麦わらの一味?利害が一致しているから乗っているだけですが? 作:与麻奴良 カクヤ
「四皇『ビッグ・マム』に喧嘩を売った? それ、何かの冗談にしては質が悪いわ」
冷静に努めようとしているが、冷静になれず震える声色でルフィとサンジに聞き返したのはスマラだ。
何時もの余裕は無く、声だけでなく表情からも何時もと違うのが、人の観察が苦手なルフィですら分かった。
「嘘じゃねぇぞ。なぁ?」
「えぇ、本当ですよ。コイツが魚人島のお菓子を喰いつくしちまったせいで、ビッグマムを怒せたみたいで……。話の流れ的に啖呵きったと言いますか」
「バカなの…」
つい思ってることが声に出た。
ルフィはぐうの音も出ない。
反論しようにも、つい先程まで航海士、狙撃手、船医にコッテリと絞られてたからだ。流石のルフィも、1時間以内の事は頭の中にとどめていようと頑張っているのだ。
スマラは溜まっているストレスを吐き出すかのように、深いため息をついた。
「はぁ……」
そしてギロリとルフィを睨んだ。
「四皇とまともにぶつかるのがどれ程無謀かまだ理解していないようね。この2年間で理解したと思っていたけど?」
「まだ勝てねえだけだ。こっから強くなれば良いだけだろ」
「これから強くなるのに何年かかることやら。四皇の最高幹部は私よりも強いわよ。最高幹部ですら勝てる確率が1割以下だというのに、次元が違う四皇本人なんて夢のまた夢。そこのところ、キチンと理解してないようね」
「だーかーら!!それまでにって言ってるんだよ!!」
「それまでがどの程度時間があるとでも?1ヶ月?半年?1年?ビッグマムなら新世界に入って直ぐ接触してくるわよ。奴らは世界屈指の情報網を持っているのだから」
「時間なんて知るかよ。負けたって何度もぶつかるだけだ!」
白熱するルフィとスマラの言い合い。
スマラがここまで声を荒げるのは珍しい。というか、麦わら一味に乗船してる間では初めてではないだろうか?
王下七武海と敵対しても、最強の自然系能力者と合間見ても、大将が相手でも、頂上戦争中でも、スマラはここまで取り乱さなかった。
サンジは初めて見るスマラの焦りに驚く。と同時に、スマラにとって四皇とはそれほどまでに恐ろしいものなのだと理解した。
このままでは二人とも平行線なので、慌てて止めに入る。
「ルフィ、スマラさん。少し落ち着こう。このまま言い争いをしても何の解決にもならねぇ。既にルフィは喧嘩を売っちまってるんだ」
「……」
「……そうね」
「あぁ、それよりも先に料理を食べてください。冷めちまう」
サンジに促されて溜飲を下げて料理を口に運ぶスマラ。美味しい。
確かにそうだ。既に過ぎ去った事を部外者がアレコレ言うのは間違っている。考えなしで向こう見ずな麦わらを見て、少しばかりヒートアップし過ぎたらしい。
冷静に努めようとサンジが作った料理を無心で口に運ぶ。いつもは本を読みながら食べているので、こうしてじっくりと味わうのは久しぶりだ。
意識して味わうと、サンジの料理の腕が如何に優れているのかがより一層に理解できる。基本的に食事に無頓着なスマラを唸らせる程の腕前。
気が付いたら全てを食べ終えていた。いつもは1人前の最後の方は飽き飽きしながら口に運んでいた記憶があるが、今回は最後までぺろりと平らげていた。
サンジがお代わりはいるか?と聞いてくるが、これ以上は要らなかったのでナプキンで口元を拭きながら断った。
空腹状態から脱出した事で気持ちは落ちついた。
これ以上麦わらを問い詰めるのは無意味だろう。何を言っても話は平行線なのは目に見えている。
なら、スマラが問いかけるのは……。
「これからどするのかしら?」
「どうするって何が?」
「新世界に着いてからよ。今後の航海予定くらい頭の中に……」
「そんなの着いてみなきゃ分かんねぇ」
「無かったわね。そうよね」
新世界に着いてから何処か目的地があるのか、喧嘩を売ったビッグマムのナワバリを目指すのか、その辺りを聞きたかったのだが、案の定ルフィにそんな先の事など考えてもいやしない。
精々、ビッグマムと出会ったら戦う事を考えている程度だろう。
もっとも、いきなり四皇を相手にする事を仲間が許すかどうかは別だろうが……。
スマラが聞きたかったのは、新世界に入ってどの島に向かうつもりなのか?だった。
行き先が決まっていなければ、己が少し進路の助言を言おうと思っていたのだが……この調子では何を言っても聞かないだろう。
行き当たりばったりの航海が好きなのだ。この船の船長は。
私とて、様々な物語を嗜んできた身だ。
この様な思考回路の人間が存在している事くらい理解している。
私に置き換えてみれば、読んだことのない物語のネタバレをされている様なもの……。
そう思えば、確かに私のやりかけた事は到底許せない行為だったわ。
反省するスマラ。
ネタバレ行為は全ての者に対する侮辱行為。
読書ではないが、似たような行為だと置き換えると恥ずかしい事をしてしまった。
