲撃の心配が無いと言っても最低限の体力は残しておくものだし、その時はその時でも能力や無駄な体力の消耗はしないだろう。

 

 言い訳はこのくらいにしておこう。

 

 

 

 勘のままにふらふらと。目的地を定めずに歩く。サンゴの森は塗装された石畳を歩く訳とは違い、山道を歩く様に凸凹で見た目以上に体力を奪っていく。

 そんな道をものともせずに歩くスマラ。彼女の足腰ならどんな困難な道も、道すらない場所でも変わらない。

 

 歩く事数分後。スマラの歩みが止まった。彼女は目を開き、言葉が出てこない様子で固まっている。驚きの表情だが、スマラがここまで感情と表情を露わにするのも珍しい。

 そう、スマラの目の前には正方形の巨大な石があった。表面には考古学者でも一握りの者しか読み解けず、現在解読可能なのはただ一人と言っても良い文字が刻まれていた。

 『歴史の本文』そう呼ばれる、何が起こっても壊れない石に刻まれた歴史書だ。これまでの放浪で数個見つけており、最近では空島での発見が挙げられている。

 

 魚人島の外れにそんなものがあるとは……。

 

 魚人島はその名の通り魚人と人魚が暮らす島だ。人間の住民は殆ど居ないと言っても良い。人間が居ないと言う事は、政府の目から逃れやすいと言う訳だ。

 政府が更にして捜し、監視している歴史の本文が人間の手が伸びていない島にあってもおかしくない。

 しかしそうなると、何故魚人島に存在しているのか?元からあった鉱石を加工したのか、それとも何かの意図がある運んだのか……。また、加工方法すら判明していないのだから、謎の塊だ。魚人島無いとは言い切れないが、まさか本当にあったとは……。

 

 驚きしつつも、内容をコピーするのを忘れない。これには歴史的な価値以外にも利用価値がある。スマラとしては、知らない歴史を知りたいと言う気持ちもあるが、これを欲しがっている者への土産でもある。

 わざわざ捜し歩いたりはしない。しかし、目の前にあったら飛びつく程度の価値はあるものだ。

 

 コピーと言う名の写しが終わると、スマラは用は済んだとばかりに逆方向へ向かう。

 この先には何もなさそうだから……と言う安直な考えではなく、歴史の本文と言う非常に価値の高い物が街の近くにあるとは考え難い。海の森が島の端だとすれば、歴史の本文があったのは更に端。従って、逆方向に向かえば人里があると考えた。

 もっとも、魚人島はシャボンに覆われている島なのでその中心に向かえば良いだけの事。これだけの島なのだから、島の中央が栄えてないはずがない。例外はあるが、それは特殊な地形や理由あってのこそ。

 魚人島は魚人が住み始めたから栄えた島だ。わざわざ住み難い場所を選ぶはずがない。

 

 

 

 歩く事数十分。海の森を抜けた。まだまだ人は見えないが、人工的な加工を感じられる物を発見したことから、この先に人里があるのは間違っていなかった。

 更にもう少し歩くとバス停らしきものを発見。これは幸いと待合用の椅子に座って読書を再開。経った数十分の行動にも嫌気がさしていた頃だったので、スマラは物凄く癒されていた。

 

 やはり読書こそが祝福の時間だ。現実の面倒なしがらみや関係を一切捨て去れる。物語の中は物語の中だけで完結していて、ハッピーエンド、バッドエンド、トゥルーエンド、ビターエンド、鬱エンド、メリーバッドエンド、打ち切りエンド、グッドエンド、ベストエンド、デッドエンド、ワーストエンド、メリーバッドエンド、ノーマルエンド、ハーレムエンド、バウムクーヘンエンド、世界再編成エンド、アナザーエンド、パラレルエンド。物語の数だけの終わりがあり、同じ物語でも違うエンディングがある場合もある。

 その時の気分で好きな物語を読み感傷に浸る。偶然も必然も、運命も計画された妨害も存在しない。確定された物語は最高だ。

 

 バスを降りると人里だった。さて、どこに本屋はあるか…。

 読書を続けながら、店の看板をチラ見しつつ街を散策する。

 何だか街中が騒がしい気もするが、スマラには関係ない。それよりも本屋だ。魚人島にも執筆者はいるのだろうか?魚人目線の物語でも伝記でも歴史書でも何でもいい。新しい観方で楽しめるならなんだって良い。

 だから……騒ぎを起こさないで貰いたい。麦わらの一味。

 

