麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
「やっと着いた……」
大勢、そんな単語よりも国中と言った方が似合いそうな程、多くの人達が詰めかけている場所で、スマラは下を見下ろしながら呟いた。
場所はギョンコルド広場。ネプチューン王の処刑場であり、王妃オトヒメが暗殺された現場であり、現在新魚人海賊団が集まっている場所であり、魚人族の革命(予定)の場所である。
出来るだけ早くサニー号に戻りたかったスマラは早足で歩いてここまで来た。ホーディの放送から既に一刻近く経っている。
それだけの時間があれば、魚人島中の人々が魚人島の行く末を見ようと押しかけるのには十分な時間だ。
広場内を見下ろす崖は人で溢れかえっていた。
そんな中をスマラは縫うように進む。平常時であれば人混みの中など進んで入るはずもないが、今回は別だ。
何度も何度も言うが島を出港するのに、魚人島にて身を隠すにはこれほど確実な船は麦わら一味のサニー号しか考えれない。
そんなサニー号はギョンコルド広場の中央に鎮座している。戦場の真っ只中だ。
しかし、そんな事はスマラにとっては些細なことでしかない。あの頂上戦争すら生き抜いたスマラにとって、この戦場はただの喧嘩にしかなりえない。
周囲の人が引き留めるのを無視し、スマラは広場へと落ちていく。
高さ数十メートル。一般人なら最悪落下死、運が良くて足腰の骨折の怪我は負う覚悟を持たなければならない高さを何のためらいも無く踏み出し、生まれ持った身体と身体能力を使い着地。
軽い動作で行った行動は、傍から見れば役者が2.3メートルから演技のように飛び降りた様子。
ふわっと降りると、今だ戦闘が激しく続く中へと歩き出す。
こんな場所に場違いな雰囲気と服装を持って街を歩く様に歩くスマラを見て、新魚人海賊団の者達は『何故こんな場所に人間が?』と疑問に思い、人間=麦わら一味=下等生物との考えで襲いかかる。が、能力であっさりと返り討ち。この程度、意識すら向けなくてもよい。
数十名を撃退した頃には、魚人たちはスマラから離れていく。眼中すらない様子に激怒する者も現れるが、誰も攻撃を当てられない事を見てた仲間に止められる。幹部が応援に来てくれる事を願うが、生憎と幹部は麦わら一味の相手をして劣勢状態。到底駆けつけてくれることは無い。
人間は憎い。しかし、己の命はもっと大事だ。幹部共からすれば、魚人の命で人間が減るなら喜んで死ねと言うが、その燃えるような復讐心を部下達まで持っている訳ではない。
誰だって命は惜しい。
あくまで、新魚人海賊が勝ち馬だったから。人間の海賊など我々にとっては敵では無かったから。
己が強者だったからこその態度。誰だって自分とは次元の違う相手には媚びるしかない。
そんな者達がスマラを刺激しないように距離を取るのは自然な流れだった。
そんな雑兵の気も知らないスマラは、攻撃が止んでラッキー程度に考えていた。扱いがハエや虫と同等レベルだ。
サニー号へ向かい移動中、何名かの麦わら一味がスマラを視認したが、戦闘中だった為にそれ止まり。二名ほど、目を奪われて敵の攻撃を受けてしまったエロコックとガイコツ音楽家がいたが……。それはスマラにはあずかり知れない事だ。
サニー号へと無事に辿り着いたスマラは、自慢でも何でもない脚力を使って甲板へ飛び乗る。
そしてそのまま、スタスタと船内に入っていく。船内を進み、船の後方に位置する測量室兼図書室へと踏み込む。
時間にして僅か数時間、1日も経たない時間しかサニー号に乗っていないスマラだが、既にここが自室の様にふるまっている。
ある意味自室とも言える程、心休まる快適な部屋にたどり着くと、ようやくスマラは気を緩めた。ソファーにドサッと倒れ込む。
ここなら安心だ。目ではサニー号へスマラがいるとは分からない。見聞色の覇気でも余程の熟練者、四皇の赤髪レベルでもなければ察知出来ないだろう。
これで私がビッグ・マムに見つかる可能性はグッと減った。後は無事に新世界へ辿り着き、適当な島で行方を眩ませたら良い。
そうだ。もう少しで私の平穏な日常は戻って来る。