これ以上は何も言うまい。そう思い席を立つ。
「あれ?もういいのか?」
「ええ。よくよく考えてみたら、四皇と対峙しようが貴方の勝手だもの。新世界に入ったらお暇させて貰う私には関係無い事だわ」
「えーー。ここまで来たんだから最後まで冒険しようぜ~」
「嫌よ」
未だに諦めていないルフィの勧誘をピシャリと断る。肩を組もうとしている腕を武装色の覇気を込めた手で払って席を立つ。
食器を洗っているサンジに「ご馳走様」と述べてスマラはキッチン兼ダイニングを出た。
元の場所、聖地図書館へと向かう。途中で二人程の麦わら一味とすれ違ったが、特に何も言葉はない。
「あぁ、いるのか」その程度の認識で構わない。
スマラがこの船に拾われる前からいるメンバーからすれば若干の同情気味に、スマラが居ない間に船に乗った者は物珍し気に、それぞれ視線を送る。
が、スマラはそんな視線などものともしない。無理やりではあるが、船に乗せて貰っている身。話かけられたら受け答えはするつもりだったが、出航前で忙しいのかスマラに話しかけるメンバーは居なかった。
図書室にたどり着くと、定位置になりつつあるソファーの端へ腰掛け、栞を挟んだページを開いて読書を再開する。
もう四皇とかどうでもいい。すべて忘れて読書に浸りたい。
先程発覚して不安を頭から追い出して読書に耽るスマラ。それは船が動いても変わらなかった。
竜宮王国を出国。再びコーティングし、船頭に取り付けたクウイゴスで船体を浮上させ、上昇海流へ乗る。
道中、白い竜と呼ばれる長い距離に渡る横型の渦に巻き込まれたり、アイランドクジラに海上へ連れていってもらったりした。
船が四方八方滅茶苦茶に振り回されようが、一度本の世界に飛び込んだスマラを現実に戻すのは至難の業だ。重力が下へ向かう位置に流れる様に壁や天井を足場として活用し乗り越えた。新世界の一定の基準を超えない敵以外では半分無意識に行う。
船が海上へ新世界へと到達すると、スマラは見聞色の覇気で周囲の島を探った。が、文明が発展してそうな気配は感じられない。近くに島がないのか、島があっても無人島なのか。
スマラの見聞色の精度ではそこまでは分からない。
最も、本のページに印刷されている文字列を追う行為を少し止め、窓の外を除けばおおよその情報を入手する事が可能なのだが、スマラはその一手間すら惜しんで読書を続ける。
読書と外の情報を天秤に掛けた結果、読書の方にずっしりと傾いただけだ。普通だ。誰にだって譲れないモノはある。
スマラにとってそれが読書なだけだ。
数時間経った。
正確な時間は不明だが、少しだけお腹が空いてきたのを鑑みるに、4.5時間は経っている頃合いだろう。
このまま読書を続けるのも悪くないが、何十時間も同じ部屋に居ると疲れないわけもない。
やろうと思えば、必要に迫られば何時間と言わず何日も同じ空間で読書を続ける事が出来る。
しかし、頁数が膨大かつ読解が非常に高く必要な専門書、分厚いシリーズ物の小説、何度だって読み返したくなるような作品、等々の本でもない限り、何日間も飲まず食わずで読書を続ける意味がない。
今だって、丁度1冊が読み終えたから場所を変えようかしら?と頭に過ぎっただけである。
うじうじ悩むほどのことではない。
この程度の事は即決して決めると、スマラは十数時間ぶりに立ち上がった。
「ん…ぁ」
固まった身体がパキパキと気持ち良さそうに音を立てて嬉しい悲鳴をあげた。
聞くものによっては艶めかしい声を口から零しながら背伸びを行う。
背伸びを行わずしても即座に軽い戦闘行為に入る事も可能なほどスマラの身体は軟ではないが、やはり基本的な構造は普通の人間と大層変わらない。
長時間同じ姿勢を保った身体を背伸びで伸ばすと、気持ちが良いのは変わらない。
口に物を入れる気分ではない。
キッチン兼ダイニングを無視して甲板へ移動する。芝生の上で気持ちい風に扇られながら読書でもしようと言う魂胆だ。
しかし、外に出た途端にその目論見はズタズタになった。ならざる得ない。
海が燃えている。島が燃えている。
遠くには極寒と思われる気候も見え、感じられる。
異常気候がデフォルトな新世界でも、更に異常に思える島が目の前にあった。
パンクハザード。
世界政府管理下の島で、数年前まではベガパンクを始めとする世界の頭脳が集まって研究を進めていた島。
現在は元大将『青雉』と現元帥『赤犬』の決闘により気候までも変化してしまった島だ。覚醒した自然系能力者同士が本気の決闘を行うと、どの様な影響を周囲に与えるか見事に語っている。
現在はたとえ政府の人間であろうと立ち入りが厳禁されている島だが、麦わら一味は嬉々として入っていったらしい。
もっとも、2年間外界から離れてたスマラには知る由もない。青雉と赤犬の決闘は知ってるが、場所が此処だという事は知る事は出来ないのだから。
「…………」
言葉が出なかった。
気分転換にと風を求めて甲板にやって来ただけなのに、目の前に両極端の地獄を体現した島があると予想できるだろう?