 既に遅かった。聞き耳を立てる程の事ではないが、何らかの騒ぎが起こっていた。十中八九麦わら一味が関わっているのだろうと、スマラは軽率に判断する。

 しかし、騒ぎが起こっていると言っても店が閉まる程の事ではない。第六感で書店を探し出すと、さっそく入店。そのまま背表紙を眺めて、気になったタイトルの本を捲ってく。

 

 サニー号を降りた時の取り決めを守って試し読みはあくまでも試し読み。初めの数ページだけ流し読みして、覚えのない内容かつ気に入ったら買い物かごに入れていく。

 深海にある魚人の楽園とはいえ、地上と貿易を行っていないわけではない。だからか、見たことのある発行部数の多い人気本、汎用的な教本なども目に付いた。が、何と言っても地上ではお目にかかれない本が目的だ。名前では人間か魚人かは判明できない。となれば、片っ端から見たことのない本を開いて確認するのみ。

 前書きや後書き、執筆者紹介文で判明出来ればヨシ。分からなくても、気に入った本ならそのままお買い上げコースだ。

 一つの狭い島だが、複数の町が存在している魚人島。当然、本を取り扱っている店は島に一つな訳がない。空を気にしつつも一軒一軒巡り戦利品を獲得していく。

 

 

 

 数件の店を回った頃。時間にしたら、魚人島に到着から数時間後。

 急に町中が騒がしくなっていく。移動する為に歩いていると、原因の物が視界に入ってくる。

 映像をモニターに写す機能を搭載した電伝虫だ。モニターには凶悪そうな人相をした魚人が写っている。

 本屋を探す片手間に放送の内容に耳を傾けた。

 

 彼の名は「ホーディ・ジョーンズ」新魚人海賊団の船長だそうだ。

 魚人海賊団と聞いたスマラは名前の頭に『新』と付けているのに疑問を持った。魚人海賊団と言えば、元王下七武海のジンベエが船長を勤めている海賊団だ。2年前の戦争で立場が変わったはずだが、それに伴い新たな勢力でも生まれたのだろうか?

 スマラが2年前の戦争で会ったジンベエの事を思い返している間も、ホーディの放送は続いて行く。本屋を捜すのを辞めず、歩きながら聞いてていると、クーデターを起こそうとしていると判明した。

 偶々立ち寄った航路の途中でクーデター。なんて運の無い一味なんだ。スマラが乗船している間だけでも、全ての島々でイベントが起こっている。そういう星に産まれたのか、それとも単なる偶然なのか。偶然にしては出来過ぎている気もするが、スマラはそれ以上考えるのを辞めた。

 ホーディの話は続く。竜宮城を占拠し、現国王のネプチューンの処刑。国盗りは大詰めに入っていた。さらに、麦わら一味の数名を捕えており、これを機に新魚人海賊団が地上への見せしめにするらしい。

 

 ホーディの演説が終わる。どうやらクーデター以外にも、麦わら一味にも喧嘩を売ったようだ。麦わら一味を仕留めて、地上に警告を発すると。

 

 正直に言って片腹痛い。麦わら一味程度を仕留めただけで警告になるとでも?高々少人数ルーキーで、世間に注目を浴びている海賊なだけ。

 新魚人海賊団の戦力がどの程度が分からないが、麦わら一味程度に負けるならそれまで。打ち取れても、他の海賊からすればライバルが一つ減っただけ。海軍や世界政府、一般市民からすれば海賊を討ち取ってくれて「ありがとう」だ。

 さらに言えば、新魚人海賊団がどの程度か現状図れる尺度が存在すしないため分からないが、深海に潜っていた物が新世界に入って通用するとは思えない。見た目と自信が伺える様子、それに本気ではないかも知れない上に水中と言うアドバンテージがあったかも知れないが、麦わら一味のナンバー2であるロロノア・ゾロを筆頭に3名捕えていることから、ある程度の実力を保有していると考えるのが妥当だろう。

 が、そこまで。新世界の怪物たちには絶対に敵わない。意図的ならお手上げになるが、見聞色の覇気で探っても、精々ルーキーに毛が生えた程度の気迫しか感じられない。なら覇王色すら持っていないだろう。

 新世界では覇気の習得は常識。覇王色の覇気だって所有者はごろごろ存在している。最低でも、覇気の一段階上まで覚醒させてから、ようやく権利があると言ってもいい。

 

 見た目で判断するのは愚者のやる行為だが、見た目以前に覇気の強さが全くない。スマラはホーディの未来を想像しながら街を散策し直す。

 ホーディが待つ未来は、此処で麦わら一味に叩き潰されるか、新世界に躍り出て四皇の顔も拝めずに叩き潰されるのどちらか。

 もっとも、どちらであってもスマラには関係の無い話だ。

 

 だから、本屋巡りを再開したのだった。




次回も同じくらいお待ちください。

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