船に乗る前、頭上に見えた巨大を超えて一つの島と言っても過言ではない程の船が見えたのはきっと気のせいだ。
あんなのが島にぶつかれば、魚人島を覆っているシャボンは割れてしまうだろう。だから、あの光景はきっと疲れが見せた幻覚なのだ。
スマラはそう思う事にした。現実を直視するよりも、とっとと本の世界に飛び込もう。
現実逃避はスマラの得意技の一つだ。問題の先送りも。
島の危機に麦わらが黙って見ているはずがない。
これまで通り、力を合わせてどうにかしてくれるだろう。
考えようだが、あの程度の船を止めらないのなら、四皇に挑むには能力の鍛錬不足。
スマラはそう思う事にした。
思考を切り捨てて、本を開いて目を頁に落とす。
脳内に物語を描く。あぁ、幸せな一時だ。
一時。一時じゃ物足りない。一時と言わずに一生にしなければならない。
私は……私は逃げてみせる。
もっとだ。もっと巧妙に存在を隠さなければ。
2年前、東の海で起こった失敗は、間違った選択はもう二度と取らない。
本の終わり。物語には終わりが必ずある。
それは、完結だったり、次回作へ続く為の一時のお別れだったり、はたまた投げだされた滅茶苦茶な終わりだったり。
これ以上読めない。続きが無い。
頁の最後に印刷された、発行年月日、編集、イラスト、著者などの名前を眺め終わると、スマラはようやく本の頁から目を上げた。
何時間ぶっ通しで読んでいたのだろうか?久しぶりの感覚な気がする。
分厚いが1冊読み終えた程度の時間しか経っていないはずだ。経験上、この頁数なら3.4時間と言ったところだろう。
長時間同じ体制でいた為、身体が凝っている。
「んッ~~」
背伸びして身体をほぐす。何時間も同じ体制で読書していたので、身体がパキパキとなる。この瞬間は嫌いじゃない。
本の世界から現実に戻ったことで、お腹が空腹を訴えているのに気が付いた。不便な身体だ。
読書中は気にならないが、いざ読み終えると人間の法則からは逃げられない。能力である程度誤魔化す事は可能でも、根本的な解決にはならない。
人間を辞めない限り、人間の生体からは逃れられない。数日間の断食や無睡眠はできても、いずれ限界が訪れる。
そう言った能力者でも世界トップクラスの実力と体力を持っていなければ、数か月から数年が限界なはず。もっとも、スマラには目にしたことのない能力なので予測の域を出ない。
とにかくだ。疲れたスマラは食事を求めて部屋を出た。
窓の外を見るに、まだ魚人島を出港してないらしく、太陽の光が見えた。(イヴの根っこが発光しているのを太陽の光、と呼んでも良いのかは疑問だが、今はどうでもいい)帰路の途中なら真っ暗なはずだし、既に新世界にたどり着いているのなら船が揺れているはずだ。波に揺らされている感覚は無く、船は至って静かだ。
そう、静かすぎる。誰かが乗っているのなら、ここまで静かになるはずがない。イベントには事足りる麦わら一味なのだから。
キッチン兼ダイニング、誰もいない。食糧庫や保健室、誰もいない。お風呂、トイレ、誰もいない。甲板、誰もいない。見張り兼筋トレ室、誰もいない。女部屋男子部屋、誰もいない。
キッチン兼ダイニングと甲板を覗いた時に既に答えは見えていたのだが、他の場所は一応の確認というわけ。何気に、初めてこの船をじっくりと見て回ったかもしれない。
それもそのはず。サニー号に初めて乗ったのはつい先ほど。シャボンディ諸島を出港する時から。一直線に図書室兼測量室に潜り込み、その後は甲板に出て船を降りただけだ。
誰もいないのは予想外だった。船番の為に誰か一人でもいるだろうと思っていたのがあだとなったらしい。
未だに魚人島から出港していない見たいだし、ギョンコルド広場からは移動しているらしい。時間なのか、場所の影響なのかは分からないが薄暗い。しかし、真っ暗と言う訳ではなく、精々曇りにぶつかった船内と言う明るさ。故に不自由なく船内を散策出来たのだが。
船の外には立派な建物が見える。魚人島内で見たどの建物よりも大きく、そして歴史がある趣を感じる。故に、目の前の建物がかの有名な竜宮城だと当りを付ける。