どう考えても厄介事の臭いしかない。
新世界の島に着いたらさっさと船を降りて麦わら一味から縁を切るつもりだったのに、どうしてこうも上手く行かないのだろうか?
ガイドブックや案内人がいなくても分かる。この島に一般人は居ない。
軽く考えても、東の海でこの船の船長に拾われてから人生が狂い始めたと思う。
便乗で偉大なる航路に入って、適当な島で降りてこれまで通り、自由気ままに島を巡って読んだことのない本を探す人生だった。
それが、何が悲しくて王下七武賊と事を構えたり、政府に保護されたり、白ひげと対面したり、政府から逃げたり、何十歳も年下のルーキーの修行を手伝ったり、新世界まで戻って来たりしているのだろうか。
なりふり構わず逃げ出せば良いのに。あの時の様に真っ向から歯向かって、ボロボロになりながら自由を勝ち取ればいいのに。
どうして逃げ出さないのか。
答えは出そうで出ない。冷静な思考だけでなく、その時その時の感情まで織り込んで予想するのは私には出来ない。
私は、感情を読むことしか出来ていないから。読んで理解出来ていると思わない。思えない。
だからだろう、と仮の答えを導き出しておく。自分を納得させておく。
「……ハァ」
再び深いため息。
気持のリセットのルーティンに近い。
現状分かっている事を認識し、このどうすれば解決するか、その為にはどう動くかを再確認する。
現状の確認。
新世界に入ったら適当な島で船を降りて縁を切る。
目の前の島は見聞きしたことのない極熱と極寒の島。
人が住んでいるように見えない為、ここで麦わら一味とお別れするのは極めて下策。
解決法方。
普通で平穏な島まで待つ。
最低でも村程度の集落が生存していないとダメだろう。
交易とはいかずとも、せめて船が着港するに値しなければ移動手段が無くなる。
交易船でも、海賊船でも、政府の船でも良い。
どう動くか。
現状、私が動く必要性は見つからない。
如何にも厄介ネタがあるそうな島。
船番も残さずに一味全員で乗り込んでいる意味が分からないが、わざわざ動いて厄介ネタと遭遇するリスクを増やす意味はない。
シャボンディ諸島で海軍に出会ってるから、海軍経由で裏社会には私が麦わら一味に懲りずに乗っていると知られているはず。
ここに裏社会や政府関係者が居るかは不明だが、わざわざ安全地帯から飛び出す必要はない。
「……戻ろう」
気持ちの良い風どころか服にべったりと張り付く汗を流し、少なくとも数時間は気持ち悪いだろう。
能力で抑制する気も失せた。
気分転換のつもりだったが頭を悩ませる種が増えただけだった。
「まぁ、次の島ならまともな島でしょう」
新世界は前半の海に比べて人が安全に暮らしている島が少ない。
四皇のナワバリだったり、単純に気候が荒かったりと大変なのだ。
それでもまともな島は存在しているし、ある程度の妥協をすれは幾らでも見つかる。
スマラはそう思って甲板を後にした。
しかし、スマラは知らない。考えが未だに緩かった。
麦わら一味はそう簡単に行かないと。前半の海でも島々で何かしらのイベントに巻き込まれていた船だ。
より一層危険度が増した新世界でまともな島に辿り着ける訳が無いと。
緩かったのか、それとも一味に風紀が充てられて緩くなったのか。
本人しか分からない。本人にも分からないかもしれない。
サクッとパンクハザードとドレスローザ編終わらせたいです。
今年は更新がそれなりに出来たので良かったです。来年もよろしくお願いします。
更新速度アンケート
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最速投稿(1,000文字超)
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倍速投稿(2,500文字程度)
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等速投稿(5,000文字超)