となれば……宴会中だろうか?見聞色の覇気で気配を探ると、城の中に麦わら一味らしき気配が纏まって感じられる。
これは当分戻ってこない。となれば……。
スマラはキッチンに足を運び、何か料理を作ろうと冷蔵庫を……開けられなかった。
鍵付き冷蔵庫だ。サニー号に乗り換えるついでに、船長を筆頭に行われるつまみ食いを防ぐために、サンジが頼んでナミがゴーサインを出して買った家具だ。
4桁の暗証番号を知っていれば開けることが出来るが、麦わら一味の中で知っているのはナミとロビン、そしてコックのサンジの三名のみ。それ以外は知らないので、開けることができない。
冷蔵庫が使えないということは、生物が扱えない。卵や肉を適当に焼くこともできない。出来るのは食糧庫に入ってる保存食や調味料のみ。
冷蔵庫の中身を使って、勝手に料理を作って食べようと思っていたスマラは固まる。
これでは料理が出来ない。保存食を食べる程飢えているわけじゃない。なら……。
と、スマラは階段を上り始める。何日も船を留守にするとは考えにくい。それなら数時間我慢すれば良いだけの話。
その程度なら我慢できる。本を1、2冊読み終える頃には誰かしら戻ってくるだろう。それまでの辛抱だ。
そう食欲を抑え込むと、スマラは元の位置に戻って別の本を読み始めた。
数時間後。
スマラの見立て通りの時間が経った頃、麦わら一味のメンバーが帰ってきた。
相変わらず騒がしい一味だ。
ガヤガヤしながら出港準備が整えられていく。そんな中、スマラは階段を降り、また登ってダイニング兼キッチンへと向かった。
ここに居たら誰かしら入ってくるだろう。それこそ……。
「~~♪ うぉ!!?スマラさん!!?一体何処にいたの~~♡大丈夫だった~!?!」
船上での職場、戦場とも言えるキッチンに真っ先に入ってくるのはコックだろう。
サンジはスマラを目にした途端、目をハートマークにして謎のダンス。からの跪いてスマラの身を心配してくれた。
紳士的な態度は何時も通り。ふざけているようにも見えるが、ガチでやっているでの邪気に出来ない。事もない。
「大丈夫も何も、あなた達が革命に突っ込まなければ心配される事もなかったのだけれど……まあぃいわ。それよりも何か食事を取りたいのだけれ……」
「ハッ!!?すまない。俺とした事が宴会やなんやかんやで忘れてました。今から早急にお造り致しますので、椅子に掛けてお待ちください」
サンジはそう言って優雅に礼を行うと、食糧庫へ向かって行く。
スマラは言われた通りに椅子に座ってサンジの調理を待つ事にする。無論、ポーチに入れていた本を開く。ボーっと待つ程スマラの中毒症状は我慢してくれない。
サンジが材料を持って戻ってきて、冷蔵庫から生物を取り出して調理を開始する。素人目にも手際が良いのが分かる。流石本職。
作り始めるといい匂いが部屋に充満してくる。すると、どこから匂いを嗅ぎつけてきたのか、ダイニング兼キッチンに入ってくる者が一人。
「サンジ~~何作ってんだ!!俺も欲しいぞ!!」
「お前…さっきまでの喰ってただろ…」
匂いに釣られてやって来たのは麦わらのルフィ。先程まで宴会して、たらふく食べてきたのが嘘みたいな食欲だ。
そんな船長に呆れつつも、ちゃっかりと材料を足して準備する分、彼は優しいのだろう。
着席したルフィはサンジの料理を楽しみに待つ。そして、ようやく隣にスマラが座っている事に気が付いた。
「あ、お前どこ行ってたんだよ。さっきまでお城で宴会してたんだぞ」
「そうみたいね。お陰様で静かな読書が堪能出来たわ」
「ふーん。それは良かったな。 そういやさ、ここのお菓子スゲー美味いだぜ。スマラも食ってみろよ」
「テメェ、さっきたらふく食って無くなったばっかじゃねぇか。それでビッグ・マムと事を構える事になったのをもう忘れたのか」
「あははは、そうだった」
「ったく。安心してくださいスマラさん。俺も食ってみたので再現出来そうならしてみますよ」
「…………」
笑うルフィ。
サンジは一言言いつつも、笑みを浮かべて魚人島のお菓子を頭の中で調理していく。そこにはコックらしい顔があった。
対してスマラ。2年前のメリー号に乗船している時同様、誰かが隣で話しかけているのを読書をしながら横耳で聞き流して……。
「ん?スマラが本を読むのを辞めるなんて珍しいなー。そんなに魚人島のお菓子が喰いたかったのか?」
「テメェはアホ見てぇにバカすか全部食っちまったのが元凶だろうが。反省しやがれ」
「うん、ごめんな!!今度は極力、覚えてたら我慢するぞ!!」
極力、覚えてたら。とれも意図したとは思えない二重の予防線を張っているのを考えると、一日経てば記憶の彼方へ忘却しているだろう。
サンジはそう予想し苦笑い。この船長に食べ物に関する事を言っても無駄である。長い付き合いで理解している。
出来上がった料理をお皿に盛り付けてスマラの前に差し出す。元副料理長が成せる技か、完璧に調和された盛り付けだ。ルフィの分は残った分をどっさりと。盛り付けというよりもお皿に置いただけ。
男女差別だ。しかし、ルフィは一向に気にしない。何なら、ルフィ以外の男メンバーも気にしない。サンジの御飯を食べられるだけで満足している。
コトっと音を立てて並べられるお皿。メイン料理から飲み物とデザートまで至れり尽くせりだった。
余り物、イレギュラーな食事というのに完璧な栄養配分と見た目を持っている料理だ。それだけサンジの腕が良いのを表している。
世界中を放浪していたスマラでさえ、ここまでの腕を持つ料理人は聞いたことがない。もっとも、食事は身体を生かす為に義務的に採っていただけなので世界中を放浪したと言っても積極的に美味しい物を食べてたわけではない。
そんなスマラでさえ舌を唸らせるコックがサンジだ。スマラが知る中で彼に匹敵する料理人は一人しか知らない。
しかし、スマラは手を付けない。それどころか、読書を辞めた体制で固まっている。
ルフィは既にがっついて半分以上を胃の中に収めている。早くしなければスマラのお皿に載っている料理にすら手を付けそうな勢いだ。
もっともサンジが傍にいる限り、普通の人はその様な愚行は行えないのだが。ルフィは学習しないで手を伸ばそうとするのだから手に負えない。
料理を運び終えたサンジが、一向に動かないスマラを見て心配する。
「ど、どうしました?何か嫌いな食べ物でもありました?」
「なーんだ。苦手な物があったのか。どれ、俺が喰って……」
「まだ答えてねぇだろクソゴム!!今度手を出しやがったら晩飯抜きにすんぞ!!」
「ゴ、ゴベンナザイ」
スマラの料理に手を出そうとしたルフィにサンジが蹴りを入れる。蹴られた顔面に瘤が出来ている。
スマラは、武装色の覇気を使っていないはずなのにどうしてゴム人間に蹴りが効くのだろうか?……と頭の片隅よぎったが、それどころじゃない言葉が聞こえて来たのを思い出す。
そう、何気ない会話に潜んだ悪夢とでも言える。スマラにはそう感じた。
何時かはそうなると予想していた。麦わら一味はトラブルの中心で、海賊王を目指す一味だ。必然と敵対は誰にでも予想できる。
普通なら戦力差に絶望して降る。が、この船長なら誰の下にも付かない性格なのも知っている。
故に予想していた。
そして、その頃には船を既に抜けているつもりだった。無関係な場所まで移動し行方を眩ませる。
そうすれば最低での数日、最長で数か月の時間稼ぎになるはず。それだけの時間があれば、ある海域を避けながら新世界の島々を転々と放浪する。ある程度周り、新たに発行されたであろう本を入手又は読み切る事が可能だ。
その後は、新世界からまた距離を取ろう。そうすれば、奴らはそう易々と追っかけてこれなくなる。
完璧な計画だ。(スマラによる自画自賛)
だがしかし、まだ新世界に到着すらしていない段階でこうなるとは完全に予想外。
いや、可能性はあった。スマラだって見ているし、頭の中に可能性を考えていた。考えてはいたが、流石にないだろうと捨てていた。
普通じゃない。この一味には普通は通じない。いささか己の常識を信じたのがダメだった。
そう、
「四皇『ビッグ・マム』に喧嘩を売った……?」
呆然とした声が響いた。
次回こそ、次回こそ魚人出航させます……。多分来年なので、よいお年を。
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